No.16活動記録:【悲報】お宝ハンターのアイちゃん、実家への通報とガチ説教ルートが確定
No.16活動記録:【悲報】お宝ハンターのアイちゃん、実家への通報とガチ説教ルートが確定
こちらに向かってトコトコと走ってきた女性は、西洋風の騎士鎧を身に纏ったブランシュさんとは対照的に、なんと日本の本格的な「侍鎧」を装備した人物だった。
和洋折衷な二人の並びに私が目をパチクリさせていると、その和風鎧の女性は親しみやすい笑みを浮かべて頭を下げた。
「こんにちは! 私はクラン『セイバー』所属のマリアンヌ・伊織です! ミドルネームはあるんですけど、この格好には『イオリ』の方がしっくり合うので、そう呼んでもらえると嬉しいです!」
「あ、はい。そうだ!私たち、まだ自己紹介もしてなかったわね! 私は岸本翠。スイでいいですよ」
「私は言無陽茉莉です。私も、ヒマリでいいですよ」
「サクラはね、神薙桜! サクラって呼んでね!」
『ほんで、わてはおっさんAIと呼ばれとります。そう呼んでつかあさい』
上空からおっさんAIが調子よく割り込むと、イオリさんは「うわぁぁぁ!? 何これ何これっ!?」と一瞬で目を輝かせた。
「すごーーい! なんでこのサポートドローンAI、こんなに流暢に生々しく喋ってるんですかーっ!?」
イオリさんはズカズカと距離を詰めると、ドローンのボディをあちこちペタペタと触り始めた。
『あーーーっ!? ちょっとお嬢ちゃん、そんなにベタベタ触らんといて! わてのメカボディは無傷でもな、中に詰まっとるわての中身のほうがヤバイんや! おっちゃん、若い娘さんに免疫ないから爆発してまう!』
「あ、ご、ごめんなさい! つい珍しくて……猛省します!」
イオリさんは慌てて手を離すと、頭の上でペコリと両手を合わせて絵に描いたような反省のポーズを取った。
(……うん。この人もブランシュさんと同じで、完全に『面白枠』の人だわ)
私が内心で確信していると、ブランシュさんが苦笑しながら話を引き取った。
「それでイオリ、こちらの彼女たちのことだけど……どうやら例のトラブルの被害者みたい。まあ、自分たちでアイリスたちを撃退してしまったみたいだけどね」
「まったく、あの二人は何度言われたら惩りるんですかね!? やってることが完全に悪質な『初心者狩り』と変わらないですよ!」
激しく憤るイオリさんの横で、ヒマリがふぅ、と静かに、しかしどこか冷ややかな溜め息を吐いた。
「すみません。アイちゃんには、私の方からも実家に連絡して、きっちりと注意しときますので」
「え? ヒマリさん、アイリスたちとお知り合いなんですか?」
「はい。私の従妹です」
「そうですか! それならぜひ、そちらの手から対処をお願いしますね。あまりにも目に余る行為が続くようなら、私たちとしてもあまり使いたくない手段ですけど、地上での『法的手段』も取らざるを得なくなりますから」
「わかりました。……二度とこんな真似ができないよう、きっちり、みっちり、お話しておきますね(ニコッ)」
あ、ヒマリが本気でやる気だ。
ヒマリの背後に、どす黒いオーラのようなものが見えた気がした。アイ、ご愁傷様。
ヒマリは普段はおっとりとして大人しいけれど、いざ怒るとなったら一番冷徹に容赦なくやる側の人間だ。アイの『ガチ説教&実家への強制通報ルート』が確定した瞬間だった。
その後、ブランシュさんたちセイバーの二人は見回りのパトロールに戻るとのことで、私たちはそこで別れた。
彼女たちの後ろ姿を見送りながら、私はさっきから疑問に感じていたことをおっさんAIに尋ねてみる。
「ねえ、おっさんAI」
『なんや? スイはん』
「さっきの会話、ちょっと気になったんだけど……。おっさんAIは『ダンジョン内には法がない』って言ってたじゃない? でもブランシュさんは『法的手段に出る』って言ってたわよね。あれはどういうこと?」
『あー、あれな。完全な無法地帯ってわけや無いねん。きっちりかっちりした「ダンジョン専用の法律」がないだけで、トラベラーを守るための最低限の規約とか、一線を越えたアホを地上に戻った後に裁くためのルールは一応あるで。まあ、その辺は普通の一般常識を持っとる善良な市民なら何も問題ないことやから、スイはんたちは気いせんでも平気やで』
「そうなんだ。まあ、それなら安心かな?」
少しホッとしたものの、途端に全身から緊張の糸が切れ、ずっしりとした疲労感が押し寄せてきた。
「……でも、何はともあれ、今日は疲れすぎてこれ以上の探索どころじゃないわ。頭も身体もヘトヘトよ」
