↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/39

No.28活動記録:辛口AIの戦闘レビューは全員『0点』!?




 No.28活動記録:辛口AIの戦闘レビューは全員『0点』!?




 残っていたラットの群れを瞬く間に片付けたヒマリは、行きと何ら変わらない、いつものほんわかとした優雅な足取りで私たちの元へと戻ってきた。


 「ヒマリ、お疲れ様。怪我はない?」


 「ヒマリちゃん、すっごくかっこよかった!」


 「いやぁヒマリ、色々勉強になったわ。傘ってあんな風に使えるんだな……」


 『まさか伝統の舞踊をそのまま実戦のアクションに取り入れるとはな。発想がめちゃくちゃおもろくて良かったで、ヒマリはん!』


 戻ってくるなり、私たち一同から一斉に絶賛の嵐が巻き起こる。当のヒマリは、ネイビーの傘を少しだけぎゅっと抱きしめ、頬を赤くして照れくさそうに微笑んだ。


 「その……咄嗟の思いつきだったんですけど、あれでよろしかったでしょうか?」


 『これから先、階層が上がって敵が強うなってもあの戦い方だけで通用するか言うたら、それは流石に難しい。……けどな! 窮地に陥ったときにどう発想して、手持ちの道具でどう対処していくかいう「トラベラーとしてのセンス」を、ヒマリはんは最初からしっかり持っとる。十分、合格点やで』


 「ふふ、ありがとうございます」


 おっさんAIに太鼓判を押され、ヒマリは嬉しそうに胸をなでおろした。


 すると、おっさんAIのドローンが高度を少し下げ、レンズの焦点をパチパチと切り替える。


 『さて、ヒマリはんの初陣が上手くいったところで、一応全体の「反省点」を出しておこか。……まずは、サクラはんや』


 「ど、どきどき……っ」


 サクラが両手を胸の前で握りしめ、上目遣いでおっさんAIを見つめる。期待に満ちたその瞳に向かって、おっさんAIは無慈悲な電子音を鳴らした。


 『――「点数」をつけるなら、0点やな』


 「ぎゃーーーん!?」


 マンガみたいな大声を上げて、その場にガックリと崩れ落ちるサクラ。


 『いや、その大げさなリアクションはわても個人的に結構好きやねんで? ただな、現実問題として、手裏剣をポイポイ投げてみて「あ、これアカンわ」思うたら、武器を使い切る前に一旦後ろに引くくらいの慎重性は欲しいところや。特にサクラはんはな、魔法の高速発動ができる「クイックスペラー」のスキル持ちや。これから手にする魔道書や、今持っとるメモ帳を媒体にして、誰よりも速く魔法を撃ち込める才能があるんやで』


 「う、うん……」


 『なおかつ、戦場全体を俯瞰ふかんして見渡す「フィールドコントロール」の役割も担う予定なんや。他の前衛が敵と戦っとる間に、サクラはんは冷静な目で全体の戦況をコントロールしてもらわなあかんのよ』


 おっさんAIの真面目な講義を聞きながら、サクラは床にへたり込んだまま、人差し指を顎に当ててうーんと考え込んだ。


 「……つまり、サクラ、めちゃくちゃ重要なポジション……?」


 『せやで。サクラはんの判断一つで、このパーティが戦いを有利に進められるか、それとも全滅の窮地に追い込まれるか。ある意味で、みんなの命がサクラはんの胸先三寸にかかっとると言っても過言やあらへん』


 「おおぉ……っ! サクラ、がんばる! みんなを守る!」


 途端に瞳をキラキラと輝かせ、拳を天に突き上げるサクラ。単純なのは良いことだけど、おっさんAIはドローンをやれやれと横に振った。


 『……これ、実は前にも同じようなこと言うたんやけどな?』


 「……無駄よおっさんAI。この子、すぐ目の前の面白いものに興味が移っちゃうから。その時その時は本気で覚えていても、次のときには綺麗さっぱり忘れてることが多いのよ」


 『トラベラーとして致命的すぎるな、それは……』


 私の冷静な指摘に、おっさんAIのプロセッサが頭を抱えるような音を立てる。


 サクラは慌てて私の服の袖を引っ張りながら、元気いっぱいにアピールしてきた。


 「大丈夫だよスイちゃん! サクラ、今度はきちんと頭に覚えとくから!」


「……はぁ。返事だけは良いのよ、あなたは。返事だけはね」


 私はサクラの柔らかい頬を軽く引っ張りながら、深く長いため息を吐き出すのだった。


 『ほんで、次はスズカはんや』


 「おう。オレの番だな、遠慮なく言ってくれ」


 サクラへのダメ出しを終えたおっさんAIがドローンのレンズを向けると、スズカは首の骨をボキボキと鳴らしながら不敵に笑った。その余裕たっぷりの態度に、おっさんAIの音声モジュールから一段と大きな怒号が飛び出す。


