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竜の国 【リメイク版】  作者: 一理。
王宮生活

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85/89

正体

ヴィヴィはいますが、第三者視点です。


「申し訳ありません!! ヴィヴィ様が......ヴィヴィアーネ殿下が行方不明になりました!」


 アロイスとローラントがガゼボに戻った時、ヴィヴィの姿は無かった。

 アロイスは青い顔をして付近を捜したが、ローラントはこの時はまだ事態を楽観視していた。

 知り合いにでも会ってどこかほかの場所でお茶でもしているのではないかと思ったのだ。なんといってもここは王宮、王都の街中で姿が見えなくなったわけではないのだ。

 散々探して一旦離宮に戻るとレーベッカが帰ってきたところだった。そしてあのメモを発見したのだ。


 直ちにアレス庭園に急行するとともに、アロイスは事態を国王陛下に報告、そしてフーベルトゥス騎士団長不在のため、副騎士団長を通じて全ての門に検問の処置がとられ、王宮内の捜索が行われた。

 ヴィヴィの身が安全なのか危険なのか、行方不明のこの事態がヴィヴィの意志によるものか、第三者の陰謀なのかわからないので全ては秘密裏に行われ、そして密談のこの場にローラントが遣わされた。

 事態を報告するためと、ジークが持っている追跡の魔道具を起動させてもらうためだ。


 あらましを聞いてジークは眩暈がする思いだ。

 ヴィヴィが何を思って行動したのかはわからないが、メモに書かれた場所に行くためにアロイスとローラントを欺いたのはヴィヴィの意志だ。

 どうして周りに相談しないで突っ走るのだろう、去年の夏期休暇、マーベルの町の騒動の時に言ったはずなんだけどな「勝手に姿を消されると僕の心臓が持たない」って。

 でもそれでもヴィヴィの事を嫌いになんてなれない。

 まあ今回はマーベルの時と違ってヴィヴィは追跡の魔道具を身に着けている。魔力を流して起動させてくれていればヴィヴィの居所はわかる筈だ。

 ジークは魔道具を取り出して魔力を流した。


 ヴォン という音がして掌に収まるサイズの魔道具の中心にある針がある方向を刺した。


「この針の方向から見てヴィヴィは王宮にいない。王都の東の方角だ、このまま追跡する。申し訳ないが私はこれで失礼する」


 ジークが駆け出そうとするとフーベルトゥス騎士団長が押しとどめた。


「まあ待ってくれ、ジークハルト殿下。ローラント、何人で来た?」

「近衛と第二隊合わせて十名です」

「ではその十名はジークハルト殿下と共にヴィヴィアーネ殿下を追跡、それとこの屋敷を隠れて警護している第四隊を三名連れて行け。情報は逐一ここに連絡を入れるように。よろしいですか、ジークハルト殿下」

「ああ。それでは直ぐに———」


 ジークハルト殿下が言い終わる前に今度は第四隊の騎士が駆け込んでくる。


「フーベルトゥス騎士団長、監視していたグラート・カルドッチが姿を消しました」

「なにっ!?」


 フーベルトゥス騎士団長のみならず、ルードルフ達も思わず立ち上がり、ジークも歩みを止めた。

 このタイミングで陰ながら監視していたグラート・カルドッチが姿を消したのは偶然だろうか。

 ジークは怜悧な刃物のような印象のグラート・カルドッチを思い浮かべた。

 誘拐が得意なトシュタイン王国で近年のし上がってきた切れ者の宰相補佐官。彼がヴィヴィの誘拐を企んだのか。


「ちょっと待ってくれ、グラート・カルドッチが姿を消しただって? そんなばかな!」


 素っ頓狂な声を上げたのはラーシュだった。


「グラート・カルドッチはあなたたちのお目付け役で今回同行したのだろう? ヴィヴィの誘拐も任務の上か?」

 

 ジークが詰め寄るがラーシュはエリオ王子と顔を見合わせた。


「いや、そんなことは無い。そんなことは無いが……ここで言っても信じられないよな、えーと、ジークハルト殿下、俺も同行させてくれないか?」


 ラーシュの言葉にジークは迷う。

 トシュタインで怪我をしたときはラーシュは信頼できる人柄だと思った。先ほどのエリオ王子の話も納得できるものだった。しかしエリオ王子は初対面、そしてラーシュもエリオ王子もトシュタイン王国の人間だ、本当に信用できるのか? 現にラーシュとエリオ王子は本当は敵である筈のグラート・カルドッチを庇うような反応を見せた。トシュタイン王国は我々が想像もつかない陰謀を企てているのではないか?


