No.35活動記録:【悲報】主役、筋肉痛のため本日休業します
No.35活動記録:【悲報】主役、筋肉痛のため本日休業します
十王市、私立姫森高校。
日の差し込むダンジョン探索部の部室には、いつもなら賑やかに響いているはずの女子高生たちの声は一切なかった。
誰もいない静かな室内、ぽつんと置かれたホワイトボードには、力強い筆跡でこう書き残されている。
【筋肉痛のため、本日のダンジョン配信および部活動は全面中止とします。 部長・岸本翠】
……どうやら、おっさんAIによる容赦なきスパルタ実戦特訓の代償は、彼女たちの予想を遥かに超えていたらしい。
というわけで、スイ、サクラ、ヒマリの三人が自宅のベッドで揃って呻き声を上げている今日、他のトラベラーたちは一体どんなダンジョン探索を行っているのか。今回は少しだけ、別の場所へとカメラを向けて覗いてみよう。
――放課後ダンジョン・第一階層、遺跡エリア。
「もーっ! 探しても探しても、めぼしいお宝なんて全然落ちてないじゃない!」
真っ白なロリータ風のファンションを着て、自分の髪をかきむしりながら、アイリスこと和泉愛が不満を爆発させていた。その隣で、黒を基調としたゴスロリ風のファンションを着た、相棒のエリカこと五十里恵梨香は、足で地面の小石を転がしながら、呆れたように息を吐く。
「そりゃあそうよ、ここは低階層なんだから。お宝らしい本物のお宝なんて、中階層以上に行かないと出ないに決まってるでしょ」
「だったら私達もさっさと上の階層に行こうよ、エリカ!」
「いや、あんた死ぬよ? あたしら、まだトラベラーとしては初心者もいいところなんだから。……というかさ、あんた普段は真面目な『良いところのお嬢様』のくせに、なんでダンジョンに足を一歩踏み入れた途端、そこまではっちゃけて凶暴になるわけ?」
「ここしか鬱憤を晴らすところがないからよ! 文句ある!?」
アイリスは両拳を握りしめ、青筋を立てて怒鳴り散らす。その必死な形相に、エリカは引き気味に首をすくめた。
「……はぁ。ストレス、相当溜まってんのね、あんた。はたから見れば人生勝ち組の富裕層に見えるけど」
「お金がいくらあったって、お家のせいで自由がほとんどないのよ! 私は、お金があって、なおかつ『誰にも文句を言われない自由』が欲しいの! だからダンジョンでお宝をがっぽり稼いで自立してやるのよ!」
「う~ん。気持ち的には凄くわかるんだけど、人生のルートを盛大に間違えてるよって言いたくなるわね……」
「とりあえずエリカ、まずはスキルアップよ! どんどん強くなって階層を上げて、富と自由を手に入れるの!」
「まぁ、そこは同意ね。あたしの可愛い『下僕ちゃん』たちも、いつまでもただの骨じゃ見た目が不気味なだけだし、もっと強くて格好いいアンデッドを召喚できるようになりたいし」
エリカが指を鳴らすと、彼女の影からカラカラと骨の音を立てて、数体のスケルトンが這い出てくる。それを見たアイは、ますますテンションを上げて愛用の二丁拳銃を構えた。
「よおし、それじゃあ目の前のモンスターをぶち殺して! ぶち殺して! ぶっころーーーすッ!!」
「はいはい。あんたのストレス解消になるなら、付き合ってあげるわよ。はぁ、モンスターからドロップするこの晶石がさ、クズエネルギーの結晶って話だし。これが本物の宝石だったら、あたしももっとやる気が出るんだけどなー」
ダルそうにをエリカもスカートの下から二丁の拳銃を取り出す、その姿にアイはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた。
「ほら、早く行くわよエリカ! それとも何? おばあさんは足腰が大変だから、低階層を移動するだけでも一苦労なのかなー?」
「……アイリス。あんた、今なんつった? あんたね、年上を敬う気持ちはないわけ?」
ピキ、とエリカの額に青筋が浮かぶ。エリカはアイよりも少しだけ年上なのを、ことあるごとにこうして煽られるのが一番の地雷だった。
「きゃっきゃっきゃっ! 年食ってるだけの大人なんて敬う必要ないわよーだ!」
「言ったわね、このクソガキ……っ! ちょっと、大人の本当の恐ろしさってやつを、その身に叩き込んでやろうじゃない!!」
ぶち切れたエリカは、我を忘れてスキルの力を暴走させた。
――召喚スキル、発動。
遺跡の床のあちこちから、カラカラカラカラカラ!!!と、文字通り数え切れないほどの『スケルトンの大群』が、地鳴りのような音を立てて一斉に召喚されていく。
