No.30活動記録:天敵襲来と、空飛ぶ最強ランス
No.30活動記録:天敵襲来と、空飛ぶ最強ランス
「キィヤァアアアアアアアアア!! ムリ! ムリムリムリムリムリムリーーーーー!!!!」
『一人で二階層の初陣を飾りたい言うその度胸だけは買うけどな、スイはん! 叫んどらんで早よそのプッシュナイフで刺しなはれ! 相手はちょっと糸吐いて来るしか脳のない、ただの最弱虫モンスターやで!』
「無茶言うなぁあああああ!! ひぃいやぁああああ、こっち見たぁあ!!」
「スイちゃん、がんばれー!」
「スイちゃん、本当にダメそうなら私がいつでも代わりますよ!」
「ほらスイ、弱気になんな。サクッといけサクッと」
「ヒマリはともかく、あんたら二人は他人事だと思って……ギャアアア!? かかった!? なんか緑色のネバネバした糸がかかったぁあ!!」
『……あかん、完全にバーサクモード(狂化状態)なのに精神がマイナス方向に陥っとる。どんだけ虫が苦手ねん……』
「まぁでも、オレもあれはちっと不気味さがあると思うぞ。あんなにでかいと、可愛いとかじゃなくて気味悪さの方が勝つな」
スズカが腕を組んで冷静に分析している通り、私たちの二階層における記念すべき初戦闘の相手は――よりによって、私がこの世で最も出てきて欲しくないと願っていた、グリーンキャタピラーだった。
一階層のラットやディグたちとは訳が違う。その大きさは、人間の赤ん坊サイズほどもある。それが全身をうねうねと波打たせて、口から粘着質の糸を吐き散らしているのだ。ホラー以外の何物でもない。
「こんなに大きいのなんて絶対ムリ!! 誰か助けてぇええええ!!」
「ったく、仕方ねえなぁ。……もうちょい手応えのありそうな、階層の奴相手に使いたかったんだけどよ」
私の限界突破した悲鳴を見かねて、スズカが手に持っていた、あの「穂先のないランス」を持ち直した。
『おいおいスズカはん。それを使うんなら、本来は二十階層くらいの相手やないと割に合わんで。それ以下のイモ虫程度のこの階層やったら、一瞬で瞬殺や』
「そうなのか? じゃあ使わずに、普通の棒としてやるか?」
『いや、何事も慣らしは必要や。本番の前に、戦闘での使い勝手やギミックの性質を肌で知っとくのも、十分経験としてはありやからな』
「そうか。なら――遠慮なく試させてもらうわ!」
スズカはランスを構えると、シールドガード(鍔)の部分に近い位置に備え付けられている、まるで拳銃の引き金のようなレバーを指先でカチリと引いた。
――ガシャコンッ!
金属が噛み合い、まるで重厚な薬莢がチャンバーに装填されたかのような、男のロマンを刺激する重々しい機械音が響く。
直後、本来なら刃があるべき先端の、あの不思議な宝石の周囲に刻まれた幾何学模様が、怪しげな光を放ち始めた。中心の宝石が徐々に輝きを増し、光の粒子が飽和状態を迎える。
シールドガードが花開く如く展開すると、まばゆい閃光が弾け、突如として光が前方へと一気に延伸し、一本の巨大な尖塔のような「光の円錐形(穂先)」を形作った。
「へぇ、ギミック的にめちゃくちゃ面白いなこれ!」
『ふふん、せやろ。それはな、カートリッジ式の魔道具を組み込んだ最先端のランスやからな。物理的な打撃力だけでなく、魔法的な貫通力も備わっとる。しかもそれ、ガードの部分で敵の魔法攻撃を吸収して穂先にエネルギーを伝達すると、その受けた魔法の属性(炎や雷など)を持つ穂先にも変化させられるんや。まさに千差万別な戦い方ができる至高の一品やで!』
「へー、そうなのか? オレ、なんか見た目が最高に格好いいからノリで買ったんだけどよ」
『見た目の格好良さとノリだけで、即決で百万単位の買い物をするんはどうかと思うで、わては……!』
「まあ、実際にこうして使えてるんだから良いじゃねえか。よし――いくぞ、よっと!」
スズカは完成した光のランスを力強く両手で構えた。……と思った次の瞬間。
彼女は大きく上半身をのけ反らせると、凄まじい大振りのフォームで、私が泣きながら盾で押し合っているグリーンキャタピラーを目がけて、その巨大なランスを全力でぶん投げた。
『――って、それ投擲用の槍やあらへんでぇえええええーーーーーッ!?!?』
おっさんAIの、今日一番の絶叫ツッコミが花畑に響き渡った。
私のすぐ真横を、凄まじい風切り音と共に眩い光の質量が通り過ぎていった。
――ズガァアアンッ!!
