No.31活動記録:悲鳴と爆音のセカンドフロア
No.31活動記録:悲鳴と爆音のセカンドフロア
「───はい! というわけでして……あの巨大イモムシに襲われた時は本当に死ぬ覚悟もありましたが、私、元樹みどりの二階層ダンジョン探索は、無事に帰還することが出来ました! 本当なら今すぐにでも三階層に上がりたいところですが、装備やスキルにまだまだ不安がありますので、しばらくは二階層での修行になりそうです……トホホな気分です。ですが! これからもガンバってダンジョン探索を続けていきますので、どうか応援よろしくお願いします! それでは皆さん、せーの──ダンジョン~、トラベルゥウウウ! また次回お会いしましょう!」
配信終了すると、私は画面の前から顔を離してふぅ、と大きなため息を吐き出した。
私は部室でアーカイブ動画が再生されていく自分のチャンネル画面を眺めながら、私は今後の活動方針について頭を悩ませていた。
「うにゅ? スイちゃん、配信者の中で一番になるんじゃなかったの?」
お菓子の袋を抱えたサクラが、不思議そうに首を傾げて覗き込んでくる。
「そりゃあ、なれるものならなりたいわよ。でもね、だいたいダンジョン系の配信だけで、今どれだけ膨大な数のトラベラーが動画を上げてると思ってるのよ。地道にステップアップしていかなきゃ、あっという間に埋もれちゃうわ」
「スイちゃん。ゴークくんのパーツ集めの方は?」
ヒマリがお茶を淹れながら尋ねてくる。
「もちろん、それは私たちの最終的な目標とする指針よ。でもね、私が今言ってるのは、もっと手前の『近場の目標』のこと。ゴークくんの残りのパーツを集めるにしても、絶対にここよりずっと深い階層にあるはずでしょ? その階層に辿り着くために、今の私たちがまずやらなきゃいけないことがあるの」
「スーちゃんのバイク(ストームサンダー)に乗って、ばひゅーん!って一気に駆け抜けること!」
「違うわよ! あれは一種の裏技みたいなもんでしょうが! あんな風に実力が伴わないまま深い階層になんて突っ込んだら、私達なんてモンスターに秒殺されるわよ」
「……ということは、今回は私達のレベルアップのための『特訓』を行う、ということでしょうか?」
ヒマリが理知的な瞳で私を見つめた。
「うん。まあそれが一番の近道かなって。なんたって私たち、いまだに初期スキル以外に新しいスキルが一つも発現してないじゃない?」
「そうですね……。皆さんはまだ初期スキルのみですし、私に至っては、そもそも後発のスキルが発現するかどうかすら怪しいと言われていますから……」
ヒマリが少し寂しそうに眉を下げる。スキルが増えればそれだけ手数も増える。しかし増えなければ別の手段を取らざる得なくなる。そしてそれは同時に深い階層へは行けない事も意味している。
「おおおっ! ということは、ついに特訓回だね! サクラ知ってるよ! 大きなクレーン車から吊るされた巨大な鉄球を、生身で受け止めたりするんだよね!」
「するわけないでしょぉおおお!? いったいどこからその昭和みたいな発想が出てくるのよ!?」
サクラのぶっ飛んだ特訓メニューに、私は思わず頭を抱えた。
「いい? 私たちはダンジョン配信をやってるトラベラーでもあるけど、本質はただの『普通の女子高生』なのよ! サクラの言う無茶苦茶な訓練はともかくとして……とりあえず、私達の知恵袋であるおっさんAIに、どうすれば効率よく強くなれるか相談しに行きましょう」
「はい。では、ダンジョンギルドへレッツゴーですね!」
「ギルドに出発~!」
サクラとヒマリが勢いよく立ち上がる。私たちは特訓の指針を仰ぐため、いつものダンジョンギルドへと足を運ぶのだった。
『はー、なるほどな。強ぉなりたい、新たなスキルを開花させたい言うんは全トラベラー共通の願いや。これをやれば絶対に強くなるとは言えへんけど、それなりに効果のある効率的な修行のやり方を教えまひょか。……で、スズカはんは今回はお休みなんか?』
いつものギルドのロビーでおっさんAIのドローンをレンタルすると、彼は機体を左右に見回して尋ねてきた。
「ああ……スズカは今日、実家のお店のお手伝い。前回、おじさんに仕事を押しつけてこっちの配信に来てくれたから、今回は流石におじさんが怒ったらしくて無理だって」
『さよか。まぁあの暴走特急のお嬢さんが、ちゃんとお仕事を放っぽり出さずに残っとるちゅうことは、常識はまだ捨ててへんみたいやな』
「……いや。スズカは前に一度、それでやらかししてるから。二度目は絶対にしないだけなんだって」
『……ホンマに、一回は痛い目を見んとおさまりがつかんタチなんやな、あのお嬢さんは……』
