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No.24活動記録:とりあえず馬上槍をキャッシュでポン




 No.24活動記録:とりあえず馬上槍をキャッシュでポン




 『ゴジラに……モスラに……ガメラやと……!?』


 サクラの無邪気すぎる爆弾発言を聞いた瞬間、おっさんAIのドローンが空中で激しく上下に揺れ動いた。まるで脳内プロセッサが過熱してショート寸前になっているかのようだ。


 『ま、まさかサクラはん……それって【フォレストドラゴン】に【ジャイアントモス】、それに【マウンテンタートル】のことかいな!? あれと戦ってきたやと!? ホンマに言うとるんか!?』


 「え、おっさんAI……そんなに凄まじいモンスターたちなの?」


 おっさんAIの取り乱し方に恐怖を覚え、私は思わず問い返す。


 『凄まじいなんてもんやあらへん! フォレストドラゴンはな、体長五十メートルクラスの超巨大な大蜥蜴おおとかげや! ジャイアントモスは全長三十メートルの一大凶羽を羽ばたかせる巨大な蛾! マウンテンタートルに至っては、百メートルクラスの「山」そのものを背負って歩いとる生きた天災みたいな巨大亀やぞ! どれも危険地帯のヌシクラス――一筋縄ではいかん化け物たちや。……まさかとは思うけど、お前ら、勝ってきたんか? その三匹全部に』


 おっさんAIがレンズをチカチカと明滅させながらスズカを問い詰める。すると、スズカは首の後ろをガリガリと掻きながら、なんてことのないように言った。


 「いや。ストームとサンダーを人型に戻して戦わせてみて、どんなもんか性能を確認してたんだ。さすがにあの巨体三匹を同時に相手にするのはキツかったらしくてな。オレたちも周りの被害がデカすぎて巻き込まれそうになって危なかったから、慌てて逃げてきたんだよ」


 『さ、さよか……。勝ちはせんかったか。……いや、それでもや! あれを三匹まとめて同時に相手して、無傷で撤退してこれる時点で大概おかしいわ! さすが神霊クラスの召喚物、戦闘力も文字通り桁違いやな……』


 「大きさは何となく想像がつくけど、そんなに強いの? その三匹って」


 未だにスケール感が掴めない私に、おっさんAIは深いため息(のような排気音)をついた。


 『……スイはん。ちょっと想像してみてな。体長五十メートルの大蜥蜴が、こっちに向かって地響き立てて襲ってくるんや。対峙したとき、どないな気持ちになる?』


 「え? えっと……もの凄く、気持ち悪い……かな?」


 『ちゃうわい! 精神論の話やなくて物理パワーの話や! 単純にそんな圧倒的な質量で踏み潰されたら、人間なんか一瞬でペシャンコにされる言うとるんや!』


 「そんな相手が、このダンジョンには普通にいるの……? トラベラーって、本当にそんな化け物に勝てるものなの?」


 『……まともな正面衝突じゃ、普通の方法ではまず勝てへんよ。時速100kmで突っ込んでくるダンプカーを、素手で止めて見せてみぃって言われてるようなもんや。無理やろう?』


 「確かに無理ね。絶対に死んじゃうわ」


 『せやろ? でもな、素手では無理でも、トラベラーはスキルを使い、武器を磨き、ガーディアンなんかを応用して、知恵で対応してなんとか壁を乗り越えていくんや。ほれ、前にわてが話したやろう? ゴークくんが一体おれば、ダンジョン攻略はめちゃくちゃ楽になるって』


 「確かに、そんなこと言ってたわね」


 『人間はな、そうやって知恵と道具をコツコツと使こうて、少しずつダンジョンを攻略してきた歴史があるんや』


 「……それなのに、スズカはいきなりその歴史をすっ飛ばして、ボス戦に突入した感じ?」


 『どちらかと言えば、ボス達がひしめき合うエリアに、バイクで無理やり乱入してひとしきり暴れて、飽きたから帰ってきた感じやな。他の必死に努力しとるトラベラー達がこの話を聞いたら、「自分たちの今までの苦労は何やったんや」って絶望してまうわ。まぁ「運も実力のうち」とは言うけどな。納得はされへんだろうけど、理解の範疇を超えとるわ』


