No.11 活動記録:店員が泣くまで終われない! ダンジョンマーケット狂騒曲
No.11 活動記録:店員が泣くまで終われない! ダンジョンマーケット狂騒曲
『さて、サクラはん。そのメモ帳がなんで今後の実戦で「あまり役に立たん」のか、ちゅう話やな』
「きっちりサクラにわかるように説明してよね、おっちゃん。納得いかなかったらサクラはここで大泣きするよ?」
『そ、それだけは勘弁したってや! ギルド内で女子高生に泣かれたら、わてがどんな目で見られるか分かったもんやあらへん……。ええか、順を追って分かりやすく説明したるわ。まずそのメモ帳やけどな、どんなに『存在進化』したと言うても、元が「最底辺」のアイテムやったんや。それが一個上の「最低」に繰り上がった程度。やからこそギルドに没収もされんと、個人所有が許されとるわけやな』
「でも、この間の戦闘ではモンスターをバンバン倒してスイちゃんを助けてくれたよ?」
『まずはそっからの話をしようか。どこのダンジョンでも言えることなんやけどな、そもそも「一階層」ちゅうのはトラベラーのためのチュートリアルステージ(練習場)なんや。やから、そこに出てくるモンスターは基本、目茶苦茶に弱い。どれくらい弱いかと言えば、慣れた人間ならデコピン一発でのしてしまえるくらいに弱いんや』
「……ちょっと、おっさんAI」
私は引き攣った笑みを浮かべながら、ドローンをジト目で睨みつける。
「私の立場が1ミリもなくなるから、そのデコピン一発とかいう表現は今すぐ止めなさい」
『すまんすまん、スイはん! 別にスイはんを貶めとるわけやないねん! この間みたいなモンスターのバーゲンセール、喧嘩慣れしとる奴や格闘技の有段者なら普通に対処できるっちゅう話や。ずぶの素人の女子高生があないに囲まれたら、そらパニックになってボコボコにされるのが当たり前。あれは配信の画的には最高におもろいシーンやったけど、スイはんは単純に運が悪かっただけやから気にせんでええ!』
「フォローになってるんだか、なってないんだか……」
私が溜め息をつくと、ドローンは空中でくるくると楽しげに一回転し、ピタッとサクラの正面で停止した。
『んで、サクラはんが奇跡的な偶然で呼び出したあの「棒人間」や。わてが後から戦闘の画像解析をした結果……ぶっちゃけ、あのパンチやキックの威力は「銀玉鉄砲」と同レベルやな。当たればそれなりに痛いし、目ん玉とかの当たり所が悪ければなお痛い。――現状、その程度のもんなんや。さらに致命的なのは、あの棒人間の攻撃パターンが『完全に決められた固定動作』しか行っとらん点やな』
「決められたパターン……?」
『せや。多分やけど、サクラはんがそのメモ帳に描いたパラパラマンガの動きを、そのまま現実でトレースして行動しとるんやろ。「右パンチを出したら、次は左パンチ、その次は回し蹴り」といった風にな。これは先の階層へ進むとなるとアカン問題や。敵を見つけたら自動で索敵して攻撃してくれる機能自体は優秀やけど、行動パターンが完全に固定化されとるなら、敵に動きを読まれたら終わりや。一階層の頭の悪いモンスターならともかく、二層、三層ならギリギリ誤魔化せても、四階層からは全く通じへんようになる』
「うぅ……じゃあ、サクラはやっぱり、これからも役立たずのままなの……?」
サクラがピンクのメモ帳を胸に抱きしめ、しゅんとウサギのように耳を垂らす(幻覚が見える)。
『誰もそこまでは言うてへんよ、サクラはん。そのメモ帳も使い方次第や。純粋な火力としては弱いが、「嫌がらせ」や「盤面のコントロール」程度には十分使える。……サクラはん、そのメモ帳に『文字』を書いて、クイックスペル(高速ページ捲り)を発動させたことはあるか?』
「ううん、してない。絵しか描いてないよ?」
『なら、今度ダンジョンに入ったら試してみるとエエわ。わての学術的な勘やけどな、そのメモ帳の白紙のページに「炎」とか「弾丸」とかの単語を書いてクイックスペルを使ってみい。多分やけど、簡易的な『炎の弾丸』が発現して飛び出すはずや』
