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No.101活動記録:これが【旗騎士】! 集団戦術と違和感の正体

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よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです




No.101活動記録:これが【旗騎士】! 集団戦術と違和感の正体




 「――【鼓舞奮闘】ッ!」


 スキルの威力を解放した瞬間、周囲の空間全体を包み込むように、温かく優美な光の波動が一気に降り注いだ。


 光が包み込んだのは、私たちだけではない。


 四方に展開された、百体ものスケルトンアーチャーたちにも等しくその恵みが降り注いでいく。


 深緑のマントが光を浴びて揺らめき、漆黒の弓を携えたスケルトンたちの骨の身体から、淡い緑色の輝きが次々と立ち上った。


 「……おお……っ」


 思わず、私の口から感嘆の声が漏れる。


 これまでの【鼓舞奮闘】は、私たち『みどりの葉っぱ隊』の四人にしか使ったことがなかった。


 けれど、今回は違う。


 私たち四人に加え、合同探索に参加している六人。


 そして何より、百体ものスケルトンたち。


 そのすべてが、私の一つのスキルによって同時に底上げされたのだ。


 『ほぉ……』


 おっさんAIも珍しく、感心したような声を漏らした。


 『これはまた……壮観ですな。さっきまでただの雑魚骨やった連中が、姐さんの力でレベルアップして種族の存在を変え……さらにスイはんのスキルで、全員まとめて一段上の戦力に引き上げられとる』


 「実際、どのくらい強くなっているの?」

 

 『ざっくり言えば、全員の基礎能力が底上げされとるな。攻撃力、防御力、敏捷性……それに精神面への補助効果も入っとる。せやけどな……』


 おっさんAIのカメラレンズが、四方に展開されたスケルトンたちを次々と捕捉していく。


 『問題は、これだけの数をどう扱うかですわ。今まで少数のパーティーでしか戦ってこんかったスイはんが、この大所帯……へたな中堅クラン並みの人数を扱いきれるんでっ確か?』


 「……それなら問題ないわ。あの数のスケルトンたちに私自身が直接命令を与えることはできないみたいだけど、彼らは召喚主であるエリカの言葉に従うでしょう? だから私は、エリカさんに指示を出せばいいのよ」


 『なるほどな。それなら実質、スイはんは残りのメンバー九人に指示を飛ばすだけで済むわけか。うん、それならなんとかいけるやろ』


 「ええ。……みんな、これから移動遺跡の発見に向けて進撃しますけど、周囲の警戒に意識を割く必要はありません。全員、遺跡の捜索に全精力を注いでください」


 「おいおい、いいのかスイ? モンスターが奇襲してきたらどうするんだよ」


 スズカが不安そうに身を乗り出す。


 『それならわてにお任せや! 今日のわては『目』がめちゃくちゃエエからな! モンスターの索敵なんぞお茶の子さいさい――』


 「あ、おっさんAIも遺跡の捜索に探査センサーを全振りして」


 『なんやてぇ!? ほんじゃ誰がモンスターの襲来に備えるんですかいな!?』


 「それは私とスケルトンたちで行うわ。モンスターが襲ってきても、これだけのスケルトンたちが周囲を固めていれば、みんなが戦闘態勢を整えるまでの時間稼ぎくらいは十分にできるでしょうから。だからエリカさん、申し訳ないけれど、私が指示を出したらすぐにスケルトンたちへ伝達をお願いね」


 「いいわよ~、それくらい! お安い御用よ!」


 探索の方針が決まったなら、あとは前進あるのみだ。


 『安全面も考慮して、3キロ進んだら一旦休憩、くらいのペースにしときますか?』


 「そうね、お願い。しらみつぶしに探しても簡単に見つかる相手じゃないみたいだから、みんな『それらしいもの』を見つけたらすぐに報告して。じゃあ、出発しましょう!」


 「「「「はーい!」」」」


 私たちはこうして、二十階層に出現するという移動遺跡の探索へと歩み始めた。


 総勢百人以上となった大集団が、鬱蒼とした森の中を進軍していく。


 ザッ、ザッ、と整然と響く骨の足音を聞きながら、私は旗槍を握り直し、周囲の状況をつぶさに観察していた。


 ――とても、不思議な感覚だった。


 百体ものスケルトンを見渡しているはずなのに、私の視界には「百体」という数字が存在しなかった。


 一体一体の位置。


 その視界。


 弓の射線。


 木々によって生じる死角。


 敵が侵入できる空間。


 それらが無数の線となって、そういった膨大な情報が、まるでパズルのピースが嵌まるように、頭の中へ自然と流れ込んでくる。


 「……これが――【戦術眼】」


 そして私は、脳裏に浮かんできた景色に直感的に反応していた。


 「……来る!」


 「え?」


 鋭く呟いた私の言葉が届いたのか、隣を歩いていたヒマリが振り返る。


 「どうしました、スイちゃん?」


 「みんな警戒して! 右前方、森の奥から何か来るわ!」


 『なんやて!? ちょい待ちぃな、いま索敵したる――』


 おっさんAIが大慌てでセンサーを向けようとした、その直後だった。


 ――ガサガサッ!!


