No.4活動記録:千里の道も二人(フォロワー)から!
No.4活動記録:千里の道も二人から!
『――と、いうわけでして! 私の、元樹みどりの初めてのダンジョン探索は失敗に終わってしまいました。本当に残念です……。ですが、皆さま! 今日の配信が少しでも良いなと思ってくださったら、ぜひ高評価、チャンネル登録をよろしくお願いいたします! それでは、また次回のダンジョン探索でお会いしましょう! せーの、ダンジョントラベルゥゥゥゥッ!!!』
私立姫森高校、ダンジョン探索部の部室。
ノートパソコンの画面から、私の、私の声が響き渡り、やがて動画が終了した。
「……ッ、く、ふふ……っ! スイちゃんが、スイちゃんがぁ……! くくっ……ひぃぃぃ……っ!」
その直後。机に突っ伏したサクラが、限界を迎えた芋虫のように背中をピクピクと震わせ、必死に笑いを堪え始めた。
私は腕を組んだまま、完全に仏頂面をしてそっぽを向く。
「……笑いたいなら、我慢しないで素直に笑いなさいよ」
私が冷めた声でそう言った瞬間、サクラのダムが決壊した。遠慮も欠片もない大爆笑が部室に木霊する。
「ブハハハハハハハハッ!!! スイちゃんが、スイちゃんがもの凄くお澄まし声で喋ってるー!! 『元樹みどり』って誰よ! ていうか最後の何!? ダンジョントラベルゥゥゥゥッ!!って! 気合の入った巻・き・舌!! アッハッハッハッ、お腹痛い、ゲホッ! ゲホゲホッ!!」
「咳き込むほど笑うな!!」
私は思わずパイプ椅子から立ち上がり、顔を真っ赤にして叫んだ。
私としては、できるだけ多くの視聴者に好印象を持ってもらえるよう、清楚で品のある王道女性配信者を意識して、全力で演じたつもりだったのだ。
なのに、幼馴染の反応を見る限り、どこからどう見ても大失敗(黒歴史)の方向へ突き抜けてしまっているらしい。
「だって、だっておかしいよぉ! 普段のスイちゃん『あんたら!』とか『死にたいの!』とか言ってるのに、動画だと『皆さまぁ❤』だもん! ギャップでサクラ死んじゃう!」
「なによ、配信なんて多少キャラを作ってナンボでしょ! ……ヒマリ、あんたはどう思うのよ。やっぱり、変、かしら……?」
すっかり自信を無くした私は、もう一人の冷静な友人に、縋るような視線を向けた。
「ええ……と、その、とっても、スイちゃんらしい……素晴らしい配信、でしたよ……っ、ふ、プッ」
「あんたも笑いたいなら我慢しないで笑いなさいよ!!」
顔を真っ赤にして詰め寄る私に、ヒマリは慌てて両手を振って、必死に口元を引き締めた。
「いえいえ、本当に。ただ、なんと言いますか……身近な知り合いが、普段と全く違う姿を見せている状況にまだ慣れていなくて。とても新鮮でした」
「ぐぅ……。あんなに必死になって清楚系のキャラ作りをしたのに、身内にここまで不評だなんて……」
ガックリと肩を落として落ち込む私に、サクラが椅子をガラガラと引いて近寄ってきた。
「サクラはね、スイちゃんはスイちゃんのままで十分に可愛いと思うから、キャラなんて作らなくていいと思うけどなー」
「そうですね。ですが……」
ヒマリが眼鏡のブリッジをくい、と上げるような仕草で現実的なアドバイスを付け足す。
「一度目の配信でああいうキャラクター作りをしてしまった以上、しばらくはそれを続けないと、万が一見てくれた視聴者さんが混乱してしまいます。ここは腹を括って、そのまま続行した方が良いですよ」
「……。……そう、するわ」
私の元樹みどりロードは、もう引き返せないところまで来てしまったらしい。両手で顔を覆う私に、サクラが優しく肩をポンポンと叩いた。
「スイちゃんガンバ! サクラ、今スマホから高評価とチャンネル登録しておくからね!」
「はい、私の方もアカウントを作って登録しておきますね」
「……ありがとう。これでチャンネル登録者数、二人確保ね。……先が長すぎるわぁああ!!」
机に突っ伏して叫ぶ私に、ヒマリがクスリと笑って、悪魔のような、あるいは天使のような提案をしてきた。
「すぐに登録者数を増やす方法も、まあ、なくはないですよ?」
