No.58活動記録:天を突く逆さ漏斗と、おっさんAIの切ない講釈
No.58活動記録:天を突く逆さ漏斗と、おっさんAIの切ない講釈
「――地形情報を確認するで。空間の座標変換を終了、現在地をマッピング中や」
おっさんAIが、キャンピングトレーラーの防弾窓から外のレーダー情報を拾い上げながら、やや硬い合成音声で告げた。
ギルドが管理する巨大な次元門を潜り抜けた私たちは、トレーラーごと歪む光の渦を通り抜け、すでにダンジョン内へと足を踏み入れていた。
ストームサンダーのシートに深く腰掛けたスズカが目を細めながら、インカム越しに尋ねてくる。
「おい、おっさんAI。ここが十階層なんだろ? 目的地の遺跡はどっちの方向だよ?」
『……って、なんで機械のわてよりスズカはんの方が状況把握が早いねん。野生の勘がデジタルセンサー超えてるやん……。まあ、スズカはんの言う通り、ここは間違いなく十階層や。……ちょっとデータ処理のプライドが傷ついたわ』
おっさんAIが少し気落ちしたようにドローンのランプを明滅させる。
『場所は、スズカはんから見て「三時方向」。距離にしてここから約三百キロ先やな』
「よっしゃ了解だ。――おい、お前ら、一気にいけるか?」
スズカが愛機である『ストームサンダー』のグリップをトントンと叩きながら話しかける。
『●◆○★――ッ!』
バイクのハンドル部分にあるサンダーの顔が、不機嫌そうに眉を潜めるように独特の電子音を上げた。
「あ? 誰に物言ってるかって、お前らにだよ。行けるのか行けねぇのかって聞いてんだよ、コラ――」
スズカが言葉を言い切るより早く、ボンッ!!! という空間を爆破したかのような凄まじい風切り音と共に、ストームサンダーが急加速した。
神霊ストームサンダーの特殊能力のひとつである『空間航行能力』。
驚くべきことに、背後に繋がれたキャンピングトレーラー側には、振動も加速G(重力加速度)による衝撃も一切響いてこなかった。しかし、完全に不意を突かれた運転手のスズカだけは、慣性の法則に逆らえず体が派手に後方へとひっくり返っていた。
「ってぇ! この野郎ぉぉ……! 急に勝手に動き出すんじゃねぇよ!」
スズカは相変わらず、ストームサンダーたちと喧嘩するように怒鳴り散らしている。
(……うーん。客観的に見たら、一歩間違えれば天災クラスの災害すら引き起こせる高位の存在に、よくもまああんな口の聞き方ができるわよね……。もしかして、彼女たちって、あんな風に対等にガサツに扱うくらいが丁度いいのかしら?)
私はソファーに座りながらそんなことを考えてみたけれど、きっとあれはスズカが正式な『契約者』だから許されている特権なのだろう。もし私たちがスズカの真似をしてあんな乱暴な口調で話しかけたら、ストームとサンダーは絶対にブチ切れて私たちをその力で消し去るに違いない。文字通りに触らぬ神に祟りなし、である。
『はいな、目的地から約一キロほど離れた中継地点に到着やで』
おっさんAIの案内が入る。
「……さて。本当に一瞬で着いちゃったわね。スズカの文句の言い合いが終わるより早かったわ。みんな、降りる準備をして」
「はーい! 探検! 探検! わくわくするね、スイちゃん!」
サクラが早くも大きなリュックを背負って足踏みしている。
「ふふ、今回の遺跡は『未来の技術で建てられた建造物』だということですが、一体どういったものなんでしょうね。非常に楽しみです」
ヒマリも愛用の傘を手に、おっとりとした、けれど好奇心に満ちた笑みを浮かべていた。
「そうね。ギルドの調査が入っているとはいえ、未踏のエリアもあるみたいだし。出来る限り丁寧に探索してみましょう」
私たちはそれぞれ、ダンジョン探索用の装備品をしっかりと身に付け、頑丈なハッチを開けてトレーラーの外へと出て行った。
「……近くに来た、っていう話だけど」
外の空気に触れた瞬間、私は言葉を失って上を見上げた。
「……これは、想像以上に大きいですね……」
ヒマリが息を呑む。
「でかーーーーーい!! お空まで伸びてるよ!」
サクラが指を差して飛び跳ねる。
私たちの遥か前方にそびえ立っていたその「遺跡」は、まるで漏斗を真っ逆さまにひっくり返したかのような奇妙なフォルムをしていた。
地面に接している底部は、目視するだけでも数キロメートル四方はありそうなほど幅広くどっしりとしている。そしてその中心部から、天を突くようにして、一本の巨大な輝く金属の柱が雲の彼方へと、垂直に伸び上がっていたのだ。
