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No.32活動記録:黒き狼の戦士、二階層に参上!




 No.32活動記録:黒き狼の戦士、二階層に参上!




 スイたちがダンジョンの洗礼――もとい、おっさんAIによる容赦なきスパルタ特訓を受けて悲鳴を上げていた、ちょうどその頃。


 同じく第二階層の花畑エリアを探索していた一組のトラベラーの耳に、その声が届いていた。


 「ん!? 今のは……女の子の悲鳴! マオ、行くよ!」


 「えぇ~……めんどくさいよ。大丈夫だって。ここ、二階層だよ? 今さらここのモンスターにやられるようなトラベラーが来るわけないじゃん」


 ウルフカットの髪を揺らし、猫神真央が気だるげにため息を吐く。しかし、ロングの外ハネヘアを跳ね上げた大神嶺は、強い正義感を瞳に宿して拳を握りしめた。


 「それでもだよ! こんな浅い階層だからこそ、油断して怪我しちゃう子だっているかもしれないでしょう? 放っておけないよ!」


 「もう、わかったよ。本当に心配性だなあ、レイは。……ねえ? コロネもそう思うよね?」


 マオがレイの足元にいた柴犬型のガーディアン、コロネをひょいと抱き上げる。コロネは「きゅ~ん」と喉を鳴らして真央の腕に収まった。


 「ちょっと、マオ! 一応その子は僕のガーディアンなんだけど!?」


 「家がマンションでペット飼えないからさー、ダンジョンのモンスターをペット代わりにして癒やされてるだけじゃん」


 「そうなんだけどね! ああもう、コロネも僕の方が本当の飼い主なんだからね!」


 「ははは。ココロネやつ、人を見る目はあるんじゃないかな?」


 「どういう意味かな、それ!?」


 ぷんぷんと怒るレイに、マオはフッと笑って前方を指差した。


 「おっと、お喋りしてる場合じゃないよ。早く行かないと、悲鳴の主が怪我しちゃうかもよ?」


 「あ、こら! 話をそらすなー!」


 二人と一匹は、悲鳴の上がった方向へと猛ダッシュで向かう。


 ――自分たちがこれから目撃する現状が、どれほど盛大な勘違いを巻き起こす場所であるかも知らずに。


 『さあさあ! へばっとる暇なんかあらへんで、スイはん、サクラはん! どんどんおかわり行くでぇ!』


 「ちょ、ちょっと待って……少しは休ませてよぉ……!」


 私は地面に膝を着くようにして、激しく上下する肩で息を切らせた。


 『何弱音吐いとんねん。たかだか二、三戦しただけやないか。体力の無さはトラベラーとして致命的やで。この先、継続して戦闘するにしても、不利と悟って逃走するにしても、最後にモノを言うんは基礎体力や!』


