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No.15活動記録:バーサーカー無双のあとは、激しい黒歴史(悶絶)タイム」




 No.15活動記録:バーサーカー無双のあとは、激しい黒歴史(悶絶)タイム」




 「ちょ、ちょっと何よこいつぅううーーーっ!? アマゾネスか何かなのっ!?」


 真っ白なロリータ風の服をひらひらさせながら、アイが悲鳴を上げた。


 無理もない。彼女たちが自信満々に召喚した『冥界より這い出ずる白銀の軍勢レギオン・オブ・ハデス』――そのおぞましい骸骨スケルトンたちが、いまや一方的な蹂躙を受けているのだから。


 「ああん! やっぱりただの骨だから、叩かれたら脆くて弱いぃー!」


 エリカが色っぽい声で嘆く。


 『……うん、これは完全に大丈夫そうやな。えらい大物ぶって現れたから、どんな高レベルのトラベラーかと思えば、蓋を開けてみればスイはんたちと似たり寄ったりの実力や。むしろ、一方的にボコボコにされとる相手の骨のほうが可哀想になってくるレベルやで。見てみぃ、頭蓋骨が景気よく文字通り粉砕されとるわ』


 「あははは、あはははは! あっはっはっはっはっ!!」


 おっさんAIの冷静な解説の裏で、花畑にはおよそ女子高生のものとは思えない狂気の高笑いが響き渡っていた。


 ヒマリの「焔の火種フレア・シード」によって完全に理性のリミッターが消し飛んだ私は、伸縮棒クラブをこれ以上ない速度でビュンビュンと振り回し、迫り来るスケルトンたちを片っ端から殴り倒し、文字通り『塵』へと変えていく。


 「ヒマリ! あんたの友達、一体何なのよぉ!? もしかして前衛特化の『狂戦士バーサーカー』のジョブでも持ってるの!?」


 「スイちゃんはね、虫とかお化けとか、いろいろ嫌いなものがたくさんあるの。それでね、ヒマリちゃんの魔法を受けると、恐怖心を克服してああなっちゃうんだよ!」


 物陰から、サクラがアイの疑問にドヤ顔で答えてあげる。


 「克服の方向性が絶対におかしいでしょうがこれっ!? どう見てもヤバイ何かに憑りつかれてる動きよぉ!」


 「アイリス、もうダメ、これは本気でヤバイわよ……っ! 早く逃げないと、私たちまで私の下僕(骨)たちと同列に扱われてボコボコに殴り倒されるわよ……ッ!」


 「くぅぅ……っ! 今日のところは見逃してあげるわ! 覚えていなさいよー!」


 「じゃあまたね! 私の配信番組も良かったら見に来てねー! よろしく~♥️」


 エリカがちゃっかり色っぽい(?)投げキッスの捨て台詞を残し、二人は脱兎のごとく、回れ右をして花畑の向こうへと猛ダッシュで去っていった。


 ……が、そのすぐ直後。


 遠くのほうから「アイリス!?ん?アナタまた別のトラベラーと問題起こしたわね!今日と言う今日はお説教だけじゃ済まさないわよ!」「げぇっ、セイバーのブランシュ!? エリカ、まだ走るわよ!」「嘘でしょぉー!? もう足が限界なのにぃいー!」という情けない騒ぎ声が聞こえてきた。どうやら逃げた先で別のトラベラーたちに見つかり、そちらからも必死に逃げ出して、ダンジョンの彼方へと完全に消え去ったようだった。


 ――そして、嵐のような乱入者が去った花畑に残されたのは。


 「あああああああぁぁぁぁっ!!!」


 すべてのスケルトンを叩き壊し、もはや殴るべき標的を失い、青空に向かって獣のような咆哮を上げる、狂戦士と化した一人の少女(私)の姿だけだった。


 『……まぁ何にしても、配信の的にはめちゃくちゃおもろいシーンにはなったなぁ』


 「スイちゃん、後で正気に戻ってこの映像を見たら、涙を流しながら反省と激しい後悔に悶えると思いますので……AIさん、カットしてあげられるところは、どうか優しくカットしてあげてくださいね?」


 『ガッテン承知や。相変わらず友達思いやな、ヒマリはんは』


 「あ、スイちゃんの動きが止まったよ」


 サクラの言葉通り、天を仰いでいた私の身体から、すうっと力が抜けた。


 そのまま私は地面に両膝を突き、何やら凄まじい「自分の黒歴史」に苦しむかのように、両手で顔を覆って芋虫のように身悶え始めたのだった。


 「ふふ、それではスイちゃんを慰めに行きましょうか」


 「……うう。結局、サクラは今回なにもしてなかったなぁ」


 ヒマリについて歩き出しながら、サクラはぽつりと不満を漏らした。


 『それは仕方のないことや。サクラはんのそのメモ帳は、さっきの連発でいま完全にエネルギー切れ(チャージ中)やからな。かと言って、あの程度の相手にゴークくんの主砲を使うたら、流石に過剰防衛でギルドからお叱りを受けてまうわ。今回はスイはんのワンマンショーで正解やったんや』