「あれって……もしかして本物の『軌道エレベーター』っていうものなのかしら?」
かつてSF小説や古い記録映像で見たことのある概念が頭をよぎる。
『お、流石スイはん、物知りやな。昇降用の超巨大エレベーターの機構は、確かにギルドの解析データにも残っとる。かつてこれを「軌道エレベーター」として宇宙との往来に使用していた可能性は極めて高いな』
「でも、前話した時に『居住用の建物』って言ってなかった?」
私が首を傾げながら尋ねる。
『言ったで。今お嬢さんらの目に見えとる「下の大部分」――あのスカートみたいに広がっとる裾野のエリアな、あそこは全部、数万人規模が同時に暮らせるための超巨大居住施設施設空間や。わざわざ宇宙へ上がったり下がったりせえへん一般の居住者たちの住む街、と思えば合点が行く部分もあるやろ』
「おーい、おっさんAI。ここからどうするんだ? 歩いて行くにしても、まだ結構な距離があるだろう」
スズカが巨大な建物の足元を睨む。確かに一キロ先とはいえ、建物が大きすぎて距離感が狂う。
『こっから先は、空間航行なんてもんで派手にワープせんでも、普通に地面を自走して近づけばエエねん。裾野の近くまで行けば、ギルドが設置した「ベースキャンプ」みたいな小規模な検問所があるからな。そこに常駐しとるギルドの職員に挨拶して、正式に遺跡内部への立ち入り許可を貰えばエエ』
「え? もしかして、あそこって無許可で入っちゃダメな場所なの?」
私が尋ねると、おっさんAIはドローンをゆっくり上下に振った。
『無許可で入ったらアカンちゅうよりは、中のモンにはロストテクノロジー……つまり未来の超技術が文字通り山ほど詰まっとるからな。ならず者のトラベラーなんかに無闇矢鱈と器物をぶっ壊されて、その歴史的・技術的な価値を失くさんようにするための防衛措置や。これは、ここ以外のどこの遺跡でも共通する基本ルールやからな。お嬢さんら、ルールとマナーは守りぃ――ちゅう訳や。せっかく降りてもうて悪いけど、もっかいトレーラーに乗ってもらってエエか?』
「よーし! だったら今度こそ、オレがこのキャンピングトレーラーのハンドルを直に握って運転するぜ! ――お前ら、もう帰っていいぞ」
スズカがストームサンダーに対して、相変わらずぞんざいな調子で声をかける。
すると、ストームとサンダーは特に文句を言う様子もなく、現れた時と同じように淡い光の粒子となって空間へと溶けるように消えていった。
「よし、お前らもさっさと乗れ乗れ! 行くぞ、初ドライブだ!」
「はいはい。安全運転でお願いね?」
私たちは苦笑しながら、もう一度冷房の効いたオシャレなキャンピングトレーラーの内部へと乗り込んだ。
今度はスズカの自走運転によって、あの天をも貫く未来の巨大居住遺跡へと向かって、ゆっくりと車輪が動き出した。
「ひゃっほーーーい! 良いね! やっぱり運転ってのは、こうやって直にハンドルを握って、車体の振動を体に感じてこそだよな!」
運転座席に収まっているスズカの、最高にゴキゲンな声がインカム越しに聞こえてくる。
一方、キャンピングトレーラーのラグジュアリーな居住区画に残された私たちはというと――。
「ちょっと! スズカ! 安全運転っ……て言ったでしょ、キャッ!?」
「うにゅっ!? お尻が浮いたー!」
先ほどストームサンダーが牽引してくれていた時とは打って変わり、文字通り「ガタガタガタッ!」と地面の凹凸をダイレクトに拾う激しい縦揺れに、私たちの体はソファーの上で盛大に飛び跳ねていた。車内のオシャレなインテリアが小刻みに震える。
「おいおいスイ、これでも十分に安全運転だぞ? そもそもダンジョン内の道が綺麗に舗装されてるわけでもねぇんだから、多少跳び跳ねるのなんて織り込み済みだろ!」
「これで多少なのぉ!?」
スズカの豪快すぎるドライビングテクニックに悲鳴を上げつつも、私は同時に、あのストームサンダーたちの走行・牽引能力がいかに異常で、いかにチート染みていたのかを改めて実感させられる羽目になっていた。彼女ら、本当に一切の衝撃を後ろに伝えていなかったんだな……。
「よーし。着いたぞお前ら、下車だ下車!」
「わーい! 着いた着いたー!」
サクラはいまの荒れた悪路走行による激しい揺れにも全くへこたれず、三半規管がどうなっているのか、元気に満面の笑みでトレーラーのハッチから飛び出していった。
私は手すりを掴みながら、隣のシートで少し顔をこわばらせているヒマリに声をかける。