 「り、理屈は痛いほどわかるんだけどね……! お願いだから、もうちょっとだけ手加減してほしいっていうか……」


 『甘えたこと言うとる合間に、次のお仲間が来るで!』


 「ああもう! やってやれば良いんでしょう、やってやれば!」


 前方の草むらがガサガサと揺れ、新たなグラスドッグが姿を現す。


 私たちが武器を構え、まさに次なる戦闘を開始しようとした、その瞬間だった。


 「あーっ!! やっぱりモンスターに襲われてるじゃん!! 待ってて、今助けるからねーーーっ!」


 「いやぁ、レイ……。あれはどう見ても、襲われてるっていうかシバかれてるだけのような――」


 満開の花畑を割って飛び出してきたのは、この間知り合ったばかりのレイちゃんとマオちゃんの二人組だった。


 レイちゃんは私のボロボロの姿(ただの疲労)を見て、完全にモンスターの猛攻に晒されていると勘違いしたらしい。


 「コロネ! 行くよ!」


 「ヒャンッ!」


 マオの腕から飛び出した子犬のコロネが、器用にレイの頭の上へと飛び乗る。それを合図にするように、レイは両の拳を力強く握りしめた。


 グッと上体を深く捻り、握りしめた両拳を顔の真横へと持っていく。凄まじい気迫と共に力が溜まっていくのが、離れた私にまで伝わってくる。


 そして――バッ!と力強く体を真正面へと向け、右手を流れるようにクロスさせて胸の前で交差させた。


 「――変・身!!」


 レイちゃんが叫んだ瞬間、彼女の身体が一瞬だけ、目も眩むような鮮烈な光に包まれた。


 光がパッと弾けて消え去った後。そこに立っていたのは、先ほどまでのスポーティーな私服姿の女の子ではなかった。


 全身を隙なく覆うのは、漆黒と深紅のスタイリッシュなボディスーツ。肩や胸元、四肢の要所には、鈍い金属光沢を放つ強固なプロテクターが装着されている。


 さらに頭部には、近未来的なフルフェイス型のヘルメットが被せられていたが、そのシルエットはどこか鋭い「狼」の形を模していた。


 黒き狼の戦士は、花畑の真ん中でビシッと完璧な名乗りポーズを決める。


 「――ウルフ・ザ・ブラック、ここに参上! とうっ!」


 ジャンプ一番、軽やかに宙を舞って私たちの前に着地した特撮ヒーローさながらの姿に、私の横に浮遊していたドローンが、今日一番の鋭いツッコミを投げつけた。


 『――いや、どこの孤高の戦士やねんオタクは!!!』


 名乗りを終えたウルフ・ザ・ブラックの動きは、まさに疾風怒濤だった。


 立ちはだかるグラスドッグたちの群れに向かって地を蹴ると、凄まじいキレのあるハイキックやストレートを叩き込んでいく。黒いボディスーツの四肢がしなり、モンスターたちを次々と光の粒子へと変えて蹴散らしていく。


 ……まぁ、おっさんAIの解説通り、二階層のドッグは私たちでも落ち着けば勝てる「弱い相手」なので、文字通り蹴散らしていくのは当然と言えば当然なんだけど。


 あまりの圧倒的なワンマンショーを前に、私、サクラ、ヒマリの三人がポカンと口を開けて固まっていると、ウルフカットの髪を揺らしたマオちゃんが、トコトコと私たちの隣に歩み寄ってきた。


 「あー……本当にごめんね。みんな、多分スキルの経験値稼ぎか何かで戦ってたんだよね? レイが余計なことしちゃって本当にごめん。あの子、一度ヒーロー気分で盛り上がったら一直線なところがあるからさ……」


「あ、いや、助けてもらった形ですし別に良いんですけど……。あの、なんです、あれ? なんか一人だけ、戦ってる世界観のジャンルがおかしくないですか?」


 「あはははは! そうだよね! あれ絶対おかしいよね! ボクも毎回そう思う!」


 マオちゃんはツボに入ったのか、お腹を抱えて心底おかしそうにゲラゲラと笑っている。


 「ねえ、おっさんAI」 


 『なんや、スイはん?』


 「やっぱり、あれもダンジョンのスキルなの?」


 『あぁ、間違いなくスキルやな。いわゆる「変身」系の派生スキルや。自分の契約しとるガーディアンをコア()にして、トラベラー自身の装備形態へと組み換えてるシステムからして……ギルドに登録されとる正式名称は『武装転換』やな』


 「お、大正解! さすがギルド公認のAI、めちゃくちゃ物知りだね!」


 マオちゃんがパチパチと手を叩く。おっさんAIはフンスとドローンを浮かせたが、すぐにレンズをウルフ・ザ・ブラックに向けて怪訝な電子音を鳴らした。


 『そらな、データにあるもんなら一発で検索できる。……にしても、なんで武器やなくて「全身スーツ」の形にしてもうたんやろなぁ。もっと実用的な別の形態があるやろうに』


 「え? スーツじゃダメなの?」


 『ダメやないけどな、あれはヒマリはんの使う純粋な強化魔法バフみたいに、身体能力を飛躍的に向上させる効果はほとんど無いんよ。ベースになっとるあのガーディアン自体が、戦闘力だけで言えば野生のグラスドッグとそう変わらん強さやからな。普通なら武器の形にして攻撃力を補うか、盾にするべきや。わざわざ全身防具にする意味が……あぁ、そうか。実用性やなくて、ただの「男のロマン(特撮)」ちゅうわけか。それなら合点がいくわ』


