No.51活動記録:チームの象徴、出てきたのは伝説の葉っぱ隊
No.51活動記録:チームの象徴、出てきたのは伝説の葉っぱ隊
『ほー。馬子にも衣装とはよう言うけど、みんななかなか似合っとる服装してきたやんけ。なんや、わてに言われてようやく防御面にも気にし出したんか?』
レンタル手続きを終えて合流した途端、ドローンから響くおっさんAIの開口一番のセリフがそれだった。
ドスッと、私の心にクリティカルな一撃が突き刺さる。
「そ、そんなことはないわよ! ほ、ほら、あれよ! 配信者として、いつまでも普通の私服で配信を続けるのはビジュアル的にどうかと思っただけよ! それ以外に深い意味(大意)なんてないんだからねっ!」
『……さよか。まあ、そういうことにしときまひょうか。スズカの姉ちゃんのそのピッチピチの赤いスーツも、まあ……大人の事情っちゅうやつやな』
「オレはスーツの機能性を重視したんだよ!変な目でみるな!!」
ぐっ……完全にこちらの魂胆を見透かされている。やっぱりこのおっさん、侮れないわ。
『それで、今日はその新しい衣装をわてに見せびらかしに来ただけなんか?』
「そんなわけないでしょ! 今日は一階層で、この服の実際の防御面の確認と――あと、この新武器(棒)のお披露目よ」
私が右手の金属製の長棍を軽くトントンと床に突いて見せると、おっさんAIのカメラレンズがウィーンと細かく動いた。
『さっきから気にはなっとったが、ああ、それはただの金属製の棒やなくて魔道具やな? ちょっと待てよ……ギルドのデータ登録を参照すると、ほうほう。エネルギーを刃にするタイプのやつか。お目が高いというか何というか、トラベラーの間では燃費やコストの面であんまり人気が出んかった形式のやつやな』
「相変わらず解説してくれるのはありがたいけど、ネガティブなレビューは実際に動いてる実物を見てから言ってもらいたいわね!」
『せやな。自分で気に入ったもん買うたんやったら、外野が評論するのは野暮っちゅうもんや。ほな、さっそくテストがてらダンジョンへ行きまひょうか』
「あ、ちょっと待って。まだダンジョンに入る前に、受付でやることがあるのよ」
私がそう言うと、おっさんAIのドローンは「ずこっ」という効果音が聞こえてきそうなほど、器用に空中で一回転してコケてみせた。
『ズコーッ! 行く気満々やったのに! そんなら早う終わらせてくるんや!』
「ごめんごめん。みんなもちょっとだけここで待ってて。――サクラ、ちょっと一緒に来て」
「はーい、わかった!」
私とサクラは、受付カウンターへと向かった。
「はい、こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の職員さんは、いつものように丁寧な笑顔で対応してくれる。
私はそこで、意を決してサクラに向き直った。
「サクラ、画用紙を、ここで見せてもらってもいい?」
「うん、いいよ! じゃーん!」
サクラがポシェットから取り出した画用紙を、受付のカウンターの上でパサッと広げる。
最悪の場合、めちゃくちゃ不気味なモンスターの絵とか、前衛的すぎて理解不能な抽象画が出てくる覚悟をして、私は恐る恐るその内容を覗き込んだ。
――その瞬間、私の目は完全に釘付けになった。
「サクラ……これ、凄いじゃない……っ!!」
「えへへー! サクラ、みんなのためにいーっぱい頑張って描いたんだよ!」
小柄な割に豊かな胸をこれでもかと張るサクラ。
私のこめかみがピクリと動くが、しかし、今のサクラには、それだけ堂々と胸を張るだけの大いなる価値が、その絵には間違いなくあった。
そこに描かれていたのは、私たちのチームの象徴にふさわしい、細部まで描き込まれた本当に素晴らしい紋章だったのだ。これなら配信で掲げてもBANされるどころか、視聴者から大絶賛されるに決まっている。
私は感動の余韻に浸りながら、その絵と一緒に『光の旗槍(長棍)』を受付のお姉さんに差し出した。