 茂みが大きく揺れる。


 「うおっ!?」


 スズカが瞬時にランスを構えた。


 次の瞬間、森の奥から小型恐竜型のモンスターの群れが一斉に飛び出してきたのだ。


 「来たわ!」


 私は即座に旗槍を振り上げる。


 「エリカさん! 右側のスケルトン隊、三列目だけ前へ! 一列目と二列目はそのまま! 射線を確保して!」


 「わ、分かったわ! 下僕たち! 右側の子たちは三列目だけ動いて! 一列目と二列目の子は弓を撃てるように準備しなさい!」


 ――ガシャガシャッ!


 エリカさんの号令を受け、右翼のスケルトンたちが寸分の狂いもなく動く。


 「ヒマリは正面を! 桜花乱舞を傘一本で!」


 「承知しました!」


 「サクラ、左側に魔法を! ただし森を焼かないように炎系はナシで、攻撃範囲を絞って!」


 「わかったー!」


 「スイちゃん、僕らは!?」


 「レイさんたちは待機でお願いします! 私たちが撃ち漏らしたモンスターが出たら、その時は処理を!」


 「了解だよ!」


 「スズカはまだ待って!」


 「お、おう!」


 自分でも驚くほど、次々と指示の言葉が口から突いて出てくる。


 そして――。


 「……エリカさん!」


 「下僕たち、弓を構えてぇ!」


 私が力強く頷くと、エリカさんがスケルトンアーチャーたちへ最終指示を飛ばした。


 百体の骨たちが一斉に漆黒の弓を引き絞る。


 ギリリリリッ――!


 「撃ちなさいなーッ!!」


 ――ヒュババババババッ!!


 放たれた無数の矢が重なり合い、黒い雨となって森の中を飛翔した。


 敵の群れがこちらへ到達するよりも早く、その進路を横薙ぎに貫いていく。


 「うわぁ……!」


 サクラが目を丸くして歓声をあげる。


 何十本、何百本という矢が空中で綺麗な交差を描き、敵の進行ルートを完全に塞ぎ、削り取っていく。


 それでもなお、数体の恐竜が矢の雨を掻い潜って突進してきた。


 「スズカ!」


 「任せろッ!」


 待機していたスズカが、抑えきれない衝動と共に前へ飛び出す。


 「ウラァッ!!」


 一閃されたランスの一撃が、モンスターを肉塊ごと吹き飛ばした。


 「ヒマリ、左!」

 

 「はいっ!」


 投擲された傘から無数の桜の花びらが舞い散り、鋭い刃となって敵を切り刻む。


 「サクラ、右奥!」


 「りょーかいっ! ペラペラ~っと!」


 魔道書が高速で捲られ、サクラの局所魔法が炸裂する。


 ――そして、私は次に起こる出来事を、なぜか「あらかじめ知って」いた。


 「……まだ来ます! すみません、レイさんたち! 背後から追加のモンスターです!」


 「OK! 僕らに任せて! ほらマオ、モンスター来るよ!」


 「ふぁぁぁ……眠いけどがんばるよぉ……」


 直後――私たちの背後の茂みから、別の群れが突如として飛び出した。


 けれど。


 そこには最初から、二十五体のスケルトンアーチャーが完璧な陣形で配置されていた。


 「エリカさん後方スケルトンたちを! アイリスは撃ち漏らしの処理を!」


 「後ろの子たち、攻撃よッ!」


 「はいよッ!うらッ!死ね!」


 ――ギリリリリッ!


