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竜の国 【リメイク版】  作者: 一理。
王宮生活

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83/89

密談

第三者視点です。


 密会の日———


 ジークは密談を行うレストランに居た。

 個室のソファーにアルブレヒトと共に座っている。

 背後にルードルフが立ち、入り口付近にはフーベルトゥス騎士団長が立っている。


「ルードルフも座ったら?」

「いえ、この方が落ち着きますから」


 アルブレヒトの言葉を断ってルードルフはジークの後ろに立っている。

 それはジークの義伯父という立場ではなく筆頭侯爵家の当主という立場でもなく宰相としてこの場にいるという考えの表れだった。


 やがてドアが開き二人の人物がこの部屋に入ってきた。

 もちろんジークは、いやこの部屋にいる皆は二人がまもなく部屋に入ってくるだろうことはわかっていた。

 王国騎士団第四隊の二人に付けた騎士から報告を受けていたからだ。



 トシュタイン王国の一行は今日は散り散りに王都に散策に出かけた。もちろん第七王子には護衛と称して第四隊の騎士が同行し、そのほかの者には陰ながら第四隊の者が張り付いている。

 第七王子エリオにはトシュタイン王国側の護衛もついていたが、その護衛とエリオにぴったりついていた従者は今日は体調不良で王宮に残るという。第一王子に付けられたこの二人はエリオの監視以外に何か目的があるようだが、昨晩一服盛っておいたのだ、下剤を。代わりの護衛にはエリオが街中で買った荷物を預け王宮に届けるよう指示した。「私にはヴェルヴァルム王国でつけてくれた護衛がいるので心配いらない。その荷物を王宮の滞在している部屋に届けてくれれば後は自由にして構わない」といくばくかの銀貨を渡しながら言うとその護衛は喜んで去って行った。護衛の質も悪いが、第七王子がいかに国元で軽く扱われているかわかるようだった。


 要注意人物のグラート・カルドッチは今の時点で王宮を出ていない。

 もちろん出かけるようなことがあれば第四隊が監視に付く。

 そのほかのトシュタイン王国の一行にも陰で第四隊の者が張り付いている。彼らは王都で買い物をしたり食事を楽しんだりする者と高位貴族に必死につながりを持とうとする者に分かれていた。




 二人の人物、第七王子エリオとラーシュ・シュトレーム子爵は部屋に入ってきてすぐに挨拶をしようとした。

 それを押しとどめジークは無言でソファーへ(いざな)う。

 二人が着席するとルードルフは部屋の外に指示して全員の紅茶を入れさせその者が退出すると防音と障壁の二重結界を張った。

 そうして初めてジークは口を開いた。


「改めてご挨拶を。ヴェルヴァルム王国の王太子、ジークハルト・シューヴェルヴァルムと申します。エリオ王子、お会いできてうれしく思います。そしてラーシュ殿、あなたにも再びお会いできてうれしく思う。かの折には大変世話になった」

「こちらこそ無理なお願いを聞き入れていただき早速このような場を設けていただきましたこと感謝の念に堪えません。トシュタイン王国第七王子エリオ・トシュタインと申します。こちらは私の腹心でラーシュ・シュトレーム子爵。以後お見知りおきを」


 エリオとラーシュは深々と頭を下げた。ラーシュはともかくエリオは王子という態度ではなかった。


「早速ですがあなた方はトシュタイン王国でクーデターを画策しておられる。今回は我々にその助力を頼みに来た……ということでよろしいですか?」


 そのものズバリと切り出したアルブレヒトにエリオとラーシュは目を泳がせた。


「その……この会話が万が一にも聞かれては……」

「防音の結界を張っているので大丈夫ですよ。会話は外には漏れないし私が解除するまでは誰もこの部屋に入っては来られません」


 穏やかに断言するルードルフの言葉を聞いてエリオとラーシュは表情を緩めた。


「これが魔術というものですか……お恥ずかしながらトシュタイン王国では魔術が廃れて久しいのです。私はある程度の魔力を持っているようですが魔術を習う術がありません。王家の血を引く者以外は魔力さえも乏しいのが現状です」


