No.12活動記録:不完全な魔道機人形と、新たな配信の道標
No.12活動記録:不完全な魔道機人形と、新たな配信の道標
「……もしもし、ヒマリ? そっちの様子はどう?」
私は歩きながら、携帯電話でヒマリに連絡を入れた。
『あ、スイちゃん。こちらは……まだちょっと時間が掛かりそうです』
電話口の向こうから、ガヤガヤとした騒がしさに混じって、あのおっさんAIの聞き覚えのある「怒鳴り声」が聞こえてくる。
『――やからな! 嘘つくな! わては嘘つきが大っ嫌いなんや!』
「……はぁ。やっぱり、案の定迷惑を掛けてるのね」
私は深々と溜め息を吐き、現在地を教えてもらうと、「わかった。すぐ行くから動かないで!」と言って電話を切った。
人混みをかき分け、悪態を付きながら目的地へ急ぐ。
「……まったく。なにやってんのよ、あのおっさんAIは……」
目的のブースに到着し、私は人垣の向こうにいるヒマリとサクラを探した。
「あ、スイちゃん! こっちこっち!」
「サクラ、ヒマリ! ……で、あのおっさんAIはどこよ?」
「あそこ」
サクラが指差した先を見て、私は自分の目を疑った。
……え? どうなってるの、これ。
「……ねえ、一体どういう状況? さっきまで店員さんにブチギレてたんじゃなかったの?」
「んーとね。おっちゃんAIが店員さんに激しく文句を言ってたんだけど、そのうち……ええっと、何だっけ?」
サクラが横にいたヒマリに視線を送ると、ヒマリが苦笑いしながら補足した。
「鑑定士の方ですね。AIさんが『わてを騙せると思うな、さっさと鑑定士を連れてこい!』と文句を言いまして」
「……どこぞの美食家気取りなのよ、あのAIは。で、それがどうしてああなってるのよ」
そこには、バスケットボール大のドローンと、黒髪ロングの凛とした女性が、あろうことか抱き合って、ぐるぐるとその場で楽しげに回転している光景があった。
『いやぁ、姉ちゃんやるやんけ! この解析結果は、わてもびっくり仰天したで!』
「いやいやいや! 私もビックリしたよ! まさかAIに鑑定の細部まで突っ込まれるなんてね。人生、何が起こるかわからんけんねぇ!」
端から見れば、機械と人間が奇妙なダンスを踊っているようにしか見えない。私は半ば呆れながら、二人に声を掛けた。
「……おっさんAI! そろそろこっちに状況説明してくれない? あんた何やってるのよ」
『おっ、スイはん! 帰ってきたんか! 丁度ええ、お嬢さん方もこっち来たってや!』
ドローンが空中で手を振る(ような動きをする)ので、私たちは恐る恐る近付いていった。
「んー、この子達がさっき話してた子達?」
『せやで。スイはん、ヒマリはん、サクラはん。こっちは、ここの鑑定を専門にやっとる……』
「鑑定士の『風月堂 紫水』やっちゃ。よろしくね」
女性は私達を見回して、ニカっと人懐っこい笑みを浮かべた。年齢は二十代の前半、見た目はクールな美女なのに、どことなく醸し出す雰囲気が親しみやすい。
どうやら、おっさんAIの「値切り(という名の鑑定論争)」は、このシスイさんという女性を呼び出したことで「技術交流」へと昇華されたらしかった。
「それで……結局どうしてそんなに仲良くなってるわけ? 誰か私にわかるように説明して」
私はこめかみを指で押さえながら、おっさんAIとシスイさんに説明を求めた。
『まあ、いっちゃん最初は、ここに置かれてる「ガーディアンの卵」の選別から始まった話や』
「さっき受付ロビーで話してた、アタッカー用の卵ね」
『せや。わてがこの高性能レンズでばっちりガッチリ鑑定をして選んどったんや。そしたらな、並べられとる商品の中に、明らかに不自然なエネルギー波長を出しとる卵がひとつ混ざっとったんや』
