No.43活動記録:八階層へは直行便で行こう!
No.43活動記録:八階層へは直行便で行こう!
さて。私たちはトアさんの紹介のもと、高宮ジェナさんという、とんでもないジョブスキルを持った【ブックメーカー(魔道書職人)】の店主から、本来なら国家予算並みの価値があるというカスタム魔道書を、まさかのタダ同然で頂いてしまった。
当のサクラはといえば、その本の本当の恐ろしさを一ミリも理解しておらず、未だに「わーい! サクラのパワーアップアイテムだー!」と子供のように両手を挙げて喜んでいる。
(……なんだろうな。私の配信に映せる限界を超えた事柄が、最近どんどん増えていく気がするんだけど……)
魔道機人形のゴークくんは、まあ百歩譲ってネタにしてるから良いとしよう。
だけど、スズカの契約している『神霊』やら、今回のサクラの『国家予算クラスのチート魔道書』やら、裏のスケールが大きすぎるのよ。そろそろお腹いっぱいだから、もっとこう……普通の、一般的な配信映えする要素が来てくれないかしら。欲を言えば、映像に残せてリスナー受けが良い、可愛くて映えるやつ。
「……うん。それが出来れば苦労しないよ、っておっさんAIに言われそうだけど。私、ちょっと贅沢な悩み、言ってますかね?」
そんな現実逃避を頭の中で繰り広げつつ、私たちは次の行動に移っていた。
今日はスズカが学校部外者であるため、いつもの部室はつかわないで、代わりに、私たちはダンジョンギルドに隣接している賑やかなレストラン街の一角に集まり、今後の作戦についてのミーティングを行っていた。
「えー、それじゃあ本日の議題なんだけど」
私は手元のココアに口をつけ、みんなの顔を見渡す。
「一階層ずつ着実に攻略して八階層へと進むか。それとも、間の階層はすべて無視して無理矢理一気に突破し、目的の八階層へ直行するか。……これを話し合いたいと思います。まぁ、話す前から結論は出そうな気もするんだけどね」
「おう。よく分かってるじゃないか、スイ。オレは当然、今すぐ八階層へ突っ込むべきに一票だ!」
スズカがハンバーグを口に放り込みながら、豪快に手を挙げた。
「サクラもー! 八階層に今すぐ行きたい! そんでジェナちゃんに貰った本で、新しい必殺技考えてきたから、それをドカーンって使うの!」
……うん、予想通り。戦闘狂のスズカと、新おもちゃを試したくてウズウズしているサクラが「即突入派」ね。
「ヒマリはどう?」
「ええっと、私ですか? ……その、事なかれ主義と言われてしまうかもしれませんが、私は皆さんの出す結論であれば、どちらにでも賛同いたしますので……」
「つまり中立ね」
ハァ……と私は深いため息を漏らした。
これで私が「一階層ずつ着実に行こう」と反対票を投じたところで、2対1で私の負け。私が中立に入っても、サクラたちの意見が通って結局八階層へ直行。
……なにこれ? 話し合いの形を借りた、ただの出来レースじゃない。
「多数決の原理って悲しいわね……。そうなると、今度は『移動手段』の話になるわよ。スズカ、あの神霊って、さすがに四人乗っても大丈夫なの?」
いくら神霊とはいえ、人型から大型のバイクに変形するとはいえ。そこに女子が四人。物理的に定員オーバーもいいところである。
「ん? まあイケるんじゃねえか? サクラをオレの前のタンクあたりにちょこんと置いて、オレの後ろにヒマリ。で、その後ろの特等席にスイが直立して立って乗ってればよ」
「私はサーカス団の曲芸士じゃないわよ!? 時速何キロ出るか分からないバイクの後ろに直立で乗れるわけないでしょ、死んじゃうわ!」
「でもね、スイちゃん。スーちゃんのあのバイク、不思議と風が全然来ないから、乗ってるとめちゃくちゃ快適だったよ?」
「あー……前にそんなこと話してたわね。結界的なやつが張られてるんだっけ……」
風が来ないなら、後ろで踏ん張ればギリギリ立てる……? いやいや、私の感覚まで麻痺してどうするのよ。
「……はぁ。まぁ、物は試しで一回やってみるしかないか。どうしても無理そうだったら、途中で別の移動手段を考えましょう」
話し合いらしい話し合いにはならなかったけれど、方針は決まった。
