No.49活動記録:ただの旗棒、出てきたのは光り輝くお蔵入り武器でした。
No.49活動記録:ただの旗棒、出てきたのは光り輝くお蔵入り武器でした。
私たちはショウコさんから教えてもらった情報を頼りに、フリーマーケットの広大なエリアを隅から隅まで歩き回った。
当然、デザインも生地も良いものはそれなりに高いし、「無難かなぁ」と思うような量産品は、お値段もそれ相応。けれど、宝探しのように泥臭くブースを巡っているうちに、私はついに運命の一着を発見した。
「――よし、私はこれにするわ!」
私が鏡の前で合わせたのは、いわゆる『ミリタリーロリィタ』と呼ばれる系統の衣装だった。
ひらひらとしたワンピースタイプでありながら、軍服のようなカチッとしたカッコよさがあって一目で気に入ってしまった。おまけに、色は私の配信名と同じ深い緑色。まさに私にぴったりのチームリーダー仕様だ。
なにより、飾りボタンやリボンやブーツまでが色々ついている凝ったデザインなのに、古着フリマ価格で『一万ちょっと』というのが大変よろしい。実によろしい。
「ねぇヒマリ、ヒマリもこういう格好にしてみる?」
「ええっ!? わ、私にはちょっと……そういうお洒落な服は似合いそうもないですね……」
「そうかしら? 絶対似合うと思うんだけどなぁ。……スズカとサクラは、ベースになる服、何か良さそうなの見つかった?」
後ろを振り返ると、スズカは相変わらず興味なさそうに首を振った。
「いや、オレは新しく買わずに、家にあるやつにするわ。さっき話に出した、オレが昔着てたライダースーツのジャケット。革ジャンとかならショウコの強化スキルとも相性が良さそうだろ」
「サクラはねー、前に手作りしたお気に入りのやつにしようかな? んー、でもせっかくだから新作も縫いたいかも……!」
「そっか。二人ともそれで良いなら、服代が浮くから助かるわ。サクラ、三日後の納品に間に合わなそうなら今は無理して新作を作らなくても良いのよ? これから配信でお金が溜まったら、またいくらでも新しいベース衣装を買えるんだし」
「はーい、わかった!」
二人の方向性が決まり、私は再びパッとヒマリの方を振り向いた。
「そうなると、やっぱりあとはヒマリの衣装を選ばないとね!」
「あ、あの……私は無理してここで選ばなくても、学校の制服のままでも良いですし、動きやすければ何でも……」
「ダメよ!!」
私がビシッと人差し指を突きつけると、ヒマリは「ひゃいっ」と肩をすくめた。
「ここはやっぱり、配信映えする可愛いのを選ばなくちゃダメ! ええっと、ヒマリは普段、武器として『傘』を持って戦うじゃない? ……ということは、全体のコンセプトとしては絶対に『和服系(和モダン)』で攻めたいわね! 大正浪漫風の袴スタイルとか、絶対に可愛いわよ……!」
「ス、スイちゃん……? あの、目がちょっと怖いのですが……」
一気にブツブツと妄想を膨らませ始めた私を見て、ヒマリが助けを求めるようにスズカたちを見る。しかし、スズカはぽん、とヒマリの肩を叩いて哀れみの目を向けた。
「あー、ヒマリよ。完全にスイのやつの『お着替えスイッチ』が入っちまった。こうなるともう誰の言葉も聞こえねぇから」
「うん、スイちゃん、こういう時だけ猛進モードになるからね。決まるまで、きっと絶対に無理だと思うよ」
「さあ! そうと決まれば、和モダンな掘り出し物があるブースを徹底的に探すわよ! 行くわよ、ヒマリ!」
「ええ!? あの、スイちゃん、私は本当に何でも――うわわわっ!?」
私は完全にキャパオーバーで困惑しているヒマリの手をガシッと掴むと、そのままの勢いで、フリマの雑多な人混みの中へとくまなく歩き回り始めるのだった。
「じゃあ、これはどう!?」
「あの……スイちゃん。私にはちょっと、フリルが多すぎて可愛すぎるかと……」
「なら、こっちのショートパンツ付きのやつは?」
「……流石に足が出すぎじゃないですか?」
「何言ってるのよ、学校の制服のスカートとそんなに変わらないわよ! じゃあじゃあ、こっちの鮮やかな赤の羽織風ジャケットは?」
