一年生(2)
昼休み後に教室に戻る。
さあいよいよ封印解除と魔力測定だ。
みんな席に着きながらもそわそわと落ち着かない。もちろん私も。
「場所を移動するぞ。ついて来てくれ」
エルトマン先生の指示に従ってみんな先生の後ろをぞろぞろとついて行く。隣の二組からも先生に連れられて生徒たちが出てきた。
おおーー! 隣のクラスは先生の後を二列に並んでついて行く。一組はバラバラと勝手に先生の後をついて行くだけだ。
一組の一人の女の子が隣のクラスの先頭を歩く女の子に挨拶をした。たしかグレーテという名前だった。
隣のクラスの女の子は鷹揚に挨拶を返した後私を見てふんっ! というように顔をそらした。
なんか嫌な態度! 私は隣を歩くカール話しかけた。
「ねえカール、二組の先頭の女の子誰か知ってる?」
答えてくれたのはアリーだ。
「ハンクシュタイン侯爵家のジモーネ様です。えーと家格的にプレデビューの時にヴィヴィの後ろにいませんでした?」
ああ! 思い出した。ダンスの時フィル兄様もエル兄様もいなくて困っていたら嘲笑った女の子だ。
「へー! 俺らからは前の高位貴族の方なんか見えないからなぁ。アリーはよく知ってるな」
「一度王宮でお見かけしたことがあるの。うちの父は王宮勤めだから、忘れ物を届けに行った時に」
アリーの家は爵位持ちじゃないって言っていた。爵位持ちじゃない貴族は王宮勤めだったり魔術院勤めだったり、この学校の先生もいる。
「うちは……竜騎士なんだ……」トーマスが消え入りそうな声で言った。
「竜騎士! カッコイイ!」カールの言葉にトーマスが照れたように笑った。
着いたところは学院のホール。
だだっ広い空間のエントランス付近に衝立で仕切られた四つのブースがある。ブースと言っても一つ一つにそれなりの広さがありちゃんとドアが付いている。
「一組から順番に女子は左の二つのブース、男子は右の二つのブースのどちらかに入ってくれ」
エルトマン先生の言葉に皆が顔を見合わせる。
ヘンデルス様とパウリーネ様が歩き出し二つのブースに入っていった。
「俺も行く」カールがもう一つのブースに入り、アリーが最後のブースに入った。
うーん出遅れちゃったなぁ……待っているとクスクス笑いが耳に飛び込んできた。
そちらを見ると同じクラスのグレーテ様が二組のジモーネ様と話をしている。
グレーテ様は笑っていないけど二組のジモーネ様ともう一人の女の子が私を見て嗤っていた。
「まあ! 平民と!」
「さすが愛人の……」
「育ちが……血筋が……」
漏れ聞こえる言葉だけでも感じ悪いが……無視無視! 私は何も聞こえてません~って顔で立っていた。
暫くして「次の方どうぞ」と言われたので私は一つのブースに入っていった。
ドアを入ると室内の中心の床に魔方陣のようなものが描かれている。部屋の中には三人の女性。二人は先生だと思われるがもう一人は黒のローブを着ていた。
「私は魔術院の鑑定士です。今からあなたの封印の第一解除を行いますわ。お名前は?」
ふんわり笑ったその人は私が「ヴィヴィアーネ・アウフミュラーです」と答えると一瞬目を見張ったが
「ではヴィヴィアーネ様、制服の上だけ脱いで背中が見えるようにしてこの魔方陣の真ん中に立ってください」と何事もなかったように言った。
魔方陣の中央に立つとその人が私の背中に手を当て呪文を唱える。
ぱあっと背中が熱くなったような……いえ、違う。背中から生まれた熱は私の体中を駆け巡る。
私はその熱が体になじむまで目を瞑っていた。
ほうっと息を吐いて目を開けると先ほどの鑑定士の方がにこやかに私を見ていた。
「終わりましたわ。制服を着てあちらのドアから出てください」
部屋にいた先生の一人が私を誘導してくれた。