 おっさんAIの言葉を聞きながら、私は自分の足元を見つめた。


 なんだか……また胸の奥が少しだけチクリとする。


 「……なんだか、私がだんだん、要らない子・・・・になっていくみたいね」


 スズカが強すぎて、サクラも規格外で、おっさんAIも凄くて。


 普通の女子高生配信者として頑張ろうとしていた自分が、酷くちっぽけになってしまう。


 そんな私の呟きを拾って、おっさんAIが慌ててフォローを入れる。


 『あ、いや、そんな意味で言うたんやないでスイはん! ほら、ゴークくんと同じや。この低階層にいる間は、危険すぎるからストームサンダーたちを使わないよう封印(お留守番)しとけばエエやんか。いくら暴走特急なスズカはんでも、それくらいの分別はつ――』


 「おい、おっさんAI。お前、オレをなんだと思ってるんだ?」


 遮るように響いたスズカの声は、低く、けれどどこまでも真っ直ぐだった。


 スズカは私の前に一歩踏み出すと、私の目を正面から見据えて、ニカッと笑った。


 「スイの配信なんだろ? なら、オレはスイがやりたいように、スイの目指す配信を手伝うだけだ。スイが『コイツらは今の配信には必要ない』って言うんなら、本当に必要になるときまで、ずっと大人しく寝かせとけばいいだけの話だろ」


 スズカは親指で、自分の後ろに佇むメタリックのバイク形態のストームサンダーを指差した。


 今はメカニカルな車体の形をしているから、彼女たちの表情までは読み取れない。


 けれど、不思議と私には分かった。主であるスズカの言葉の通り、二人の神霊もまた、「必要があればいつでも呼べ。それまでは眠っていよう」と、静かに肯定してくれているような――そんな温かい気配が、花畑の風に乗って伝わってきた。


 「そうなるとさ、オレはこれからの配信中、何にも出来なくなるか? まぁ、荷物持ちくらいならいくらでもしてやるけどさ」


 スズカが肩をすくめると、上空のおっさんAIが丸い機体を左右に振った。


 『いやいや、別に完全に封印して一切出すな、なんて極端な話をする必要はあらへんと思うで』


 「おっさんAI、それってどういうこと? ストームサンダーは戦力的に過剰なんでしょ?」


 『純粋な戦力アタッカーとしてガチで戦わせるんなら完全に過剰や。せやけどな、あれをただの「乗り物」としてだけで使こうていくなら、配信のレギュレーション的にも別に問題あらへんやろう。戦闘時にも、一昔前の戦場における「馬」代わりに使こうていくぶんなら許容範囲内や。……まぁ、最終的にどう扱うかは配信の主であるスイはんが決めることやけどな』


 「スイ。お前はどう思う? オレはスイの意見を支持するぞ」


 スズカに真っ直ぐ見つめられ、私は少しの間、真剣に考えた。


 ……スズカが手伝ってくれるなら、今まで諦めていたもう少し先の階層にも、安全に足を延ばせるようになるはず。


 「……わかった。ゴークくんと同じで、ストームサンダーは、戦闘中も『バイク形態でのみ使用する』っていうルールにしましょう。そうすれば、スズカの【騎乗】スキルもちゃんと意味を成すし、移動効率も格好良さも両立できるもんね」


 『おお、ええ落としどころや! そうなると、あとはスズカはんの「攻撃手段」やな。バイクでモンスターをそのまま轢き殺すのも豪快でええけど、わてとしては、中世の騎士みたいに「馬上槍ランス」のようなもんを持って突撃兵をやらせるのが大本命やと思うぞ。画的にもめちゃくちゃ映えるやろうしな!』


 「ああ、確かに……! 馬上から超スピードで槍を突き出すスズカ、絶対に配信映えするわ。どうかな、スズカ?」


 「槍か……。オレ、今までの人生で槍なんて一回も触ったことねえから、使い方がさっぱり分からんぞ?」


 『ただしっかり構えて、バイクの速度を乗せて敵に突っ込む。それだけで十分な驚異や。さっきお前らが相手してきたっていうフォレストドラゴンのような化物には効かへんけど、そこらの雑魚モンスター相手なら、ただバイクで横を通り過ぎるだけでも十分な殺傷力やぞ』