鼓膜を震わせる大音響と共に、光のランスは私の目の前にいたグリーンキャタピラーの巨体を容赦なく貫通し、そのまま背後の地面へと深く突き刺さっていた。一瞬の硬直の後、哀れなイモ虫モンスターは光の粒子となってサラサラと霧散していく。
「おおっ!? 当たった当たった、見事に命中じゃん!」
当のスズカはといえば、まさか本当に当たるとは思っていなかったのか、自分の両手を見つめながら意外そうな声を上げていた。私は恐怖から解放された安堵と、それ以上の怒りでスズカに怒鳴り散らす。
「……あ、あ、危ないでしょうがぁあーーーっ!? 何を考えてるのよスズカ! 一歩間違えたら私を串刺しにするところだったのよ!?」
「いいじゃねえか、別にスイには当たらなかったんだろ? なら結果オーライ、問題なし!」
『いや、問題あるやろう! 何で初手から自慢のメイン武器を投げつけとんねん! あないな近距離、普通に歩み寄ってツンと刺せばそれで終わりやろ!』
「ん? だっておっさんAI、さっき『自分なりに戦闘での使い勝手や戦い方を考えろ』って言ってたじゃん。だからオレなりに一番手っ取り早い方法を考えた結果だ。……これ、間違ってたか?」
『うぅーん……使い方としては致命的に間違っとるんやけど……敵を瞬殺した言う結果だけ見れば正解やし、この場合褒めるべきなんか、それとも怒るべきなんか、わてもナビゲーターとしての判断に困るわ……』
おっさんAIがドローンを左右に傾けて本気で悩み始める。
発想の奇抜さとしては驚くべきことかもしれないが、トラベラーの戦闘技術としては完全に減点対象だ。おっさんAIはプロの目線に戻ると、ハッキリとスズカに注意を与えた。
『スズカはん、ええか。一撃で仕留められたから良かったものの、もし外して武器を失くしたら、その後の戦闘をどうするつもりやったんや。投げた後のリスクをちゃんと考えなあかんで』
「なるほど、確かに。……じゃあ次から投げるときは、ランスの柄に頑丈な紐でも結びつけておくか。あ、そうすれば投げた後に引き戻せるし、いざとなったら紐ごとぶん回して周囲を薙ぎ払うとかもできるな!」
『……完全にランスの使い方から遠ざかっとるけどな。まぁ、色々試行錯誤するのはエエことか……?』
おっさんAIがトホホと電子音を漏らしていると、それまでじっと手元のネイビーの傘を見つめていたヒマリが、ぽつりと呟いた。
「投げる、ですか……。私も次の戦闘では、モンスターたちに向けて、傘を全力で投げつけた方がよろしいでしょうか?」
『いや、なんでお嬢ちゃんらは揃いも揃ってメイン武器を投げようとするんや!? 投げるにしてもな、それは本当に万策つきて最後の最後の手段にしときなはれ! 初手から大事な傘を投げ捨てたら、あとどうやって身を守るんや!』
「そうですね……。難しいですね、戦うって」
「ねえねえ、ヒマリちゃん、ヒマリちゃん!あのね、傘をね、くるくるくるーって高速で回しながら投げたらどうかな!?サクラ、そういうの昔ゲームの必殺技で見たことあるよ!」
「やめなさいサクラ! ゲームと現実を混同しないの!」
これ以上戦術がカオスになるのを防ぐため、私はサクラの頭を軽く小突いて制止した。
「いくらこのダンジョンにゲームみたいなシステムがあるとはいえ、私たちは生身でここに立ってるんだから。そこは別物として、ちゃんと現実的な危険がある場所として考えないとダメ」
『せやな、スイはンの言う通りや。ゲームはゲーム、ダンジョンはダンジョン。いくらこうして一見ほのぼのとした綺麗な花畑の景色が広がっとっても、ここは命の危険がある場所や。常に神経を尖らせておけとは言わんけど、適度な緊張感だけは持っといた方がエエ』
「そうね。……あともうちょっと、私自身の戦い方も考え直したいわ。あんな赤ん坊サイズのイモ虫がこの先もウジャウジャ出てくるようじゃ、真っ正面から盾で受け止めるなんて私の心臓が持たないもの」
『ふふ、思考を続けることはエエことやで。考えを止まらせたら、トラベラーとしてはそこで終わりやからな。……さて、お嬢さんら方。お喋りしながら歩いとる間に、目的の遺跡がもう目と鼻の先や。もうちょい頑張ろうか!』
「あ、本当だ。見えてきた!」
おっさんAIの示す先には、花畑の緑に埋もれるようにして佇む、古びた石積みの建造物が見え始めていた。
(おっさんAIの言う通り、とにかく考え続けてみよう……)
私は遺跡に向かって足を勧めながら、頭の中で必死にシミュレーションを繰り返す。
私の天敵である虫型モンスターが出てきたとき、私一人で無理に真っ正面から戦う必要性なんてどこにもないのだ。私には仲間がいる。サクラの魔法、ヒマリのバフ、スズカの機動力――それぞれの戦い方を組み合わせた、このパーティならではの理想の連携を模索すればいい。