「本当!? 文字を書くだけで魔法が出るの!? だったらそれ、すっごく強くない!?」
一転してパッと表情を輝かせるサクラ。しかし、おっさんAIは「まあまあ」と体を小刻みに傾けた。
『慌てるなんとかは行き遅れる、言うやろ。さっきも言うた通り、そのメモ帳はどこまでいっても最低レベルのアイテムや。どんなにサクラはんのスキルで使い方の幅を広げたとしても、元々の出る出力(威力)以上は出ぇへんし、効果も薄い。要するに、ちょっと熱い火の粉がピピッて飛ぶ程度やな』
「ええ〜、もうサクラ、どうすれば良いかわからなくなってきたよぅ……」
『そこで、わてからの「本命のお勧め」の話になるわけや。今のスイはん、ひまりはん、サクラはんの三人パーティに決定的に足りてなくて、かつ、これから絶対に必要になるもの……それは「ガーディアン」や!』
「「「ガーディアン?」」」
私たち3人は、見事なまでにハモりながら揃って首を傾げた。
『せや、ガーディアン。読んで字のごとく「守護者」やな。これもピンからキリまであるんやけど、一般的なモンスタータイプのモノもいれば、ダンジョンの力で動くゴーレム系、サイバーな機械系、不思議な精霊系、果てはとんでもない神霊系なんてもんまで市場には流通しとる』
「サクラは、もふもふしてて可愛いのがいいなー!」
おっさんAIは、サクラの無邪気な発言に苦笑するように、空中でドローンを左右にゆらゆらと揺らした。
『残念やけど、予算的に選べるもんもあれば選べんものもあるんや。特に最初から強いやつは、どんな姿形をしとるか買う前から分かるシステムになっとる。それはなんでかって言うたら、「卵型」と「カード型」の違いやな』
「卵型? カード型? おっちゃんAI、どういうことそれ?」
『説明したるな。まず「卵型」ちゅうのは基本、生体モンスター系や。一階層で出会うたようなお馴染みのヤツから、まだ見ぬ上層のモンスターまでが孵化する可能性がある。何が生まれるかはガチャ感覚やな。んで、対する「カード型」は、最初から契約先が決まっとる精霊系や神霊系が多い。こっちは最初から姿も能力も確定しとるわけや』
「なるほどね……」
私は腕を組んで、おっさんAIの言葉に頷いた。
『そんで、現在の自分らのパーティの陣形を見直してみぃ。スイはんはガチガチの壁役。ヒマリはんは後方支援役。サクラはんはメモ帳を使った一発ネタの変則枠。……つまりやな、このパーティには本来おるはずの、最も重要な「主砲」が一人もおらへんのや!』
私は不満げに眉をひそめ、ドローンに向けて人差し指を突きつけた。
「ちょっと、私を無視しないで頂戴。私、一応前線で戦ってるんだけど?」
『戦っとるな』
「この間のモンスターだって、ちゃーんと自分で倒してるわよ!?」
『倒しとるな』
「じゃあアタッカー役も私でいいじゃない!」
『アホ言え! それはただの壁役が、自分の身を守るついでに必死こいて必死こいてナイフで殴っとるだけや! そうやなくて、スイはんが盾で敵を止めてる間に、後ろから敵に「確実かつ致命的な大ダメージを与える専門のヤツ」が必要やって言うとるんやんか!』
「ぐぬぬぬぬ……っ!!」
完璧すぎる正論に、言葉に詰まって声にならない唸り声が漏れる。
すると、横にいたヒマリまで困ったように眉を下げて笑った。
「確かに、スイちゃん。前回の戦いを見ていても、スイちゃん一人に負担が集中して毎回かなり無理をさせてしまっていますよね……」
「ヒ、ヒマリまで言うの――っ!?」
唯一の癒やし系だと思っていたヒマリからの、優しくも鋭いクリティカルヒットに私は胸を押さえた。
『んで、話を戻すけどな。わてがお勧めするのは、とにかく純粋な「攻撃特化系」のガーディアンや。姿形は二の次。とにかく今のパーティに最も必要なのは、敵のHPをガリガリ削ってくれるアタッカーなんや。これだけは譲れんよ』
おっさんAIの熱弁を受け、私たちは3人で顔を見合わせて少しだけ相談し――そして、結論を出した。