「……ヒマリ、平気? 酔ったりしてない?」
「……はい。少々心臓が驚きましたが、大丈夫ですわ。スイちゃんは、少し車内で休まれてから行きますか?」
「……いいえ。ここで休んだら逆に動けなくなりそうだから、私も行くわ」
乗り物酔いという感じではないけれど、ただただ精神的にもの凄く疲れた気分だった。
私とヒマリが疲労困憊でトレーラーのタラップを降りると、すでに外ではスズカが、現地に設置されたベースキャンプから出てきたギルドの職員らしき男性たちと、何やら親しげに話をしていた。
「おーいスイ、こっちこっち! お前がオレたちの『みどりの葉っぱ隊』のリーダーなんだからさ。一応、こっちの責任者の人たちにきちんと話し通しておけよ」
スズカに手招きされて呼ばれ、私は姿勢を正してそちらへと歩み寄る。
「こんにちは。私はこの探索チームのリーダーをさせていただいています、岸本翠と申します」
「はい、こんにちは。本日の責任者を務めておりますギルド職員の者です。本日、こちらの十階層の遺跡エリアに立ち寄られたご用件をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、はい。私は普段、ダンジョン配信者をさせていただいておりまして。今回は、こちらの遺跡内部の様子を撮影しつつ、探索をさせていただきたく思い、参りました」
「なるほど、配信トラベラーの方ですね。お出しいただいたIDの確認も取れました。配信目的の映像記録に関しては、ギルドの規定通り特に問題はありません。ただし、内部探索に関しまして――建物内の歴史的遺物や内装に対する意図的な『破壊行為』、および『落書き』といった、遺跡の価値を損ねる行いは、厳罰対象になりますので十分に注意してください」
「はい。肝に銘じておきます」
「また、探索時に遺跡内部で見つけてきた発見の物資や遺物に関しては、基本的には見つけたトラベラーの所有物となります。ですが、地上へ持ち帰る前に、こちらの検問所でその物品を一度鑑定、調べさせていただく形になります。その際、歴史的、学術的、またはそれに準ずる非常に希少なテクノロジーだと判断されたものに関しては、相応の報酬による『譲渡交渉』をさせていただき、ギルドで引き取らせていただく可能性があることをご承知おきください」
「へぇ、あくまで『交渉』なんだな。有無を言わさず権力でぶんどっていくのかと思ってたぜ」
スズカが不敵に笑いながら口を挟むと、ギルドの職員さんは困ったように苦笑された。
「まあ、国家的な研究機関はギルドの傘下にもあるんですが、中には民間の大企業や、個人で研究されている熱心なスポンサーの方たちも大勢いらっしゃいますからね。そういった外部への売却を望むトラベラーの方もいるので、問答無用で没収、ということはありませんよ。……ただし!」
職員さんは、少し真面目なトーンに声を落とした。
「『魔道具類』に関しては話が別です。これは法律上、一部の安全性が証明された例外を除き、地上への無断持ち込みが厳格に禁止されていますから、こちらで見つかった魔道具に関しては、必ずギルドの指示と管理に従っていただきます」
「わかりました。法律ですものね。……他に、私たちが注意すべきことはありますか?」
「そうですね。もし、これまでの調査データにない『未踏破エリア』を見つけられましたら、本来なら詳細な地図報告をお願いしているのですが……貴女たちはギルド正式記録用ドローンを持たれているので、そうした探索データは自動的に近くの中継ドローンへリアルタイム共有されますから、特に意識しなくて問題ありません。あとは――そちらのキャンピングトレーラーですが、通路の妨げにならないよう、あちらにある専用の駐車スペースに移していただけるようお願いします」
「わかりました。――スズカ、そういうわけだから移動をお願いね」
「おうよ、任せときな!」
スズカは再びカードキーを回しながらキャンピングトレーラーへと戻り、手際よく巨体をバックさせて指定のスペースへと移動させにいった。
「それでは、遺跡探索、くれぐれも怪我のなきようお気をつけて」
「はい。ありがとうございます、いってきます!」
「いってきまーす!」
「行って参りますわ」
「おう、行ってくるぜ!」
『ほな、皆はん。気ぃ引き締めて行きまひょうか!』
職員さんは笑顔で私たちを見送ろうとしてくれていたのだが、ドローンからおっさん声でしかも関西弁で喋り出した瞬間、「えっ!?」と心底驚いた表情を浮かべて硬直してしまった。