「うーん……私には、ちょっと派手なような……?」
「えー、そんなことないわよ。画面映えして絶対に可愛いって!」
「私としては……あちらのブースにある、深い紺色かグレーのような色合いが落ち着いていて好きなのですが……」
「んー……地味ね。配信映えとかを意識しないにしても、現役の女子高生がダンジョンで着る色合いじゃないわよ。はい却下! 次、これ試着してみて!」
「……はぁ。ヒマリのやつ、完全にスイの着せ替え人形にされてるな」
「うん。スイちゃん、ああなったら誰の意見も聞かずにノンストップだからねぇ」
通路の端でジュースを飲みながらのんきに見物している幼馴染コンビに、私はピキッと青筋を立てて振り返った。
「こら! そこの二人! 人事でボーッと見てるくらいだったら、ヒマリに似合いそうな服をそこら中から探してきなさい!」
「へいへい、了解。ほらサクラ、行くぞ」
「わかったー。ヒマリちゃん、ごめんね、サクラたち助けてあげられなくて……!」
「ああ、そんな、お気になさらず……っ」
スズカとサクラがクスクス笑いながらフリマの奥へ消えていく。
「はいヒマリ! 今度はこの大正浪漫風のやつね!」
「……す、スイちゃん。私、もうさっきのやつで十分に良いと思うのですが……」
その後も、私の熱血プロデュースによる「ヒマリのファッションショー」は、私の審美眼が完全に納得するまで延々と続けられた。
そして――。
「……よし! これが一番良さそうね!」
ついに、ヒマリの運命のベース衣装が決定した。
「……は、はい。もう、これで十分です……」
ヒマリは真っ白な灰になりかけながらも、観念したように小さく息を吐いて微笑んだ。
選んだのは、グラデーションの美しいロング丈の袴スカートに、白ベースのモダンなブラウスを合わせた、シックでありながらもどこか華やかな和洋折衷スタイル。
「うん、素晴らしいわ! 袴のようでありながら、ベースは洋服だから動きやすさもバッチリ。これなら傘を武器にするヒマリに、これ以上ないほどお似合いよ!」
私は大満足のドヤ顔で、達成感とともに額の汗をぐっと拭った。
「……お疲れさん、ヒマリ。災難だったな」
「ヒマリちゃん、はい、冷たいジュース。生き返るよ」
戻ってきたスズカとサクラから、労いとともに缶ジュースを手渡され、ヒマリは「ありがとうございます……」と愛おしそうに喉を潤した。
「ふふ。なんだか、このダンジョン探索部を設立した時のことを思い出してしまいました」
「はは、確かに。あの時もスイちゃん、一人でめちゃくちゃ突っ走ってたからねぇ」
「ちょっと、二人とも私を何だと思ってるのよ。……まぁ、何はともあれ、これで私とヒマリの分のベース衣装はOKね。スズカは家にあるライダースーツと革ジャンだし、サクラも自作の服で行くのよね?」
「うん! そのつもり!」
「よし、ならあとは三日後、ショウコさんがまたここにフリマを出展する日を待ちましょうか」
「ん? それまで、ダンジョンの探索は無しにするのか?」
スズカの問いかけに、私はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「当然よ。どうせなら、新しいお揃いの防具(衣装)をバシッと装備した姿で登場して、あのおっさんAIのセンサーを驚かせてやりたいじゃない? だから、防具が出来上がるまでは、ダンジョン探索は完全にお休みにします!」
「OK、わかったよ」
「はーい! サクラ、三日間でがんばって可愛い腕章と旗を作ってくるね!」
「私も……慣れないファッションショーで少々疲れましたから、このお休みはありがたいです」
ヒマリの少しお茶目な本音に、みんなでドッと笑う。
「じゃあ、次の集合は三日後ね!」
「おー! 三日後、シャボンピースに集合だ!」
「……どこよそこは!?」
「あれ?ピースじゃなくて諸島だったけ?」
「いや知らないわよ。だから漫画の受け売りはやめなさいって」
最後の最後で飛び出したサクラの相変わらずの天然ボケに、全員で盛大にツッコミを入れつつ。私たちはフリマを後にし、防具の完成を夢見ながら、賑やかに三日間のお休みへと入るのだった。
