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竜の国 【リメイク版】  作者: 一理。
ヴァルム魔術学院

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17/90

一年生(1)

第二章です。


基本ヴィヴィ視点になります。


 ヴァルム魔術学院はそれだけで一つの町を形成するような物凄く大きな学院だ。

 ワクワクと不安を胸に抱え馬車に揺られて一週間、私はこの地にやってきた。

 一人で学院までやってくる人たちも多い中で私は恵まれている方だろう。学院に在籍中のエル兄様が一緒だしここに来る前にフィル兄様も学院のいろいろな事を教えてくれた。



 馬車で学院に向かうとどこまでも続く塀が見えてくる。門には衛兵が常駐していてそこでチェックを受けて塀の内側に入った。正面に噴水と池。それを取り囲む大きな広場がありその奥に数棟の建物。ここで馬車は右に曲がった。綺麗に整備された石畳の左右には庭園や樹木が生い茂る林があって散策したら気持ちよさそう。

 右に曲がって程なく一つの建物の前で馬車が停まった。瀟洒な三階建ての建物が三棟建っている。

 エル兄様は素早く降りると私に手を差し出してくれた。

 私は地面に降り立つと目の前の建物を見上げる。


 ここはヴァルム魔術学院の広大な敷地の中に立つ女子寮の前。

 三日後の入学式に備えて今日から私はここに住むのだ。


 


 ヴァルム魔術学院——ヴェルヴァルム王国の十二歳から十七歳の貴族の子息令嬢が通う王国唯一の学院。

 広大なヴェルヴァルム王国において貴族は非常に少ない。国内には数多の学校があって平民は財力や学力に応じて学校に通う人もいれば学校に通わず早くから働きに出る人もいるらしい。裕福な商家だったり役所勤め、貴族の家の重要なポストについている使用人たちの子供は高度な教育を受けている者も多いとフィル兄様が言っていた。


 しかしヴァルム魔術学院だけは貴族しか通えないし貴族は必ずこの学院に通う。

 なぜならこの学院だけが名前の通り魔術を教える学校だから。

 もちろん魔術だけでなく一般の学問や剣術などの授業もあるのだけれど、魔術ですよ魔術!

 私はその響きにうっとりする。フィル兄様に魔術は何度か見せてもらったり、魔道具も見たことがあるけれどついに私も封印が解除されて魔術が使えるようになるのだ。それはとてもドキドキすることだった。



 



 馬車から私の荷物を下ろしてエル兄様は男子寮に向かった。

 私はマリアと顔を見合わせてエントランスに向かった。

 私の部屋は三階。寮の管理人をしているホフハイマーさんに案内してもらう。

 寮にはメイドや従者を一人連れてきても良いことになっている。私は迷うことなくマリアにお願いした。

 部屋には既に荷物が運び込まれていたので早速荷物の整理を始める。


「ヴィヴィ様、荷物の整理は私がやります」

「私にも手伝わせてマリア。二人でやった方が早いわ。さっさと荷物を片付けてお散歩に行きましょうよ」

 

 一時間後、再びしっかり着込んでマリアと外に出た。早春の風はまだ冷たいが日差しは暖かく木々の間を歩いていく。枝に薄桃色のつぼみがいくつもついている。

 木蓮の木立を抜けると花壇が広がる。スイートピーやマーガレットなど可愛らしい花が多い。

 マリアと話をしながら歩いているとガサガサと背後で音がした。


「うわっ! どいてくれ!」

「え!? きゃあ!」


 花壇を飛び越えてふいに現れた人物と私は真正面からぶつか——らなかった。

 すんでのところで(相手が)回避したが、勢いで尻もちをつきそうになった私を伸びてきた手が支えた。


「ごめん! 急いでいるんだ!」


 彼のやってきた方向から「居たか!?」「くそっ!  何処へいったんだ!」という声と共に数人の男の人がやってくる気配がした。

 私は咄嗟に彼に向かって言った。


「そこの植え込みの後ろに隠れて!」


 彼が隠れるとほぼ同時に三人の男の人達が走ってきた。彼らは全身泥だらけで水をぼたぼたと振りまいていた。彼らは私を見るとギョッとして立ち止まり、次いでためらいがちに話しかけてきた。


