表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/56

第47話「ラスト・ジグラットと、影山工務店の結成」

---


> **世界の腐敗率、80%。**

> **科学者たちは匙を投げた。**

> **軍隊は敗走した。**

> **神々でさえ、手が届かなかった。**

>

> **だが。**

>

> **まだ、一人いる。**

> **納期を守る男が。**


---


**◆ 世界政府の絶望(会議) 視点 ◆**


「報告します」


対策本部のオペレーターが、震える声で言った。


「地球全域の腐敗率、八十二パーセントを超えました」


会議室が、静まり返った。


モニターに、世界地図が映し出されていた。


赤と黒に染まっていた。


かつて緑だった場所が、ほとんどなかった。


「海の有機物が消滅。農地の土壌が死滅。コンクリートの腐食速度が、通常の千倍を超えています」


「物理的な洗浄は?」


「不可能です」


科学者のドクター・ライトが、頭を抱えた。


「どんな洗剤も、接触した瞬間に腐敗する。どんな道具も、現場に持ち込んだ瞬間に錆びる。もはや——」


そのとき。


地面が、揺れた。


モニターの一つが、真っ黒になった。


カメラが、外に向いた。


「な……なんだ、あれは」


誰かが、掠れた声で言った。


空を、突き破るものがあった。


塔だった。


汚泥でできた、巨大な塔だった。


成層圏まで届いていた。


いや、それ以上かもしれなかった。


塔の表面から、黒い液体が滝のように流れ落ちていた。


液体が地面に触れるたびに、地面が腐った。


液体が海に流れ込むたびに、海が枯れた。


「ラスト・ジグラット」


ハクの声がした。


いつのまにか、部屋の隅に立っていた。


「腐敗王ザボの本拠地。あらゆる腐敗を集約し、増幅させる終焉の塔だ」


「攻略は……」


「不可能だ」


ハクが、静かに言った。


「私の滅菌光線も、塔に触れた瞬間に腐敗した。あの塔に対して有効な手段は、今のところ——」


「ないのか」


「ない」


会議室が、完全に沈黙した。


誰も、何も言えなかった。


窓の外で、塔が空を割っていた。


---


**◆ 湊の現場入り(スカウト) 視点 ◆**


唐揚げが、うまかった。


スタジアムの売店の唐揚げだ。


今日は試合がある予定だったが、中止になった。


腐敗の影響で、グラウンドが使えなくなったらしい。


残念だ。


でも唐揚げは売ってくれた。


「ありがとうございます」


「いいえ……どうせ廃棄になるとこだったので」


売店のおばさんが、疲れた顔で言った。


「なんか、世界がやばいことになってるらしいですね」


「らしいですね」


「怖いですね」


「そうですね」


俺は唐揚げを食べた。


うまかった。


「影山さん!!」


声がした。


振り返った。


マルコだった。


世界政府の不動産担当のマルコだった。


息が切れていた。


顔が青白かった。


「探しました……!! なんで売店で唐揚げを……」


「試合が中止になったので、食べながら考えていました」


「考えて……!? 今それどころじゃ——」


「あの塔のことですよね」


俺は空を見た。


遠くに、ラスト・ジグラットが見えた。


成層圏を突き破って、宇宙の方まで伸びていた。


「でかいな」


「でかいどころじゃないです!! 海が枯れてるんです!! 陸地が腐ってるんです!!」


「知ってます」


「では——」


「一人じゃ無理ですよ」


俺は唐揚げを一個、口に入れた。


「あんな巨大な建築物、一人じゃ手が回らない。単純に人手が足りません」


「で、では——」


「人員と、高所作業の安全装備と、危険手当の予算を確保してくれれば考えます」


「よ、予算は!! 世界中の国家予算を全部——」


「危険手当の計算式を先に決めてください。高さに応じた割増率がないと、人が集まらないので」


マルコが、頭を抱えた。


「今それを気にしますか……」


「現場監督として当然の確認です」


俺は手帳を取り出した。


「あの塔、高さは?」


「推定……八万メートル以上」