「……ちょっと、ひとつ聞いていいかしら。それってやってること、クジ箱の中身を透視して当たりクジを探すレベルの不正行為じゃないの? 店員さんに怒られなかったわけ?」
『怒られるわけないやろ! 普通に目利きで鑑定するのと一緒、一緒! なぁ、姉ちゃん?』
「そうそう。鑑定の時に中身がどうしても分からない時は、エックス線とかスキャンを使って調べたりするのは普通のことやし。問題ないって言えば、問題ないないっちゃねぇ」
鑑定士のシスイさんは、あっけらかんとした様子でドローンの体をぽんぽんと叩き、同意の笑みを浮かべている。
……もしかしてこの二人、ただの「類は友を呼ぶ」的な似た者同士なだけなんじゃなかろうか。
『そんでな、その卵のエネルギー波長は、どう見ても『低レアモンスター』の波長と同一やったんや。それやのに、店に貼られとる売値は『高レアモンスター』の価格になっとった。やからわては「このボッタクリ店が! 初心者を騙して不良品掴ませる気か!」って騒いで、店員を泣かせてたんや』
「……そこは完全に自覚があるのね。迷惑だから止めなさいって言ったのに」
「まあまあ、そこで私が登場したわけっちゃ。その卵の本来の鑑定結果を踏まえて、こっちの物知りなAIくんに親切丁寧に解説してあげたんだよねぇ」
『その説明を聞いて、わても改めて別角度からスキャンし直して合点がいったわ。これ、ただの低レアやなくて『擬態』しとるんやて』
「擬態……?」
「そう、擬態! モンスターの中にはね、自分の身を守るためにエネルギー波長をわざと弱く見せかけたり、ただの置物に化けたりする種類がいるっちゃよ」
「あ、サクラ知ってる! そういうのって、宝箱に化けてる『ミミック』っていうんだよね!」
「『 正解! 』」
おっさんAIとシスイさんが、息ぴったりに揃ってサクラの答えにシスイさんは両手で大きな丸を作った。
「なるほどね、ミミック。……それで、そのミミックってやつは、ガーディアンとして強いの?」
『うーん、強さで言ったらぶっちゃけ『そないにでもない』なぁ』
「そうだねぇ。基本は宝箱とかに擬態して、近づいてきた冒険者をぱっくんちょするだけのモンスターだから。最初から擬態だって分かってたら、いくらでも対処の仕様があるしねぇ」
私はじっと二人を見つめ、深呼吸をしてから、一番大切な質問を投げかけた。
「……じゃあ、確認だけど。その卵から生まれるモンスターは、今の私たちに必要な『頼れるメインアタッカー』になるの?」
「『 ぜんぜん 』」
「…………」
あまりにも綺麗な二重奏での即答に、私は本格的に頭痛がしてきた。
ぜんぜん必要ない。アタッカーにもならない。
……だったら、いったいこの目の前の専門家(人間と機械)たちは、さっきから何のために大騒ぎして、何のために意気投合して抱き合って回っていたのだろうか。
「……じゃあ、そのミミックは、私たちに必要な戦力にはならないってことね」
私はため息をつきながら、おっさんAIとシスイさんに視線を向けた。
『はっきり言うて、ミミックは「待ち」のキャラや。罠を張って獲物を待つような戦い方ならともかく、お嬢さん方が望むような「突き進んで探索する」スタイルには全く向いてへんわ』
「ええ。私たちは道を切り拓いて進む方針だし」
「じゃあ、この卵は今回お見送りってことでいいっちゃね?」
「……そうしましょう。せっかく卵を選別してもらったのにごめんなさい」
私はいったい何のために、わざわざここへ買い出しに来たんだろう。……と、本気で脱力しかけたその時。
「待って待って! せっかく来てくれたんだっちゃから。代わりに、とっておきの良いものを見せてあげるよ」