「失礼。君は……新入生か?」

「はい。そうですが?」

「あー、こちらの方に走ってくる男を見かけなかったか?」


 私は少し思案した。


「こちらに来た人はいませんがあちらの木立を抜けて走って行く人なら見ましたわ」

「わかった。おい! 向こうだ!」


 泥だらけの男の人達が去ってしばらくして私は花壇の後ろに声をかけた。


「もう出てきて大丈夫ですよ」


 答えは無い。

 あれ? と思いのぞき込むとそこには誰もいなかった。








 入学式も無事終わり教室に向かう。一年生は一クラス十人で五クラス。私は一組。

 ちなみにこれは魔術以外の授業のクラスで魔術の授業は今日の午後行われる第一段階の封印解除と魔力測定の後で魔力量によりAクラスからCクラスに分けられる。


 教室に入り室内を見回す。教卓を中心に五つの机が前後二列、半円状に広がっていた。

 席はあらかた埋まっている。私は空いている席に行って隣の人に話しかけた。


「席は自由なんですか? ここに座ってもいいのかしら?」

「自由みたいだよ。あっ!」

「あっ! この前の……」


 庭園を散策しているときに出会った少年だ。


「あの時はありがとう。黙っていなくなってごめんな」


 クシャッと笑った彼につられて私も笑ってしまった。


「ふふっ気にしないで。あ、私はヴィヴィアーネ・アウフミュラーよ。よろしくね」


 彼の貴族らしくないフランクな話し方に影響されたみたいだ。私も気軽に返したのだけど


「俺はカール・ダーヴィト。よろし……えええ! アウフミュラーって侯爵家の!?」


 カールはピキーンと固まりやがて恐る恐る言った。


「あの……失礼な話し方をしてすまん……いや、すいません。じゃなくて申し訳ありません? えーと……」


 私は思わず噴き出した。


「ぷっ! あはは……今までの話し方でいいわよ。学長も学院内では身分の上下は関係ないって言ってたじゃない」


 そう。この学院にいる間は身分の上下は関係ない。もちろん人としての礼節や先輩や先生に対する敬意は払うべきであるが。その為爵位や家名などで呼ぶよりも名前で呼び合うことも推奨されていた。


 カールは暫く虚空を睨んで思案していたが観念したように言った。


「助かる。俺苦手なんだよな、貴族らしい話し方って。まあ今更だし」

「うん、実は私も。内緒にしてくれる?」

「りょーかい! 改めてよろしくカールと呼んでくれ」

「ヴィヴィよ」


 私はカールが差し出した手を握った。


 


 教室に担任の先生が入ってきた。


「アレクシス・エルトマンだ。教科は数学。では端から自己紹介してもらおう」


 エルトマン先生はまだ若いきびきびした先生だった。一組は男子六人女子は私を含めて四人。四人しかいないので是非とも仲良くなりたい。

 端の男子が立って挨拶を始めた。


「ヘンデルス・ロットナー。王国北東部のロットナー伯爵家の嫡男です」


 そして彼はなぜか私の方を向いて礼をした。


「以後お見知りおきを」


 よくわからないがとりあえず会釈をしておく。クラスメイトだし当然お見知りおきするよね?

 数人おいてカールの番になり彼は勢いよく立ち上がって言った。


「カール・ダーヴィトです! 十人しかいないクラスメイトなんだから俺はみんなと仲良くなりたい。みんなで学院生活を楽しもう!」


 私は全く同感だったのでうんうんと頷いたが、みんなはなぜか彼が名前を言った途端騒めいた。最初に挨拶したヘンデルス様などは眉を顰めている。

 うーん……何なの?


 次が私の番だったので私は立ち上がった。


「ヴィヴィアーネ・アウフミュラーです。私もカールと同じで皆さんと仲良くなりたいと思います」


 みんなはまた騒めきを見せた。訳が分からない。

 一限目は自己紹介と諸注意事項、カリキュラムの説明等で終わったので、休み時間に私は早速カールに話しかけた。


「ねえカール、自己紹介の時なんか変な雰囲気じゃなかった?」


「あーそれは……うん、昼休みにでも話すよ。一部の人間は俺のことを気に入らないっていうか……そういうこと」

 

 何がそういうことなのかわからないがその後は大人しく授業を受けお昼休みになった。


「さあカール、食堂へ行きましょう」


 私は意気揚々とカールをお昼に誘ったのだがそこに邪魔が入った。


「ヴィヴィアーネ嬢、彼は君に相応しくない。食堂なら僕たちがお供しましょう」


 見るとヘンデルス様とえーと……パウリーネ・フェルザー伯爵令嬢が立っていた。

 ん? 相応しくないってどういうこと?


