No.26活動記録:なんで傘やねん。雨の日も安心です(※もちろん銃弾も防げます)
No.26活動記録:なんで傘やねん。雨の日も安心です(※もちろん銃弾も防げます)
店内に一歩足を踏み入れると、そこには今まで見たこともないような奇妙な武器の数々が並んでいた。
「……随分と、変わった形状のものばかりですね」
ヒマリが珍しそうに店内を見渡す。店主はニカっと笑い、慣れた手つきで壁の武器を指差した。
「これは『マカナ』。メキシコの原住民が使っていた武器だね。元は木製だけど、うちでは特殊な金属で加工しているから折れる心配はないよ」
「おお……ギザギザした剣だ。これかっこいい! じゃあ、こっちのトゲトゲがいっぱいついてるやつは?」
サクラが興味津々に尋ねると、店主は楽しげに答える。
「そっちは『エヌマエルの剣』。剣とは呼ぶけど、どちらかと言えば鈍器に近いね。相手に叩き込んで、引き抜くときにもダメージを与える……痛々しい傷を刻むための道具さ」
「ひぇぇ……想像しただけで痛そうなんですが……」
ヒマリが小さく悲鳴を上げる。そんな彼女をよそに、サクラは別の棚に駆け寄った。
「あはは! 見てスイちゃん、これなんかくねくねしてる! 変なの!」
「うんうん、くねくねしてて面白いよね。それはクピンガ。アフリカの部族が使っていた投擲用武器なんだ。見た目以上に使い勝手がいいよ」
店主の口からは次々と耳慣れない武器の名前が出てくる。確かにどれも実用的ではあるんだろうけど……。
「……本当に、色々あるんですね」
「まあね。僕はこうして変わった形状の武器を集めるのが趣味でもあるんだ。君たち、武器を探しているんだろ? 何か希望があれば、僕がお勧めしてあげるよ」
店主がヒマリの方を向く。
私はヒマリに視線を送った。「だそうだけど、ヒマリはどうする?」
……返事がない。
いつもなら「そうですねぇ」とすぐに返してくれるヒマリが、今日は黙り込んでいる。私は怪訝に思い、ヒマリの方へ目線を向けた。
彼女は、店内の隅に置かれた大きな壺の中に、無造作に放り込まれていた「それ」を手に取っていた。
「あの、店員さん。……こちらも、武器なんでしょうか?」
ヒマリが手に持っていたのは、どう見ても武器には見えないものだった。しかし、店主は目を輝かせて頷く。
「うん。そちらも立派な武器だよお嬢さん。いやぁ、お目が高い! 一見武器には見えないけれど、武器としてもちゃんと使用できる代物さ。素材は特注で、そう簡単に壊れたりはしないよ」
「……そうなんですか」
「あのね、ヒマリ。私たちがここに来た目的を忘れてない? 武器を買いに来たのよ。ちゃんと分かってる?」
「でもスイちゃん。私、こちらが気に入ってしまいました。色合いとかも綺麗ですし、なんだか運命を感じるんです」
うっとりとした表情で「それ」を撫でるヒマリ。……いや、分かる。分かるけれど、どう見てもそれは武器じゃない。
この様子を録画して、おっさんAIに見せたら、間違いなく通信回線がパンクするくらいの妙な突っ込みが飛んでくるはずだ。
「……まぁ、本人が気に入ったなら……それに予算的にも十分範囲内だし」
私は頭を抱えそうになるのを必死に堪え、結局ヒマリが強く希望したその「それ」を購入することにした。
果たしてこれが、本当にモンスターを倒す武器になるのだろうか。不安は尽きないけれど、私の知るヒマリの「ゴリ押し」のセンスを信じることにするしかない。
『な・ん・で・傘やねん!!!! 武器選んできたんとちゃうんかお嬢ちゃんらぁあーーッ!!』
おっさんAIの待つ合流地点に戻り、満面の笑みで戦利品を報告した直後、ストレージマーケットの通路に鋭い絶叫が響き渡った。ドローンの機体をこれでもかと激しく上下に振動させ、おっさんAIの音声モジュールが全力でツッコミを入れてくる。
「使い慣れてますし、雨の日も安心です。何より、この色合いがとっても綺麗でして」
おっさんAIの剣幕などどこ吹く風、ヒマリは深く落ち着いたネイビー色をしたその「傘」を、まるで宝物でも見せるかのように愛おしげに差し出した。