「あの、こちらでこのイラストの画像データを、この魔道具にインプットしてもらえると聞いてきたんですが……」
「はい、可能でございますよ。こちらの用紙に描かれたイラストでよろしいですね?」
「はい! ぜひこれでお願いします!」
「かしこまりました。では、設定を行いますので少々お待ちください」
受付の職員さんは、サクラの描いた紙と私の旗槍を恭しく受け取ると、そのまま受付の奥のオフィスへと下がっていった。
待っている間の数十秒、私はサクラの頭を何度も撫で回した。
「本当にすごいのね、サクラ。美術の成績が良いのは知ってたけど、まさかここまでとは思わなかったわ」
「えへへ、スイちゃんに喜んでもらえてサクラも嬉しい!」
ほんの二、三分ほどが経過した頃、受付のお姉さんが笑顔で戻ってきた。
「お待たせいたしました。データのインプット、および魔道具への登録が完了いたしました。こちらの二点、お返しいたしますね」
「ありがとうございます! ――ほらサクラ、私たちの『旗』だよ」
「どういたしまして、スイちゃん!」
ずっしりとした金属製の旗槍をしっかりと右手で受け取り、サクラの原画を丁寧にポシェットに仕舞う。
私は、ロビーで待っているスズカとヒマリ、そしておっさんAIの元へと弾むような足取りで戻った。
「お待たせ! 準備万端よ。じゃあみんな、今度こそダンジョンへ行きましょう!」
私の号令に、みんなが力強く頷く。
そうして私たちは、青く神秘的な光を放つ次元門をくぐり、新調された防具と新たな武器を手に、ダンジョンの一階層へと力強く足を踏み入れたのだった。
次元門の光を通り抜け、私たちは懐かしい一階層のスタート地点へと足を踏み入れた。
ひんやりとしたダンジョン特有の空気が肌を刺す。
さっそく新調した防具の性能テストを――とする前に、私はどうしてもやっておきたいことがあった。
「みんな、ちょっと注目! まずはダンジョンに入る前に、サクラが描いてくれた私たちの『旗』をお披露目しちゃうわね!」
私はそう宣言すると、長棍のギミックグリップをぐっと力強く捻った。
その瞬間、背丈ほどもある金属の棒の先端近くから、シュワァァッ……と淡い光の粒子が溢れ出す。それはまるで、目に見えない風にたなびく本物の布のように、美しく柔らかな光の帆となって空間に広がっていった。
光の旗の中に、サクラの描いた画像データが鮮明に投影されていく。
「わあぁ……っ!」
その場にいた全員から、思わずといった様子で感嘆の声が漏れた。
映し出されたのは、新緑を思わせる鮮やかな緑色を基調とした、息をのむほど美しいエンブレムだった。
中央に威風堂々と鎮座するのは、私を象徴するような気品ある『金の盾』。その上部には、スズカの名前を表すかのように、紅白の紐で固く結ばれた『一対の鐘(鈴)』が描かれている。
さらに盾の右上には、美しく咲き誇る『桜の木』が。対角線となる左下には、大輪の『ひまわりの花』が生き生きと咲き乱れていた。
メンバー全員のモチーフが見事に融合した、完璧なデザイン。
そして盾の下部分には綺麗な金の帯があり、そこには英語のスタイリッシュなフォントでこう刻まれていた。
『We are the Green Leaf Squad.』
さらにその下の、青々とした新芽が芽吹く緑色の帯には、小さな文字で、
『Every leaf grows in its own way.(人それぞれ、独自のペースや個性がある)』
と、深い意味の込められたメッセージまで添えられていたのだ。
「すごいです、サクラちゃん……! 本当に、とっても素晴らしい絵ですよ!」
「おう、めちゃくちゃ格好いいじゃん! このデザイン、オレもすごく気に入ったぜ!」
ヒマリとスズカが大絶賛し、サクラは「えへへー、ありがとう!」と両手を頬に当てて嬉しそうに身体を揺らしている。
そんな中、私は感動しつつも、金の帯に書かれた文字を改めて凝視して、ちょっとだけ苦笑いを浮かべていた。