 寸分の遅れもなく放たれた矢が、背後から迫っていた奇襲を完璧に撃ち落としていく。


 「……すごいです……」


 ヒマリが呆然とした様子で呟いた。


 「スイちゃん……」


 「何?」


 「今の……最初から分かっていたんですか?」


 「……え?」


 私は一瞬、言葉を詰まらせた。


 言われて初めて、自分自身の思考に気づく。


 私は、敵が背後から来そうだと「予想していた」のではない。


 敵の習性、地形、味方の配置、気配の揺らぎ……それらを脳内で瞬時に組み合わせ、「次に起こる確率が最も高い未来」を導き出していたのだ。


 そして【戦術眼】が拾い上げた膨大な情報を、【戦術】が瞬時に組み立て――さらに【戦術予測】が、それを最適解の未来へと導き出す。


 そこへ【鼓舞奮闘】によって底上げされた味方の力が噛み合えば……。


 「……なるほど」


 私は、ようやく理解した。


 これらのスキルは、どれか一つ単独で強いわけじゃない。


 互いに噛み合い、連動することで――初めて真の真価を発揮するのだと。


 『ビックリするやろ? スキルちゅうのはな、こうやってバチッと噛み合った時、その効果は何倍にも跳ね上がるんや。そして――』


 おっさんAIが、空中から妙に誇らしげな声をかける。


 『それが【旗騎士】っちゅう真の姿ですわ』


 「……うん」


 私は力強く旗槍を握り直した。


 その先端で、『みどりの葉っぱ隊』の光の旗が風を孕んで凛と揺らめいている。


 「……私、少し分かってきた気がする」


 ただ仲間を強化するだけじゃない。


 自分が前に出て敵を倒すだけでもない。


 仲間一人ひとりの特性を見極め、最も効果的な場所へ配置し、戦況を読み、次に起こることを予測して――その全員の力を、一つの巨大な戦術として紡ぎ上げる。


 それが――。


 「【旗騎士】なんだ」


 『ようやっと、ここまで来ましたなぁ……』


 おっさんAIの声が、どこか父親のように温かく、嬉しそうだった。


 ――その直後。

 森の奥深くから、今までとは比較にならないほど重厚で巨大な咆哮が轟いた。


 ――グォォォォォォッ!!


 ビリビリと空気が爆ぜ、大足音で地面が揺れる。


 「……おい!なんか来るぞ!?」


 スズカがランスを構え直す。


 サクラも魔導書を開き直し、ヒマリは二本の傘を滑らかに構えた。


 そして私は、森の深淵を見据える。


 【戦術眼】が拾う膨大な情報。【戦術】が組み上げる陣形。【戦術予測】が導き出す勝利への最短ルート。


 迫り来る脅威の規模を、私はすでに正確に把握していた。


 「……みんな、構えて」


 私は旗槍をトン、と地面へ突き立てる。


 「どうやら――今日はモンスターのバーゲンセールみたいよ」


 私は不敵で挑戦的な笑みを浮かべ、圧倒的な大群が押し寄せる森の奥へと視線を向けた。


 次々と森の奥から押し寄せてくるモンスターの群れ。


 私たち四人だけで探索していた時とは比べ物にならないほどの数が、怒涛の勢いで押し寄せてきていた。


 「ったく! 休む暇すらねぇじゃねぇか! オラァッ、お前ら散れッ!」


 スズカが豪快にランスを振り抜き、突進してきたモンスターの群れを一気に蹴散らす。


 「スイちゃん! サクラ、そろそろ限界かも――」


 魔道書を抱えたサクラが駆け寄ってくる。魔法の使用を制限しないと、魔力が底を突いてしまうということだろう。


 「サクラは一旦下がりなさい! フウカさん、コナタさん! お二人で周囲の敵の殲滅をお願いできますか!?」


 「まっかせなさーい! 行くよ、コナタ!」


 「ちょっとフウカ、張り切りすぎてミスしないでよ?」


 フウカさんが『狐火』を操り、蒼い炎で周囲のモンスターを撹乱しながら確実に仕留めていく。


 隣のコナタさんは『エアハンド』を発動し、目に見えない空気の圧力を集束させてモンスターをまとめて圧殺していく。


 (……スケルトンの数が少しずつ減ってきているわね)


