No.48活動記録:ファンネーム、出てきたのは伝説の葉っぱでした
No.48活動記録:ファンネーム、出てきたのは伝説の葉っぱでした
「さて、それじゃあ作戦会議をはじめまーす」
ショウコさんの許可をもらい、私たちはフリーマーケットの通路の端に集まって頭を突き合わせた。
『一式十万円で、どんな服でも防弾仕様などのガチ防具に強化できる』。そんな夢のような職人技を前にして、私たちが話し合うべき議題は一つしかなかった。
「……で、ベースにするお洋服、どうする? せっかく新しく買うなら、動きやすくて、できれば配信映えするものがいいんだけど」
私がみんなの顔を見渡すと、スズカが真っ先に、実も蓋もないトーンで手を挙げた。
「ジャージでいいんじゃね?」
「却下! スズカ! 学校を卒業した大人がいつまでもジャージ着てダンジョン潜るの、絵面としてどうなのよ!」
「いや、せっかく新しく買うのにさ、ダンジョンの中だけでしか着られない服にするの、もったいなくねえか? ジャージなら私生活でも着回せるだろ」
「変なところでビンボー性を発揮しないでくれる!? これ一応、配信用の衣装でもあるんだからね!?」
はぁ、とため息をつき、私は次の意見を求める。
「他に、なにか建設的な意見がある人ー?」
「はーい! サクラね、魔法使いの服が良いと思います!」
サクラが元気にビシッと手を挙げた。
「ふむ……魔法使いかぁ。サクラは魔道書を使うし、悪くないかもね。どんな感じのデザインをイメージしてるの?」
「こうね、ピンクのフリフリがいっぱいついてて、ハートのステッキとか持つやつ!」
「それも却下!! それ、日曜の朝からテレビで放送されてる大人気アニメのやつでしょうが!? いくらなんでも、現役女子高生の私たちがリアルで着るには、年齢的にキツすぎるわ!」
「えー? でも、ヒマリちゃんの従姉妹さんは、おんなじようなフリフリの服着てるじゃん」
「うっ……」
サクラの指摘に、私は言葉を詰まらせた。確かに一階層で遭遇したあの『アイリス』は、真っ白なフリフリなロリータな服を着て大暴れしていた。
「……アイリスとかは別よ。あれはもう……何か、人として超えてはいけない一線を吹っ切れて着てるんだと思うから……」
「そうですね……。普段のアイちゃんは、家では本当に大人し目の服装なんです。何かあるんでしょうか?」
ヒマリが実の従姉妹を心から心配するように苦笑している。
(……うん、あのはっちゃけ具合からすると、たぶん日常生活のストレスが限界突破して、ダンジョンの中で爆発しちゃってるんだと思う。そっとしておいてあげましょう)
「コホン。ええっと、気を取り直して。ヒマリは、何か着てみたい衣装とかある?」
「私ですか? んー、そうですね……。せっかく皆さんとお揃いにするのであれば、『着物』とかはパッと頭に思い浮かびますが……流石にダンジョンですからね。着物は無しにした方が良いでしょうし……」
「そうねぇ。いくら防具化できるって言っても、着物だと袖が引っかかったり、足捌きが悪くて動きづらそうだわ。前衛で槍を振り回すスズカなんて、絶対に裾を破くわね」
私の言葉に、スズカがふんと鼻を鳴らす。
「みんなに意見を聞くのはいいが、発起人のスイは何か案があるのかよ?」
「私? 私はね……やっぱり、みんなでお揃いの、ちょっと可愛い『制服風』の衣装とかが良いんじゃないかなって!」
アイドルっぽくて配信映えもするし、チームの一体感も出る。名案だと思ったのだが、スズカはあからさまに嫌そうな顔をして私をジト目で睨んできた。
「スイ……。学校を卒業してそれなりに経つオレに、またあの窮屈な制服を着ろって言うのか?」
「えー、似合うと思うけど? スズカ、スタイル良いんだし」
「……同性からお世辞を言われるのはともかく、異性から本気で笑われたのは、オレにとっちゃ一生の屈辱もんなんだよ」