 『ほなら遠慮なく言わせてもらうけどな……この脳筋ゴリラが!! いくら相手が弱い雑魚モンスター言うても、いくら何でも舐め腐りすぎやわ! 何が起きてもおかしくない、それがダンジョンちゅう場所や。今は確かに国を挙げた娯楽システムのような扱いを受けとるけどな、過去に死人が出たことが一回もない安全な場所なんかやあらへんのやぞ!』


 「……」


 『お嬢ちゃんらの「頼れる姉貴分」を自負するんやったら、まず自分自身が誰よりも冷静になって、全体の事の成りゆきを見守らなアカン立場や言うことを、もっと肝に銘じとき! わかったか!』


 いつになく真剣な、重みがあるおっさんAIの説教。


 怒鳴られたスズカは、一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに頭を掻きながら「くくっ……」と楽しげに喉を鳴らした。


 「おう、悪かったよ、わかった。……いやぁ、ここまで真正面からこっぴどく怒られるのなんて学生時代以来か? なんか色んな意味で新鮮だわ」


 『……スズカはんのその無駄に前向きなポジティブさは、これまでの付き合いで十分に理解してきたつもりやけど……ほんまに大丈夫かいな、これ?』


 本気で心配そうにプロセッサを駆動させるおっさんAIに、私はそっと横から声をかけた。


 「一応、そこは安心していいわよ、おっさんAI。スズカはこう見えて、一度本気で怒られたことは二度は絶対にやらない性質だから」


 『おお、それは殊勝な心がけやな……』


 「その代わり、まだ怒られていない新しいやらかしに関しては、必ず一度は一通り経験しないと気が済まないタチだから、その辺は……うん。これから先、覚悟しといてね」


 『……なんや、もの凄う恐ろしい予告を聞いた気がするんやけど、わて』


 ドローンをガタガタと震わせるおっさんAIをよそに、スズカは気を取り直したように自分の得物――あの穂先がないランスへと視線を落とした。


 「で、おっさんAI。オレの本来の戦い方はどうすればいいんだ? 今回は素手だったからあれだけどさ」


 『今回の点数としては、サクラはんと同じで文句なしの「0点」や。スズカはんはな、そのランスを構えて、神霊のストームサンダー(バイク型)に跨がり、その圧倒的な機動力と突進力をフルに活かしての「敵陣突破」と「戦線撹乱」が主軸になるんや。場をドカンと引っ掻き回す役回りは、ぶっちゃけ性格的にも一番合っとると思うで』


 「なるほどな。つまり実戦では、オレの好きなように大暴れして良いってわけだ!」


 『全部が全部好き勝手にやられたら、敵だけやなくて味方の連携まで大混乱に陥るから、そこだけは絶対に注意してや! 要は、一撃離脱ヒットアンドアウェイが綺麗に出来ればそれでエエんやからな』


 「一撃離脱、ね。まぁ、次の戦闘でさっそく試してみるわ」


 『頼むから気ぃつけてやってな。今のところ、スズカはんはこのパーティの中では飛び抜けて高い「最大攻撃力」を持っとる貴重な大砲枠なんやから』


 「了解、了解! 任せときな!」


 スズカはランスの柄をポンと叩き、再び快活に笑うのだった。


 『さて、最後はヒマリはんやな』


 「はい。私も、忌憚きたんのないご意見をお願いいたします」


 ヒマリが背筋を正し、真剣な面持ちでおっさんAIのドローンを見つめる。


 『わかった。まず褒めるべきところはさっきも言うた通りや。あのネイビーの傘と、実家仕込みの伝統舞踊を組み合わせた戦い方の発想力。これは本当に驚くべき才能やと思う』


 「ありがとうございます」


 『せやけどな……これもさっきチラッと言うたが、あのスタイルだけで長く戦い続けるんは、流石に難しい。なんでか言えば、あれは本来「人に見せるための美しい踊り」であって、「敵を殺すための武術」やないからや。あのままのスタイルで突き進んでも、敵の攻撃が激化する多分五階層辺りで詰む。それまでに傘を使った別の戦い方を確立するか、あるいは元々の役職である後衛バッファーに戻る選択肢を持っとかなアカン。……ただ、後衛に戻るなら新しい武器やスキルが手に入るまでは、戦場では手持ち無沙汰になってまう時間も増えるやろうけどな』