おっさんAIが呆れたように電子音を鳴らす。そんなわけで、今回は私たち女子三人とAI一機という、初期の布陣でダンジョンへと向かうことになった。
ダンジョンへと入る直前、眩しく輝く次元門の前でおっさんAIが機体をピタッと止めた。
『それでお嬢さんら方。今回は一階層で行うか? それとも二階層で行うか?』
「あ、前に言ってた、一度階層の次元門を越えたら次からはここの次元門から直接その階層にワープできるって話ね」
『せや。いちいち一階層から順番にエリアを徒歩で越えていくんはしんどいからな。この辺のシステムも、どういう超常原理で動いとんのかは未だによう分からんのやけど、利用できる便利なシステムは今のうちからフルに利用しといた方がエエよ』
「そうね。みんな、どうする?」
私が二人に振り返ると、サクラがどこか意地悪そうな笑みを浮かべて私の顔を覗き込んできた。
「サクラはどっちでも良いよー。でもね、スイちゃん。二階層には、あの緑色のイモイモさんがいるよ? ……本当に平気?」
「ぐっ……な、なんとか、耐えるわよ……っ!」
「もしグリーンキャタピラーが出ましたら、私とサクラちゃんで率先して相手をしますから、スイちゃんは無理をなさらないでくださいね」
「ダメよヒマリ。いくら苦手だからといって、私だけ後ろで逃げ回っていたい気持ちはあるけど……」
『――気持ちはあるんやな』
「うるさいわね! だからと言って、サクラやヒマリに戦いを任せっきりにして、まだ盾職の私がサボるのは絶対に良くないの! 私だってちゃんとやるわよ!」
『いやいや、まだ遭遇してもおらん相手に対して、そこまで膝をガタガタ震わせてビビり散らかしとるのに、よう言うわ』
「だから、うるさいわね! 怖いもんは怖いのよ! 文句ある!?」
逆ギレする私を見て、おっさんAIは「しゃあないなぁ」と呆れたように電子音のトーンを落とした。 『……だったら、わてがこれからの索敵ルートの中で、グリーンキャタピラーの生息域だけを綺麗に外すルートを選んで案内したろうか?』
「ホント!? ……あ、いや、でも……うーん……」
配信者として、モンスターから完全に逃げるルートを選ぶのはプライドが邪魔をする。
『悩むんやったら素直にコクンと頷けばエエのに、ほんま面倒くさいなぁ』
「おっちゃんAI、無駄だよ。スイちゃんはね、見栄っぱりの頑固だから自分からは『避けて』って言えないの。だからおっちゃんAI、そこはさりげなくイモイモを避けるルートにしてあげて」
『さよですか。サクラはんはスイはんの扱いがよう分かっとるな。なら、わての気まぐれちゅうことで、安全ルートで行きまひょか』
「はっ! それは……! うーん、でも……っ」
「はいはい、スイちゃん。人の好意は素直に受け取っておくものです。ね?」
ヒマリに優しく背中を押され、サクラが「二階層いくよー!」と元気にゲートへと飛び込んでいく。
私は内心で凄まじい葛藤と恥ずかしさに悶えながらも、二人に引っ張られるようにして、二階層のダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
再び足を踏み入れた二階層の花畑エリア。
そこで始まったおっさんAIによる『特訓』の内容は、座学でも基礎体力作りでもなく、至って単純――そして、あまりにも実践的なものだった。
『ほれスイはん! 敵の攻撃を見てから動いとったら盾職としては二流や! モンスターの形状、予備動作から、次にどんな風に動いてくるかを頭の中で予想するんや! 先読みや、先読み!』
「理屈はわかるけど……無茶言わないでよ! こっちは普通の女子高生のよ!?」
私は襲いかかってくるグラスドッグの鋭い爪を、悲鳴を上げながら盾でギリギリ弾き返す。
『ここのモンスターらは生物としてとち狂った形状もしとらんし、おかしな範囲ギミックや即死技も使こうて来ん! こんな初歩の初歩のモーションで手こずって慣れとらんかったら、この先もっと深い階層になんて口が裂けても行かれへんぞ!』
「ああー、もう! コンチクショウッ!!」
『おやおや、可愛い女の子が使う言葉やあらへんなぁ。ほい、サクラはん! そろそろスイはんの盾の後ろから魔法の出番や! 何を使こうたらエエか、頭の中で次のスペルは整理できとるな!?』
「えっと、えっと……これーーーっ!」
テンパったサクラが、手元のメモ帳を捲り魔法を乱射する。
『アホ! 選択肢の属性としては間違ごうてへんけど、敵に当てるならしっかり偏差を考えて撃ちぃ! 足止め用の魔法ならそれなりの場所に落とさんと、味方に被害が――』
――パパパパパッン!!
