第52話「灰塵のダストと、コロコロの鉄則」
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> **第6000階。**
> **乾いていた。**
> **全部、乾いていた。**
> **水分が、消えていた。**
> **命が、乾いていた。**
>
> **でも清掃員は知っている。**
> **埃の、正しい扱い方を。**
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**◆ 灰塵のダスト 視点 ◆**
「来たか」
ダストは、埃の中に浮いていた。
体が、灰色だった。
境界が、ぼやけていた。
埃と体の区別が、なかった。
「私は四天王第三の将、灰塵のダスト」
ダストは動いた。
フロアに、砂埃が舞い上がった。
壁の金属が、軋んだ。
乾いた音がした。
亀裂が入った。
粉になった。
「あらゆる水分を奪う。乾燥した物質は、脆くなり、やがて塵に還る」
ダストは続けた。
「第一の将は洗い流された。第二の将は乳化された。だが私には、水は通じない」
水分を奪う力は、水そのものも無効化する。
近づいた瞬間に、水分が蒸発する。
「ここで終わりだ」
扉が開いた。
黄色いヘルメットの一行が、入ってきた。
一歩踏み出した瞬間に、砂埃が舞い上がった。
全員が、むせた。
「ごほっ」
「かほっ」
「喉に……砂が……」
「いい兆候だ」
ダストは、目を細めた。
「ゆっくり乾いていけ」
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**◆ 乾燥の恐怖 視点 ◆**
「喉が……」
アレスが、喉を押さえた。
「喉が渇く……」
「水を飲んでください」
蓮が、水筒を取り出した。
「あ、水筒の外側が——」
水筒の金属部分が、乾燥して軋んでいた。
「急いで飲んだ方がいいですよ」
「うん、飲む——ごほっ」
「空気自体が乾燥してる」
桐生が、鼻を押さえた。
「鼻の中が痛い」
「肌が……」
成瀬が、手の甲を見た。
カサカサになっていた。
見る間に、白くなっていった。
「肌荒れが……一瞬で……」
「神々でも、乾燥は応える」
アテナが、喉を押さえた。
「知恵の神が……喉カラカラで……」
「みっともない話だが……」
アレスが、唇を舐めた。
「乾く……」
「先輩!!」
ザルディウスが、湊を見た。
鎧の表面が、白く粉を吹いていた。
「攻撃します!!」
「待ってください」
「でも——」
「武器で触れると、武器が乾燥します」
ザルディウスが止まった。
「では——」
「確認中です」
「「「確認中です」ってなんで平然と……」」」
「状況の把握が先です」
湊が、フロアを見た。
埃が、空中に漂っていた。
「ハクさん」
「光は試した」
ハクが答えた。
「塵で散乱して、届かない」
「そうですね」
「打つ手がない」
「あります」
湊が、言った。
「埃が舞い上がっているのは、静電気のせいです」
「静電気」
「乾燥した空気の中では、物体が帯電しやすい。帯電した埃は、空中に浮き続ける」
「では——」
「まず湿度を上げます。静電気を中和して、埃を床に落とす」
ダストが、嗤った。
「水は私の前では蒸発すると言っただろう」
「普通の水は、ですね」
湊が、背負った機材に手をかけた。
「これは、普通の水じゃないので」
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**◆ 湊の静電気除去と吸着清掃 視点 ◆**
機材を、展開した。
「超広域・加湿加圧吸着機、ダイソン・ノア」
ドクター・ライトが作った、三番目の機材だった。
「イオン導電水を空間に散布します。静電気を中和して、埃の帯電を解除する」
「イオン導電水とは」
ハクが聞いた。
「導電性のイオンを含んだ水です。静電気は、導電体に触れると中和される。だから、空間ごとイオン化すれば——」
「埃の帯電が解除される」
「そうです」
「でも水分をダストに——」
「奪われる前に中和が終わればいい。速度の問題です」
俺は起動スイッチを入れた。
機材が、唸った。
イオン導電水の霧が、広がった。
ダストが、動いた。
「奪ってやる!!」
霧に向かって、水分吸収の力を放った。
霧が、消えた。
でも。
「遅い」
俺は言った。
霧がダストに届く前に、イオンが空間全体に広がっていた。
空気自体が、イオン化されていた。
「……な」
ダストの体が、帯電した埃の配置が、変わった。
「静電気が……消えた?」
「中和されました」
空中の埃が、重くなった。
浮力を失った埃が、落ちてきた。
パラパラと、床に落ちてきた。
「私の体が……落ちて……」
ダストが、焦った声を出した。
「動けない……」
「埃は、舞い上がらせず、湿らせて拭き取るのが鉄則です」
俺はカバンから、取り出した。
巨大な粘着ローラーだった。
通常のコロコロの、百倍のサイズだった。
「お前、それを持ってきていたのか」
ハクが、目を細めた。
「念のため」
「念のため……」
「大きな埃の塊には、大きなコロコロが必要なので」
俺はローラーを転がした。
床に落ちた埃が、ローラーに吸い付いた。
「ちょ……待て……」
ダストが、抵抗しようとした。
動けなかった。
湿度が上がった空間では、乾燥の力が弱まっていた。
「やめろ!! 四天王が!! ゴミ取りローラーに!!」
「ゴミですから」
「ゴミじゃない!! 私は誇り高き——」
「埃です」
「うう……」
俺はローラーを転がし続けた。
ダストの体が、ローラーに巻き取られていった。
「きゅう!!」
キュウちゃんが、回収を手伝った。
端の方の埃を、水で押し流した。
ダストが、ローラーに吸い付いた。
「私は……ゴミ箱行きか……!?」
「そうです」
「四天王第三の将が……コロコロで……!!」