「……わかったわ。おっさんAI、あんたの言い分を受け入れる。サクラ、ひまり、私たちはガーディアンを買いましょう。というわけで、おっちゃん。ガーディアンの選別はあんたのプロの目に任せていい? その間に、私は自分用のメイス(打撃武器)の方を見てくるから」
『おう! 任せとき! サクラはんとヒマリはんを連れて、市場の奥でプロのわてがきっちり「値切り交渉」までして、お買い得な掘り出し物をぶんどってきてやるさかいな!』
「いや、普通に提示された金額で買ってきなさいよ!? ただでさえ私たちは5万円っていう、ダンジョン装備界じゃ最安値の安物で済ませるんだから、これ以上値切ったらお店の店員さんに悪いでしょうが!」
『アカンアカン! スイはん、何を生ぬるいこと言うてんねん! マーケットでの値切り交渉はトラベラーの基本中の基本やで! 店員が顔を真っ青にして「もう勘弁してください、赤字で倒産します、帰ってください!」って泣いて言うてからが、本番の交渉開始や!!』
「……ホント絶対に止めなさいよ、ただの迷惑クレーマー客じゃないのよ……っ!」
おっさんAIのあまりにも悪質な大阪の商人魂(?)に、私は頭を抱えた。
「ヒマリ、お願い。だからあのおっちゃんが本当に暴走しそうになったら、全力で止めてね?」
「はぁい、スイちゃん。私……頑張って止めてみますね!」
どこかおっとりとしたひまりの返事に一抹の――いや、九割九分の大いなる不安を残しつつ。私たちは五万円の封筒を握りしめ、それぞれの買い物へと出掛けたのだった。
おっさんAIたちと別れた私は、ストレージマーケットの「近接武器展示コーナー」へと足を運んだ。
ずらりと並ぶ禍々しくも美しい武器の数々に圧倒されつつ、近くにいた女性店員さんに恐る恐る声をかける。
「あの、すみません……」
「はい! いらっしゃいませ。本日はどのような武器をお探しでしょうか?」
「はい。えっと……メイス(打撃武器)を探しているのですが」
「メイス系ですね! それでしたらあちらのブースになります。何か具体的なご要望はございますか? ヘッドの形状や全体の重量、あるいは特定の付与スキルなど……」
「……あ、いえ。その……」
私は気まずさに身を縮こまらせ、恥ずかしそうに人差し指同士をつんつんと合わせた。
「あまり予算が潤沢にないもので、出来れば……その、一番お安い初心者向けのラインナップで見せていただけると、助かるのですが」
トラベラーの世界では、予算のない初心者は冷遇されることもあるとネットの掲示板で見たことがあった。けれど、目の前の店員さんは侮蔑の視線なんて一切向けることなく、満面のプロの笑顔で快く頷いてくれた。
「かしこまりました! でしたら、扱いやすくてコストパフォーマンスに優れたものをいくつか見繕わせていただきますね。少々お待ちください」
店員さんはそう言って、数分もしないうちに、重厚な金属器がいくつも載ったディスプレイ用ワゴンを押して戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらが当店でお勧めしている初心者向けのメイス系になります」
「うわぁ……すご。ありがとうございます」
ワゴンには、先端にトゲ付きの鉄球が乗ったいかにもな鈍器から、鈍い銀光を放つ金属バットのようなもの、さらにはヌンチャクのような鎖付きの変則的なものまで、様々な打撃武器が並んでいた。
店員さんに目配せで確認して許可をもらい、私はその中から一番オーソドックスそうな片手用の鉄製メイスを手に取ってみる。
「……っ!? う、うわぁ……。結構、ずっしり重いですね、これ」
「そうですね。メイス系は、剣などの刃物と違って『重心が先端部分』に集中しているのが特徴です。ですので、腕力で振り回すというよりは、遠心力を上手く用いて叩きつけるような感覚で振るっていただく形になります」
「なるほど、遠心力……。ちょっとだけ、ここで振ってみても大丈夫ですか?」
