No.21活動記録:ガラクタ(召喚物)を見つけたら、咄嗟に外へ投げろ
No.21活動記録:ガラクタ(召喚物)を見つけたら、咄嗟に外へ投げろ
「おっさんAI。乗り物のエリアはどっちだ?」
ダンジョンから出たその足でマーケットへと突入したスズカは、相変わらず台風のような速度で大股に歩を進めていく。私とサクラは、その後ろを小走りで追いかけるのが精一杯だ。
『ビ、ビークル系なら向こうの右奥のエリアや! ……しかしスズカはん、もう一度言うとくけどホンマに高いで? もし出費を抑えたいんなら、モンスター系の馬とかの方が、よっぽど安ぅ済むんやけどな?』
「生き物は毎日エサをやったり世話をしなきゃダメだろ? オレ、実家の仕事もあるし、そこまでマメじゃないんだよ。それなら普段から乗り回してる機械の方が、オイル交換とかのメンテナンスも楽だし性に合ってる」
『いや、そうなんやけどな? あのな、ダンジョン産の生き物系もそうやけど、専用の「異空間ボックス」言う特殊なアイテムがあってな――』
「細かい話は現物を見てからな! ほら、行くぞ!」
『……アカン。わてが完全にペースを握られとるなんて、こんなん初めてやわ……』
あの百戦錬磨で、いつもは私たちをからかって楽しんでいるおっさんAIが、完全にスズカのバイタリティーに圧倒されてタジタジになっている。その光景がちょっと新鮮で、私は心の中で密かに拍手を送ってしまった。
そんな私たちのドタバタ一行に、聞き覚えのある陽気な声が横から降ってきた。
「あれぇ? そこ行くお嬢さん方は……この間、私のところで魔道機人形を買ってくれた人達じゃないですか!」
声のしたガーディアンエリアのブースを振り返ると、そこに立っていたのはシックながらも派手な服装に身を包んだ、あの独特な雰囲気の女性。ゴークくんを私たちに売ってくれた張本人――風月堂紫水さんだ。
「あ、シスイさん! こんにちは」
「はい、こんにちはっちゃ! あれからあの魔道機人形くんは、問題なく元気に動いてるっちゃか?」
「はい、おかげさまで。とってもお利口に私たちの配信を手伝ってくれて、問題なく動いてます」
「それは良かったっちゃ! ……ん、見たところ、今日はその魔道機人形くんのメンテナンスに来た訳じゃなさそうっちゃね?」
シスイさんは、目をキラキラ輝かせて、今も突き進もうとしているスズカに視線を留め、ニヤリと不敵に笑った。
「はい。実は、私の幼馴染みのスズカが今日トラベラーになりまして。それで、発現した初期スキルが『騎乗』だったから、何か乗り物を買いに行こうって話になって……」
「えぇっ!? それ、今日の今日でダンパスを取って、ダンジョン行って、今度はその足でここに買いに来たっちゃか!? かっかっかっ! いやあ、凄まじいバイティリティ溢れる人っちゃね!」
「スイー! 立ち止まってどうかしたか?」
数歩先でようやく私たちが遅れていることに気づいたスズカが、怪訝そうな顔で戻ってくる。
「あ、ごめんスズカ。ちょっと知り合いに会ってね」
「あ! ゴークくんをくれたお姉さんだー!」
サクラがシスイさんを見つけて、嬉しそうにトコトコと駆け寄った。
「ん? サクラも知り合いなのか?」
「うん! このお姉さんのお店から、みんなでゴークくんを買ったんだよ!」
「へぇ、そうなのか。ウチの妹分たちが、その節はお世話になったようで」
「いいっちゃ、いいっちゃ! 私もある意味で商売しただけだからね。……ところでそっちのお姉さん、さっき『騎乗できる乗り物』が欲しいって聞こえたっちゃけど?」
「はい。そこの浮いてるおっさんAIが、オレの『騎乗』ってスキルは、何か乗り物がないとなんの意味がないって言うもんで。だから機械のビークルでも見に行こうかと」
「そうっちゃか。実はね、私が今いるお店にも、背中に乗れるタイプのモンスターのガーディアンが、たくさん在庫にいるっちゃけど……」
「あ、すいません。せっかくですけど、生き物系は毎日の世話が大変そうなので、オレには向いてないかなって」
スズカがすっぱりと断ると、シスイさんは大袈裟に両手を広げてみせた。
「おやおや? もしもーし、そこのAIくん? この新規のお姉さんに、大事なシステムの説明をまだしてないっちゃか?」