「ホント!? どうやるのヒマリ! 教えて!」
「簡単です。この姫森高校の生徒全員に片っ端から宣伝して、義理で高評価とチャンネル登録をしてもらえば良いんです」
「――却下」
私は即座に、きっぱりと言い放った。
「そんなヤラセみたいな真似はしたくないわ。私は自分の実力と、動画の面白さだけで、正々堂々とファンを掴んでみせるの!」
「おおお! スイちゃん、なんか無駄にカッコいい!」
「ふふ、さすが部長ですね。なら、地道にですね。焦らずゆっくりやっていきましょう」
「あったり前よ! 千里の道も一歩から! 世界を震撼させる超人気配信者、元樹みどりの躍進を見てなさいよ!」
私が鼻息荒く拳を突き上げると、サクラが思い出したように首を傾げた。
「ねえ、そもそもなんで『元樹みどり』なの?」
「……。……私の本名、岸本翠でしょ。だから並び替えて、ちょっと捻って元樹みどりにしたのよ」
「えーっと、きしもと……もとき、し……すい、みどり……。わぁ、スイちゃん超安直!!」
「うるさいわね! これでも私なりにすっごく頭を捻って考えたのよ!!」
私の初配信の出来栄えから、こだわりの配信ネームまで徹底的に弄られ、なんだか踏んだり蹴ったりな気がしないでもないけれど、今日のダン部(同好会)の議題は他にある。
「コホン! ……いい加減、元樹みどりの話は終わりよ。今日の本当の議題は、昨日私たちに発現した『初期スキル』についてよ」
「そうですね。ギルドの共有ネットワークを使って、私の方でも少し調べさせていただきました」
ヒマリが手元の端末の画面をスライドさせながら、真面目な顔で切り出す。
「私の発現した『言霊士』ですが、これは頭に浮かんできた特定の言葉を実際に口にすることで、様々な超常現象を引き起こすスキルのようです」
「えっ! それってつまり、ヒマリちゃんは魔法使いになれたってこと!? いいなぁ、すごーい!」
「どうなんでしょう。ただ、浮かんでくる言葉の内容や傾向は、取得した人によって本当にまちまちだそうですよ」
「そうなのよね」
私はヒマリの言葉を引き継いで、事前にノートにまとめてきた知識を披露する。
「人によってはただの『火よ』とか『水よ』っていう短い単語だけの場合もあれば、詩みたいな長文が浮かぶこともあるみたい。ただ、単文と長文では、圧倒的に長文の方が効果や威力が強くなるんですって」
「なるほど、一長一短ですね。私にどんな言葉が浮かんでくるのか、今から少し楽しみです」
「じゃあさじゃあさ! サクラのは!? サクラの『ブックマーカー』はどんな凄い魔法が使えるの!?」
サクラが身を乗り出して、目をきらきらと輝かせる。
「サクラの『ブックマーカー』も、分類としては一応、魔法系のジョブスキルよ。これには専用の『魔道書』が必要になるんだけど……その本にブックマーカー、つまり自分の『栞』を挟んでおくことで、呪文の詠唱を破棄して即座に魔法を発動させる『クイックスペル』の効果があるみたい」
「クイックスペル……! なんだか響きがとっても格好いいですね」
「そうなのよ。だから、これから手に入れる魔道書の種類によっては、もの凄く応用が利く超優秀なスキル、なんだけど……。ねえサクラ、あんた本当にそんな小難しそうな能力、使いこなせるの?」
ジト目でジッと見つめる私に、サクラのロリ童顔とは思えない豊かな胸をドンと叩くと、その胸がぷるんと弾けた。一瞬だけイラッとしたが、そこは我慢した。
「大丈夫、大丈夫! サクラ、勉強は苦手だけど、こういう能力の仕組みがあるゲームとかは大得意だから! サクラに任せなさい!」
「……。……もの凄く一抹の不安が残る『大丈夫』ね……」
とはいえ、戦力としての方向性は決まった。
前衛の私(騎士)が守り、後衛のヒマリ(言霊士)とサクラ(ブックマーカー)が魔法で仕留める。もしくは補助。これなら役割分担もバッチリだ。
「よし! じゃあ、次の配信に向けて、まずは買い出しも含めて準備をするわよ。準備が整い次第、本格的にダンジョンを攻略していくわよ!」
「おー!実践だー!」
「お~っ!実戦だ~!」