私からは見えないが背中の封印の印は三重の円のような形で魔方陣が描かれているらしい。そして一番外側の魔方陣にはどこの家の者かを表す紋章も組み込まれていると聞いた。
今回の解除は一番内側の魔方陣で、三年生の時に真ん中、五年生で一番外側の魔方陣が解除されると教わった。
入ってきたのとは別のドアから出るとそこはホールの奥で先に入った人たちが先生と一対一で何かをしている。ただお互い十分離れているので何をしているかはよく見えない。
私を誘導していた先生は離れたところで待っている一人の先生に私を託すと戻っていった。
「ヴィヴィアーネ・アウフミュラー嬢だね。僕はマヌエル・アイゼン。今から君の魔力測定を行うよ」
物腰柔らかな先生は私の手に卵ぐらいの大きさの丸い球を乗せた。
「これは魔道具でね。もともと魔力が通りやすい物質でできているんだ。君の魔力をここに通すとこの球は浮き上がる。その浮き上がり方で君の魔力の大きさがわかるんだ。それに魔力の適性もわかる」
魔力の適性? 初めて聞く言葉に首をかしげると先生はまた説明してくれた。
「相性みたいなものだよ。僕たちは魔道具や呪文を通じて魔力をいろいろなものに変換するわけだけど十の力を十に変換できるわけではないんだ。火と相性がいい人は炎系の魔道具だったら十の力を十二にできるけど水系の魔道具だと八ぐらいの効果しか得られないといった感じかな」
そして続けて言った。
「その相性を知ってどうするのかは君次第だけどね」
「私次第?」
「相性のいい魔術を伸ばしてスペシャリストを目指すのか、苦手な魔術を練習してマルチを目指すのかと言ったところかな。もっとも魔力が多い人は関係ないんだけど」
「どうしてですか?」
「だって10を12するか8にするかは大きな問題だけど1000を998にするか1002にするかはあんまり問題じゃないでしょ。極端な例えだけど」
「わかりました」
「じゃあやってみようか。自分の中に魔力が巡っているのは感じられる?」
先ほどの感覚のことだろうか。私は頷いた。私に馴染んだ熱は意識すれば体の中を巡っているのが感じられる。
「その魔力を掌に集めて」
体を巡っている熱が掌に集まるよう意識する。
離れたところで歓声が聞こえた。何人かの生徒たちが球を宙に浮かべている。高く上がっている球もあれば低くて必死に高く上げようと必死になっている生徒もいる。
「はい! 集中してね」
先生の言葉でまた掌に意識を集中した。
「掌に魔力が集まったらそれを球に注ぎ込むんだよ。掌に蛇口が付いていてそこから球に魔力を注ぎ入れるんだ」
やってみるがなかなか上手くいかない。狭い入り口を体の大きな人が無理やり通ろうとしてるみたいな感覚? つっかえているような感じ。
「おおっ! さすがジモーネ様」
「うふふ、当然よ。どっかの愛人の娘とは血統が違うわ」
少し離れた場所からわざとこちらに聞かせるような大きな声が聞こえた。
カッと体が熱くなった。
———途端に手の中の球が消えた。
えっ!? 球は? 消えた?
私はきょろきょろとあたりを見回した。
「上です! ヴィヴィアーネ嬢!」
アイゼン先生の声に上を見ると私の持っていた球が天井付近からゆっくりと下りてくるところだった。
そしてそれと同時にパラパラと何かが降ってきた。
「何? 何が起こったの?」
とりあえず先生と避難し、控室のようなところで待機させられた。
暫くして戻ってきた先生に訊ねると私の球は天井も屋根も突き破ったらしい。
パラパラと落ちてきたのは穴が開いた天井や屋根の材料だったようだ。
魔力測定の後、A~Cクラスのどのクラスになるかが告げられるのだが、私が告げられたのは……
「Sクラス……ですか?」そんなクラスあったっけ?