『いや、説明はしようとしとったんやけどな! このスズカはん、「話はモノを見てからや!」って言って、人の説明を最後まで聞かんとダッシュするもんやから、説明もなにも出来へんかったのよ!』
「なるほどねぇ。お姉さん、安心するっちゃ! ダンジョンの生き物系ガーディアンはね、お世話に掛かる手間や時間はめちゃくちゃ少ないから、心配しなくとも全然平気っちゃよ!」
「ん? どうしてだ? エサも糞尿の世話も要らないのか?」
「ようござんしょ! この風月堂紫水が、ひとつ分かりやすく解説して差し上げましょう!」
シスイさんはバサリと上着を翻し、得意げに人差し指を立てた。
「ガーディアンと呼ばれる存在には、生き物も、機械も、霊体も、本当に色んな種類がいるっちゃ。だけど、それぞれ独自の生態系を持ってるから、トラベラーがいちいちそれを受け止めてたら大変っちゃ。そこで開発されたのがこれ! 彼らの生態に合わせた専用の快適空間を作り出すことができる魔法のアイテム――『異空間ボックス』というのがあるっちゃよ!」
「つまり……どういうことだ?」
「一言で言うなら、『お手入れ要らずの、超楽チン全自動飼育ケース』っちゃ!」
「なるほど……。それは、お値段は高いんですか?」
「うんにゃ! もちろんピンキリにはなるっちゃけど、一般的なモンスター用の普通のものであれば、一個一万円ちょっとで買えるっちゃね」
「一万円は高いですよ! 私たち学生にとっては!」
思わず私が横から突っ込むと、おっさんAIが空中を上下させて笑った。
『ははは、確かにスイはん達学生の小遣いにしたら大金やな』
「シスイさんと言ったか。そのケースに機械のビークル型は入れられるのか?」
「入れられるっちゃけど、ビークル型は元々ボタンひとつで小さなカプセルタイプに変換する仕組みが標準装備されてるからね。ケースをわざわざ買う意味はあんまりないっちゃよ。ビークルはビークルで便利っちゃけど……でも私としては、やっぱりガーディアンの方を強くお勧めするっちゃよ!」
「それは、何で?」
「機械と違って、ガーディアンは共に戦っても良し! 愛でて良し! モフモフ触って良し! まさに『世界に一匹だけの相棒』って感じがするっちゃよ。きっとお姉さんが一目惚れするような、最高にイカした子がいるっちゃ!」
『……おいおい、明らかに言葉巧みに高い方を売り付けようとしとるな。オタク、鑑定士やなくてただの強欲な商売人やろ』
「かっかっかっ! 商売人も兼ねてるだけっちゃよ! ……で、どうするっちゃ? 買う買わないは別にして、見るだけでも構わないっちゃよ?」
シスイさんの怪しい、けれど魅力的な提案に、スズカは少しだけ顎に手を当てて考え――そして、不敵にニカッと笑った。
「……分かりました。そこまで言うなら、ちょっとそのガーディアンってやつを見に行きましょうか!」
「まいどありっちゃ! お一人様、ガーディアンの楽園へごあんなーい!」
シスイさんの威勢の良い案内に釣られるようにして、私たちはショップの奥へと連れられていった。
この間ゴークくんを買った時は店頭のやり取りだけだったけれど、一歩足を踏み入れたお店の中は、外観以上に輪をかけて雑多というか、お世辞にも整理整頓されているとは言えない状態だった。
「ちょっちモノが多いっちゃけど、気にしないでねぇ。ええっと、カタログ、カタログはっと……どこにやったっちゃかねぇ……」
シスイさんはそうブツブツ呟きながら、古いアタッシュケースや謎の金属パーツが山積みにされた棚の隙間に、文字通り頭を突っ込むようにしてガサゴソと物を探し始めた。
その振動のせいで、棚の合わせ目からポロポロと小さなネジや奇妙な形をしたガラクタが床へと落ちてくる。
「……あの、シスイさん。アイテムらしき部品がいくつか足元に落ちてますけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫ちゃ大丈夫ちゃ! その辺に転がってるのは本当にただのガラクタだから。用途不明、機能不全、部品損失等のオンパレードっちゃよ。もし欲しければ、スイちゃんたちタダで持って帰ってもいいっちゃよ? ギルドの廃品回収に出すのも、結構なお金が掛かるからねぇ」
「持ってっていいって……売り物なのに、本当にそんな適当で大丈夫なんですか?」