私たちは八階層へのスピード突破を決意し、まずは作戦の要(ツッコミ役)となるおっさんAIをギルドの受付でレンタルするため、席を立ってダンジョンギルドへと向かうのだった。
『お嬢さんら、なんでそんなアホな方法で行こうとしてんねん。もっと簡単な方法があるやろ』
ギルドで無事におっさんAIをレンタルし、今日の「無理やり八階層まで突撃する」という計画を伝えた途端、開口一番に冷ややかなツッコミを入れられた。
「アホって……じゃあ他にどんな方法があるのよ! スズカのバイクに四人乗るのが無茶なのは分かってるけど、他に選択肢がないから言ってるんでしょ!」
『……いや、なんで分からへん? スズカはんのストームサンダーは、わざわざ階層の次元門を通らずとも、直接別の階層へ突破することができる「空間航行能力」があるんやで。上手く使えば、お嬢さんらが曲芸みたいな乗り方して無茶な走り方せんでも行けるやろ』
「あ……っ!」
思考が停止していた。そうだ、すっかり忘れていた。以前、スズカがストームサンダーの性能テストをした際、彼女たちは「別の階層」まで一瞬で跳んで、そこで見たモンスターの話をしていたじゃない。
「おおっ!? そういえばそんなことあったな。オレもすっかり忘れてたぜ。がっははは!」
「いや、あんたはちゃんと覚えといてあげなさいよ。契約者なんだから! 彼女たちが可哀想でしょうが!」
「まっ、良いじゃねぇか。呼び出して行けるか聞いてみるか?」
「ここでは止めなさいよ(ギルドのロビーでそんなことしたら怒られる)! とにかく、まずはダンジョンに入ってからよ」
私たちはそそくさとギルドを離れ、ダンジョンの入口でスズカに「ストーム」と「サンダー」を呼び出してもらった。
相も変わらず、未来からやってきたようなメタリックボディのアンドロイド――双子のように見える二人が、光の中から現れる。
「ようお前ら、久しぶりだな」
『●△♪︎?』
金属音が混ざったような無機質な声で問いかけてくる彼女たちに、スズカは慣れた様子で手を振る。
「おう。今日はお前らに頼みごとがあってよ。……あ、そうだ。ついでにお前らもさ、このステッカーを張ってくんね。父ちゃんがまたスポンサーを探してきたらしくてよ。スイの盾にはもうスペースがねえから、お前らの身体のどこかに張ってくれ」
スズカはそう言って、ギラギラと輝くド派手な企業ロゴのステッカーを突き出した。
二人は無表情で首を傾げた後、スズカの手からステッカーを受け取ると、……そのまま地面にポイと捨てた。
「あー!? なにすんだお前ら! 捨てるんじゃなくて張れよ!」
『¶》▽♭︎@』
「ああ!? 嫌だ!? そんなの張るくらいなら帰るだと!?」
――空気の温度が、一気に氷点下まで下がった気がした。
おっさんAIから神霊がかつて、町一つを滅ぼしたという話を聞いていた私。スズカは意志疎通ができても、私たちにとって彼女たちは「制御不能な人型兵器」に感じてしまう。ここでヘタに怒らせたら、ダンジョンどころかこの街ごと水の底になりかねない。
「……あーっ! スズカ、ちょっと待って! 無理に頼まなくて良いわよ!」
私は慌てて割って入り、愛想笑いを浮かべながら二人の前に立った。
「あなた達も、無理やり張らせようって訳じゃないから! 機嫌を直してくれると……その、とってもありがたいんだけど、どうかな?」
私の必死の説得が通じたのか、二人は不満そうな電子ノイズとでも言うような機械音を響かせて、小さく頷いた。どうやら納得してくれたらしい。よかった……心臓が止まるかと思った。
「どうするんだよ、このステッカー……」
スズカが不貞腐れてステッカーを拾い上げると、横からヒマリがそっと手を差し出した。
「そのステッカー、私の傘に貼っておきましょうか? これならどこでも持ち歩けますし」
「おっ、そうか? 悪いなヒマリ!」
ヒマリナイスアシスト! 彼女の完璧な機転のおかげで、スズカの不機嫌も収まった。
初手から色々ありすぎたけれど、これでようやく、ストームとサンダーに八階層へ行けるかどうかの確認が取れる……はず!