 「むぅー……」


 サクラは両頬をぷくーっと膨らませて、なんとも釈然としない気持ちで、悶絶している私の背中を見つめるのだった。


 「はいはい。スイちゃん、平気ですよ。もう終わりましたからね。怖くありませんよー」


 地面に膝を突き、両手で顔を覆って芋虫のように悶絶している私の背中を、ヒマリがポンポンと優しく叩いてあやす。


 「ううっ……もうやだ、帰りたい……。なんでダンジョンって、虫とか幽霊とか骨とか、私の嫌いな怖いものばっかりウジャウジャいるのよぅ……」


 「でもスイちゃん、ダンジョントラベラーとしての活動も、配信も、本当はここで止めたくはないんでしょう?」


 「……うん」


 ヒマリの言葉に、私は顔を覆ったまま、小さく首を縦に振った。


 初めはただの憧れだったかもしれない。だけど、こうしてヒマリやサクラが文句も言わずに一緒についてきてくれているのだ。リーダーである私が、自分からこんなところで投げ出すような格好悪い真似は絶対にできない。


 「私たちがずっと隣で応援しますからね。これからもみんなで一緒に、がんばって行きましょう?」


 「……うん。ありがとう、ヒマリ」


 ようやく顔を上げ、涙目でヒマリの手を取る。


 完全にただの痩せ我慢であることは百も承知だが、これは自分で決めた道なのだ。


 『おおーい。もうメンタルのほうは平気かいな? スイはん』


 「……ええ、大丈夫よ。何の問題もないわ」


 上空から心配そうに覗き込んでくるドローンに、私は衣服の泥を払いながら、きっぱりと言い放った。


 すると、それまで後ろでモジモジと指をいじりながら地面を蹴っていたサクラが、意を決したように私の方へ一歩踏み出してきた。


 「スイちゃん。……サクラも、なにか強い攻撃手段がほしい!」


 「ええ!? 急にどうしたのよ、サクラ?」


 唐突なサクラの訴えに私が目を丸くすると、おっさんAIが上空から補足を加える。


 『あー、さっきの戦闘でサクラはんだけ何もせぇへんかったからな。自分が足手まといになっとるようで、少し責任を感じとるんやろ』


 「そんなことないわよ、サクラ! サクラが横にいて、笑顔でいてくれるだけで十分ありがたいし、チームの癒やしになってるんだけど!」


 「それでも、何かしたいの! サクラ、スイちゃんとヒマリちゃんと一緒に、ちゃんとダンジョン探索をしてるんだから。ただ守られてるだけじゃ嫌だもん!」


 「サクラ……」


 まっすぐに私を見つめるサクラの瞳は、いつになく真剣だった。ただのワガママではなく、私たちの力になりたいという彼女なりの本気の友情なのだと伝わってきて、胸の奥がじんと熱くなる。


 『いやぁ、ええ話やなぁ……。これぞ青春の美しい友情や。おっちゃん、ちょっと感動してもたわ。そなら一肌脱いで、わてがなんとかしたろう!……って言いたいところやけどな。見ての通りわてのボディ、メカドローンやから「無い袖は振れん(物理)」のや。その代わり、サクラはんのメモ帳の可能性とか、何かお嬢ちゃんらに有用性がありそうな攻略情報くらいは、ギルドのデータの海から死ぬ気で探しといたるわ』


 「ホント!? おっちゃんAI、ありがとうー!」


 サクラが一瞬でパァッと満面の笑みを咲かせる。


 『エエって、エエって。それがサポートAIとしてのわての役割やからな。……あ、それでや。感動の友情シーンの最中に非常に言いづらいんやけどな?』


 おっさんAIのドローンが、レンズを花畑の奥の側へと向けた。


 『さっきのゴスロリお嬢ちゃんらを追いかけ回しとった、別のトラベラーの一団な。……どうやらアイリスたちの足跡を追って、今度はこっちのエリアに戻って歩いてきとるみたいなんやけど、どないする?』


 「えええ……っ!? もう勘弁してほしいんだけど……!」


 ようやくバーサーカー状態から正気に戻って、感動的な友情パワーで持ち直した直後である。


 このダンジョン、一体どれだけ私たちに次から次へとトラブルを押し付ければ気が済むのだろうか。私は早くも、今日何度目か分からない深い溜め息を吐きそうになるのだった。


 おっさんAIの警告から間もなく、花畑の奥の方から一人の女性がこちらへと歩いてきた。


 どこか軽装な、しかし洗練されたデザインの騎士鎧を身に纏った、凛とした佇まいの美人さんだ。彼女は私たちを見ると、敵意がないことを示すように両手を少し上げ、穏やかな声で話しかけてきた。


 「失礼します。私、クラン『セイバー』所属のブランシュ・アルバと言います。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