「……はぁ。でも、そう考えると考えることが山積みね」
私は小さくため息を吐きつつも、どこか心地よい充実感を胸に、二階層の遺跡へ向かってしっかりと足を進めていくのだった。
「ねえ、おっちゃんAI」
『なんや、サクラはん?』
「遺跡はどこ? これ、ただ石が積んであるだけだよ?」
サクラが不思議そうに、目の前にある開けた空間を指差した。
『ここがその遺跡や。ほれ、よく見てみぃ。大きな石柱がいくつもあって、それが綺麗な輪のようになっとるやろ?』
「ああーっ! サクラこれ知ってる! テレビで見たことある! ストーンベンジンだ!」
『ベンジン(洗浄液)やあらへんがな! ヘンジや、ストーンヘンジ!』
「あはは、そっちかぁ」
サクラはてへっと照れくさそうに頭を掻いた。どうやら本気で間違えていたらしい。
「ってことは、今度の二階層の遺跡は地下じゃないのね。青空の下にあるなんて開放的だわ」
『せやな。地面をどれだけ掘っても、一階層にあったような洞窟居住の跡みたいなものは出てこんかった。残っとるのは地上部分にあるこの石柱群だけや。一体何の意味があって作られたんやか……。わてらの地球にあるストーンヘンジと似たように儀式用として使われておったのか、それとも全く別の用途か。ダンジョンギルドの専門家たちの間でも、未だに分からず研究されとる部分でもあるんよ』
「ふーん。この間の壁画みたいなのはないのか?」
スズカが石柱の表面を触りながら尋ねる。
『壁画はないけどな、その代わりモザイクアートのような細かい模様が中央部分の地面にある。……一応そこも、あの地下壁画と同様にな、触れた者に強烈な『嫌悪感』みたいな感覚が起こることがあるんや。試しに行ってみるか?』
「へぇ、何だそれ? その感覚が起こると、何かが起きるのか?」
『残念ながら、それもまだ皆目見当がついとらへんのよ。何でそんなドス黒い感情が沸き立つのか。どうしてそれが全員やなくて、特定の人間だけにランダムに起こるのか。謎だらけや』
「ダンジョンが現れてもう三十年も経つんだろ? 何でそんなに時間をかけても、そんな基本的なことが分からねぇんだ?」
スズカが不思議そうに眉をひそめると、おっさんAIは少しだけ声音を落とし、諭すように語りかけた。
『……スズカはん。歴史や文化の紐解き(ひもとき)なんていうもんはな、そうそう簡単に分かるもんだらけやあらへんのや。形がどれだけ綺麗に残っておっても、それを伝えた歴史の縦糸が完全に切れとれば、研究者はまず想像で穴を埋めていき、地道に調べて答え合わせをしていくしかないねん。……さあ、中央のモザイクエリアはここや。誰ぞ、あの時みたいな感覚が起きてるもんがいたら言うてや』
私たちは、おっさんAIのドローンに先導されて遺跡の真ん中へと足を踏み入れた。
地面には、確かに色とりどりの小さな石が敷き詰められたモザイクアートのような、奇妙な幾何学模様が描かれている。
けれど――私は洞窟遺跡で壁画を見た時のような、あの胸が苦しくなるような嫌な感覚に襲われることはなかった。
「……私は今回、全然平気そうね。みんなはどう?」
「サクラもへーき!」
「私も何も感じませんね、平気です」
「オレもいつも通り、何とも変わらねえよ」
『おや、全員問題なしか。スイはんくらいはまたビビッと反応があるかと思ったけど、スイはんすら無しとは。ホンマ、どういう理屈で選別されとるんやろな……』
おっさんAIは何かしらのデータを期待していたようだけど、あいにく私はただの普通の女子高生トラベラーだ。そうそう何度も異変が起きるような、お約束の主人公体質じゃないんだから。
「ゴークくんのパーツの手がかりも、他にめぼしいもなさそうだし……結構時間も経ったから、今日の探索はここで引き上げましょうか」
「そうだな、そろそろ腹も空いてきたしな」
「では、安全なエリアまで戻りましょうか」
「サクラ、帰るよー。……あ、また『お土産』とか言って、そこら辺の石ころを拾おうとしないわよね?」
私がジト目で釘を刺すと、サクラは地面の石を一瞥して、ふんと鼻を鳴らした。
「んー、ここの石はあんまり良くないから、今回は持って帰らない!」
「良くないって何よ? 一体どんな独自の選考基準で選んでるのよ、あんたは……」
私は呆れてサクラの頭を軽く突き、みんなでクスクスと笑い合った。
――そんなこんなで、私たちの今回の二階層でのダンジョン探索は、大きなトラブルもなく(私のメンタルは一時危なかったけれど)、和やかな空気のままここで切り上げ、帰路に就くこととなったのだった。
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