「あ……」
スズカの言葉に、私は昔の記憶を呼び起こした。
「……そういえば、あったわねそんなこと。スズカの父さんが、高校時代のスズカが制服着ていたのを見て、『ガハハ! 似合わねぇなお前! なんか無理してる感がすごいぞ!』って大笑いしてたわ……」
「……笑ったのはうちの父ちゃんだけじゃなかったけどな。近所のおっさん連中みんなしてクスクス笑いやがって……。あー、そうだ! うちのガレージに、昔着てたライダースーツの予備が何着か余ってるはずだ。それを使うか? 革ジャンなら防御力も高そうだろ」
「全員分あるの?」
「……いや、さすがに四人分はねぇな。うーん、どうするか」
話が完全に二転三転して、完全に迷子になってしまった。
「サクラね、思ったんだけど――みんなそれぞれ、自分の好きな服を着れば良いと思うの!」
顎に指を当てて、サクラがきょとんと言い放つ。
「好きな服、ねぇ……。配信チームとしては、出来ればみんなで揃いの、統一感がある衣装にしたいんだけど……。やっぱり、それしかないのかなぁ……」
私はうーんと首を捻りながら、なんとか全員が納得できて、かつ配信的にも大正解になるような妙案を絞り出そうとする。けれど、アイデアの引き出しは完全に空っぽで、これといった答えは浮かんでこないのだった。
「うーん、お揃い、お揃いねぇ……」
私が腕を組んで何かいいアイデアはないかと、フリーマーケットの雑多な風景に周りを見渡していた、その時だった。
ふと、近くのブースに掲げられていた宣伝用の『のぼり旗』が目に飛び込んでくる。
「――あ、あれだ!!」
私はポンッと手を打ち、思わず大きな声を叫んでいた。
「うおっ!? なんだよ急に、どうした!?」
「スイちゃん、何か良いこと思いついた?」
「あれよ、あれ!」
私が興奮気味にのぼり旗を指差すと、ヒマリが不思議そうに首を傾げた。
「……のぼり旗、ですか?」
「そう! ほら、私って最終的には『旗騎士』のスキルを目指してるじゃない?」
「あー、なんかおっさんAIとそんな話をしてたな。それがどうしたんだ?」
「だからあれよ! 『旗騎士』と言うくらいなんだから、戦場では自分の旗を掲げて戦っていたに違いないわ。だったら、その旗に私たちのチームの『シンボルマーク(紋章)』を描くの! で、スズカ、サクラ、ヒマリには、そのシンボルが描かれた『腕章』をショウコさんに作ってもらって、衣装のどこかに着けるのよ!」
私の提案に、みんなの目が丸くなる。
「そうすれば、ベースにする服はみんなジャージでも魔法少女でも何でも、好きな衣装を着られるじゃない! 腕章さえお揃いなら、チームとしての統一感はバッチリよ!」
「まあ! 確かにそれなら全員の希望が叶いますね。とても素敵だと思いますよ、スイちゃん!」
「でしょー!」
ヒマリに褒められ、私は胸を張って盛大にドヤ顔を決めた。
「ふふん、冴えてる私はついでに、チャンネル登録者百人突破記念の『リスナーのファンネーム』も同時に考えてみちゃいました!」
「おお、すげぇじゃん。なんか急にとんとん拍子に思い付き始めたな。で、どんな名前を思い付いたんだ?」
スズカが興味深そうに身を乗り出してくる。私は一つ一つ、指を折りながら解説した。
「まず、リーダーの私は『騎士スキル』から始まってるでしょ? で、サクラはブックマーカーは『魔法使い』。ヒマリの言霊士も魔法の一種と言えるし、回復や補助担当だから『僧侶枠』。最後にスズカは、騎乗スキルでストームサンダーっていうバイク――つまり『馬』を駆るお役目があるわ」
「ああ、なるほど。つまり、ひとつの『騎士団』みたいなコンセプトってことですね」
「そういうことよ、ヒマリ!」
「おおーっ! かっこいい! じゃあサクラたちは『クロの騎士団』だね!」