 『なんや、おたくセイバーの人間かいな。お嬢ちゃんら、心配せんでエエみたいやで。こいつらは味方や』


 「セイバー? ええっと……それって有名なクランなの?」


 私が首を傾げると、ドローンが私の横で体を回しながら解説を始めた。


 『知らんか? セイバー言うんはな、先程わてが言った通り、ダンジョン内は治外法権みたいなもんやろ? そこで初期のダンジョントラベラーたちが「自分たちの身は自分たちで守ろたろう」って作られた、歴史のある自警団みたいな組織や。今ではギルド公認で、ダンジョン内のパトロールやトラベラーの救助、いさかいの仲裁なんかを主にやっとる正義の味方やな』


 「……凄いですね。そちらのサポートドローンAI、そんなに流暢に喋る個体は初めて見ました」


 ブランシュさんが少し驚いたように目を丸くする。


 『凄いやろ。ボディはボロくても、心は最新のAIや。あんじょうよろしゅうな、お姉さん』


 「それで、そのセイバーの……」


 「アルバ、と。もしよろしければ、堅苦しいのでブランシュと呼んでください」


 「じゃあ、ブランシュさん。えっと、私たちにどういったお話でしょうか?」


 私が尋ねると、ブランシュさんは少し真剣な表情になって、ブランシュさんが来た方向を指差した。


 「先程、要注意トラベラーの『アイリス』たちが、かなりの大慌てでこちらから走り去っていくのが見えたのです。もしや、彼女たちと何かトラブルがありましたか?」


 「トラブルと言えば、トラブルというか、完全に事故ね」


 『そうや、完全に当たり屋の事故や。こっちのお嬢ちゃんらが連れとるガーディアン(ゴークくん)をタダで寄越せ言うてきてな。嫌や言うたら「戦って負けたら力ずくで奪う」や。まったく、ダンジョンができてそれなりに経つのに、未だに政府がしっかりした法案を決めへんから、ああいうルール無用のバカが後を絶たんのや』


  おっさんAIの愚痴を聞いて、私はふと、前々から疑問に思っていたことを口にしてみた。


 「そういえば……ダンジョンがこの世界に現れてから、もう三十年近く経つんでしょう? なんで未だにダンジョンの中って、そんな無法地帯のままなのよ」


 『それはな……その方が都合がエエ連中が多いからや』


 「都合がいい?」


 『せや。ダンジョン内で見つけたお宝は、基本的には「最初に見つけた者のもの」や。それをギルドに売ろうが自分で持ってようが、そいつの自由。危険な魔導書とかは別やけどな。……じゃあ、そのお宝をどうしても欲しがっとる大金持ちや権力者が地上におる時、もしダンジョン内の法律がガチガチに整備されとったら、どないなると思う?』


 「え? お互いに話し合いで解決する……とか?」


 『残念、大外れや。持って帰ってきた後なら話し合いもできる。でもな、話し合いに応じん奴や、そもそも地上に持って帰ってこん奴も居る。そうなった時、法律の網の目を潜り抜けて「地上で力ずくで奪う」なんて奴らが出てくる。そうなったら、安全なはずの外の世界(地上)まで無法地帯になってまうやろ? だからあえて、ダンジョンの中だけを臨時の無法地帯(ガス抜き穴)にしとるんや。利点もあれば難点もある、それが実情やな』


 「なるほど……」


 おっさんAIのやけに現実的な大人の話に、私が複雑な表情をしていると、ブランシュさんが苦笑交じりに口を挟んだ。


 「まあ、そちらのAIさんのお話は、だいぶマイルドに濁されてますね。私が先輩方から聞いた歴史ですと、初期のダンジョン探索時には、お宝の奪い合いで殺人など日常茶飯事で起こっていたそうですから。……あ! もちろん、今は無いですよ!? 私たちセイバーがそんなことは絶対にさせませんから!」


 『……ちょっと、ブランシュお嬢ちゃん。せっかくわてが未成年の彼女らに配慮して生々しい話を誤魔化したのに、ガチな暗黒歴史をぶっ込んでどうするんや。もうちょい大人の事情はオブラートに包んでやってや』


 「あ、そう、ですよね……。子供たちの前で不適切な発言をしてしまいました、反省します……」


 凛とした見た目に反して、ブランシュさんは分かりやすくシュンと肩を落とした。意外と生真面目で押しに弱いタイプなのかもしれない。


 そんな私たちのやり取りの最中、遠くから別の凛とした声が響いてきた。


 「ブランシュさーーーん! そちらの状況はどうですかーーーっ?」


 「あ、イオリ! ごめんなさい、こっちはまだ確認中で――」


 「では、私もそちらに合流します!」


 どうやら、彼女の仲間がこちらに向かって走ってきているようだ。


 私は小さくため息をつきながら、伸縮棒をシャキッと縮めてポケットに収めた。


 「はぁ……。なんだか今日は、本当に千客万来な日ね……」


 トラブルメーカーのロリータコンビが去ったと思えば、今度はダンジョンの治安維持組織の面々。私たちの新米ダンジョン配信生活は、どうやら思った以上に波乱万丈なものになりそうだった。






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