三日間のお休みをみんなに言い渡した私だったが、実はその翌日、一人でストレージマーケットへと足を運んでいた。
理由は一つ。サクラに任せた私たちの『チームの旗(旗印)』を作るにあたって、それを支えるためのベースとなる棒のようなものがどうしても欲しかったからだ。
「旗棒なんて、普通のお店には売ってないわよね……。あ、あそこならあるいは……」
ダンジョン内の特殊な遺物や出所不明の珍品が集まるマーケットの中で、そんなニッチな要望に応えてくれそうなお店は、もうあそこしか思い浮かばなかった。
私は、水鏡橙愛さんが経営する、怪しげな掘り出し物のお店『ユニアム』の扉をくぐった。
「やあ、スイちゃん。今日は一人かい? 何かお求めで来てくれたのかな?」
カウンターの奥から、トアさんがいつもの人懐っこい笑みを浮かべて迎えてくれる。
「こんにちは、トアさん。はい、実はちょっと相談がありまして。今度、私たちのチームの旗印を作ることになったんですけど……それを取り付けるための『旗棒』って言うんですかね? それを探していて。変わったものをたくさん置いているトアさんのお店なら、何か良いものがあるかなって思って」
「なるほど、旗かぁ。ダンジョン内において、旗そのものが武器として使われることはまずないからね。大概のトラベラーは、それ専用の伸縮性の棒や、既存の槍の柄に括り付けるのが一般的だよ。まあ付けても邪魔になるだけだけどね」
「やっぱりそうなんですか……。うーん、どうしようかな。槍にくっつけるだけでもいいんだけど……」
私が腕を組んで悩んでいると、トアさんは興味深そうに目の奥を光らせた。
「おや? それでは何かダメなのかな?」
「ダメってわけじゃないんですけど……。私、将来的には『旗騎士』っていうジョブスキルの構成を目指すつもりなんです。だから、ただの飾りじゃなくて、ちゃんと旗を掲げながら自分でも戦えるようにした方が良いのかなって思いまして」
「バネレット、か……! いいねぇ、ロマンがある。あれは戦場の先陣に立って味方に自分たちの位置を知らせたり、後方に回って大声で仲間を鼓舞したりする役割だね。確か、あのフランスの有名な偉人、ジャンヌ・ダルクも戦場ではそんな役割をしてたって話だよ。知ってる? ジャンヌ・ダルク」
「あ、はい。フランスを救った聖女様ですよね。サクラがよくゲームの知識で教えてくれます」
「そうだね、今じゃ偉人の方々も色々なゲームに引っ張りだこだからね。――おっと、話が逸れちゃった。バネレットを目指して武器としても使うのであれば、いわゆる『六尺棒』と呼ばれる金属製の棒か、やっぱり槍の系統になるわけだけど……。ああ、そうだ! 槍で思い出した。ちょっと待ってて。面白そうだと思って取引してみたけど、他のトラベラーたちにはすこぶる不評だったやつが一つあるんだ」
「え? トアさん!?」
トアさんは私の返事も待たずに、嬉々としてお店の奥の倉庫へと引っ込んでいってしまった。
数分もしないうちに戻ってきたトアさんの手には、彼女の背丈ほどもある、一本の長い金属製の棒が握られていた。
「お待たせ。こちらがその品だよ」
「……その品と言われましても。これ、いったい何ですか? ただの、ちょっと頑丈そうな金属製の棒にしか見えませんけど……」
「フッフッフッ、これにはちょっとした面白い仕掛けがあるんだ。まずは、ここのグリップの部分を――こうして捻るとね?」
トアさんが、のちに『石突き(いしづき)』という名称だと教えてもらった棒の端の部分をカチリと捻った。
その瞬間、――ブオォォン!!! という重低音とともに、反対側の先端から、眩いエネルギー出力で形成された『光の刃』が勢いよく飛び出してきたのだ。
「ええっ!? キャッ!? な、何ですかこれ!?」
