No.39活動記録:【朗報】サクラちゃん、最強の新兵器(オモチャ)を手に入れる
No.39活動記録:【朗報】サクラちゃん、最強の新兵器を手に入れる
『――ちゅうわけで、今のお嬢さんらに足りてへんのは、押し寄せるモンスターを一網打尽にできる『広範囲への攻撃力(制圧力)』や。そこを補強する装備を買いに行くのがベストやろな』
おっさんAIの極めて真面目な総括のあと、私とヒマリ、スズカ、聞いてるのか聞いてないのかわからないサクラを交えての作戦会議が続行された。
するとその時、それまで大人しくしていた対面の席から、勢いよく小さな手が挙がった。
「はいはいはーい! サクラ! サクラ武器欲しい! かっこいいやつ!」
お腹がいっぱいになって満足したからなのか、あるいは自分の大好きな『お買い物』の話題になったからなのか、サクラが身を乗り出して目一杯自分をアピールし始めた。
サクラに、広範囲攻撃ができる武器……。
私は考える。考えるよりも先に、幼馴染みとしての直感――いや、もはや確定された未来(予定調和)のような光景が脳裏を過っていた。
絶対に、どこかのタイミングでド派手なフレンドリーファイア(味方誤射)を起こして、前衛の私やスズカが巻き添えを食らう。確信がある。
しかし、そんな私の危惧をよそに、おっさんAIは『ええと思うで』とあっさり体を振った。
『サクラはんの適性を考えたら、今回は範囲魔法を扱える「魔道書」系の装備を探しに行くとエエ。ちょうど良い出物があるショップの情報を知っとるで』
「えぇ……? ちょっとおっさんAI、サクラにそんなの持たせて大丈夫? なんかとんでもないやらかしをしそうで、私すごく怖いんだけど……」
「失礼だよ! そんなことサクラしないもん! ちゃんとかっこよくドカーンってできるもん!」
胸を張って自信満々に言い張るサクラ。だが、その自信の根拠がどこにも無いところが、幼馴染みとしては一番信用ならないのだ。
「まぁまぁ、スイちゃん。私はすでにこちらの傘をいただきましたし、今度はサクラちゃんの番ということで、お買い物に行きましょう?」
「そそう。サクラがやらかしたらやらかしたで、別に良いんじゃねえか? どうせいつもの事なんだしよ」
ヒマリの優しいフォローに続いて、スズカが遠い目をしながら身も蓋もないことを言った。
「スーちゃん、いつもの事ってなにー!? サクラそんなにやらかしてないもん! ひどい、めいよきそんでうったえるよ!」
「あー、はいはい。名誉毀損な。書けるか?名誉毀損って」
ぷんすかと両頬を膨らませて怒るサクラだが、実際問題、私一人が反対したところで多勢に無勢だ。それに、チームの火力が上がるのは間違いなく良いことではある。
「……はぁ、しょうがないわね。じゃあ、サクラの魔道書を探しに行きましょうか」
「むぅー! スイちゃんまで『しょうがない』ってなにっ!? サクラはもっと歓迎されるべき存在――んぐっ!?」
最後までピーチクパーチクと騒いでいたサクラだったが、スズカが皿に残っていた最後の唐揚げを容赦なく口に放り込むと、大人しくモグモグと咀嚼を始めて静かになった。
「よし、黙ったな。じゃあおっさんAI、その魔道書が売ってる店とやらに案内してくれや」
『合点承知。ほな、出発しまひょか!』
そうして私たちは、様々な露店やショップがひしめき合うストレージマーケットへと足を運んだ。
おっさんAIに先導され、数多の武器が並ぶエリアを通り過ぎようとした、その時。
「おや? そこに行くお嬢さん方は、僕のお店で傘を購入してくれたお客さんじゃないか。今日はどちらへ行くんだい?」
小気味よい、よく通る声に呼び止められた。
振り返ると、そこに立っていたのは――ヒマリの特殊な傘を購入した、あの中性的な魅力をまとった女性店員さんだった。
「あ、この間のお姉さんだ! あのね、サクラ、手裏剣使いこなせなかったの。ごめんなさい……!」
「ははは! 良いんだよ、謝らなくても。そっか、使いこなせなかったかぁ。それは商品を勧めた僕の目が悪かったね」
サクラの素直な謝罪に、お姉さんは端正な顔を綻ばせて快活に笑った。そんなお姉さんに、ヒマリが傘を抱えて丁寧にお辞儀をする。