 「そうか……。よし! なら、さっそく槍を買いに行くぞ!」


 『またマーケットに逆戻りかいな!? いや、行動パターンから予想はしとうたけどな! 本当に行ったり来たりが激しいな、ホンマに!』


 決めたら即行動。それが夏樹鈴華という人間だ。スズカは再びストームサンダーを送還すると、踵を返してストレージマーケットへと向かって猛ダッシュを始めた。私とサクラ、おっさんAIも慌ててその背中を追いかける。


 ――そこからの槍の買い物についての詳細は、あまりに一瞬だったので割愛するけれど。


 武器屋の店頭で、一本およそ「百万円」近くする、ずっしりと重そうな一級品の魔道槍を、なんの躊躇いもなくポンと即決のキャッシュ(電子決済)で支払う幼馴染の姿を見て、私は「もう少しお金の重みに躊躇いがあっても良いんじゃないかしら……」と遠い目をするしかなかった。


 『まあ、たいした付与はされてへんけど、品物自体は間違いなくエエもんでっせ。これなら中階層辺りまでは長く現役で使えるはずや』


 「おう、そうなのか? まぁ見た目もメカニカルで格好いいし、オレはこれで大満足だわ」


 もちろん、ダンジョン外の一般市街地にはこんな危険な武装の類いは一切持ち込めないため、購入後はそのままギルドの保管庫へ預ける形になる。そのあたりの手続きは、おっさんAIの先導もあって非常にきっちりとしていた。


 「槍とかの武装をギルドに預けなきゃいけないのは分かるんだけど……スズカのあの封印具だけで、本当に街の中は平気なの? 神霊クラスを呼べる力が生身のままなんだよね?」


 手続きの待ち時間、ふと気になって尋ねると、おっさんAIは静かにドローンのレンズを動かした。


 『人権問題もあるからな。生身の人間を完全に拘束するわけにはいかんのや。そのための、さっきの「護衛(監視役)」の存在や。……あとはもう、その人間自身の「良心」の問題やな。どんなに強力な力でも、人を生かすために使うか、それともアホな事件を起こして牢獄に行くか。違いはそれだけや』


 「……そんなものかしら」


 『そんなもんやで、人間なんてな。道具や力に罪はあらへん。すべては、それを使う人間次第や。……お、手続きが終わったみたいやな』


 スズカの買い物と登録が無事に終わり、「よーし、じゃあさっそく試し突きに行くぞ!」と再びダンジョンへ向かおうとする暴走特急を、私は必死に説得した。


 「ヒマリとの連携の作戦会議もしなきゃダメ!」とサクラと一緒に左右から腕を引っ張り、なんとか今日のところはこれでお開きという形に持ち込んだ。本当に、放っておけばどこまでも突き進んでいってしまうんだから。


 「じゃあなスイ、サクラ。何か面白いことやヤバいことがあったら、いつでもオレを呼べよ!」


 そう言って、スズカは本来の自分の仕事(実家の品の配達の手伝い)へと戻っていった。その背中を見送りながら、おっさんAIがふと呟く。


 『……よう考えたら、あの姉ちゃん、今はがっつり仕事中やったはずやろ? 途中で抜け出してきて大丈夫かいな?』


 「まぁ……実家の手伝いだし、身内のよしみで多分大丈夫、のはず……」


 『それは完全に「大丈夫ではない」ときの反応やで、スイはん』


 「いや、だってしょうがないじゃない! スズカのお父さん、普段はすごく優しくて融通が利くけど、仕事の筋が通らないことや、間違ったことに対しては、物凄く怒ると怖い人なんだから……!」


 『さよか。……まぁ、あの姉ちゃんが後で大目玉を喰らってないことを、通信回路の片隅で祈っとこうか』


 こうして、波乱万丈なんて言葉では生温い、私たちの今日のダンジョン活動は幕を閉じたのだった。




 ☆★☆★☆




 ――ダンジョンギルド十王市支部、最下層・特別研究室。


 壁一面に埋め込まれた膨大な数のモニター画面が、冷たい電子の光を放っている。


 薄暗い部屋の中にただ一人佇む男――大文字は、中央の画面に映し出された少女の映像を、険しい目で見つめていた。


 「夏樹鈴華……はん、か。とんでもない偉いもんを引き当ててくれたな、全く」


 大文字が低く呟く。


 神霊クラスの召喚物――。


 ダンジョンがこの世界に現れてからの三十年間で、神霊クラスでも、それが振りきれるほどのエネルギー量を持った存在は、過去に確認されたのはわずか三件だけ。今回のスズカの件で、ようやく四件目という文字通りの国家機密級の存在だ。