 スケルトンアーチャーの放つ矢の雨を掻い潜り、強行突破してスケルトン本体を破壊するモンスターも現れ始めていた。


 そろそろ全員の休憩も兼ねて、召喚の補充や陣形の立て直しをしておきたいところだけれど……。


 「おっさんAI!」


 『なんやスイはん! わては皆はんが戦っとる間ヒマやからな、移動遺跡の探索に全センサーを回しとるところですわ!』


 「索敵はありがたいんだけど、モンスターの波の切れ目を狙って、一旦安全圏まで離脱したいの!」


 『なるほど、一時退避の安全エリアですな! 待ってなはれ、いま最適ルートを探しとるから!』


 おっさんAIもすぐさま周囲の地形スキャンへ全力を注ぎ始める。


 「スイちゃん、僕らも前線に出ようか?」


 レイさんが「僕っ娘同盟」の代表として参戦を申し出てくれた。


 「レイさん。マオさんはどちらかといえば短期決戦向きですよね。今このタイミングで出ていくのは――」


 と言いかけた瞬間、目まぐるしく変化する戦況を俯瞰していた私の脳裏に、一筋の明瞭な「勝利への道筋」が閃いた。


 「――いえ! 今です! レイさん、マオさん! 左側に密集しているモンスターの群れを叩いてください!」


 「えっ!? でもあそこ、一番モンスターが集中してる危険地帯だよ!?」


 「レイ、疑問を持っちゃダメ。スイちゃんがやってって言ってるんだから、絶対に何か理由があるんだよ。……でもスイちゃん、ボクら二人だけでもあそこを完全に蹴散らすのには少し時間がかかるよ?」


 マオさんがトロンとした目のまま冷静に指摘する。


 「なら、私も一緒に出ます!」


 私は旗槍から光の『みどりの葉っぱ隊』の章旗をスッと消し去り、白兵戦用の十文字槍モードへと変形させた。


 「みんな! 少しだけ持ちこたえて! エリカさん、申し訳ないけれど、スケルトンたちはここに殿(しんがり)として置いていくことになります!」


 「しょうがないわね! なら下僕たち! 最後のひと働きよ! 力尽きるまで暴れまくんなさいッ!」


 エリカさんの決死の号令で、スケルトンアーチャーたちは残された矢を全て撃ち尽くさんばかりの勢いで射撃を開始した。


 「行きますよ、お二人とも!」


 私は十文字槍を力強く構え、幾重にも密集しているモンスターの群れの中へと真っ直ぐに突撃を開始した。


 「まったく……僕ら先輩トラベラーがいるんだから、もうちょっと頼ってくれてもいいんだよ?」


 並走するように飛び出してきたのは、特撮ヒーローのスーツのような衣装に身を包んだレイさん。


 「じゃあボクは、ちまちまとやっていくよ~」


 同じく並走していたマオさんは、一瞬でその速度を異常なまでに跳ね上げると、かき消えるように目の前から姿を消した。


 気がついた時にはすでにモンスターの背後へと回り込んでおり――。


 「……これで君、終わりね」


 ダガーを一閃させ、手際よくモンスターを瞬殺していく。


 「よーし、じゃあ僕も……ウルフ・ザ~~~~……っ!!」


 レイさんは走りながら右拳を強く握り締め、胸の前に引き絞る。


 「パ~~~ンチッ!!!!」


 裂けんばかりの叫びと共に、突進してきたモンスターの顔面へ拳を叩き込んだ。


 打ち抜かれたモンスターは悲鳴をあげる暇もなく、後方のモンスターたちを何体も巻き込みながら、爆風のような衝撃波と共に遥か後方へと吹き飛んでいく。


 (……やっぱりレイさんだけ戦い方の系統がおかしくないかしら……!?)


 パンチやキックという、格闘術としてはある意味シンプルな攻撃なのだが、その威力が完全にギャグ漫画の域に達している。なんで殴っただけでモンスターが弾丸みたいに飛んでいくのだろう?あれで本人も身体系のスキルは無いんだって言ってるんだから、ある意味でミステリーだ。