「友達に相応しいとか相応しくないとかあるのかしら? クラスメイトなんだからあなたたちも一緒に行きません?」


 私が話しかけるとパウリーネ様が眉を顰めた。


「私は平……ダーヴィト様と一緒に食事したくありませんわ」

「ヴィヴィアーネ嬢も彼との付き合いは控えた方がいいだろう」

「?? どうしてですか?」


 私の問いかけにヘンデルス様が答えるより前にカールが答えた。


「俺が平民の生まれだからだろ」

「え? それで?」私はますます訳が分からない。


 カールはちょっとイラっとしたように言った。


「だから! 俺は平民の生まれで赤ん坊の時に魔力が発現したんだ。それでダーヴィト男爵家と養子縁組したんだよ! 別に恥じることでもないし隠してもいないけどな」

「カールの生まれはわかったわ。でもそれが友達にならない理由にはならないでしょ?」

「お前……」

「カールだって今恥じることでもないって言ったじゃない。私もそう思うわ」


 私がこぶしを握って力説するとカールが噴き出した。


「ぷっ。まあいいや。お昼に行こう!」


 そしてさも聞いていないふりをしてこちらを注目していたクラスメイトに向かって言った。


「俺とヴィヴィは一緒に食堂に行くけどほかに一緒に行きたい奴はいるか?」


 カールの問いかけに皆は顔を見合わせたりしていたがそのうちに女の子が一人と男の子が一人名乗り出た。


「あ、あの……私も一緒に行っていいですか?」

「僕も……」


 私もカールも大歓迎だ。

 ヘンデルス様たちはまだ何か文句を言っていたが、私とカールは彼らと行かないと言っているわけではない。


「御一緒したければどうぞ」と言って四人で食堂に向かって歩き始めた。


 ヘンデルス様とパウリーネ様は結局来なかった。



 

 食堂に入ると空いている席を探す。窓際の四人掛けのテーブルがちょうど空いていた。


「あそこに座りましょうよ」


 私はそのテーブルに座りすました顔で待っているとカールが呆れたように言った。


「やっぱりお嬢様だな。そこですましてても何も出てこないぞ」

「え!?」


 私は慌てて周りを見回す。

 入り口にほど近いところにカウンターがあり皆そこで何かを受け取っていた。


「あそこで自分の食べたいものを受け取るんだよ」


 カールが説明してくれたが私は知っているふりをした。


「い、い、今行こうと思ってたのよ」


 後ろの三人がクスクス笑っているけど気にしない! 私はズンズン歩いてカウンターのところに行った。

 メニューは日替わりでお肉料理のセットとお魚料理のセット、そのほかにパスタやサンドウィッチもある。セットはメイン料理のほかにスープとサラダとデザートが付いている。

 私はお肉料理のセットを頼んだ。ちなみに食事代はかからない。学院で出る全ての食事は只である。


 トレイに載せられた食事を慎重に運ぶ。初めての経験にドキドキした。先ほどの席まで慎重に運んでテーブルにトレイを置いたときはホッとした。

 にんまり笑って席に座る。一緒に来た女の子がグラスに入った水を持ってきてくれた。


「あっ、ありがとう。えーと」

「アライダ・トスパンですわ。ヴィヴィアーネ様」

「アライダ様、私のことはヴィヴィって呼んでね」


 アライダ様は驚いたように私を見た。


「いえ、あの侯爵令嬢様を呼び捨てするわけには……」


 私より早くカールが答えた。


「ヴィヴィがいいって言ってるんだからいいんだろ。こいつ気を遣うような奴じゃなさそうだし」


 カールは打ち解けるのが早すぎると思う! なんかいつの間にか〝お前〟とか〝こいつ〟とか呼ばれてるし。私はカールを軽く睨んで言った。


「じゃあアライダ様、私もアリーって呼んでいいですか?」

「もちろんです!」

「よろしくお願いします。アリー」

「よろしくお願いします。ヴィヴィ」


 二人で微笑みあっているともう一つ声が割り込んだ。


「あの~……トーマス・ビーガーです……トーマスって呼んでください……」


 割り込んだのはいいんだけど声が小さくてよく聞こえない。トーマスって……の後はほとんど聞き取れなかったので想像力で補った。


「よろしくな、トーマス!!」


 カールがトーマスの背中をバーンと叩いてトーマスがむせた。

 ちなみにトーマスは一組で一番身体が大きい。カールより頭一つ分は確実に大きい。カールは割と小柄で私と同じくらい。アリーは私と同じくらいの背でちょっとふっくらした女の子だ。


 学院初日で三人も友達ができた!

 人生初の友達だ。私は踊りだしたいような気分だった。

 



 


お読みくださりありがとうございます。

できましたら評価★★★★★やブクマをしていただけるととても励みになります!

よろしくお願いいたします!!

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