 「……うち一件は、上のアホな奴らが無理に制御しようとしたせいで、町一つが完全に水の底や。それを起こしたんが――」


 大文字が視線を向けたモニターの先。暗界の空間から、太い漆黒の鎖が何本も飛び出し、地面へと深く突き刺さっていた。


 その鎖の源にいるのは、自らも無数の鎖で無残に縛り付けられた、機械仕掛けの美しい乙女の姿。彼女が幽閉されている空間の内部だけ、大量の水がまるで終わりのない洪水のように荒れ狂い、災害の如きエネルギーを放ち続けている。


「……まあ、あの悲惨な大事故のお陰で、利権に目が眩んどったアホな奴らはなりを潜めたけど。……それでも、油断はならんか」


 大文字が苦々しく思案していると、ピピピッという甲高い電子音と共にメイン画面が強制的に切り替わり、画面中央に赤字で『Sound ONLY』の文字が表示された。スピーカーから、酷く冷徹で、威圧的な男の声が響く。


 『大文字くん。国内で初の、本当の意味での「神霊クラス」の召喚者が現れたそうだね』


 大文字は連絡してきた相手の声を認識した瞬間、心底嫌そうな表情を隠そうともせずに鼻を鳴らした。


 「本庁へ連絡が行くとは思ってましたが、ずいぶんとまぁ、耳が早いですな。お偉いさんは暇なんですなぁ?」


 『それはそうだろう。疑似とは違う、本当の神霊クラスの戦力ともなれば、我が国のダンジョン攻略の進捗は飛躍的に――』


 「……あー、その先は言わん方がエエですよ」


 『なぜだ? その人物は、ギルドに登録したトラベラーなのだろう?』


 「結果的にトラベラーの真似事をやっとるだけの、ただの一般人ですわ。国家の都合で積極的にダンジョンを最深部まで攻略しようなんて、そんな大層な義務感を持っとる人間やない。それを無理に愛国心やら義務やらで縛り付けてやらせよう言うんなら……過去にどないな最悪の結果になったかは、オタクら上層部が一番ようわかるやろ?」


 『……なるほど。そう言った性質の人間か。……やはり、ダンジョンなどという未知の危険地帯を、「娯楽の場」として世間にシフトさせてしまったことは失敗だったか』


 「そうでもあらへんで。危険を孕んだ場所やからこそ、こうして若い世代が楽しんで、新たな可能性を持つもんが自然と現れる。数打ちゃ当たる、っちゅうやつですわ」


 『私としては、ダンジョンなどという世界を脅かす危険な存在は、手段を問わず早々に消滅させたいものなのだがね』


 「オタク、自分が無茶苦茶言うとるの分かって発言してます? 三十年かけてようやく構造が分かりかけてきたもんに、明日明後日で何もかも解決できたら、誰も苦労はせえへんのですよ」


 『……そうだな。だが、いつまでも気楽に構えていられる状況でもない。君も分かっているはずだ』


 「はいはい、分かっとるがな。……あまり先のことを気にしすぎると、頭と胃に深刻なダメージが蓄積してまうで?」


 大文字が呆れたように告げると同時に、プツリと音声通話が強制的に切断された。


 大文字はふう、と深くため息をつき、頭を掻く大文字。


「……胃はともかく。言われて切ったってことは、あいつの『(髪の毛)』の方はマジで手遅れな状況やったか?」


 少し悪いことを言ったかと一瞬だけ考えたが、「まぁどうでもええか」とその思考をゴミ箱に捨てる。


 そして、別画面に切り替わった、スイたちが楽しそうにこれからの配信の作戦会議をしている映像を見つめながら、大文字の目元が少しだけ和らいだ。


 「……せっかく楽しくダンジョンを攻略しようとしとる、いたいけなお嬢さん方に、大人の汚い部分なぞ、あの子らは一ミリも知らんでええ。……しゃあない、裏方の泥仕事は、こっちで踏ん張るかいな」


 大文字は静かに笑うと、眼鏡の位置を直し、凄まじい速度でキーボードの上に指を走らせて、夏樹鈴華に関する検閲データの隠蔽処理を始めのだった。










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