 「え、わかっちゃうんだ!? すごいね最近のAIは! ロマンが解る機械って最高じゃん、あははは!」


 ますます大笑いしているマオちゃん。


 そうこうしている間に、この辺りにいた最後のグラスドッグを強烈なストレートで打ち倒したウルフ・ザ・ブラックが、こちらへと颯爽と歩いてきた。


 フルフェイスの狼型ヘルメットの奥から、頼もしい声が響く。


 「みんな、大丈夫だった!? まったく、いくら浅い第二階層とは言え相手はモンスターだからね。油断して気をつけないと――」


 「うんうん、レイの言う通りだねー。……でもさ、余計なお節介で他人の配信と特訓の邪魔をしたのは、むしろレイの方なんだよね」


 「……えっ? どういうこと、マオ?」


 「ほら、彼女たちの様子を見てみなよ。ピンチなんかじゃなくて、スキルアップのために地道に戦闘訓練をしてたところでしょ? ね、スイちゃん?」


 マオちゃんに振られ、私はちょっと申し訳ない気持ちを抱きつつも、「あはは……実はそうなんです……」と苦笑いしながらコクコクと頷いた。


 その瞬間。


 漆黒と深紅のスタイリッシュなウルフ・ザ・ブラック――こと、レイちゃんは動きをピキッと完全に停止させた。


 次の瞬間、膝から崩れ落ちるようにして、みっともない音を立てて花畑の地面へとその身をドロップしたかと思うと。


 「――大変申し訳ございませんでしたァアアア!!!」


 特撮ヒーローのガチガチのフルフェイスヘルメットを地面にズガァンと叩きつける、これ以上ないほど見事な、一点の曇りもない「綺麗な土下座」を炸裂させるのだった。


「ねえねえ! なんでここに、テレビに出てくるみたいな変身ヒーローさんがいるの?」


 サクラが、未だにカチカチのフルフェイスヘルメットを地面に擦りつけて土下座しているレイちゃんに対して、純粋ゆえに一番突き刺さる疑問を投げかけた。


 「……サクラ、やめてあげなさい。彼女のライフはもうゼロよ」


 「えー? なんで? サクラ、変身ヒーロー格好よくて大好きだよ?」


 『うん、まぁな! 変身ヒーローに憧れるんは、男の子も女の子も誰もが一度は通る道や! しかもそれをダンジョンのスキルとして本当に体現できたら、そらもう天にも昇る気持ちやろ! わかる、わかるでわて!』


 おっさんAIのドローンが、なぜか急に激しく上下に揺れて大興奮し始めた。


 『しかもチョイスがギリとは言え「昭和」や! 平成以降の派手なやつやない! わて個人としては、そこはめちゃくちゃポイント高いし好感が持てるで! 平成以降のヒーローはちょっとカードやらフォームチェンジやら、パワーインフレが酷すぎるとわては常々思っとったんや!』


 「あんたたち、本当にそろそろやめてあげなさいよね……。ほら見なさい、レイちゃんが泣いて――じゃなくて、恥ずかしさでブルブル震えてるから!」


 「スイちゃんも大概辛辣しんらつだよ。……まぁ、レイのは完全に自業自得だから、いくらでも言ってやって良いよー」


 「少しは相方を庇いなさいよ、あんたは!」


 マオちゃんのあまりの塩対応に、レイちゃんはガバッと勢いよく顔を上げた。


 「マ、マオォオオ! 少しは僕のガラスのハートを労ってよ!?」


 「はいはい。吠えない吠えない」


 私たちは改めて、彼女の「助けようとしてくれた気持ち」に感謝を伝え、レイちゃんを立たせてあげた。そこから、おっさんAIを交えて自然とスキルの話題へと移っていく。


 「スキルというのは、本当に色々な種類があるのですね」


 ヒマリが感心したように自身の傘を見つめながら呟いた。


 『そらもう、星の数ほどあるで、ヒマリはん。一般的な学術・文系スキルから、ゴリゴリの武芸スキル、果ては物理法則を無視した概念系なんてもんまである。しかも、どんなスキルが次に発現するかは人によってまちまちや。これの訓練をやったから言うて、必ず狙った通りのスキルが発現するとは限らへんのよ』


 「へぇ、そうなんだ」


 『せやで、マオはん。例えばの話し、同じ剣術スキルを発現したトラベラーが二人おったとしても、同じように剣を振っとったからと言って、その次に発現するスキルまで同じに成ることはない。下手すれば、まったく系統の違う、魔法系が出てくることもあるんや』