「そうだよ。ちなみに生徒は全学年を通じて二人だ」
アイゼン先生の言葉に私は首をひねった。
今日は魔力測定を終えた者から解散になるので私はそのまま寮に帰った。
「おかえりなさいませ、ヴィヴィ様」
マリアの顔を見るとホッとする。
私は制服から普段使いのドレスに着替えて大きく伸びをした。
「お疲れさまでした。学院はどうでしたか?」
「聞いて! マリア、お友達が三人もできたわ」
私はカール達の話をした。身振り手振り付きの話をマリアは微笑んで聞いていたが、カールが魔力ゆえに男爵家の養子になった話を聞いて表情を曇らせた。
「その方は養子だと言うことを公表されているのですね」
「うん、そうなの。男爵家にはほかに子供がいなくて赤ちゃんの時に引き取られたからカールは男爵家の父上や母上しか両親と思えないって言ってたわ。凄く可愛がってもらってるって」
「本当のご両親のことは知っているのですか?」
「その人たちとも男爵家のご両親が会わせてくれたんですって。王都でパン屋さんをしていて偶に遊びに行くって言ってたわ」
「まあ! 男爵家のご両親はそれを許されているのですか?」
「そうみたい。でもパン屋さんのご両親に会っても男爵家のご両親がホントの親だって気持ちは変わらなかったって言ってたわ。やっぱり赤ちゃんの時からずっと育ててもらったんですものね」
この話を聞いてマリアはとても悲しそうな顔をした。私がその意味を知るのはずっと後になるのだけれど……
私は学院に入るときにお父様からはっきり養子だと言うことを告げられた。
高位貴族の養子縁組は庶子だということを表す。お父様は私に告げるとともに養子だということは知らないことにしなさいと言われた。お母様のことを訊ねられても答えなくていいと。
私は五歳より前の記憶が無いのでお母様のことを訊ねられても答えようがないのだけれど……
私のお母様についてやいろいろな事情は学院を卒業したら話すとお父様は約束してくれた。そして「私は君を愛してるよ」と抱きしめてくれた。
「そういえば ヴィヴィ様、今日は魔力の封印が解かれたのでは? お体に変化はありましたか?」
気を取り直すように手をパン! と打ってマリアが言った。
私は封印が解除されたときの熱い何かが体を巡る感覚や魔力測定の時の話をしたのだけれど
「Sクラスですか? 私も聞いたことが御座いませんわ。私は詳しいわけではありませんけど」
とマリアも首をひねっていた。
次の日登校すると一年生の教室はどこも魔力測定の話題で盛り上がっていた。
教室に入りカール達に挨拶する。
「おはようございます、カール、アリー、トーマス」
「おはようヴィヴィ。聞いてくれよ! 俺Aクラスだったんだ! 相性のいい属性は水だって」
カールが嬉しそうに報告してくる。
「おめでとう、凄いじゃない!」
カールと一緒に喜んでほかの二人も聞くとアリーはCクラス、トーマスはBクラスだった。相性のいい属性はアリーは土でトーマスは火。
「竜騎士になるためにはBクラス以上の魔力が必要だからホッとした……」
とトーマスは相変わらず小さい声で言い、アリーは
「私の家は両親共に魔力がそんなに多くなかったから魔力無しって言われなくって良かったわ」
と、こちらもホッとした顔をしていた。
みんな属性より魔力量を気にしている。それもそうか、相性がいいってだけで他の属性の魔術が使えない訳じゃないものね。まあ、私たちはまだ魔術を習っていないからどの属性の魔術も使えない訳だし。
ちなみに私が相性がいいのは風だって。
「それで? ヴィヴィはどうだったんだ?」
カールの問いかけに私は答えたのだが……
「「「S……クラス!?」」」
大きくなりそうな声に私は必死で人差し指を唇に当てシーのポーズをとった。
Sクラスがどんなクラスかわからないが、いやわからないからこそ目立ちたくなかった。
「Sクラスって俺聞いたことないけど……アリーやトーマスは知っているか?」
カールの問いかけにアリーもトーマスも首を振っていた。
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