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竜の国 【リメイク版】  作者: 一理。
アウフミュラー侯爵家

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10/22

ヴィヴィ九歳(5)


 ヴェルヴァルム王国は竜の国である。


 この国の王族は竜神の子孫であると言われているが、そればかりでなくこの国には竜の森がある。


 ヴェルヴァルム王国は大陸の東三分の一近くを国土に持つ広大な国だ。大陸一の大国で北と南で気候の差はあれど比較的温暖で農作物も豊富、西以外は海に囲まれていて海産資源も豊富、鉱山もあり豊かな国である。


 その広い国土の四分の一の面積を占めるのが王国南西部に広がる竜の森だ。

 竜という生き物はこの大陸で特別な意味を持つ。この大陸全てを嘗て治めていた聖リードヴァルム大帝国。

 その皇帝は竜神の子孫であり輝く白竜の背に乗って大陸を飛び回っていたらしい。

 もはや伝説であるが。


 竜は竜の森でしか生まれない。気候なのかその地に何か特別なものがあるのかはわからないが竜が生まれるのは竜の森だけで、成竜になる直前、繭を作るのも竜の森だけだ。


 そして成竜になる直前にこの国の魔力を持った者は一頭の竜と契約を交わす。その竜がその者の生涯の相棒となる。と言っても普段から竜と共にいるのは竜騎士ぐらいであるが。


 普段は共にいなくてもその者と竜の絆は絶対であり、竜は自らの契約者しか背に乗せない。

 契約者の子供であっても背に乗せないのだ。









 フィリップはウルバンが「俺の背に乗れ」と言っているように感じてウルバンを見つめた。

 するとウルバンは前足を折り首を下げて「乗れ」というように促した。


 これは信じられないことだ。竜は契約者以外を背に乗せない。たとえ傷ついていたとしてもだ。

 ウルバンはフィリップを背に乗せてもヴィヴィのことは拒否するはずなのだ。

 でも今ウルバンはヴィヴィを抱いたフィリップに、背に乗れと促している。

 そろそろとフィリップはウルバンに近づいた。ウルバンはもう一度グルルと鳴いてフィリップを急かした。


 フィリップはヴィヴィを抱いてウルバンに乗った。

 ウルバンに乗って飛んでいけるのならそれが一番早い。竜の背は竜の魔力に包まれ風もそんなに当たらない。スピードは馬の比ではない。

 ウルバンに乗るとフィリップはハーゲンに言った。


「ヴィヴィは急ぎ領地の屋敷に連れていく。ハーゲン、後は任せていいか?」

「はっ! お任せください。ヴィヴィ様をお願いします」


 ウルバンは力強く飛び立っていった。









「フィリップお兄様!」


 ヴィヴィは自分の手を離れ崖下に落ちていくフィリップに手を伸ばしハッと起き上がった。

 途端に左足に激痛が走り再びベッドに沈む。


「ヴィヴィ!  ……様」

「マリア?」フィリップが落ちていくと思ったのは夢だったらしい。


 マリアが急ぎ近寄ってくる。


「良かった。目を覚まされて」


 ホッと息を吐きながらヴィヴィにカップを差し出す。


「足は痛みますか? これは薬湯です。痛み止めも入っていますから飲んだら楽になりますよ」


 ヴィヴィは受け取りながらも気になっていることを聞いた。


「フィリップお兄様は? 無事なの? ここはどこ?」

「ここは領地のお屋敷です。フィリップ様は無事ですよ。ここまでフィリップ様がヴィヴィ様を抱いてきたそうです」


 フィリップの無事を聞いてヴィヴィはやっと安心した。


 バタバタと走る音が聞こえ扉の外で止んだ。しばらくしてノックの音。マリアが扉を開けると落ち着いた表情のフィリップが入ってきた。

 表情は落ち着いているものの額にはうっすら汗が浮かび息はまだ整いきれてなかった。

 フィリップは一直線にヴィヴィのベッドに近づくとベッドに片手をついてヴィヴィの顔を覗き込んだ。


「フィ、フィリップお兄様?」

「怪我の具合はどうだ?」


「怪我?」聞かれてヴィヴィはさっきの足の痛みを思い出した。

 改めて自分の身体を見ると両手足に包帯がグルグルと巻いてあった。


「あの……左足は痛みますけど……この包帯は?」


 ヴィヴィに見つめ返されて慌てたようにベッドについた手を引っ込めフィリップはベッドの傍らに膝をついた。


「ヴィ......コホン、ヴィヴィの身体は地面や木と擦れて傷だらけだったんだ。それに足に矢が刺さっていた。……ありがとうヴィヴィ。君は僕を救ってくれた。足に矢が刺さった激痛の中でも僕の手を離さないでいてくれた」

「いえ、フィリップお兄様が無事でよかったです。私の力では引っ張り上げることが出来なくて……」

「ヴィヴィが手を離さないでいてくれたから僕は今生きているんだ。……それと……今まで済まなかった」


 フィリップは頭を下げた。

 頭を下げたまま続ける。


「僕のつまらない意地でヴィヴィに辛い思いをさせた」

「いいえ、だってそれは私が……きっと私のお母様が……」

「それは君の罪ではない。僕が責めるべきは父上だ。ヴィヴィはまだたった九歳で君には何の罪もないのに僕は八つ当たりしたんだ。本当に済まなかった。……そんな僕を助けてくれてありがとうヴィヴィ」

「フィリップお兄様……」


 フィリップに受け入れてもらえなかった辛い日々が溶けて流れていくような気がした。涙があふれて止まらない。

 フィリップはヴィヴィの涙を拭おうとして伸ばした手をハタと気づいて引っこめる。

 表情はスンとしているが首の後ろが真っ赤だった。


「そ、そういう訳だ。まずは傷が癒えるまで大人しくしていなさい」


 そう言い終えるとフィリップは部屋を出ていった。









 マリアは壁際で二人の様子を見ていた。

 ヴィヴィはルードルフの子ではない。マリアとオリバーの子だ。ルードルフの庶子だから養子になったのではなくて魔力量の多さから養子になったのだ。

 でもそれをルードルフは一切口にしない。ヴィヴィがルードルフの庶子だと言われても、息子に疑われてさえ否定しないのだ。肯定もしないが。


 マリアにはルードルフの考えはわからない。ルードルフが言わないことには何か意味があるのだと思う。それはヴィヴィの魔力の多さにも関係しているのかもしれない……

 マリアは自分に魔力など感じたことがないからそれはきっとオリバーの……

 そこまで考えてマリアは恐ろしくなって考えを断ち切った。

 このまま考えを進めて行ったらオリバーとの結婚生活が偽物になってしまうような気がした。

 オリバーとヴィヴィとマリア、三人の幸せな日々。二度と戻らない……


 いえ、きっと戻ってくる。オリバーが帰ってきたら二人でヴィヴィに仕えよう。

 オリバーはきっと戻ってくる。

 そう約束したのだから……







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