シスイさんが、どこか悪巧みをしているような、人を食った笑みを浮かべた。
彼女は「しばらく待っててね」と言い残して店の奥へと消え、やがて両手で抱えるようにして、何やら重厚なアタッシュケースを持ってきた。
「じゃーん! これちゃよ」
ゴトリ、とカウンターに置かれたのは、三十センチ四方ほどの金属製のアタッシュケース。彼女が口で「ばーん!」と効果音を鳴らしながら蓋を開けると、中にはクッション材に守られた、何かの「パーツ」が丁寧に収められていた。
『お、ま……!? これ、まさか「魔道機人形」か!?』
「魔道機人形……?」
「ウンウン。さすがAIくん、よく知ってるっちゃね。これはダンジョン産の古代兵器、わかりやすく言えば『ダンジョン産ロボット』が一番イメージに近いかな?」
ロボット。その響きに、思わず心拍数が跳ね上がる。
ケースの中身は、全身鎧のミニチュアのような、無機質で重厚な造形をしていた。ただ――。
「この子、頭と腕がないね。どうして?」
サクラが不思議そうに首を傾げた。シスイさんは「たはは……」と苦笑いする。
「パーツが全部揃ってないっちゃよ。今も懸命に探してはいるんだけど、まだダンジョンから見つかってないパーツが多くてねぇ」
『それだけやあらへんやろ。一番肝心な「内臓武装」は、あるんか?』
「あるよ。胸のコアに高出力のエネルギー波砲がね」
『……エネルギー数値は?』
「1500万DP」
『…………いくら!?』
「今ある手持ちでいいよ、サービスしておくっちゃ」
『買った!! スイはん、金や! 今すぐ払って、この姉ちゃんの気が変わらんうちに引き取ってしまうんや!』
おっさんAIが狂ったように叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 説明が足りないわよ! 波砲とかDPとか、何の話なの!?」
「エネルギー波砲はビームみたいなものだと思って。……で、1500万DPっていうのはね」
『簡単に言うたら、出力の単位やな。1500万っていうのは、最上位とは言わんけど、間違いなく上位クラスに食い込むエネルギー量や。普通に動かせるなら、この人形だけでダンジョン一踏破してまうレベルやで!』
「そんなにすごいの……?」
『サクラはんのメモ帳、1500万回殴るようなもんだと思えば、その異常さがわかるやろ?』
「……ごめん。余計にわからなくなった」
あまりに規格外の数字に、もはや想像力すら追いつかない。銀玉鉄砲1500万発とか例えられても全然想像がつかない。
「……ただまあ、正直に言うとね。現時点では、そこまでの出力は出せないことが確認されてるっちゃよ」
『なんやて!? わてらを騙すつもりやったんか!?』
「落ち着いて! 騙すなんて人聞きが悪いねぇ。全部揃えばそれだけの力が出るって話。……ねえ、お嬢さんたち。君たちはただのトラベラーとしてだけじゃなく、配信者としても働くんじゃなかったっけ?」
シスイさんが、魔道機人形の胴体を指差す。
「この子を完成させるためにダンジョンを巡る。それを配信すれば、ただの攻略よりずっと面白いドラマになると思わない?」
……なるほど。言われてみれば、確かに良い案だ。
私はサクラとヒマリに視線を送った。二人は顔を見合わせ、小さく、けれど力強く頷いてくれた。
私の心は決まった。
「わかりました。その魔道機人形、買わせていただきます」
「まいどあり!」
シスイさんは両手で大きな円を作って、ニカッと笑った。私たちの新たな冒険の「目標」が、この欠けた人形に決まった瞬間だった。
「X(旧Twitter)にて今回登場した紫水さんのイメージ画像を公開してます。
アカウント名:嘉数尚太
ユーザー名:@kakazue8oyof




