No.17活動記録:【悲報】二階層の追加モンスターが、私の天敵(イモムシ)でした
No.17活動記録:【悲報】二階層の追加モンスターが、私の天敵でした
『――あ、あの、今回もいろいろとトラブルがありましたが、無事に帰還できました。……って、ええっ!? あ、赤スパ(高額投げ銭)!? あ、ありがとうございます! ええっと、おーえす、お、っさん……えーえる? ……って、おっさんAIぃぃい!? はっ!? 失礼しましたっ、おっさんAIさん、巨額の応援ありがとうございます――!』
「……はぁ」
画面の中で自分の生配信の切り抜きアーカイブを再生しながら、私はダンジョン探索部の部室の机に突っ伏して、深い深い溜め息を吐いた。
「あのAI、ホントなんなのよ……。ギルドの公式アカウントから通知が来たから、一瞬何か大きな案件でも飛び込んできたのかと思って期待しちゃったじゃない。蓋を開けてみたら、まさかレンタルしたAIドローンから直接スパチャが飛んでくるなんて……。いや、実質タダでお金を落としてくれたのは素直にめちゃくちゃ嬉しいんだけど……AIからっていうのが、どうにも釈然としないわ」
「あのおっちゃんAI、実はお金持ってたんだねー。AIなのに、どこでお給料もらってるんだろ?」
サクラがポテトチップスを齧りながら口にした疑問は、至極もっともだ。
もしかして、私たちがギルドに支払ったレンタル代の一部が、あのAIの懐にマージンとしてキャッシュバックでもされているのだろうか。自動で資産運用でもしているデジタル生命体だったら怖すぎる。
「失礼します」
上品にドアをノックして部室に入ってきたのは、ヒマリだった。
「あ、ヒマリ。遅かったじゃない、どうしたのよ?」
「はい。先ほど、アイちゃんのご実家にお電話を一本入れておきまして。親御さんともお話しして、私も学校が終わったら『後でそちらに向かいます』と伝えてきたところです」
「……そ、そう。あ、あのさ……ほ、程々にしてあげなさいよ? ホラ、あのアイって子も、その、配信でテンションが上がっちゃって、つい突っ走っちゃっただけかもしれないし……」
ヒマリの背後に見える、言葉とは裏腹の冷徹なプレッシャーに、私は思わずアイを庇うような言葉を口にしていた。
「う~ん、でも毎回ああいう感じでは、他のトラベラーの皆さんやギルドのご迷惑にもなりますからね。ここはやっぱり、親御さんの前できっちりとお話しして、自覚を持ってもらってきますね(ニコッ)」
「……そう。うん、がんばって」
「はぁい、ありがとうございます」
――アイ、ごめん。後で「なんで止めなかったのよ!」とか理不尽にキレられないように一応フォローの策は打ったけど、ヒマリの決意が固すぎて完全に無駄だったわ。しっかり、みっちり、実家でご両親と一緒に怒られてきなさい。
私はアイに向かって、心の中でそっと十字を切り、哀悼の意を捧げた。
「それでスイちゃん。ヒマリちゃんも合流したけど、今日はどうするの? またダンジョン探索に行くの?」
サクラの言葉に、私は端末画面を切り替え、ダンジョンギルドの公式記録から階層情報を開ける。
「そうね、配信の注目度も少し上がってきたし、階層を進めて早くまとまったお金を手にしたいところよね。……なんだけど、ああああっ!?」
私は頭を抱え悶えた。
「ど、どうしたのスイちゃん急に!? なんか変なバグでも見つけた?」
「……二階層について調べたんだけど、新たなモンスターが追加されるの」
「追加ですか? それの何かに問題が?」
不思議そうに小首を傾げるヒマリに、私は絶望的な顔で端末の画面を向けた。
「……まず、動物系が二種類。『グラスラビット』と『グラスドッグ』よ」
「おおっ! うさぎさんに、いぬさん! なにそれ絶対に可愛いじゃん!」
「一応釘を刺しておくわよ、サクラ。名前の頭についてる『グラス』は、ガラス細工のガラス(Glass)じゃなくて、草(Grass)のグラスよ。要するに、生い茂る草むらに潜む野生のウサギとイヌってこと。可愛いからって無防備に撫でに行くんじゃないわよ。これでも立派なモンスターなんだからね」
「わかったー!」
「うん、絶対にわかってないわね、その返事は」
すでに脳内で「もふもふの可愛いウサギとイヌ」を思い浮かべて目を輝かせているサクラに、私は盛大な呆れ目を向けた。本当にあの子の「わかった」は一ミリも理解していない事が多い。
「ふふ、でも、そちらの二匹だけなら特に大きな問題はなさそうですが……。他にもいるんですか、スイちゃん?」
「う、うん……。ほかにも、虫系統が、二種類……」
自分で口にしておきながら、背筋にゾワゾワと鳥肌が立つ。
「一匹目は『レディーバグ』。てんとう虫みたいな奴で、放っておくと軽い爆発を起こすらしいから、まあ、これなら距離をとって処理すれば我慢できる。……問題は、もう一匹よ……。ぐ、ぐ……っ」
「ぐ?」
「……『グリーンキャタピラー』……い、イモムシよ。しかもダンジョン産だから、絶対にそこそこ大きいやつよぉおお!」
「ああ……なるほど」
ヒマリがすべてを察したような顔で微笑む。
なんで! うねうね動く系とお化け系だけは絶対に嫌だって、あんなに最初から言っているのに! どうしてダンジョンという場所は、私の嫌いなものをピンポイントで狙い澄ましたように送り込んでくるのよ!