「某アニメの反逆しそうなやつはヤメナサイ。まぁ、私たちの規模じゃ団ってほど大きくないから、『隊』って感じの響きがいいと思うのよね」
スズカが顎をさすりながら呟く。
「隊ねぇ。そうすると『スイ隊』か?」
「うーん、なんかそれだと登録者数が減少していきそうね……。そうだ、私は『元樹みどり』名義で配信してるんだから、名前をもじって……『みどり隊』? いや、それだとちょっと寂しいわね。みどり……緑……草? 葉っぱ? あ、閃いた!」
私は再度、これ以上ないほどのドヤ顔をバシッと決めて宣言した。
「『みどりの葉っぱ隊』っていうのはどうかしら!?緑豊かな自然を感じさせる、優しくてエコな、素晴らしいネーミングだと思うの」
そう自画自賛した、次の瞬間だった。
「――っぶ、ぶっははははは!!! げーーっほごほっ、ギャハハハハハ!!!」
それまで私たちの会話を微笑ましく(?)聞いていたショウコさんが、突然盛大に吹き出し、涙を流してレジャーシートの上を転げ回り始めたのだ。
「えっ!? な、何!? どうしたんですかショウコさん!?」
「プッ、くくく……きゃははは! いや、だって、おまっ……ぶはっ! 『葉っぱ隊』って……! あんた、本当にその意味を分かっててつけたのかい!?」
「え? 意味って……緑の葉っぱの、爽やかなイメージですけど……何かあるんですか?」
「くっ……あーおかしい、まさか令和のこの時代にリアルタイムで聞くことになるとは……! くくく、いや、本人がいいならいいんじゃねぇの? あんたの配信を見るリスナーの連中がそれに賛同したら、それを使ってやりなよ。ぷっ、クスクス……!」
ショウコさんはお腹を抱えたまま、それ以上は苦しくて喋れないといった様子で笑い続けている。スズカたちも「?」と首を傾げていたが、もちろん私も、この時のショウコさんがなぜ死にそうになるほど大爆笑していたのか、ちっとも理解していなかった。
……そう。私が本当の意味を理解できたのは、後日の配信で、視聴者に向かって「皆さんのファンネームを考えてきました!『みどりの葉っぱ隊』です!」とドヤ顔で発表し、決定してしまった後のことだった。
(……くぅっっっ!!! あの時、あのネットミームの事を知っていれば、絶対にもっと別の名前にしていたのに……!!なんで調べなかったの私!)
私のトラベラー人生において、これほどまでに恥ずかしく、そして悔しい思いをした瞬間は、後にも先頭にもなかったと思う。
「くくく……。ま、名前が決まったんなら、あとはベースになる物を持ってきてくれれば私がバチッと仕上げておくよ。次に私がここに店を出すのは三日後だからさ、その時にモノを持ってきなよ」
涙を拭きながらようやく呼吸を整えたショウコさんが、ひらひらと手を振る。
私は納得がいかないまま、むすっとした顔で尋ねた。
「わかりました、けど……。そんなにおかしな名前ですか?『みどりの葉っぱ隊』って」
「んにゃ、名前自体にはさほど面白みはないよ。私みたいに深く勘ぐる奴なんてそうそういないだろうから、そのまま使えるなら使えばいいさ。……そういや、服以外に『旗』とかも言ってたけど、そっちの方もやるのかい?」
「あ、それはまだ旗のイメージ絵が出来上がってないので、今回は見送ろうかと――」
「スイちゃん、スイちゃん!」
私の服の裾を、サクラがクイ気味にぐいぐいと引っ張ってきた。
「なによサクラ、いまショウコさんとお話し中よ」
「サクラね、その旗の絵、描きたい!」
「あんたが?」
驚いて見つめると、サクラはやる気に満ち溢れた目でコクリと頷いた。
……まあ、確かにサクラは変なところで芸術肌というか、絵を専門に習っているわけでもないのに、ノートの端描きなんかやけに上手いのだ。