「コロコロは優秀な道具です」
「誇りが……」
「埃に誇りがあるとは知りませんでした」
ダストが、ローラーに完全に巻き付いた。
動きが止まった。
「……ゴミ袋に入れます」
俺は特大のゴミ袋を取り出した。
ローラーごと、袋に入れた。
口を縛った。
「処分は後で」
ゴミ袋が、もぞもぞ動いた。
「まだ諦めていない……」
「袋から出ないでください。危ないので」
もぞもぞが、止まった。
「……わかった」
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空気が、変わった。
湿度が戻った。
フロアの乾燥が、消えた。
全員が、深呼吸した。
「……空気が」
アレスが、喉を確認した。
「痛くない」
「よかったです」
「肌が……まだカサカサだが」
「ハンドクリームを持ってきています」
俺はカバンから、ハンドクリームを出した。
「え、そんなものまで」
「乾燥した現場では必需品です」
ザルディウスが、ハンドクリームを受け取った。
「……先輩は、何でも持ってるんですね」
「現場に必要なものは持っていきます」
アテナが受け取った。
「知恵の神が、人間のハンドクリームを……」
「でも助かる」
「ですね」
全員が、ハンドクリームを塗った。
ハクも受け取った。
「……」
「いりますか?」
「……もらう」
「白い手が更に白くなりますね」
「余計なことを言うな」
俺は上を見た。
階段が、上に続いていた。
「四天王、あと一人です」
「最後は何を使うんですか、師匠」
蓮が聞いた。
「現場を見てから判断します」
「相変わらず」
「でも何か持ってきてるんでしょ」
「念のため」
「何を」
「色々」
ハクが、俺を見た。
「お前は、最初から全部持ってきていたのか」
「何が必要かわからないので、考えられる道具は全部持ってきました」
「重くなかったか」
「重かったです。でも現場で足りないより、余った方がいい」
ハクが、少し考えた。
「……準備だな」
「そうです」
「清掃の基本か」
「全部の仕事の基本だと思います」
ハクが、階段を見た。
「行くか」
「行きましょう」
全員が、立ち上がった。
ゴミ袋が、もぞもぞした。
「私も……連れていくのか……」
「証拠として持っていきます。大人しくしていてください」
「……わかった」
全員が、階段を登り始めた。
フロアが、きれいだった。
埃がなくなった石畳が、足音を鳴らした。
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**◆ 現場報告書 ◆**
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影山工務店 現場報告書 #006
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【案件名】
ラスト・ジグラット 第6000階 四天王戦 第三戦
【作業時間】
二十八分
【使用道具・設備】
・ダイソン・ノア(初投入)
イオン導電水散布
静電気中和処理
・特大粘着ローラー(コロコロ・超)
ダスト回収に使用
・ハンドクリーム :全員分
(乾燥対策として事前持参)
【作業結果】
第6000階フロア、全域埃除去完了。
四天王第三の将「灰塵のダスト」
特大ゴミ袋にパッキング済み。
(現在、ゴミ袋の中でもぞもぞしている)
【問題点・改善事項】
・全員、肌荒れが発生した
→ハンドクリームで対処済み
→次の乾燥環境では事前塗布を推奨
・アレスの喉が心配
→水分補給を徹底させる
・ハクさんへのハンドクリーム提供
→受け取ってくれた(進歩)
【ダストについて】
ゴミ袋の中でまだ動いている。
証拠物件として保管。
帰り道に適切に処分する予定。
分別は「燃えるゴミ」でいいと思う。
【四天王残数】
第一の将:壁に埋め込み中
第二の将:排水口に流下済み
第三の将:ゴミ袋に収容済み
第四の将 :未確認
【一言】
埃は舞い上がらせてはいけません。
舞い上がった埃は、
また別の場所を汚します。
湿らせて、静かに拭き取る。
静電気を中和して、重くして、落とす。
これが鉄則です。
コロコロは偉大な発明だと思います。
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影山湊 (印)
キュウちゃん(肉球)
ゴミ袋のダスト(もぞもぞ)
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*次話へつづく*
第52話あとがき:影山湊の「清掃日誌」
## 影山湊の現場報告書
【今日の汚れ度:★★★★☆(静電気のせいで厄介でした)】
6000階のダストさん、物質を乾燥させて塵にする力は強力でしたが、結局のところ「ただの大きな埃」でした。埃は舞い上がらせたら負け。湿らせて重くして、地面に落としてから搦め捕る。これが大掃除の鉄則です。
【職人の一言】
「部屋の掃除をするときは、まず換気をしてから、高いところの埃を落とし、最後に床を拭きましょう。静電気除去スプレーや加湿器を併用すると、埃が舞い散るのを防げますよ。コロコロの粘着力は偉大です」
【近況報告】
現場が乾燥していたので、ハンドクリームが手放せません。実は私、夜勤明けの乾燥肌対策にはかなり詳しいんです。漫画『ドリブラーキーパー』の原稿を描くときも、指先が乾燥しているとペンタッチが変わってしまうので、保湿は欠かせません。
【次回予告】
次の現場は「第9999階:最上階直前・カビの楽園」。
四天王最後の一人、根深く、しつこい「菌」の支配者が登場します。
次回、第53話「根深き宿命と、塩素系漂白の聖域」でお会いしましょう。
皆さんの【★★★★★】評価が、次なる洗剤の「浸透力」を高めます!