職員さんの横を通り過ぎながら、私は少し気になって尋ねてみる。
「……ねえ、たまに思うんだけど。おっさんAIがこうやって普通にベラベラ喋るのって、他の人から見たらそんなに驚くことなのかしら?」
『そらそうやろ、スイはん。普通は記録用ドローンの設定をわざわざわてのような「自律思考お喋りモード」にしてへんからな。大抵は機械音声の「了解しました」「サポートを開始します」「前方、モンスターを検知しました」とか、事務的な音声ガイダンスのみで使っとるんやで』
「……つまり、ドローンと友達みたいに会話してる私たちが、他の人たちから見たら変だと言いたいの?」
『変、とまでは言わへんけど。まあ……かなり「珍しい奴らやな」とは思われてるちゃうかな?』
「何言ってんだよ。オレたちはもう、おっさんAIのこの変な喋り方で聞き慣れてるからな。今さら機械的に『了解シマシタ』とか喋られたら、逆に違和感しかねぇよ」
『せやせや! 良いこと言うたで、スズカはん! お喋り好きなわてとしても、今さら無口になれ言われても困りもんやさかいな。このままのキャラで喋らせてぇな、お嬢さんら』
「……まあ、確かにそれもそうね。静かなおっさんAIなんて、それはそれで不気味だし」
私はクスリと笑い、全員を振り返って、いよいよ目の前にそびえ立つ巨大な居住遺跡の入り口を見据えた。
「じゃあ、改めて――みんな、記念すべき初の遺跡探索、行くわよ!」
「「「おーーー!」」」
おっさんAIのルート案内に従い、私たちがついにたどり着いた未来の巨大居住遺跡の入り口。
そこには、見上げるのも首が痛くなるほど大きな、本当に規格外に巨大な金属製の扉が、鉄壁の拒絶を示すように閉ざされていた。
「おおお……! サクラ、これ見たことあるよ! 『試しの扉』だ! 押して開けるやつ!」
サクラが目を輝かせて巨大な扉に手を突いて開けようとする。
『うーん、残念ながらちゃうな。ここはかつて、大型の物資やコンテナを搬入・運搬するために使われていた専用の出入口(大ハッチ)やないかと言われとるんや』
「ここを開けて入るの? こんな重そうなの、どうやって……」
『うんにゃ。その大扉の端っこをよぉく見てみぃ。人間が普通に通るサイズの小さな勝手口(扉)があるやろう。今回の探索はあちらから入っていくで』
「と、扉……?」
そう言われて目を凝らしてみるものの、周囲の壁が巨大すぎて、どの辺りに人間用の扉があるのか全く見当がつかない。大扉の存在感があまりに強すぎて、おっさんAIが示す場所にはただの幾何学的な壁のラインしか確認できなかった。
「――これか?」
と、そこでスズカがその野性的な勘を発揮した。何もないように見える壁面にズカズカと歩み寄ると、そこに埋め込まれていた金属製のレバーを迷いなく握り、グッと力任せに捻り回したのだ。
――プシューーーーーッ!!
強烈な空気圧が抜ける音が響き、ガコンッ! という重々しい駆動音と共に、まるで壁の一部が騙し絵のように分離して内側へとスライドした。
「おおっ! 開いた開いた! 案外ヤワなセキュリティだな!」
「……ねえみんな、今のレバーの場所、初見でわかった?」
私が少し呆れながらサクラとヒマリちゃんに確認すると。
「サクラは最初から全部わかってた!」
サクラが自信満々に胸を張る。……うん、この絶妙に中身のないドヤ顔は、絶対にわかっていない時の「わかった」ね。
「残念ながら、私にはただの壁のデザインにしか見えませんでしたわ」
ヒマリは苦笑しながら素直に首を横に振った。まあ、スズカの勘が異常なだけなので、わかる・わからないはともかくとして。
「それじゃあ、気を引き締めて遺跡内部に入りましょう」
私は気合を入れ直し、みんなを促して本当の意味での未来遺跡の内部へと足を踏み入れた。
「おお……、おおおぉぉ……?」
一歩中に足を踏み入れた瞬間、私は奇妙な感覚に囚われて声を漏らした。
薄暗い天井に、整然と並ぶキャットウォーク。四方を囲む頑丈な隔壁。どこかで見覚えがあるような、広い格納庫のような空間が広がっていたのだ。
「なんか、もの凄い既視感があるんですけど……」
「あ! 出発前の格納庫だ!」
サクラがポンと手を叩き、思い出したように声を上げる。
「ああ、確かに。私たちが訪れた、あのキャンピングトレーラーが置かれていたギルドの地下格納庫と、全体の構造が酷似していますね」