「もちろん同行するのは俺だけで、エリオ殿下にはここに待機していてもらう。ヴィヴィアーネ殿下の行方不明にグラート・カルドッチが関係しているとは考えられないが、もし何らかのかかわりがあるなら俺が役に立てると思う」


 ラーシュの真剣な瞳を見てジークは懸念も疑惑も一旦押しのけた。

 確かにヴィヴィの誘拐にトシュタイン王国が関与しているならトシュタイン王国のやり口を知っているラーシュが役に立つかもしれない。


「ついて来てくれ」


 ラーシュにそう言うと、今度こそジークは足早にその部屋を後にした。




 追跡の魔道具の針が指し示す方向に騎馬で向かい、たどり着いたのは王都の東門を出てすぐ、広大な畑が広がる農地の農作業小屋だった。

 小屋と言っても庶民の家くらいの大きさの建物だ。

 慎重に周りを包囲して中の様子を窺うつもりだったが、近づいた時には既に中からドタンバタンと大きな音が聞こえていた。誰かが争っているような物音だ。

 ジークはそのまま突入を命じた。

 正面の大きな木の戸を開くと同時に騎士たちが中に踊り込む。


「全員、大人しくし———え?」


 手や足から血を流し床に這いつくばる男たちが数名、小屋の奥に女性を抱きかかえるヴィヴィの姿が見えた。

 しかしその手前に立つ人物。

 ナイフを手に子供のおもちゃのようなお面を被った人物は?


 一瞬ポカンとしたものの、ジークは直ぐに騎士たちに指示を下すべく気を引き締めた。

 もっともジークが指示を下す前に突入した騎士たちがお面の人物に相対していた。


「武器を捨てて地面に跪け! 抵抗しても無駄だ!」

「違うの! その人は助けてくれたの!」


 ヴィヴィが小屋の奥から叫んだ。


「ヴィヴィ、無事か?」


 ジークが駆け寄ると、ヴィヴィはホッとしたように泣き笑いの表情を見せた。


「うん、私は大丈夫。ごめんね、でもジークが助けに来てくれるって信じてた」


 それはズルいよヴィヴィ、怒れなくなる。でも叱るけどね、後でじっくりねっとり。

 とりあえず今は無事でよか——


「その腕は!?」

「あ……」


 ジークの目が血のにじんだ右腕に吸い寄せられているのを見てヴィヴィはえへへと苦笑いした。

 よく見ると両の手も傷だらけで血だらけだ。


「その……ちょっと傷はあるけれど、大まかには無事だから」

「誰か、傷の応急手当てを!」

「うわあ! ヴィヴィ様!」


 傷に触れないようにヴィヴィの肩を抱きジークが叫ぶとローラントが駆け付ける。


「あ、私よりシャルロッテ様を診てあげて」


 ヴィヴィに言われてジークは小屋に突入したときにヴィヴィが女性を庇うように抱きかかえていたのを思い出した。あれはシャルロッテ嬢だったのか。

 ヴィヴィはシャルロッテ嬢を救うために?

 それでも誰にも相談せずに一人で敵に向かうのは無謀過ぎる。こんな怪我までして......。


「こちらのご令嬢は気絶しているだけのようです」

「シャルロッテ様は薬を盛られているみたいなの。医師に診せた方がいいと思うわ」


 ローラントに傷の応急手当てをしてもらいながらヴィヴィが言うのをむっつりとジークが眺めている時に入り口付近から大声がした。


「オリ!!!.........いや、お前、オリ......だよな? どうしてこんなところに!?」


 突入時には外で待っていてくれと言われたラーシュが入り口付近で目を丸くしている。

 彼が見ているのは子供のお面を被った人物。ドラゴンジャーとかいう庶民に大人気のヒーローだ。

 その彼はヴィヴィの言葉により拘束されてはいなかったが、ナイフを騎士に渡し、騎士たちに警戒されながら所在無げにたたずんでいた。


「ああ、ラーシュ、良かった。どうしようかと———」

「やっぱりお前か……待て! そのけったいなお面を外すな。オ......えーとお面男、そのままこっちに来い」


 ラーシュはドラゴンジャー赤を連れてジークのところに向かう。


「あー、ジークハルト殿下、彼は俺の知り合いだ。滅茶苦茶怪しいなりだが怪しい人物ではない。エリオ殿下のところに連れていってもいいだろうか」

「それはさっきの会合場所に連れていくという事ですか?」

「まあそうだ。紹介したい人物なんだ。今ここで素顔を見せる訳にはいかないが」


 少し考えてジークは頷いた。

 この人物にはじっくり話を聞かなくてはならない。どうしてこの場所にいたのか、今ここで倒れている賊どもを倒したのはこの男なのか、この男はトシュタイン王国の人間なのか。