二階層の攻略を前にして、私の心は早くも、イモムシへの恐怖と、それを「ぶっ壊したい」という謎の破壊衝動の狭間で激しく揺れ動くのだった。
『──たりらりら~んのこにゃにゃちわ~! 元気しとったかお嬢ちゃんら……ん? なんやスイはん、一人随分と景気の悪い顔しとるな。送った赤スパの代金にでも文句があったか?』
「違うわよ! そっちはありがとう! AIからそんなものが飛んでくるなんて微塵も思ってなかったから、素で驚いたわよ!」
『あははは! 驚いてくれたんなら良かったわ。んで、何でそないに落ち込んどるんや?』
「スイちゃんね。二階層に苦手な虫系のモンスターが出るって聞いて、体が勝手に拒否反応を起こしちゃってるの」
『……オタク、ほんまなんでダンジョントラベラーなんか目指すようなったん? ダンジョンなんて、いろんな生物からお化けや機械、精霊までごまんと居るで』
「……分かってはいるんだけど! 覚悟も決めてきたはずなんだけど、いざ嫌いなものを目の前に出されると、体が勝手に……!」
『さよか。……う~ん、これ言おうか迷ったけど、言っといたほうが良さそうやな』
おっさんAIの声のトーンが、少しだけ真剣なものに変わる。
『あんなスイはん。このままヒマリはんのバフを使いながらダンジョン探索を続けていくとな、その内【狂化】スキルが発現する可能性が高い。あのスキルは攻撃力は凄まじいけど、防御系主体の騎士スキルとは真逆やねん。今のスイはんはどないな道に進みたいのか、一度考えたほうがエエで』
「……そんなスキル、取れるかもしれないの? 特にスキル系統に強いこだわりがあるわけじゃないけれど……ただ一つだけ、これだけは譲れないわ。サクラやヒマリを怪我させないこと。そのために最適なら、なんだっていい」
私の迷いのない言葉に、おっさんAIは少し間を置いてから問いかけた。
『なるほどな。……今の言葉を聞いて、そっちのお二人さんはどない?』
「私はスイちゃんのお手伝いができればいいです。スイちゃんが私たちのために強くなりたいと言うのなら、私はそれに全力を尽くします」
「サクラも! サクラもスイちゃんのお手伝いするよ!」
『うんうん、ええ関係や。……ほな、一つの提案やけど、スイはん。――「暗黒騎士」を目指さんか?』
「暗黒騎士……? 字面だけ聞くと、なんだか凄く怖そうね」
『まあ字面はな。ただこのジョブスキルは自己バフとデバフを使いこなす単体アタッカーや。今の防御系の騎士スキルから派生型に転向やから相性もそう悪くない。ただ、簡単に言えば「わてが決めた育成ルート」を突き進むことになる。一度手にしたスキルは二度と元のスキルには戻らん。人生と同じや。他人の決めたレールに乗って、自分自身で納得できるか? ちゅう話や』
「……なるほどね。でも、そんなの気にしないわ。結果的に二人が守れるなら、私はどんな道でも乗るわよ」
「私もそうですね。スイちゃんとなら、どんなスキル構成でも付いていきます」
「サクラも良いよ! どんなもんだってドンと来い!」
『……そうか。わての考えすぎか。ならスイはん、ヒマリはんのバフを仰山受けえ。そして狂化スキルでもなんでもエエから、先ずは攻撃系のスキルを発現させるんや』
「分かった。やってみるわ」
『次にヒマリはん。自身にバフを掛けられるようなら掛けぇ、そして前線に出る「殴り魔法使い」のスタイルや。行けるか?』
「……はい。大丈夫です。……ただ、殴り魔法使いという言葉がイマイチ想像できなくて、どう言ったものでしょうか?」
おっさんAIの機体が、空中で派手にコケた。
『なんやそないなことか! 単に「魔法で強化して物理で殴る」ってだけや。後で詳しく説明したるわ』
「お願いします」