 エリオの言葉に続きラーシュも発言する。


「私のような地方領主には魔力はもうほとんど残っていないでしょう。しかし最近第一王子の近辺では魔術を習うものがいると噂が広がっています。昨年第一王子サロモネとその第一子パオリーノが数人の側妃を迎えたとの噂があり、なれどその側妃たちに誰も会ったことが無い。公の場にも一切姿を見せていないことからそのことも合わせ更なる調査が必要だとは思っているのですが、第一王子の宮はガードが固く調査もはかどらないのが現状です」


 ジークは入り口付近に控えるフーベルトゥス騎士団長と視線を交わした。第一王子サロモネの第一子パオリーノ……ジークがずっと追っていたパルミロと同一人物だ。彼が令嬢を誘拐した目的をずっと探っていた。その答えがここにあるのかもしれない。エリオは第一王子の近辺で魔術を習うものがいると言った。誘拐された令嬢を側室にして子を産ませるだけでなく、魔術を教える師としたのではないか? 普通ならそんな要望を撥ねつける令嬢たちもパルミロのお茶で言いなりになっていれば......。しかしそれでも他国の王族が数人程度の供を連れ敵国に潜入などするのだろうか? 第八王子の例もある。トシュタイン王国ならあり得るのか?


 色々と考えることはあるが、その疑問は一旦置いておくべきであろう。今は別のことを話し合うべきだ。


「エリオ殿、あなたたちはどのようにクーデターを起こすつもりなのですか? 我が国に望む助力とは?」


 ジークが話を元に戻すとエリオは身を乗り出した。


「第一王子サロモネは貴国に大規模な戦を仕掛けようと準備をしております」


 エリオの言葉にジークを始め一同は息を呑んだ。


「第三王子ガスパレが死に功績を認められたサロモネはその領土も併合し今やかなりの権勢を誇っております。王家で今生きている王子はサロモネとサロモネの軍門に下った第五王子リヴィオ、そして私だけです。私は母の身分が低く何の後ろ盾も無いことから競争相手と見做されておりません。しかしサロモネは立太子するために更なる功績を国王から求められたようです。その為ここ、ヴェルヴァルム王国に対し大規模な戦を仕掛けようとしております。サロモネとて貴国を攻め滅ぼせるとは思っていないでしょうが戦によっていくばくかの領土割譲や貴族令嬢の輿入れ、竜に関しての有利な取り決めを結ぶことが出来れば次期国王の座は揺るがないものとなるでしょう」


 第八王子は? とは聞かなかった。王子と認められていない王子、エリオは第八王子アメディオを数に入れていないのかもしれないし、もしかしたら存在自体知らないのかもしれない。


「ふうん……我が国も嘗められたものだね。すべて返り討ちにしてくれようよ、ジーク」


 アルブレヒトが目を光らせながら言う。眼の底に憎悪の炎が燃えていた。


「して、その時期はいつ? またどこから攻めてくるつもりなのですか?」


 ジークは冷静に聞く。


「まだ準備には一年ほどかかると思います。多分……来年のこの時期……再びメリコン川を渡りヘーゲル王国側から攻め入るものとみられます」

「前回は竜巻に救われたがその後メリコン川周辺の警備も怠っていない。ましてやその情報があれば後れを取ることもないだろう」


 フーベルトゥス騎士団長が自信満々に言う。


「ヘーゲル王国はトシュタイン王国に寝返ったのですか? 今回使者も訪れていますが」


 ルードルフの問いにラーシュが答えた。


「第一王子はヘーゲル王国の王弟とつながっているのです。前回第六王子がメリコン川を渡ることができたのはヘーゲル王国の王弟と癒着していたからです。私の兵も従軍させられていたのでよく覚えています。ヘーゲル王国の王弟はずっと王位を狙っているのですよ。メリコン川での戦が失敗して第六王子は暗殺された。第六王子亡き後サロモネはヘーゲル王国の王弟とのパイプを上手く引き継いだようです」

「その情報がもらえれば十分だ。トシュタイン王国の軍勢などすぐに蹴散らしてくれよう」


 アルブレヒトは意気揚々と言った。アルブレヒトは騎士ではないので余程のことが無ければ戦いの場に身を置くことが無い。しかし今にも騎士団に入隊しそうな勢いだった。


「そのことですが……」


 アルブレヒトの勢いを見て多少言いにくそうにエリオが言った。


「できれば戦いを長引かせてほしいのです」

「……戦いを長引かせる?」

「はい、我々は第一王子が王都を離れメリコン川から攻め入ったタイミングで西方から挙兵し王都に攻め入るつもりでいます。王都には国王直属の兵がいますが数は少ない。国王直属軍自体は王都周辺にいますが数名の領主は我が陣営に引き入れています。第一王子の軍も四分の一ほどは」