 おっさんAIのシビアな、けれど未来を見据えたアドバイスに、ヒマリは少しの間優しく微笑んで答えた。


 「それでしたら……新しい手段が見つかるまでは皆さんと一緒に前衛で戦い、戦況が厳しくなってきたら、折を見て後ろに下がり、後衛での戦い方を模索してみるのがよろしいかと存じます」


 『そうか。そう自分で判断できるんなら、ヒマリはんの好きにするとエエ。わてはあくまで|アドバイザー(助言役)やからな。最後に道を決めるんは、いつだって自分等自身やなきゃアカン』


 「はい!」


 おっさんAIとヒマリの、お互いを尊重し合うようなやり取りを見て、私は少しだけホッとして言葉を挟んだ。


 「よし、これで一応、全員分の評価とフィードバックは終わったわね」


 『――ん? 何言うてんのや、スイはん。肝心の「スイはんの評価」をまだ抜きにしとるがな』


 「なんだ、スイの評価はまだやってないのか?」


 「ええっ、私!? 私はほら……モンスターとは一応、最初から何戦か経験してるし、今更評価なんてなくても大丈夫でしょ?」


 急に矛先を向けられて慌てる私に、おっさんAIは冷徹な電子音をピピッと鳴らした。


 『その数戦、ほとんど「|バーサーカー(猪突猛進)」みたいなキレ散らかした戦い方やった気がするけどな?』


 「な、なによ! 結果的にちゃんと戦えてたんだから、別に良いじゃない!」


 『そうか? わての冷静な評価から言わせてもらえば、スイはんは今回のサクラはんスズカはんと同レベルの【0点】やで』


 「なんでよ!?」


 『あんな、いくら純粋アタッカー目指す言うてもな、今のところスイはんは「騎士」のスキルを持った盾職――つまりパーティの命綱たる|タンカー(壁役)や。いくらこれまでに仲間にアタッカーがおらんかったから言うて、自分から頭を血に染めて突っ込んで行くのはどう考えてもおかしい。どっしり構えて「待ちの戦い方」だって出来たはずやのに』


 「うっ……」


 痛いところを突かれ、言葉に詰まる。


 『さらに言えば、虫嫌い、お化け嫌いっちゅう、トラベラーとして致命的な弱点が多すぎんねん。ダンジョンの上層エリアなんか、そないな嫌悪感を形にしたような奴らばかりやぞ?』


 「がはっ……!」


 鋭すぎる正論の追撃が、私の胸に深く突き刺さる。


 『厳しいこと言うようやけど、現段階でこのパーティの中で「トラベラーとしての最低限の資質」をクリアしとんのは、ヒマリはん一人だけや。あとのは見ていて危なっかしくて、わて、たまにドローンのカメラのレンズを覆いたくなるときがあるわ』


 「うう……」


 「がっはは! 言うねぇおっさんAI!」


 「ま、まあまあ、AIさん。スイちゃんへのダメ出しはそこまでにしてあげてくださいな」


 ヒマリが苦笑しながらフォローを入れてくれる。サクラが心配そうに、私の顔の前で手をパタパタと振った。


 「スイちゃん……大丈夫? HPが、ゼロになっちゃった?」


 「まぁ確かに、普段のスイを知る奴からすればさ、ダンジョン配信者をやるなんて言い出した時点で『正気か?』って思いたくなるよな」


 スズカがしみじみと呟く。……みんなして、そこまで言わなくてもいいじゃない。


 ガックリと肩を落とす私を見つめ、おっさんAIのドローンが、ほんの少しだけ機体を優しく傾けた。


 『――せやからこそや。だからこそ、弱点だらけのスイはんが「ダンジョン配信者として本気でやっていく」って言うんなら、わてらはその足りん部分を全力でサポートしてはります。せっかくレンタル料払ってわてを雇うてくれとるんや、もっとわてらを頼りなはれ。……さあ、気張りなはれよ、スイはん!』


 「おっさんAI……」


 ふと周りを見渡せば、スズカが頼もしげにニカッと笑い、ヒマリが優しく微笑み、サクラが「サクラもサポートする!」と元気いっぱいに胸を張っていた。


 「……うん。みんな、本当にありがと。私、頑張るわ!」


 頼もしい仲間たち、そして最高に心強いおっさんAIの言葉に背中を押され、私の心のHPは一瞬で満タンまで回復した。


 弱点だらけの私だけど、このメンバーとならどこまでだって行ける――そんな確かな確信を胸に、私たちはついに、未知なる二階層へと続くゲートを潜り抜けるのだった。














少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。