ヒマリもサクラの言葉に深く同意して頷いている。
「えぇぇ、これどういうこと? おっさんAI、もしかしてここ、ギルドが作った偽物の遺跡とかじゃないわよね?」
『アホ言いないな、スイはん。別に何も不思議なことはあらへんで。ギルドにあった地下格納庫は、この遺跡の構造を丸々模倣して作られただけや。だから、ここがギルドに似てるんやなくて、ギルドの方がここに似せて作っとるんやな』
「真似っこして作ったってこと? なんでわざわざそんなことするの?」
『それはな、サクラはん。先人の遺した「エエもん」は徹底的に真似する。逆に「悪いところ」があれば、現代の技術でなんで悪いか、どう改良できるかを考え直す。そうやって人類は少しずつ技術を進歩させとるからや』
「ふーん。――あっ! ねぇねぇ、あれ何!?」
『うーん、見事にわての話し聞いてない雰囲気やな、これ』
「雰囲気じゃなくて、間違いなく一文字も聞いてないわよあの子は」
おっさんAIのありがたい講釈を綺麗にスルーしたサクラは、通路の奥からせわしなく動いてくる、人間の子供くらいの大きさの丸っこいロボットのようなものを見つけ、トコトコと近寄っていった。
「おお、ロボットさん? こんにちわー!」
『あれは掃除用の自走式清掃ロボやな。かつてここに住んどった人間がいなくなった後でも、プログラミングされた機械だけは狂わずにずっと動き続けとった……っちゅうわけや』
動くロボットたちを見つめるおっさんAIの合成音声が、どこか、ほんの少しだけ物悲しげに響いた気がした。
『まあ、一応お嬢さんらに言うおくけどな。この建物内部には、モンスターの類は居らへん。なんでかって言えば、この健気なロボットたちが常に内部の防衛・清掃を行っとるからや。中にはより大型の「警備用(防衛)ロボ」も巡回しとって、遺跡を荒らす不届き者を容赦なく撃退することもある。だからお嬢さんら、無闇矢鱈と中の機械にイタズラせんといてな』
「おう、わかったぜ、おっさんAI! ――ところでよ、こいつらってドロップアイテムみたいに持って帰れるのか?」
スズカが早くも不穏な視線でロボットを品定めし始める。
『持って帰れんこともないけど、この辺の雑用ロボたちの研究はとっくの昔に終わっとる。現代の科学でも十分に再現して作れるレベルやからな。お嬢さんらの一般家庭にも、これのサイズを小さくしたような似たような家電があるはずやで』
「似たようなの?」
私は健気に床を磨いている彼らの動きを見て、私たちの世界にある家庭用電化製品の何かだろうと思考を巡らせていると、隣のサクラがパッと手を挙げた。
「わかった! 『ランバ』だ!」
『なんで情熱のダンスやねん! ルンバやルンバ! 惜しいけど全然ちゃうわ!』
「えへへ。間違えちった」
激しいツッコミを食らったサクラは、恥ずかしそうにへにゃりと頬を掻いている。
「でも、サイズや形状はともかくとして、言われてみれば確かに自動掃除機の超進化系ね」
『前に少し話したことがあったかとは思うけど、こうしたダンジョンにあるもんで解析された技術の一部なんかは、お嬢さんらの日常の便利家電なんかにも流れていっとるんやで』
「流れてるってわりには、こっちの未来のロボットの方が、壁の感知とか動きの滑らかさの性能が段違いに良さそうに見えるけど……?」
私が疑問を口にすると、おっさんAIは少しトーンを落とした。
『それはまあ、しゃあないねん。技術的な基礎理論は解析できても、現代の工場ではまだ精密さが完全に追いついてない部分もあれば、使われている特殊な素材の再現が現代の地上資源ではどうしようもない、という大人の壁もある。全部が全部、同じクオリティで製品化できるわけやないんや』
「おーーーいお前ら! こっちに奥へ続く面白そうな通路があるぞ!」
いつの間にか先行していたスズカが、暗い通路の先から手招きしている。
「ホント!? スーちゃん! サクラも行く行くー!」
サクラが即座に駆け出していく。
「……本当に、どこまでも自由な二人ですね」
ヒマリが小さくため息をつきながら微笑んだ。
『なぁ……わて、もしかして説明役として、「いらん子」になってへんか……?』
ドローンをがっくりと下に向けて項垂れるおっさんAI。
「……まあ、いつものことでしょ。じゃあ改めて、私たちも遅れないように追いかけましょ、遺跡探索を本格的に開始するわよ!」
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