だって、そこにはまだ正式に決まってもいない、私たちが仮で呼んでいた『ファンネーム』が堂々と刻まれていたからだ。
「ねえ、サクラ? ファンネームはまだ配信でも正式に決まってないのに、なんでこれ書いちゃったのよ?」
「うにゅ? これで行くんじゃないの?」
「一応、次の配信で視聴者のみんなに打診してから、多数決とかで決めようと思ってたのよ。これだと、もうこれで決定みたいじゃない」
「いいんじゃねぇか? この最高にイカした絵柄とも合ってるし、オレはこれで大賛成だぜ」
「はい。私も、このお名前、可愛らしくてチームにぴったりだと思います」
スズカとヒマリからも太鼓判を押され、サクラは「ほらー!」と満足げにふんぞり返っている。まぁ、みんなが良いなら、これで決定にしちゃってもいいかしら。
と、その時だった。
いつもなら真っ先に、この手のオシャレな演出に何かしらの茶々を入れてくるはずの『おっさんAI』が、一言も喋っていないことに気がついた。
「……? どうかしたの?」
不思議に思って空中に浮かぶドローンを見上げると――そのおっさんAIの端末は、何故か空中で不自然に上下にプルプルと小刻みに震え、奇妙な浮遊を繰り返していた。レンズが激しく明滅している。
『プッ……ククッ……は、葉っぱ隊やと……!? ぶはっ、あかん、腹痛い……! こいつら、狙ってやったんか? いや、この世間知らずのお嬢さん連中のことや、元のネタを何も知らんと、純粋な気持ちで名前をつけたに違いないわ……! アカン、これはスイはんが配信でドヤ顔で言い放ったら、別の意味で配信界の伝説になるで……っ!!』
音声出力がミュートになっているのか、スピーカーから声は聞こえなかったけれど、ドローンが怪しい動きをしながら、内部のプロセッサで何やらぶつぶつと必死に笑いを噛み殺しているのだけはハッキリと分かった。
「ねえ、おっさん。さっきから何なのよ、その動き。……何かこの旗に問題でもある?」
私がジト目で問い詰めると、おっさんAIのドローンはハッと動きを止め、何事もなかったかのようにコホンと電子音の咳払いを響かせた。
『あっ!? い、いやいや、何ーーも問題あらへんよ! めちゃくちゃエエんやないの! 特にその下の『人それぞれ、独自のペースがある』っちゅう英文な、お嬢さんらの凸凹コンビっぷりには、これ以上ないくらいお似合いの言葉やと思うわ。うん!』
「そう? ならよかったわ」
おっさんAIの妙なテンションに少し不審がりつつも、褒められたことには変わりないので、私は素直に受け取ることにした。
「これで、私が目標にしてる『バネレット(旗騎士)』を目指すのにも、少しは格好がついたんじゃないかしら!」
私は満面の笑みを浮かべ、私たちの絆の象徴である光の旗を、一階層の天に向けて誇らしげに掲げ直すのだった。
お披露目を終え、一度ギミックを操作して光の帆を消す。
続いて私はグリップを別の方向へ捻り、この魔道具のもう一つの本命である『光の刃』を展開してみせた。
シュッ、と鋭い音を立てて、まずは先端から十字を描くようなエネルギーの刃――『十文字槍』の形態が現れる。さらにそこからギミックを一段階進めると、刃がすっと長く伸び、なだらかな湾曲を描く『クレイブ(薙刀)』の形状へと変化した。
それだけではない。刺突用の円錐形の刃を基本としながら、柄の反対側からは扇型の光の刃、さらにその裏側には鉤爪のような鋭い突起が突き出る、威風堂々とした『ハルバード(戦斧槍)』の形態にまで変形したのだ。
他にもデータを登録すれば様々な形態を出せるらしいけれど、私には正直、今あるこの基本形態だけでも使いこなせる自信が全くない。とりあえずはこれで十分すぎる。
「おおーっ! スイちゃん、めちゃくちゃ格好いい! サクラもそれ持ちたい! 持たせて!」
「いいけど、光の刃の部分は本物のエネルギー体だから絶対に触っちゃダメよ? 気をつけなさいね」
「はーい! わーい、ぶーん! やー! たーっ!」
「サクラずるい、次オレな! ちょっとそれ貸せ!」