「それだけいればクーデターは成功する確率が高いのではないか?」


 ジークはルードルフに聞いた。


「そうですね……戦いの状況によって寝返るものとかも出てくるでしょうし後は大義名分や指導者のカリスマ性によっても民衆の支持が違ってくるでしょう。民衆が味方に付けば領主も動かざるを得なくなります」

「わが軍は地方領主の兵が多いのです。特に旧ゲレオン王国や旧ルセック王国、そしてリードヴァルム王国の兵です。そのほかにも元々トシュタイン王国の領土でも虐げられていた地方領主たちです。第一王子の軍勢でもそうした地方領主の軍が密かに我々に通じてくれています」


 ラーシュから引き継ぎエリオも話す。


「我々はなるべく民の犠牲を少なく王宮に攻め入り現王家を亡ぼしたいと考えています。その為に貴国は第一王子サロモネ、我々は国王と側近、タイミングを合わせて打ち取りたいと考えています。貴国に負担を強いることは心苦しいのですが……」

「いや、どのみち第一王子は大群をもって我が国に攻め入ってくるのでしょう。その情報を事前に得られただけでもありがたい。一年猶予があれば十分な対策をとることができるでしょう。私は協力してもいいと思いますが。殿下?」


 フーベルトゥス騎士団長に水を向けられジークも頷いた。


「私もいいと思う。戦いの前に協力者を教えてもらえれば戦いが膠着状況に陥っていると装うことも可能だろう」

「そうか。戦いが早々に決着がついてしまえば第一王子の軍が引き返してクーデターを起こしたエリオ殿下の軍とぶつかるかもしれない。膠着状態ならば押しも引きもできないというわけだな。トシュタインの兵など完膚なきまでに叩き潰してしまえばいいと思うがそういう事情なら我慢も致し方ないだろう」


 アルブレヒトも賛成なようだ。


「第一王子の軍には私たちの兵のように無理矢理従軍させられて過酷な条件で戦いを強いられている者もいます。どうかお手柔らかに願いたい」


 ラーシュが申し訳なさそうに頭を下げる。


「もちろん敵意のない者に対し虐殺などは行わないと約束しよう。ただしそれは我が国の民に危険が及ばない範囲でだ。我が国の民や資源が脅かされることになれば全力で反撃する。なあに過度な心配はいらない、戦場には私が赴くように陛下に進言する。そちらが裏切らない限りは上手くやって見せよう」


 フーベルトゥス騎士団長は頼もしい笑みを見せた。


「私も行くぞ!」


 アルブレヒトが名乗りを上げるがジークは苦笑いだ。


「伯父上はやるべきことがおありでしょう。まあ……父上に進言してみたらいかがですか?」


 コホンと咳払いをしてルードルフが話しかけた。


「クーデターが成功した暁にはエリオ殿下が王になられるのでしょうか? 我が国とはこれを機会に親睦を深められたらと思いますが……いえ、早すぎる提案ではありますが」


 ルードルフは宰相として今後の展望も視野に入れ始めていた。トシュタイン王国と国交を回復するとしたら今度は信頼に値するだろうか? ここで恩を売れるとしてどの程度有利な条件を引き出せるのだろうか?


「いいえ、私は王にはなりません。王の器ではないと自分でもわかっています。本来の私は臆病で小心者です。その私がこうして勇気を振り絞っているのは敬愛するあの方の為。王座に最もふさわしいお方の為なのです」


 エリオは少し興奮した口調で語った。そのことを補足すべくラーシュが口を開いた時だった。


「私たちが御旗として掲げるべきお方をこの場を借りてあなた方にも紹介したいのです。よろしければ私が彼を迎えに行って———」


 部屋の外が騒がしくなった。

 同時に部屋の扉がドンドンと叩かれる。

 ルードルフが結界を解くと飛び込んできたのは護衛騎士のローラント、ヴィヴィの護衛騎士の一人だ。


「申し訳ありません!! ヴィヴィ様が......ヴィヴィアーネ殿下が行方不明になりました!」


 


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