「うーん……素人さんにも分かるように言うなら、現代の『規格同士が絶対に合わないネジ』っちゃね。合う相方のパーツを探そうにも、そもそも何千年も昔の遺物だからねぇ。かといって、現代の技術で作れるかと問われれば、一部の構造を流用できても、完全に模倣して再現するのは無理なんだよね」
「そうなんですか? その割には、外では普通にアイテムが売られてますよね?」
「それらは奇跡的に五体満足で発掘された『一点もの』っちゃ。……お、あったあった! はい、これ最新のカタログね! この中からスズカお姉さんが気に入った子がいたら教えてね」
シスイさんはホコリを払いながら、厚手のカタログをスズカに手渡した。それから、私の先ほどの疑問に答えるように人差し指を振る。
「それで、さっきのスイちゃんの質問の続きだちゃけど。レベルの高い魔道具のアイテムにはね、実は『自動修復機能』が備わってたりするんよ。この間買ってもらった魔道機人形――つまりゴークくんの系統なんかは、戦闘で少々凹んでも、しばらく放っておくとエネルギーを吸って勝手に直ったりもするっちゃ」
「へぇ……! 勝手に直るなら、メンテナンスなんて必要ないんじゃ?」
「ノンノン、甘いっちゃ。それなのに何でメンテナンスが必要かって言うとね、たまに『壊れた形のまま』間違って修復しちゃうことがあるからだっちゃね。歪んだ関節のまま固定されたり、機構回路がショートした状態でフタをされちゃったり。それを見極めて正しい形に調整するのも、私ら専門の鑑定士の仕事だっちゃよ」
「なるほどね……。便利だけど、やっぱり昔の機械って一筋縄ではいかないのね」
「でお姉さん、どうっちゃかね? カタログの中で気に入った子はいたっちゃか?」
シスイさんに尋ねられ、スズカは手元のカタログのページをパラパラと捲っていたが……その表情は、どうにもパッとしない様子だった。昔から嘘がつけない人だから、顔を見ればすぐに分かる。
代わりに、横から覗き込んでいたサクラの方が目を輝かせていた。
「わあ、このトカゲさん、背中に羽が生えててかわいい! スーちゃん、この子にしようよー!」
おもちゃを強だりする子供のようにスズカの服の袖を引っ張るサクラ。だが、スズカは申し訳なさそうに苦笑いをして、カタログをシスイさんに返した。
「……悪い、シスイさん。色んなのがいて面白いんだけど、やっぱオレにはどうしても『ただのペット』に見えちまうわ。命がある生き物を乗り回すのは、どうにも自分の性に合わないっていうか……やっぱり向いてないみたいだ」
「そうっちゃかぁ。こればかりはトラベラー自身の感性との相性だから、仕方ないっちゃねぇ」
シスイさんは残念そうに肩をすくめる。
「うちに、この間のゴークくんみたいな『魔道機型』で、上に乗れるビークルタイプの子がいれば自信を持ってお勧めできたっちゃけど……。悲しいかな、魔道機型は発掘時の破損が本当に多いし、まともに動く在庫は滅多に出ないっちゃからな」
「やっぱり、ロボット系は残ってないものなんですか?」
『スイはん、相手は下手すれば数千年前経過しとる遺物やぞ? 例えばや、何千年も土の中に埋まっとった機械が掘り出されてくるんや、と考えてみぃ。現代でも、スマホを土の中に一ヶ月埋めただけで壊れるやろ。まともに動く状態で残っとるのが、どれだけ異常で希少な確率か分かるはずや』
「あ……言われてみれば、確かにそうね」
「そういうことっちゃ。こればかりは、今回はご縁がなかったと言うことだっちゃね。お役に立てなくて申し訳ない」
「いやいや、謝らないでよシスイさん。色んな珍しいモンスターが見られただけでも、オレ的には十分面白かったし、参考になったよ。じゃあ、また機会があったらね。……スイ、サクラ、行くぞ」
「うん。すみませんシスイさん、ありがとうございました。……ほらサクラ、そんなところにいつまでも座り込んでないで、行くわよ?」
私がシスイさんにお辞儀をして、床にぽつんとしゃがみ込んでいたサクラの肩を叩く。
だが、サクラは立ち上がろうとせず、床に転がっていた『ガラクタの部品』を両手でそっと拾い上げながら、不思議そうに首を傾げた。
「……うん、あのね。スーちゃん、スイちゃん。この、お姉さんの棚から落っこちてきた黒いハコ……なんかさっきから、手のひらの中でずーっと淡くピカピカ光ってるんだけど、なんでだろう?」
「え……?」
サクラが掲げた、大人の握り拳ほどの大きさの、泥に汚れた立方体の金属パーツ。