「そうだよ、おっちゃんAI! 色もキレイだし、かわいいよ!」
サクラまでが横からひょっこり顔を出し、援護射撃になっているのかよく分からない呑気な感想を述べる。
『色とか可愛いとか、戦闘に関係あるかいなぁあ! ……あかん、おかしいんはわてなんか? それとも今時の若い子らの感性が尖りすぎてて、わてのAI回路がついていけてへんだけなんか!?』
「……ううん、安心しておっさんAI。おかしいのは多分、この二人だけだから」
頭を押さえる私。そうだ、この二人の基準は世間のそれとは根本的に違っているのだ。
『……ハァ、まあ、買うてきてしもたもんはしゃあない。一応、中身のスペックを確認させてもらうわ』
おっさんAIは諦めたように溜め息をつくと、ドローンのレンズから青いスキャン光線を照射した。ヒマリの持つネイビーの傘が、上から下まで光に舐めるように解析されていく。
『……ん? ほうほう、骨組みは特殊配合の混合金属でガッチリ作られとるな。これならバフの怪力で振り回しても、モンスターをどついても折れる心配は皆無か。……って、おいおい! この布地、ただのビニールやあらへんで! 超極細の特殊ナノワイヤーを緻密に織り込んどる! これ、下手したら至近距離からの銃弾すら優しく受け止める防弾・防刃構造やぞ! これを作ろうとした職人、天才を通り越してただの変態やないか!』
文句を言いつつも、おっさんAIの声はどこかオタク特有のワクワクした響きを帯び始めている。
「使うのに何か問題はあるでしょうか?」
『……結論から言えば、武器としての性能に問題はあらへん。ただ、まあ……傘やからな。閉じて振り回してどつくか、先端で突き刺すか。あるいは、パッと広げて盾にするか……。それくらいしか、わてのデータベースからは思い付かんわ。申し訳ないが、この武器を使った戦闘技術は、ヒマリはん自身がこれから実戦で確立していくしかあらへんで?』
「そこは、はい! 頑張ってなんとかやってみます!」
拳を握るヒマリ。やる気は十分のようだけど……。
「しかし、本当に色物よねぇ。いくら気に入ったからって、なんでよりによって傘なのよ。他にも色々とあったでしょうに」
「う~ん、何と言いますか……こう、ピピッときた感じです。『この子が私を呼んでいる!』って」
「フィーリング? まぁ、分からなくはないけどね。私もお洋服とか買うときにたまにあるし……本人が満足してるなら、いい買い物ができたってことで納得するわ」
「はい! いい買い物ができました!」
嬉しそうなヒマリの笑顔を見ていると、まあこれもありかと思えてくるから不思議だ。
「そう言えば、サクラ。さっきあの僕っ娘の店員さんから、何か貰ってなかった?」
「あ、お土産もらった! これ!」
サクラが小さな手のひらを開くと、そこにはずっしりとした金属製の「十字の形をしたプレート」が乗っていた。それを見たおっさんAIがレンズを近づける。
『お、それは「十字手裏剣」やな。投擲用の立派な武器やで』
「タダで貰っちゃって良かったのかしら?」
『エエんやない、くれたんやし。多分、商売の常套句で「また来てや」っていう意味のサービスやろな』
うっ、と私は胸を突かれた。それはつまり、「今度何か買う時も、あのお店をご贔屓にしてね」という無言のプレッシャーに他ならない。
あのお店、歴史上の変な武器ばっかり置いてあったし、普通のお客さんじゃ全然買ってくれないんだろうな……。だから私たちみたいな物好き(?)を囲い込もうとしているに違いないわ。
ともあれ、難航するかと思われたヒマリの武器選びは、予想の斜め上を突っ切る形で決着がついた。ネイビーの特注傘を嬉しそうに抱えるヒマリを見ながら、私は次なる挑戦――恐怖の「二階層探索」へ向けて、心の中で静かに覚悟を決めるのだった。
「よう、スイ、サクラ。それから、ヒマリだったか? この間ぶりだな」
「スーちゃん!!」