「ちょ、エリカ!? 多すぎ! ちょっと多すぎだってば!?」
「うるさーーーい! 行け、下僕ちゃんたち! あたり一面、骨で埋め尽くしなさい!!」
その後、エリカが呼び出しすぎたスケルトンの大群が遺跡エリアを完全に占拠し、修学旅行ばりに押し寄せた骨の波によって周辺の罪のない一般トラベラーたちに甚大なパニックと実害をもたらし――最終的に、ダンジョン治安隊である『セイバー』が駆けつける大騒動に発展し、二人揃ってクソ重い厳重警告を食らったのは、言うまでもない。
所変わって、こちらはダンジョン治安隊クラン『セイバー』の移動本部内。
本来であれば、ダンジョンの平和を守るために張り詰めた空気が漂っているはずの作戦室だったが、今のそこは、別の意味で凄まじい熱気に包まれていた。
ジューーーーッ!!!と、凄まじい音を立ててホットプレートの上で踊る大量のカルビとロース。
数人の隊員たちが、一心不乱にトングを振り回しては肉を焼き、ひたすら口へと放り込んでいる。
「入電! 入電です! サポートドローンから緊急報告、第一階層のF9エリアにて大量のスケルトンが突如発生してって――ゲホッ、ゴホッ!? な、何ですかこの凄まじい焼肉臭はァアアア!?」
端末を抱えて部屋に飛び込んできた通信担当の隊員が、白煙の立ち込める室内に絶叫した。
「誰ですか! また作戦室でゲリラ焼肉パーティー始めた人は!? 一文字リーダー! なんで止めないんですか!?」
怒髪天を突く勢いで詰め寄られたリーダー――一文字は、口いっぱいに特上カルビをこれでもかと頬張ったまま、もぐもぐと顎を動かして網の上の肉を睨んだ。
「……ニクもってきたんだから、クウのはとうぜんだじょ」
「何を言っているか全然分かりません! ちゃんと飲み込んでから喋ってください!」
「ごっくん。……それと、リーダー違う。カオルのことは『番長』と呼べ」
「はいはい、番長! お肉を持ってきたからって、なにも移動本部の部屋の中で食べなくても良いでしょうに! あとで機材の消臭をするのがどれだけ大変か分かってるんですか! それで、一階層の緊急事態はどうするんですか!?」
「……今回の第一階層の巡回担当者は、誰だじょ?」
「ブランシュさんですよ」
焼肉パーティーに参加してい隊員の一人が告げる。
「……もしかして、あそこで完全に『お肉を胃袋に流し込むだけの機械』と化してる人のことですか?」
通信隊員がジト目で指差した先では、白い隊服を着たブランシュ・アルバが、周りの言葉など一切耳に届いていない様子で、虚無の瞳のまま機械的なスピードで次々と肉を口へ運んでいた。
「そうか。ブランシュ、ちょっと一階層へ行ってくるんだじょ」
「…………(もぐもぐもぐもぐ)」
「……ブランシュ? もしかして、カオルのこと嫌い?」
「いえ番長、無駄ですよ。ブランシュさんはお肉に関してはガチですから。ただ好きなだけじゃなく、『毎食お肉、一年中お肉でも生きていける』って豪語してる人です。お腹がいっぱいになってプレートの肉が絶滅するまで、あの人は動きを止めませんよ」
「じゃあ、だれか別のやつを現地に行かせるじょ」
「……分かりました。ブランシュさんの相方である、マリアンヌ・伊織さんに連絡を取って向かわせます」
「たのんだじょ。……あっこら! ブランシュ! そのハラミはカオルのお肉なのだぞ! 横取りするなじょ!」
「……この人たち、本当にダンジョンの治安を守る気があるのかしら……?」
通信隊員は深い深い大ため息をつきながら、通信機を操作してマリアンヌ・伊織へと連絡を繋いだのだった。
――数十分後、第一階層・遺跡エリア。
「またあなた達ですか! どうしてこう、毎回毎回しょーもない騒ぎを起こすんですか、あなた達は!」
パニックを起こしていた一般トラベラーたちを迅速に誘導・保護し、現況となった二人組を鮮やかに確保したのは、セイバー隊員、マリアンヌ・伊織だった。
両手に手錠(ギルド製封印具)をかけられたロリータ風のファンションのお嬢様とゴスロリ風のファンションのネクロマンサーは、情けなく並んで連行されていく。
「私は悪くないわよ! 悪いのは全部、年齢のことでちょっと煽られたくらいで骨の軍勢を大暴走させたエリカなんだから!」
「こらアイリス! 真っ先に私を売るんじゃないわよ! 元はといえばあんたが私をおばさん扱いしたのが原因でしょうが! 同罪よ、同罪!」
「はいはい、どっちもどっちで両方悪い、ということで処理しておきます。ほら、わめかないでさっさと歩いてくださいね」