「こちらの傘、本当にありがとうございました。お陰様で、皆さんの役に立てるようになりました」
「うんうん。そっちの君には、ちゃんと役に立ったようだね。仕入れた僕としても嬉しいよ」
「そうか。あんたがおもしろ武器を売ってるっていう店員さんか。うちの連中が世話になったね」
一歩前に出たスズカが、興味深そうにお姉さんを見つめた。
「君はこの間はいなかったね。彼女たちのパーティーメンバーで良いのかな?」
「ああ、オレは夏樹鈴華。スズカでいいぜ」
「スズカだね。僕は『ユニアム』の店長、水鏡橙愛だよ。トアと呼んでくれて構わない」
「トアだな。よろしく頼むわ」
スズカとトアさんがガシッと、どちらも女性なのに男らしい握手を交わす。その様子を見届けたトアさんは、私たち全員を見渡して人懐っこい笑みを浮かべた。
「それで話を戻すけど、今日はみんなで何かお求めかな? もしよろしければ、また僕のお店で購入してもらえるとありがたいな」
「今日はね、サクラの『魔道書』を買いに来たの! ……あ、ねぇねぇトアちゃん、ちょっと気になったんだけど」
「なんだい? サクラちゃん」
「トアちゃんのお店のお名前、なんで『ユニアム』っていうの?」
「ああ、それはね。ユニークアイテム――つまり『風変わりな道具』を専門に扱うお店だから、縮めて『ユニアム』って名付けたんだよ」
「そうなんだ! じゃあじゃあ、サクラが扱えるかっこいい魔道書とかある?」
「魔道書、か……」
トアさんは人差し指で顎をトントンと叩き、うーんと眉をひそめた。
「あいにく、直球の魔道書はうちでは扱ってないかなぁ。……ああ、でも。魔道書じゃないけれど、『それに代わるもの』なら面白いものがあるよ」
「なになに!? 何があるの!?」
「――『マニ車』って、知っているかい?」
「ううん、知らない。まにしゃ……? そんな名前の車あったかなぁ? サクラ、おっきいトランスフォーマーみたいな車がいい!」
「あはは、車とついてるけど、乗る車じゃないんだよ。円筒形の車輪みたいな道具でね、こうして手でくるくると回すと、その中に刻まれたお経や文字が『全部読まれたことになる』っていう、とってもありがたい道具さ」
「へえーすごいね」
「……サクラ、あんた絶対に意味分かってないでしょう」
「えへへ、バれちゃった?」
私がジト目で突っ込むと、サクラはてへぺろと頭を掻いて笑ってごまかした。本当にこの子は……。呆れる私をよそに、上空のドローンからおっさんAIのダミ声が降ってくる。
『要は、サクラはんのスキル【ブックマーカー】。クイックスペルと同じ効果が得られるアイテムや。文字をガリガリ書かんでも、その車輪を一回クルッと回すだけで、書き込んだ魔法が一瞬で発動するっちゅう寸法やな』
「おや?」
トアさんが目を細め、ドローンのカメラレンズを見つめた。
「そこのドローンくんは、随分とお喋りが上手で、おまけに物知りだね」
『わてはお嬢さんらからおっさんAI呼ばれとります。よろしゅうな、トアはん』
「よろしくね、おっさんAIくん。――それでみんな、どうだろう? せっかくだし、ひとつ現物を見ていかないかい?」
「どうする、スイ?」
スズカに振られ、私は少し悩む。おっさんAIの言う通り、サクラの【紙切れを起こさないメモ帳】と【クイックスペル】の弱点を補うアイテムな気がするけれど……。
「良いんじゃねぇか? 物は試しって言うだろ」
「サクラ、そのまにしゃ見てみたい!」
「……とのことなので、トアさん、見せていただいても良いですか?」
「結構だよ。じゃあ、奥へ案内するよ」
トアさんは嬉しそうに微笑み、私たちを店舗兼倉庫の「ユニアム」へと招き入れた。
ぞろぞろと入っていく私たちの後ろで、プカプカと浮いていたおっさんAIが、トアさんの背中に向けてボソリと電子音をこぼす。
『……フッ、上手く誘導しよるな。人当たりの良い男装の麗人の顔しながら、客をたらし込むのがウマイな、オタク』
「人聞きの悪いAIくんだなぁ」
トアさんは振り返ることもせず、クスクスと肩を揺らした。
「僕はこれでも真面目なお店の店員さんだよ? 需要に合わせた適切な商品説明をしただけさ」
『へいへい。まっ、そう言うことにしときまひょうか』