「ええ、どうぞ! 周囲にお気をつけてお試しください」
ブンッ、ブンッ、と空間を裂くような音を立てて、二度三度ほど片手でメイスを振るってみる。
……うん。確かに威力は出そうだけど、これ、二回三回ならともかく、前回のモンスターバーゲン戦みたいな継続した乱戦になったら、私の細い腕が絶対に持たない。盾を構えながらこんな重いものを振り回し続けるなんて、格闘技未経験の私には逆立ちしたって不可能だ。
おっさんAIのお勧めだから買ってみようと思ったけれど……悲しいかな、これは私の身体能力にはお世辞にも合っているとは言えない武器だった。
私がわかりやすく肩を落とし、しょんぼりしていると、私の様子を察した店員さんが素晴らしい提案をしてくれた。
「もしメイスが少し重くて扱いづらいと感じられるようでしたら、こちらの『棍棒系』はいかにもいかがでしょうか? 純粋な破壊力こそメイスに一歩劣りますが、軽量で、女性のトラベラー様でも非常に取り回しが良いと評判の品もあるんですよ」
「えっ、本当ですか!?」
「はい。こちらの、一見するとただのリレーで使うバトンのような形をした『伸縮性のある金属棍棒』なのですが……こうして、ですね――」
店員さんが、手のひらに収まるサイズの黒いバトンを手に取り、手首のスナップを利かせて前方にブンッ!と鋭く振るった。
すると、シャキィインッ!!という小気味いい金属音と共に、バトンが一気に1メートル近くまでシャープに伸長したのだ。
「こちらはダンジョン産の鉱石から作られた軽量かつ高硬度な合金で作られておりまして、携帯性に非常に優れています。使わない時はコンパクトにポケットやポーチに収納でき、必要な時にだけ伸ばして打撃系武器として振るうことができる、女性に大人気の商品です!」
「……っ! 買う、買います! それ、私に買わせてください!!」
あまりのスマートさと格好良さに、私は一瞬で一目惚れしてしまった。これなら軽いし、私の筋力でも十分に振り回せる!
「ありがとうございます! 他に合わせて、防具のメンテナンス用品や予備のストラップなど、何かご覧になりますか?」
「ええっと、予算の許す限り一応見せてもらってもいいですか?」
「かしこまりました。では、こちらへご案内させていただきますね」
――おっさんAI、ごめんね。私はあんたの「メイスにしとけ」っていうアドバイスより、女性店員さんの親切で的確なプレゼンの方を信じて武器を選んじゃいました。
☆★☆★☆
さて。その頃、私と別れて「ガーディアン売り場」へと向かったひまり、サクラ、そしておっさんAIの3人はというと――。
『なんやねんこれぇええええッ!? なんでこれがこないに高い値段ついとんねん! お前、初心者相手やからって、ぼったくるのも大概にせぇよオラァアアッ!!』
「お、お客……いえ、ドローン、さま!? 落ち着いてください! こちらはギルドの鑑定士によって適正価格に則った、由緒正しい正規のプライスリストでございます!」
『ウソこけボケェエエエッ! このエネルギー波形と形状からしても、どう見繕ってもこないに高くはならんわ!ちょっとその鑑定士呼べ!』
ガーディアン専門店のブースでは、おっさんAIを搭載したドローンが猛烈な勢いで上下左右に荒ぶりながら、店員さんをこれでもかと捲し立てていた。
完全に、お店にとってはた迷惑極まりない「最悪のクレーマー客」としてロビーに君臨している。
「……ねぇ、ヒマリちゃん。あのおっちゃんAIのこと、サクラたち止めなくて平気かな……?」
「……。止めたいのは山々なんですけど、今のあの方の、物理的にもテンション的にも、ちょっと止まりそうにないですね……」
サクラとヒマリは遠巻きに、死んだ魚のような目で、泡を吹いて倒れそうになっている店員さんと、関西のオバチャンも裸足で逃げ出すレベルで値切り交渉(脅迫)を続けるドローンを見つめることしかできないのだった。
『わての節穴やない鑑定の目を誤魔化そうなんて、一千年早いわ、このド阿呆がァ、そいつに言うたるわ!!』