やれやれと首を振る伊織の後ろで、とあるお宝ハンター二人組は、醜い擦り付け合いの口喧嘩をしながら、ドナドナのように連行されていくのだった。
再び場所と時間が変わり――こちらは十王市ダンジョンの地上エリア、光輝く『次元門』の入り口前。
「もーっ! マオ、なんであの子たち相手にあんなに手加減もしないで、ガチで戦っちゃったのよ!」
次元門から光と共に転送されてきたウルフ・ザ・ブラックこと大上嶺が、ぷんぷんと怒りながら相方の猫神真央に詰め寄っていた。
マオはショートダガーをホルダーに収めながら、んー、と気だるげに首を傾げる。
「なんとなくさ、彼女たちは叩けば叩くほど、その分だけ跳ね上がって強くなるタイプな気がしたんだよねー」
「……なーんて、もっともらしい格好良いこと言っちゃって。本当のところは、特大の油断と慢心をしてたせいで、あの初心者たちの初見殺しの棒に本気で引っかかりそうになって、焦って咄嗟に『獣化』のスキルで逃げただけなんじゃないのぉ?」
「ぐふっ……! な、何のことかな~? ボク、そんなこと完全に記憶にないな~」
図星を突かれたマオは、レイから不自然に視線をそらすと、目を泳がせながら「ピュ~ピュ~~♪」と下手くそな口笛を吹いて逃げようとする。
「はい、泳いだ! 目が完全に泳いだわね、ほらマオ! ちょっとこっち来なさい、白状しなさい!」
「わー、レイちゃんの手がボクの頬を引っ張るー。やめてー」
次元門の前でガシッとマオを捕まえ、グリグリと尋問を始めるレイ。はたから見ている分には、美少女二人が仲良くイチャイチャとじゃれ合っているようにしか見えない光景だった。
そして――周囲のその認識は、あながち間違いでもなかったらしく。
「そこのお二人さん、こんな公共の場で激しくイチャイチャしてると、周りの一般トラベラーたちの迷惑になっちゃうよ?」
からかうような、聞き覚えのある声が二人に降ってきた。
マオとレイが動きを止め、声の主へと一斉に目を向ける。そこには、彼女たちのよく知る人物が立っていた。
「フウカ!?」
「やあ、お二人さん。ダンジョンの中だけじゃ、イチャイチャが足りなかったのかな?」
クスクスと笑うフウカの隣から、もう一人、小柄な少女がひょこっと顔を出した。
「コナタまで!? どうしたの二人とも、今日は?」
「いやね、最近二人とも低階層ばかりに籠もってるって噂を聞いたからさ。ボクたち『僕っ娘同盟』の仲間内としては、何かあったのかなって様子見に来たんだよ」
コナタが呆れたように肩をすくめる。
「そうしたら、次元門から出てきた途端に、見せつけるようにイチャイチャし始めるからさー。思わず声をかけちゃったってわけ」
「だ、だからそんなんじゃないってば! そう! ちょっと初心者さんに迷惑をかけちゃったレイがお詫びをするために、臨時の対戦相手になってあげてただけだから!」
マオが必死になって言い訳の矛先を相方に向けた。
「お詫びで対戦ってなんだいそれ? 意味が分からないんだけど」
「で、レイが初心者さんに迷惑をかけたって、どういうこと?」
フウカとコナタが怪訝な顔で尋ねると、マオは「いやぁ……別に大したことじゃ」と言葉を濁すレイの横で、ニヤリと意地悪く笑った。
「いつものレイの『熱血ヒーロー病』が出ちゃってね。初心者さんたちが地道にスキルアップのための戦闘訓練をしてたところに、レイが勘違いして派手に横槍を入れちゃったのさ」
「「あー……なるほど。完全に状況を理解した。またレイがやらかしたんだね」」
フウカとコナタの二人が、一寸の狂いもなくハモりながら、深いため息をついた。
「ちょっと二人とも! そんなに簡単に納得しないでよ! ぼ、僕はただ、彼女たちを助けようと――」
「違うと言い張るんなら、まずはその痛々しくて、でも見てる分には最高に楽しいヒーロービジュアルの行動をどうにかしないとねー?」
「痛々しいとか言わないで! 僕のガラスのハートが砕け散る!」
「あははは! じゃあ、その面白いやらかしの話もじっくり聞きながら、ちょっと今後のボクたちの予定の話でもしようか?」
「しなくていいよ! やらかしの話はナシ! 予定の話だけにしよう、ねえお願い!」
半泣きになりながら懇願するレイだったが、もちろん、楽しそうなネタを見つけた仲間たちが聞く耳を持つはずもなかった。
二人に両腕をガッチリと掴まれ、引きずられるようにして、レイたちはマオと共にダンジョンギルド内のレストラン街の方へと消えていくのだった。
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