食えない大人二人の密かなやり取りを、私たちは誰も知る由がなかった――。
トアさんの案内に従ってお店の奥へと進み、しばらく待っていると、彼女はベルベットの敷かれた高級感のあるトレーを恭しく運んできた。
「お待たせ。うちに置いてあるマニ車だと、これが一番効果が高いやつ(最大サイズ)だね。あ、ちなみにこれは店頭用のレプリカだから、今ここで回しても魔法は発動しないよ。どんな効果があるか知りたければ説明するからね」
トレーの上に載せられていたのは、不思議な文様が刻まれた手のひらサイズの円柱形。そして、その片方の中心部から、持ち手となる一本の細い棒が真っ直ぐ突き出ていた。
「へぇ……。なんだろう、これ?」
私はその道具をじっと見つめる。どこかで、本当にどこかで見たことがあるような形をしている気がして、私はふんふんと首を捻った。
そんな私を置き去りにして、サクラがいの一番にマニ車を手に取り、目を輝かせてトアさんに扱い方を尋ねる。
「トアちゃんトアちゃん! これ、どうやって使うの? こうやって回せば良いの?」
「そうそう。その持ち手を持って、上の円柱を一回転させると、中に刻み込まれた魔法(呪文)が一回発動する仕組みだね。ちなみに本物はチャージ式だから、エネルギーが溜まっていれば、回すだけで何度でもノータイムで撃てるよ」
「そうなんだ! おもしろいー! くるくるー♪ くるくるー♪」
サクラはすっかりお気に入りのおもちゃを見つけた子供のように、嬉々として手首をひねり、マニ車を何度もくるくると回し始めた。
――その瞬間。私の頭の中で、強烈な既視感が火花を散らした。
円柱形の頭。そこから伸びる、手で持つための棒。
それを手元で、何度も、何度も、楽しそうに振り回すサクラ。
……あ。あの形、あの動き、本当にどこかで見たことが――ッ!?
「ああッ!? あああああッ!!!!」
『うわああっ、なんや!? スイはん、急に世界滅亡の予言でも聞いたみたいに叫びだして!』
おっさんAIのドローンがビクゥッと飛び上がるのも無視して、私はサクラの持つマニ車をバシッと指差した。
「ごめん! でも、そのマニ車を見て『何かに似てる』ってずっと思ってたのよ! ずーっとモヤモヤしてたんだけど……!」
「あ? 何かに似てるか、これ?」
スズカが怪訝そうに眉をひそめる。
「似てる、めちゃくちゃ似てる! サクラがそれ持って遊んでるのを見て、ようやく確信に変わったわ!」
「うにゅ? サクラが持ってると、何がわかったの?」
サクラが首を傾げながら、なおも手元のマニ車をくるくると回す。私は大きく息を吸い込み、全力で叫んだ。
「――『ガラガラ』よ!!! それ、赤ちゃんがよく持ってあやす、あの『ガラガラ』とそっくりじゃない!!」
「「「ッぶふーーーっ!!!!!!」」」
私が叫んだ瞬間、お店にいた全員――スズカ、ヒマリ、そして店長のトアさんまでもが、堪えきれずに一斉に吹き出した。
「アッハハハハハ! ガラガラかッ! 確かによく見たら完全に赤ん坊のおもちゃじゃねえか!!」
「ふふ、ふふふっ……! サクラちゃん、とってもお似合いです……っ!」
お腹を抱えて爆笑するスズカと、上品に口元を抑えながらも肩を激しく震わせるヒマリ。トアさんも「ククク……盲点だったな……」と目元を押さえている。
「むううーっ! スイちゃんひどい! サクラ赤ちゃんじゃないもん! お姉さんだもん!!」
サクラは真っ赤になって怒りながら、「ノン、ノン!」と抗議の意を示すようにマニ車を両手でブンブンと激しく振り回した。
だが、その『怒ってオモチャを振り回す姿』そのものが、どう見ても駄々をこねる赤ん坊にしか見えない。
「ひゃはははは! だめだ、振り回し方まで完全にバブみを感じる!!」
『アカン、わての高性能カメラで見ても、完全に離乳食食べてる側の幼児にしか見えへんわ!』
「もう、みんなもひどいよぉ! なんで笑うのーー!?」
サクラの涙目の抗議の声は、探索部一同と、食えない店長トアさんの絶え間ない大爆笑の渦にかき消されていくのだった。
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