「これはね、『長棍』と呼ばれるカテゴリーの近接武器でね。エネルギー出力で刃を形成して、状況に応じて槍としての役割もこなせないかってコンセプトで作られたハイテク魔道武器なんだ。けど、普通のトラベラーからは『エネルギーの燃費が悪い』とか『普通の槍で十分』って言われてねぇ。そのまま売れずにお蔵入りして、倉庫の肥やしになってた武器だよ。……で、ここからが本番。スイちゃんが話していた『旗』のデータをここにインプットすれば、ほら――」
トアさんが今度は逆側のスイッチをカチッと操作する。
すると、光の刃とは反対側の端から、エネルギーの粒子がたなびくように広がり、鮮やかな『光の布地』となって空中へと飛び出てきた。それらはまるで本物の布のように、美しく風に揺れている。
「うわぁ……! すごい……これ、絶対にスズカやサクラが喜ぶギミックだわ……!」
近未来感溢れる演出に、私の配信者としての血が騒ぐ。こんなのを配信で振り回したら、同接数が跳ね上がるに決まっている。
「おっ、気に入ってくれた? 喜んでもらえるなら嬉しいな。ちなみにこれ、槍の形状だけでなく、いくつか攻撃のパターンがプリセットされてるから、その都度モードを変えられるよ。気に入らないエフェクトがあれば、後からパターンを変更することも可能さ」
トアさんは「さあ買った買った!」と言わんばかりの、満面の営業スマイルで猛烈な商品アピールを仕掛けてきた。
「あ、あのぅ、トアさん。とっても素敵なんですけど……今日はあくまで様子見と言いますか、下見のつもりでして……」
「本来ならこれ、定価で『二十五万円』するところなんだけど……。スイちゃんたちにはいつもお世話になってるお得意様だからね! 今回は大特価、どうせ倉庫の肥やしだから九割引きで四万九千円どうだ!」
「くっ……!? だ、大特価ってレベルじゃないお値引き……っ。ものすごく心が揺れるお値段ですけど……あの、私たち、近々防具を一新する予定でして! 本当に予算がないんです!」
「だったらさ、『ある時払いの催促無し』ならどうだい?」
「な、なんでそんなに押し付けるように売りたがるんですか!?」
「だって、誰も買ってくれないんだもん! 丁度いま、スイちゃんっていう買い手が目の前に現れたんだよ? ここで売り付けておかないと、本当に一生倉庫の肥やしになっちゃうからさ。ほら買おう? 買っちゃおう? 買うならいまだよ、スイちゃん!」
両手を合わせて拝み倒してくるトアさんの怒涛のプッシュに、私の理性が悲鳴をあげる。四万九千円で、ある時払いで、催促も無し。こんな好条件、断れるわけがない。
「――わかりました! わかりましたよ、もう! 本当に『ある時払い』ですからね! お金が貯まるまで待ってもらいますからね!」
「良いよ良いよー! スイちゃんなら、まさか代金を踏み倒すなんて不義理なことは絶対にしないって、私は信じてるからね!」
「……くっ、こっちの性格を見抜いた上で売ってくるなんて、トアさん本当にお商売が上手なんだから……」
私ががっくりと肩を落とすと、トアさんはホクホク顔で端末を取り出した。
「毎度あり! いつもご贔屓にありがとうね。さて、受け取りはどうする? 一応これも殺傷能力のある『武器』の扱いだからね。今ここで現物を渡すわけにはいかないから、ギルド預かりになるよ。納品指定をしてくれれば、すぐにでも指定の預かり所に届けておくけど」
「……はぁ。お願いします。これが私のトラベラーIDです……」
「はい、確かに。毎度ありがとうございます!」
ユニアムを出て、マーケットの冷たい風に吹かれながら、もう一度ユニアスに振り返り見つめて、深いため息をついた。
「……買う予定じゃなかったのに……」
本当は、次の配信のクオリティを上げるために、新しい配信用機材を買い足す予定だったのだ。
予算がないと言いながら、ある意味で予定外の大きな出費を作ってしまった。けれど――。
(光の刃に、光の旗……。ふふん、私の使う武器が、また一つとんでもない進化を遂げちゃったわね)
手に入れた新しい相棒のスペックを思い出し、私は内心で小さな期待を膨らませながら、三日後の再集合に向けて帰路につくのだった。
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