案の定というか、男子中学生のようなノリでスズカとサクラがロマン武器の変形ギミックに食いつき、奪い合うようにしてブンブンと振り回し始めた。やっぱりこういう武器の変形ギミックは、いくつになってもみんな大好きらしい。
しばらく二人が満足するまで遊ばせ、楽しそうな表情が落ち着いた頃合いを見計らって、私はパンパンと手を叩いた。
「はいはい、二人ともそこまで。お遊びは終わりよ。そろそろ、ショウコさんが付与してくれた防具の性能テストをするわよ」
「性能テストって言ってもさ、なんでわざわざ一階層なんだ? どうやって検証するんだよ」
「決まってるじゃない、モンスターを相手にするのよ。実際に攻撃を喰らってみなきゃ、防具の性能なんて試しようがないでしょ。とは言え、いきなり強い相手だと万が一の怪我もあるから……そうね。この一階層のモンスター、バウンシーラット辺りで試しましょう。おっさんAI、生息エリアまで案内を頼める?」
ドローンがウィーンとレンズをこちらに向け、おっさんAIの声が響く。
『任せとき。……まあ、わてが見たところ、その防具の強化具合から言えば、一階層のネズミ相手じゃ性能テストにもならんと思うけどな』
「え? そうなの? ショウコさんの防具、ダメだった?」
『駄目やない、その逆や。一階層のモンスターの攻撃力やと、ダメージを喰らった感触すらまともに体に届かへんはずや。この間行った八階層のグリーンウルフあたりが相手になって初めて、「あ、今打撃の衝撃が体に響いたな」って実感できるレベルやろね』
「そうなの……!? じゃあ、ショウコさん、結構とんでもない凄い強化をしてくれたのかしら?」
『いや、強化の規模に関して言えばそこまでやないで。今回付与された能力は『打撃耐性』のたった一つだけや。これがトラベラーのランクが二つも三つも上に上がってみぃ、ひとつの防具に四つも五つも能力が付与されるのが当たり前になるからな。まあ、初心者が最初に買う防具としては、かなり手頃で上質な部類やないか』
「そうなんだ……。一着に着き十万円もする防具が、これでも『初心者向けの手頃なもの』なのね……」
私は自分の着ているミリロリの裾に触れながら、改めてこの世界における「億」や「一千万」というトップトラベラーたちの装備の金額が、どれほど桁外れで恐ろしいものなのかを、身に染みて実感させられたような気がした。
『まあ、何はともあれ、安全第一で確認を取るっちゅう姿勢にはわても大賛成や。危険を冒して無茶をするんは「勇気」やない。ただの「無謀」やからな。プロのトラベラーほど、こういう地味な検証を怠らへんもんや。ほな、こっちや、みんなついてきぃ』
おっさんAIのドローンが先導を始め、私たちはその後に続いて一階層の奥へと進んだ。
そうして遭遇したバウンシーラットを相手に、私たちは自分たちの新しい防具の性能を順番に試していった。
あえてネズミの体当たりを正面から受けてみる。――けれど、その結果はおっさんAIの予言通り、テストとしては「全くもって意味をなさない」ものだった。
と言うよりも、本当に今、モンスターの攻撃が当たっているの……? と、全員で顔を見合わせて首を傾げてしまうくらい、身体に衝撃が全く入ってこないのだ。ポコッと何かが触れたような違和感があるだけで、ショウコさんの言っていた「衝撃の広範囲分散」が完全に機能しているのがよく分かった。
「……これで、ようやく初心者向けの装備、か」
今までは武器やスキルのことばかりに目を奪われていたけれど、ダンジョンを生き抜くためには、防具がどれほど命を繋ぐ大事な要素なのかを、私は身を以て実感していた。
武器、防具。そして、私たちのチーム名が刻まれた光の旗。
すべてが揃った私たちの新しい配信活動が、今、ここから本当に始まるのだと、私は胸の奥で静かに、けれど強く闘志を燃やすのだった。
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