用途不明の完全な廃棄物として床に転がっていたはずのそれが――サクラの小さな手に包まれた瞬間から、まるで静かに呼吸を始めたかのように、サクラの持つメモ帳と同じ、神秘的な淡い光をハッキリと放ち始めていた。
それを見た瞬間、さっきまで余裕の笑みを浮かべていたシスイさんの顔から、一瞬で血の気が引いた。
「な、な、な――なんで!? 今まで一回も起動しなかった完全な死に遺物が、なんで今さら光ってるっちゃのーー!?!?」
『アホなっ!? またかいな!? なんでこう、毎回こうも変なミラクルをピンポイントで引き起こすねんサクラはんは――っ!?』
「ええっー!? サクラなんにもやってないよぉ! ただ拾っただけだもん!」
おっさんAIのドローンが狂ったように上下に大暴れする中、サクラの手の中の立方体は、ピカピカと徐々にその点滅の速度を速めていく。それはまるで、タイマーが作動して「もうすぐ時間切れだ」と警告しているかのようだった。
「そ、そそそ、それ……っ!? もしかしてエネルギーが暴走して、今から爆発しようとしてるんじゃないのーー!?」
「えーっ!? ば、ばくはつぅ!? ど、どどどど、どうすればいいのスイちゃん!?」
私が頭を抱えて叫び、サクラが涙目でパニックに陥る。
私とサクラが完全に慌てふためく中――ただ一人、私たちの前に一歩踏み出したスズカだけは、文字通り「冷徹なまでの即断即決」だった。
「危ねぇっ! サクラ、それ貸せ!」
スズカはサクラの手から立方体パーツをむんずと力任せに掴み取るや否や、実家の配達で鍛えた見事なフォームで、ショップの入り口に向かって全力でそれを放り投げた。
超高速で店外へと遠ざかっていく、光る立方体。
『――って、なんで外へ向かって全力投球しとんねんワレェ!! 万が一本当に爆発したら、外の一般トラベラーたちに甚大な被害が出るやろがい!?』
「あ、ごめん。咄嗟に身体が動いちゃって、そこまで頭が回らなかったわ」
スズカはテヘッと頭を掻いている。……相変わらず頼もしいけれど、お願いだからその考え無しの突っ走り癖だけは、今日を限りに自重してもらいたい。
私たちは生きた心地がしないまま、身を縮めて「ドカン!」という爆発音を待った。
しかし、数秒経っても、マーケットを揺るがすような爆音は聞こえてこない。代わりに聞こえてきたのは――。
「う、うわあああ!? なんだこれ!?」
「おい見ろ、上空から何か降ってきたぞ!!」
「おいおい、嘘だろ……これ、遺物の自動展開か!?」
何やら、マーケットの広場の方がお祭り騒ぎのようにザワザワと騒がしくなっている。
「……騒ぎは騒ぎだけど、爆発してパニックになってるって感じじゃなさそうっちゃね?」
「そうみたいですね……。って、どうしたのスズカ? さっきから自分の手のひらなんかじっと見つめて」
私が尋ねると、スズカは不思議そうに眉をひそめながら、右の手のひらをこちらに向けて見せてきた。
「ん。ほら、スイ。さっきの四角いゴミを投げた瞬間、なんか手のひらに蛍光塗料のインクみたいなのがベッタリ着いたんだよ。擦っても取れないし、なんだこれ?」
スズカの手のひら。そこにはインクなどではなく――幾何学的で、どこか神聖な輝きを帯びた、濃い緑と黄色の複雑な『嵐と雷を表すような紋様』がくっきりと刻み込まれていた。
それを見た瞬間、おっさんAIのカメラレンズがカチリと最大まで見開かれた。
『契約紋やと!? まさか……っ!? 投げたあの立方体、ガラクタやなくて「未契約の召喚物」やったんかいな!? ってことは、今外の奴らが騒いどる理由は一つしかあらへんで!!』
「外で、何かが『召喚』されたってことやね! これは鑑定士の名にかけて、今すぐ見に行かなきゃ損っちゃ!!」
『せや! 行くでお嬢さん方! これは大スクープや!!』
「ええっ!? ちょっと、二人とも待ってよ!? どういうこと!?」
おっさんAIとシスイさんは、完全に事情を察した様子で、凄まじい野次馬根性を丸出しにしながら脱兎の如く外へと飛び出していった。
私とサクラ、そして呆然としているスズカは、顔を見合わせた後、慌ててその二人の背中を追いかけてショップの外へと走り出るのだった。
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