「ギャアアア!? なになに!? ちょっとサクラ、私のすぐ近くで軽い爆発が起きたんだけど!?」
「えへへ、ごめんねスイちゃん!」
『ほら、言うてる傍からこれや。……次、ヒマリはん! バッファー(支援職)として完全な後衛に徹するならそれでもエエけど、前衛として傘を武器に立つって決めたんなら、スイはんの攻防の合間を縫うように鋭く攻撃を入れんかい! そうやってボケ~っと突っ立っとったら、自分が死ぬだけやなくて仲間まで怪我するで!』
「は、はいっ……!」
おっさんAIの訓練とは、ただひたすらに、目の前のモンスターと愚直に「正しく戦い続けること」だった。
あまりの怒涛のダメ出しに、私たちが必死に剣を振りながら「なんでこんなことさせるの!?」と聞き返すと、おっさんAIは冷徹な電子音で一蹴した。
『そら、生まれてこの方ケンカなんてもんもしたことがないお嬢さんら方がな、本物のモンスターと命のやり取りをしとるんやぞ? 実戦の中で恥かいて泥すする経験が、どんな安全な訓練よりも一番有効に決まっとるやろが』
……確かに、言っていることはぐうの音も出ないほど正しい。正しい、けれど!
「それにしてもスパルタ過ぎない!?」
『ああん? こんなんスパルタでも何でもないわ、生ぬるいくらいや! わてが索敵して、一匹ずつお相手させてるんやぞ? 本当ならな、前にスイはんがやらかした「モンスターのバーゲンセール」みたいに、モンスターを仰山集めて四方八方からボコられながら戦わせた方が、いち早く体に叩き込めるんやで?』
「こんな酷いこと、本当に他のトラベラーとかもやってるの!?」
『他所がどうしとるかは知らん。これは、わてがこれまでの膨大なデータから導き出した、お嬢さんらが最速で強くなるための『最適解』のシミュレート結果や。……どうしても文句言うんなら、今すぐやめて帰ってもエエよ? やるかやらんか、最後に決めるんはいつだって自分等やからな』
おっさんAIのドローンが、じっと私たちの覚悟を試すようにカメラの焦点を合わせてくる。
やめてもいいと言われて、引き下がれるわけがない。私だって、みんなだって、本気で強くなりたいと思っているのだ。
「――この、鬼! 悪魔! 冷血機械ーーーっ!!」
サクラが悔しそうに涙目で叫ぶと、おっさんAIの音声モジュールから豪快な笑い声が響いた。
『アッハッハッハ! そないな罵詈雑言、今のわてには最高の褒め言葉で心地エエわ、サクラはん! それより自分のメモ帳のエネルギー残量見てみぃ! 魔法撃てなくなったらどないするんや? 空っ欠になった後の立ち回りも今のうちに体で考えんとな!』
「えーん! スイちゃん助けてぇえええ!」
「うわっ!? サクラ、バカ! いまこっちに来ないで! まだ一匹いるのよー!」
……その後しばらくの間、のどかなはずの第二階層の花畑エリアには、女子高生たちの悲痛な叫び声と、容赦ないおっさんAIの爆笑が響き渡っていたそうな。
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