「んー、まぁ……サクラのセンスなら任せても安心かしらね。じゃあ、旗のデザインはサクラにお願いしても良い?」
「うん! まかせて!」
「――という事なのでショウコさん、もしそっちの旗のキャンバス地も出来上がったら、一緒にお願いできますか? ……あ、一応確認なんですけど、本当に布切れ一枚で銃弾とかを防げるようになるんですか?」
オーダーする直前になって、私は念のため、一番肝心な防具としての性能を確認してみる。
「そうだねぇ。預かった晶石の量だと、流石にそこまでの極端な強化はしたことないかな。でも、元のモノの質が良ければ――それこそ、私がさっき例えに出した新聞紙みたいな極端な代物じゃなければ、普通の布地でもちょっとした『盾』代わりになるくらいの硬度には仕上がるはずだよ」
「盾代わりに……! わかりました。それなら安心ね。何か良さそうなベースを見繕ってきます!」
「はいよ、お待ちしてますよ。……ああ、そうだ。もし身内に服とか作れる器用な奴がいるなら、このフリマ内をもう少し見て回るのも良いかもしれないぞ。布地を専門に安く売ってる奴もいるから、既製品を買うよりかなり安く済ませることも出来るはずだ」
「本当ですか!? 耳寄りな情報をありがとうございます。ちょっと見て回ってみますね!」
そうと決まれば、フリーマーケットの探索再開だ。
服がイチから縫えるかと言われれば、残念ながら私はボタンを留めるのが精一杯で、ミシンなんて家庭科の授業以来触ってもいないけれど……。
幸いなことに、うちのメンバーには、こういう手先の細かい作業がやけに器用な子が一人いるのだ。
「サクラ。さっきの旗の絵に加えて、服の仕立て(リメイク)の方も行けそう?」
「んー、とね、たぶん大丈夫だと思うけど……。三日でデザインして全部縫い上げるのは、ちょっとしんどいかも」
「あ、それなら旗の絵の方はまた今度でも良いし、服の方もベースになる既製品をフリマで買って、それにサクラが少し手を加える形で良いわ。とりあえず、安く済ませられるところはトコトン安く済ませましょ!」
「ほーい!」
「はぁい。わかりました、私もお手伝いしますね」
ヒマリも優しく微笑みながら、サクラのサポートを買って出てくれた。
すると、私たちの後ろをのんびり歩いていたスズカが、呆れたように鼻で笑った。
「やれやれ。おっちゃんAIがいないのをいいことに意地張って防具買いに来たと思ったら、結局最後はケチ臭いことするんだな」
「ケチじゃないわよ!『倹約』と言いなさい、倹約と!」
私はスズカにビシッと指を突きつけ、大真面目に言い返した。
一千万のシューズには手が届かなくても、限られた軍資金の中で最大の成果を出す。これぞ我が『みどりの葉っぱ隊(仮)』の記念すべき初任務なのだ。
「よし、みんな! 三日後の納品に向けて、安くて良い素材を買い叩きに行くわよ!」
「おー!」
私たちは何だかんだと賑やかに言い合いながら、ショウコさんのブースを後にした。そして、掘り出し物の布地や衣装を求めて、フリマの活気溢れる人混みの中へと再び繰り出していくのだった。
ちなみに「葉っぱ隊」という名前について。
この名前は、作中でスイが語っている通りのイメージから付けました。
「葉っぱ隊って名前、他にないかな? どこかと被ってないかな?」
そう思って一応調べてみたところ……そこで私は、あの伝説の「葉っぱ隊」の存在を知ることになりました。
まさか本当に存在していたとは……。
自分では完全にオリジナルのつもりで考えていた名前が、調べてみたら実在する有名なものだったという、嘘のような本当の話です。
ちなみに私は、このとき初めて「葉っぱ隊」を知りました。
……世代的に、さすがに私だけでしょうか?(笑)
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