 ラーシュやエリオ王子が我々ヴェルヴァルム王国の人間と会っていたことを知られてもいいのか? と思ったが、ラーシュが紹介したいというのならエリオ王子側の人間なのだろう。


「私も行くわ!」

「ヴィヴィ、ダメだ、ちゃんとした傷の手当てが先だ。ローラントたちと先に王宮に戻って医師の手当てを受けるんだ」


 ヴィヴィは首を横に振ってお面男の前に立った。


「あなた、さっき私の事をヴィヴィと呼んだわね。私のこと知っているの? それにディオの事も知っているみたいだった。あなたは誰?」

「ディオだって!? アメディオか? 第八王子の」

「ジークハルト殿下、アメディオ王子って誰だ?」


 お面男が答える前にジークがディオという言葉に反応した。

 そしてトシュタイン王国の人間であるラーシュはアメディオ王子の事を知らなかった。

 事態が混沌としてきたのでこの場でこれ以上話すのは無理だ。結局ジークはヴィヴィが共に行くことを了承し(王宮に帰ったら必ず、すぐに、医師の手当てを受けることを約束させて)ローラントたちに捕えた賊とシャルロッテを託し、王宮で気をもんでいるだろう国王やマリアへの報告も任せて、密談のレストランに引き返した。




 ジークがヴィヴィを伴ってレストランに顔を見せると待っていた一同はホッとした表情を見せた。

 が、その後ろから入ってくる子供のお面をつけた人物を見てギョッとした表情を浮かべる。


「ヴィヴィ、無事で良かった」

「お父様、心配をおかけしました」


 ルードルフが簡易的に包帯を巻いたヴィヴィの傷に触れないように優しく抱きしめる。お面をつけた人物はそこに手を伸ばそうとして伸ばせず、拳をぎゅっと握りしめたように見えた。

 俯いて首を振りながらブツブツ何かを言っているが、一番近くに居たラーシュにもそれは聞き取れなかった。


「さあ、情報のすり合わせが色々と必要なようだ。順番に話を聞こう。ヴィヴィアーネ、いいね」

「その前に彼の紹介をさせてください」


 アルブレヒトの言葉に頷いてヴィヴィはジークの隣りに座ろうとしたがラーシュの言葉を聞いてヴェルヴァルム王国側の人達の対面に立つ人物を見上げた。

 

 この場で待っていたルードルフ、アルブレヒト、そしてフーベルトゥスが頷く。第四隊の騎士から既にヴィヴィの救出と、ヴィヴィを助けた人物を連れていくとの報告は入っていたが、こんなお面を被ったけったいな人物だとは聞いていなかった。


「もうそのお面を外していいぞ」


 ラーシュに言われてお面を外したその人物は、少々ほこりにまみれた銀色の髪を掻き上げながら真っ直ぐに面々を見た。


「「「グラート・カルドッチ!?」」」

「いや……髪の色が?」

「それに雰囲気が......グラート・カルドッチの兄弟か?」


 戸惑うヴェルヴァルム王国側の人々を見てドラゴンジャー赤、改めグラート・カルドッチはすまなそうに笑った。そんな表情も最初の会見で見せた鋭利な刃物のような雰囲気と違い過ぎる。眼鏡を掛けていないだけではないその変化にヴェルヴァルム王国の面々が唖然とする中、グラート・カルドッチが口を開いた。


「驚かせて申し訳ない。トシュタイン王国の宰相補佐官、グラート・カルドッチは仮の姿で、本当の名前は———」


 ちょっと居住まいを正したグラート・カルドッチはそれだけでまた印象をがらりと変えた。威厳さえ漂わせる彼の口から飛び出したのは驚くべき言葉だった。


「改めてご挨拶を。我が名はオリヴェルト・ヴァイス・リードヴァルム。今は亡きリードヴァルム王国の王太子だった男です」






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