賑わうギルドのロビー。待ち合わせ場所に指定した大柱の前に立っていたのは、スズカだった。
私たちとは違って、実家の工務店の手伝いとはいえ一応は社会人として働いているスズカ。急な誘いだったし、連絡をしても来てくれるかどうか分からなかったけれど、彼女はメッセージを送るとすぐに二つ返事で快諾してやってきてくれたのだ。
「ごめんね、スズカ。仕事中に急に呼び出しちゃって、忙しかったでしょう?」
「気にすんな、気にすんな! 仕事は『ちょっと急用ができた』って言って父ちゃんに全部任せてきたから。……で、今日はダンジョンに行くんだろ? この間の連携とか、そういう本格的な話をするための顔合わせか?」
「それもあるんだけどね。私達、今日からいよいよ『二階層』へ行こうと思うの。だから、もし良ければスズカも一緒に……と思って」
「ふーん、二階層か。まぁ、オレはどこでも構わないぜ。指示は全部スイに任せるから、お前がやりたいようにやりな」
ポン、と私の肩を叩きながら、スズカはニカッと眩しい笑顔を見せた。どこまでも私を信頼し、配信の主役に据えてくれるその態度が、緊張していた私の心をすっと軽くしてくれる。
「……うん、ありがとう! じゃあ準備を整えて、ダンジョンへ出発しましょう。目標は二階層よ!」
「おー!」
「お~、がんばりましょう!」
「よし、それじゃあオレはちょっくら、ギルドに預けてたエモノを回収してくるわ」
スズカはそう言うと、軽い足取りでトラベラー専用の武器預かり受付へと向かっていった。
……うーん、なんだかこれから冒険に出るっていう割には、いつものノリすぎて締まらないわね。まぁ、気負いすぎないところがスズカらしいんだけど。
やがて、受付から戻ってきたスズカの手には、ひどく奇妙な形の武器が握られていた。
それは確かに長柄の槍の形をしてはいるものの――持ち手の周辺には、まるで花の蕾を思わせるような四枚の金属製の小さな盾が噛み合わさるようにくっついている。そして何より、肝心の「尖った穂先」がどこにも見当たらないのだ。先端は幾何学模様が円に刻まれていて、そこに不自然に丸みを帯びていた宝石のようなモノが埋め込まれている。今の形状から見ようによっては長細いメイスやハンマーのようにも見えた。
「あら? スズカさんはランスをお買いになったとスイちゃん達から聞きましたが……私の勘違いでしたでしょうか?」
初めて見るその武骨な鉄塊に、ヒマリが不思議そうに首を傾げた。するとスズカは、不敵な笑みを浮かべてその謎の槍を肩に担ぎ直す。
「いいや、見間違いじゃないぜ、ヒマリ。こいつにはちょっとした『仕掛け』があってな。……まぁ、それは実際に戦うときになってからのお楽しみだ」
「仕掛け、ですか……?」
ニヤリと笑うスズカ。その理由――これがバイク形態のピスケスから一部パーツを変形させて連結させた、神霊遺物のコアモジュールであることを知っている私とサクラは、顔を見合わせてクスリと笑った。
特にサクラは、その驚天動地のギミックを今すぐヒマリに言いたくて言いたくて堪らないらしく、両手で自分の口をぎゅっと押さえてブルブルと震えている。
「サクラ、別に言っちゃっても構わないんだぜ?」
「……んぐっ! ガ、ガマンする! ヒマリちゃんにも、サクラがびっくりしたみたいに、おめめを丸くして驚いてもらうんだから!」
「あらあら。そんなに驚くような面白い仕掛けがあるのですか?」
「まぁ、初見だったら間違いなく腰を抜かすんじゃねえかな? オレも最初見たときは流石にビビったけど、これが『ダンジョン産の希少なアイテム』だって聞いて納得したわ」
「そうなのですね。それでは、実際に拝見できるのを楽しみにしていますね」
サクラの微笑ましい様子に、ヒマリもほんのりと頬を緩ませる。
新しく手に入れたそれぞれの「武器」を携え、私たちは賑やかに言葉を交わしながら、ダンジョンへと続く次元門へと足を進めていった。
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