結論から言うと、八階層へ直接跳べるかどうかの確認については、何の問題もなかった。
二体は滑らかな変形合体を見せ、未来的なデザインの大型バイクへと変形する。
私とヒマリはスズカの後ろに、サクラはスズカの前にちょこんと収まり、ストームサンダーはゆっくりと走り出した。
「……あれ? ダンジョンのゴツゴツした地面を走っているはずなのに、全然揺れないのね」
私が驚きの手のひらをシートに当てると、ハンドルを握るスズカがニカッと八重歯を覗かせた。
「そうだろう! 前にな、すげぇデコボコの岩場を走った時もよ、振動すら全くねぇんだ。あまりにも乗ってる感覚がなさすぎて、逆にライダーとしてはちょっと物足りなくて惜しい感じだよな」
スズカがそう言った、まさにその瞬間だった。
ガタガタガタガタッ!!!!!と、それまで無振動だったバイクが、悪意を感じるレベルで激しく上下に揺れ出した。
「ぶふぉっ!? て、てめぇバカ野郎が! いきなり揺れ出すんじゃねえよ!」
『&━¶!!』
ハンドル辺りに顔があるサンダーから怒りのような電子音が炸裂する。
「あん!? オレが余計な文句を言うからだと!? 文句じゃねえよ! 性能が良すぎて物足りねぇって褒めてやったんだよ!」
「もう頼むから! 町ひとつを滅ぼすレベルの神霊相手に喧嘩売るの止めてーーー!!」
私の胃がストレスでマッハになるから本当に勘弁して!!
私が涙目で叫ぶと、ストームサンダーは仕方ないとでも言うように少しだけ揺れを収め、再び滑らかに加速した。
ストームサンダーが一定の速度に乗ったその時、目の前の空間が自転するように歪み、ダンジョンの次元門にも似た、眩い純白の光の亀裂が現れた。
バイクはその光の門へと、躊躇なく突っ込んでいく。
一瞬、視界のすべてが真っ白な煌めきに染まり、強烈な浮遊感に目が眩む。
思わずぎゅっと目を閉じ、数秒後、うっすらと目を開けた時には――。
そこは、先ほどまでいた一階層の景色とは、完全に様変わりしていた。
どこか、私たちが居た『一階層』の花畑エリアに雰囲気は類似している。だけど、あの『二階層』のような、間違い探しのような風景では決してなかった。
瑞々しい緑の芝生が広がり、そこかしこに立派な雑木が点在している。まるで、どこか現実世界の美しい林道にでも迷い込んでしまったかのような、不思議な開放感のある景色。
「……ここが、本当に、八階層……?」
私が呆然と呟くと、おっさんAIが、ホバリングしながらホイホイとセンサーを明滅させた。
『ほいほい、ほいっと。周囲の環境データの照合……間違いなく、ここは「八階層」のエリアやで。……いやしかし、ホンマに何階層分もすっ飛ばして、こんな裏技でここまで来よるなんてな。一階層ずつ攻略しとる他のトラベラーが知ったら、間違いなく激怒もんやで』
「くししっ、サクラたちの勝ちー!」
おっさんAIの呆れ声を他所に、サクラはバイクの上で早くも勝利宣言のように万歳している。
こうして私たちは、本来ならトラベラー達が攻略の果てに辿り着くはずの「八階層」の地へと、信じられないほどのノーコストで、無傷のまま足を下ろしたのであった。
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