 「じゃあ、ボクが持ってる「獣化けものか」スキルも、使い続けてたら次に発現するのは全然違うものになるのかな?」


 「ケモノカ?」


 聞き慣れない単語に私が首を傾げると、おっさんAIが補足を入れる。


 『読んで字の如くやな。自分の身体を、色んな獣の姿に変身させるスキルや。身体の一部だけを獣の爪や牙に変える者もいれば、半獣半人、果ては完全な獣そのものの姿に変わる者もおる。これもトラベラーの素質によって千差万別やな』


 「へぇ、本当に色んなスキルがあるのね……」


 ダンジョンの奥深さに私たちが感心していると、変身が解け、私服に戻ったレイちゃんが、申し訳なさそうにモジモジしながら手を挙げた。


 「……あの、ところで。僕、なんだか凄く悪いことをしちゃったみたいだから……お詫びに、これから君たちの特訓を手伝わせてもらえないかな?」


 「『なんか』じゃなくて、確実にお邪魔虫だったけどね」


 「マオォオオ!」


 「はいはい、わかったって。まぁ、相方がやらかした不始末だしね。ボクも手伝うのは構わないよ?」


 「え? 私たちは別にそこまで気にしていませんし、誤解だったんだから――」


 『いや、そこはありがたく受けとき、スイはん』


 断ろうとした私の言葉を、おっさんAIが遮った。


 「え? なんで? ただの訓練だし、二人を巻き込むのは悪いよ」


 『これからは、モンスターだけやなくて「対人」の戦闘も視野に入れといた方がエエからや』


 「対人、って……誰か他のトラベラーと戦うってこと? そんなことあり得る……」


 言いかけて、私の脳裏に一階層で起こったあの出来事が鮮明に蘇った。


 ゴークくんを寄越せと、ヒマリの従妹であるお宝ハンターのアイことアイリス。そして、その相棒として(私にとっては)悪辣な戦い方(スケルトン召喚)を仕掛けてきたエリカさん。ダンジョンという無法地帯では、モンスターよりも人間の方がよっぽど凶悪な牙を剥いてくることがあるのだ。


 「……あ、あるわね。大ありだわ」


 『まぁそういうわけや。お二人さん、すまへんけど、こっちの世間知らずなお嬢さんらのために、一肌脱いでもろうてエエか?』


 「こっちは全然構わないよ。それで本当にお詫びになるならね。ね、マオ?」


 「対人戦の練習相手かぁ……。ちょっとめんどくさそうだね」


 「マオ!」


 「はいはい、やるよやるよ」


 マオちゃんは苦笑しながらも、腰のホルダーからショートダガーを抜いて軽く回した。


 『ちゅうことや! そっちでいつまでも犬と遊んどるお二人さん、準備はエエか?』


 おっさんAIが視線を向けると、そこではサクラとヒマリが、レイちゃんのガーディアンである子犬のコロネを囲んで「おて」や「おかわり」をさせてモフモフを堪能していた。


 「ええ~! サクラ、もうちょっとコロネちゃんを構ってたい!」


 「他所様よそさまのワンちゃんなんだから、ほどほどにしなさいよ。ほら、レイちゃんにお返しして」


 「ああ、可愛いワンちゃんが遠ざかっていく……」


 ヒマリまで名残惜しそうにコロネを見送っている。


 『ほんまマイペースなやっちゃなぁ……。ほな、お互い武器を構えて準備ができたら、模擬戦やってみようか!』


 「「「「はーい」」」」


『……なんぞ、緊張感の欠片もない気が抜ける返事やなぁ。――それじゃあ、はじめッ!!!』


 おっさんAIの鋭い開始の合図と共に、私たちの二階層における、初めての「対人模擬戦」の幕が切って落とされた。





今回執筆中はBGMとして「仮面ライダーBLACK」の曲を聞き書かせて貰いました。


レイの(正式ではない)キャラクタープロフィールをXにて公開中です!

本編ではまだ語られていない設定も含まれていますので、よろしければぜひお立ち寄りください。

ユーザー名:嘉数尚太

X ID:@kakazue8oyof



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