「そうですね。今日は大人しくおうちに帰りましょうか、スイちゃん」
ヒマリが優しく微笑む。
「そうだね、帰ろっか。サクラも、もう今日は帰ってもいい?」
「うん! スイちゃんが良いなら、サクラは全然かまわないよ!」
『なら、今日の配信用記録はここまでにしまひょうか。お疲れさんや、お嬢ちゃんら』
こうして、私たちの三回目となるダンジョン探索は、マーケットでの買い物と、新しい魔法の検証と、お宝ハンターとの突発的なトラブル対応だけで終わってしまったのだった。
☆★☆★☆
――ダンジョンギルド十王市支部、最下層・特別研究室。
地上に戻ったトラベラーたちの熱気で賑わうギルドの遥か地下深く。一般人の立ち入りが厳重に制限されたその部屋で、いくつもの大型モニターに映し出される膨大なデータを目で追いながら、高速でキーボードを叩く男がいた。
ギルド研究員、大文字。――またの名を、おっさんAIの中身の人。
彼の目の前の画面には、先ほどまで同期していたサポートドローンが記録した、スイたちの鮮明な探索映像が映し出されていた。
「……それにしても、スイはんのこの戦闘時のタガの外れ方、完全に癖になっとるかも知れへんな」
大文字は顎に手を当て、画面の中で伸縮バトンを狂ったように振り回して骨を粉砕しているスイの姿を見て、ニヤリと口元を歪めた。
「このままの戦闘スタイルで行けば、近いうちにスキル派生で『狂化』を引っ提げてくるかも分からん。……ベースのジョブは一応『騎士』のはずやのに、狂化持ちって。ほんまにガチの狂戦士への道に進みかねんやん、この娘。まあ、あれはあれで屈指の近接特化型ジョブスキルやしな。あとは本人次第か」
ブツブツと独り言を呟きながら、映し出されていたスイの戦闘データを別フォルダに格納し、次にヒマリの映像へと切り替える。
「問題は、ヒマリはんの方やなぁ……。やっぱり、ギルドの過去のアーカイブをいくら探しても、あの『長文詠唱スキル』からのさらなる派生進化はどこにも見当たらへん。何てったって初期スキルやしなぁ……。本人のモチベーションのためにも何とかしてやりたいけど、こればかりはシステムの仕様やからなぁ。……『今度、殴り魔法使いとして前線でやってく気ぃあるか?』って直接聞いてみるか? いや、まぁ、今のチームにはゴークくんがおるし、そこまで無茶な前衛特化にする必要性もないか」
ヒマリの支援能力の高さと、今後の育成方針について真剣に頭を悩ませる。
そうしてヒマリのログの精査も終えると、最後に、サクラがメモ帳をパラパラと捲っている映像をスロー再生した。
「最後はサクラはん、か。……実は、あのお調子者の性質が『クイックスペラー(高速詠唱者)』の才能に一番噛み合っとるから、三人のうちで最も化ける可能性を秘めとるんやけどな。……ただ、自分があんまり先回りして指示を出して、彼女の戦い方を固定させたくはないねん。サクラはんはサクラはんの、あの予測不能な個性のまま行けばええ。そうなると、課題はあのメモ帳の使い方やな。そないにエネルギーの総量があるわけやない。あの容量やと、連続で魔法を五発も撃てれば御の字か……。クックッ……おもろい、おもろいがな。制限がある方が、攻略しがいがあるちゅうもんや」
大文字は満足げに目を細めると、再びカタカタと凄まじい速度でキーボードを打ち込み始めた。サクラのメモ帳のチャージ効率をリアルタイムで監視し、次の探索時に最適化するためのひそかなサポートプログラムを構築していく。
ひと通りの業務(と趣味の観察)を終えた大文字は、ふと思いついたように、個人の端末を操作してネットの動画サイトを開いた。画面に表示されたのは、スイが開設したばかりの、まだまだ登録者の少ない新米配信チャンネルだ。
「後でスイはんの配信チャンネルに、公式アカウントから『OSSAN・AI』名義で赤スパチャ添えて応援メッセージでも送っとこう。次の配信の時、画面に変な名前のリスナーがおるって、きっと目ぇ丸くしてビックリするやろな」
一人きりの研究室で、悪戯が成功した子供のようにケタケタと楽しげに笑う大文字。
薄暗い部屋の光に照らされながら怪しく笑うその姿は、端から見ればただの『かなりヤバイ人』にしか見えなかったが――その瞳の奥には、新米トラベラー三人娘の未来を楽しみに待つ、確かな温かさが宿っていた。
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ユーザー名:嘉数尚太
XID:@kakazue8oyof