 「……まあ、分からない疑問は後回しね! とりあえず、このモンスターの群れを蹴散らすわよッ!」


 私は余計な思考を振り払い、旗槍を握り直した。


 司令塔だからといって、後ろに引っ込んでいればいいわけじゃない。


 戦場全体を見渡し、必要な場所へ仲間を送り込む。


 そして――そこに自分自身が必要なら、自分も駒の一つとして戦場へ投入する。


 それが今の私の戦い方だ。


 「……さあ、その道をあけなさい!」


 その後、私たちは押し寄せるモンスターの群れを何とか振り切り、おっさんAIの案内のもと、一時的に安全が確保できる木立の開けた場所まで移動することに成功した。


 「はぁ、はぁ……ったく! 二十階層って、こんなにキツいのかよッ!」


 アイリスは肩で激しく息を吐きながら、文句とも愚痴ともつかない言葉を吐き捨てていた。


 「あー……もうダメぇ……。戦闘するより、逃げて走り回る方が断然キツい……」


 エリカさんは体力が限界を迎えたようで、その場にペタンと座り込んでしまう。


 その他の私たち『みどりの葉っぱ隊』のメンバーも、揃って膝に手を当てて呼吸を整えていた。


 唯一、体力の消耗を微塵も感じさせない余裕を見せているのは、普段から鍛え抜かれている『僕っ娘同盟』の面々だけだった。


 私は荒い息を整えながら、今回の二十階層における「異常なほどのモンスターの群れ」に対して、大きな疑問を抱いていた。


 それは【戦術予測】から導き出される予測にも似た直感。


 けれど、パズルの最後のピースがどうしても嵌まらないような、上手く言葉にできないもどかしさが、胸の奥を激しく掻き乱している。


 『どないしたんですスイはん? さっきからそんなおもろい顔して』


 「おもろいって何よ!? 難しい顔とか悩んでいる顔とか言えないわけ!?」


 『そらぁ、さっきからコロコロ顔が変わる百面相をしとるからな。……なんぞ気になることでもありましたんか?』


 「気になるっていうか……私たちが前に二十階層へ来て探索していた時は、こんなにモンスターに遭遇しなかったわよね? それともおっさんAIが、ルート選びで遭遇しないように誘導してくれていたの?」


 『ふむ。遭遇回避をしとったかどうかで言えば……スイはんたちしか居らんかった時は、スイはん要望の虫系統のモンスターの回避に全力を注いどったくらいで、別にモンスターの密集地帯を避けるような特殊な回避行動は取っとらんかったな』


 「ってことは、今日のこの多さは異常事態ってこと? 前にあった、モンスターを際限なく吐き出すミミックみたいなのがまた居るの?」


 『いや。スイはんの言う『モンスターボックス』は居らへんよ。あれが出現すれば、空間の波形に特有の異常数値が観測されるからな。即座に察知できるとは言わへんが、それでも何らかの兆候は必ず探知できる。それが出てへんっちゅうことは、『モンスターボックス』はこの階層エリアには存在せえへんということや』


 「そう……なら、このあり得ない多さは一体何なのよ?」


 『わてにも分からんな。わての過去の観測記録を探っても、異常な数値を出す気配すらあらへん。……どころか、空間のエネルギー濃度としては完全に『通常値』を示しとる』


 おっさんAIの高性能なセンサーでも分からないとなると、完全にお手上げなのだろうか。


 私は胸を突く奇妙な違和感を拭えないまま、ふと空を見上げた。


 木々の隙間から覗くダンジョンの空は、相変わらずどこまでも青く晴れ渡っている。


 どこまでも続いていけそうなほど澄み渡っているのに、途中から見えない壁に阻まれて先へ進めなくなる、不思議なダンジョンの空。


 (少しは気を張るのをやめられたかしら……)


 そう思い、みんなの方へ視線を戻そうとした――まさに、その瞬間。


 私の中で、奇妙な違和感が「最大級の危険警報」となって脳裏で激しく鳴り響いた。


 (――ッ!?)


 私は驚愕して、慌てて周囲を見回す。


 【戦術眼】が周囲の情報を瞬時に拾い上げ、【戦術】が状況を組み立てていく。


 しかし、【戦術予測】は「近接エリアにモンスターの到来なし」と客観的な答えを弾き出す。


 ――けれど、違う! 何かが変だ。何かが決定的におかしい……!


 それはスキルによるシステム的な感覚ではない。


 「岸本翠」という一人の人間としての生の直感が、警鐘を鳴らしているのだ。


 だから、私は叫んでいた。


 「おっさんAI! 探索レーダーの出力を最大限にしてッ!!」


 『ど、どうしたんやスイはん!? 一体何があったんや!?』


 「分からない! 分からないけど……絶対に何かが潜んでる! みんなも周囲を探って! 少しでも違和感やおかしいと思ったことがあったら教えて!」


 私の必死な叫びに、みんなもハッとして武器を構え、周囲の森や空間に視線を走らせる。


 けれど、誰も明確な異変を感知できずにいた。


 そんな中――唯一、頼りになったのは。


 『――分かった!! スイはんのミミックの話を聞いて、ようやく合点が行ったわ!!』


 「何か分かったの!?」


 『ああ! お嬢さん方、喜びなはれ! ついに『お目当てのブツ』を見つけたでぇッ!!』


 上空のおっさんAIが、確信に満ちた力強い声でそう高らかに宣言したのだった。







挿絵(By みてみん)

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