『そんでサクラはん。今はそのメモ帳だけで頑張れ。今は金もない。当てもない。モノもないの三三七拍子の状態や。けどな、将来的に魔道書を持ち始めたら、戦場は劇的に変わる。ブックマーカーはクイックスペルの使い手や。色んな魔道書を持ち替え、その場その場で戦略を変え、戦場を支配する、「フィールドコントローラー(戦場支配者)」を目指すんや……。出来るか?』
「わかった! サクラ、やるっ!」
サクラの力強い返事に、おっさんAIは満足げに音を鳴らした。
『そうか。そのための知恵くらいは、わてが全部授けたる。わてから今提案できるのはこないなところやけど、みんな、覚悟はええか?』
「「「もちろんだよ(です)!」」」
こうして私たちは、おっさんAIと共に、自分たちなりの攻略ルートを歩み始めるのだった。
『一応、最終確認として言うとくけど。これからの戦闘で、ゴークくんは基本「切り札」として温存する方向でいくんやな?』
「ええ、そのつもりよ。最初から最後までゴークくんに頼りきりになってたら、私たちの成長にならないもの。本当に危ない時だけの最後の砦になってもらうわ」
『そうか。なら、わてが提案するのは「最強への道」なんかやない。最強なんて都合のええ言葉はな、絶対に信用したらアカン。戦う環境が変われば正解も変わる。わてが教えられるんは、今のお嬢ちゃんらに一番合っとる効率的なお嬢ちゃんたちの攻略法や。ええな?』
「それでも十分よ。何の手がかりもない状態から一から手探りで進むより、ずっと心強いわ。……短い付き合いだけど、これでもおっさんAIのことは信用してるの。私たちのことを貶めたり、裏切ったりは絶対にしないって」
『はは、そうか。……なんや、面と向かって言われるとこそばゆいな。そこまで信用されたんなら、わても全力で応えまひょか。……で、本題やけど、今日もこれからダンジョン探索行くんか?』
「……い、行くわよ。もちろん」
『……スイはん。返事の声、めっちゃ震えとるけど大丈夫か?』
「う、うっさいわね! ちょっと二階層の追加モンスター(イモムシ)のことを思い出しちゃっただけよ!」
思わず声を荒らげる私を見て、おっさんAIは『しゃあないなぁ』と呆れたように笑った。
『そなら、今日は二階層の探索じゃなくて、一階層の「あそこ」にでも行ってみるか?』
「あそこ?」
『この間、わてが言うたやろ。ダンジョン言うんは「滅びた世界の残骸」なんや。ってことはな、その一階層にもその世界の残骸、いわゆる遺跡の跡地みたいなもんが存在する。とは言うても、目ぼしいお宝なんかはもう先人たちに全部拾われ尽くして何もないただの空き地みたいなもんやけどな。戦闘の息抜きがてら、観光に行くにはエエ場所やと思うで』
「なるほど、遺跡の観光か……。どうする? 二人とも」
私が振り返ると、ヒマリが最初に上品に頷いた。
「私はスイちゃんの方針で構いませんよ。今の私たちの状態では、まだ無理に二階層へ行く段階ではないと思いますから。まずは新しい役割の勉強を兼ねて、一階層をじっくり回るのが良いかと」
「サクラはね、遺跡も気になるし、移動中におっちゃんAIから、サクラがみんなの役に立てる方法をいっぱい教えてもらいたい!」
『おう、それなら移動の道すがら、ナンボでも教えたるわ』
「よし、じゃあ決まりね! 今日はその『世界の残骸』とやらに行ってみましょう!」
「おー!」
「お~!」
『案内はわてにまかしとき!』
こうして私たちは、二階層のイモムシから一時撤退しつつ、おっさんAIのナビゲートのもと、一階層に眠るという未知の残骸の跡地へと向かうことにしたのだった。
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