「高所作業手当の割増率、高度一万メートルごとに二十パーセント増しでどうですか」


「わかりました!! わかりましたからお願いします!!」


マルコが、泣きそうな顔で言った。


俺は手帳にメモした。


「あと、腐敗環境での作業になるので、特殊環境手当も別途——」


「全部出します!!」


「ありがとうございます」


俺は唐揚げの最後の一個を食べた。


「では、人を集めます」


---


**◆ ハクとの共闘宣言ライバル 視点 ◆**


集合場所は、ラスト・ジグラットの正面、一キロ手前の広場だった。


俺が着いたとき、すでに人がいた。


「お待ちしておりました、先輩」


白い鎧だった。


ザルディウスだった。


元魔王が、黄色いヘルメットを被っていた。


腕に、腕章をつけていた。


「影山工務店」と書いてあった。


「なんですかその腕章」


「先輩の現場に呼んでいただけると聞いて、準備しました」


「俺、工務店やってないですよ」


「名前は後でつければいいんです」


後ろに、グレイン、ヴォルガ、セイラス、ナクシアが並んでいた。


全員、黄色いヘルメット。


全員、「影山工務店」の腕章。


「なんで全員……」


「先輩に磨かれてから、掃除が楽しくなりまして」


ザルディウスが、真顔で言った。


「ありがとうございます先輩、生まれて初めて清潔というものを知りました」


「そうですか……」


次に、別の方向から声がした。


「影山湊」


見上げた。


アテナが降りてきた。


天界の知恵の神が、作業用グローブをはめていた。


後ろに、アレスが工具箱を持っていた。


「換気扇の掃除を教えてもらって以来」


アテナが言った。


「天界の空気が変わった。清潔とはこれほど気持ちのいいものかと」


「ですので」


アレスが、黄色いヘルメットを被った。


「戦いには慣れているが、清掃にも慣れてみようと思ってな」


「神々まで……」


蓮たちも来た。


桐生と成瀬も来た。


神代さんと、しずくも来た。


しずくはカメラを持っていた。


「配信しますね」


「やめてください」


「もう始まってます、同接五百万です」


「やめてください」


広場に、どんどん人が集まってきた。


全員、黄色いヘルメット。


全員、腕章。


数えたら、五十人を超えていた。


「……多いな」


俺は人数を確認した。


「あとは」


声がした。


白いスーツだった。


ハクが、広場の端に立っていた。


腕章はなかった。


ヘルメットもなかった。


「私は、あなたの組織には入らない」


「入ってくれとは言っていません」


「ただ」


ハクが、塔を見た。


「お前のやり方が正しいかどうか、あの塔の頂上で証明してもらう」


「証明できるかどうかは、やってみないとわかりません」


「それが」


ハクが、俺を見た。


透明な目に、何かが混じっていた。


「お前の答えか」


「現場に入らないと、何が必要かわからないので」


ハクが、少し沈黙した。


「……共闘する」


「ありがとうございます」


俺は手帳を開いた。


「では役割分担を決めます。ハクさんは上層部の事前除菌担当でお願いしてもいいですか。俺たちが登っていく前に、滅菌光線で汚れを浮かせてもらえると助かります」


「……それは」


「効率的でしょ」


ハクが、また沈黙した。


「……わかった」


全員が、塔を見た。


成層圏を突き破る、汚泥の塔。


黒い液体が、滝のように流れ落ちていた。


でかかった。


今まで見た現場の中で、一番でかかった。


「よし」


俺は手帳を閉じた。


「高所作業手当と危険手当、人数分出ることは確認しました」


「「「おお!!」」」


「ハクさんにも出ますか?」


「……私は組織に属していない」


「では日当で。レシートを後で——」


「いらない」


「そうですか」


俺はヘルメットを被った。


黄色いヘルメット。


「影山工務店」の腕章をつけた。


誰かが用意してくれていた。


全員が、塔を見上げた。


「大掃除の開始だ」


俺は言った。


それだけだった。


それだけで十分だった。


全員が動いた。


しずくの配信のコメントが、爆発していた。


窓の外の空は、まだ紫だった。


でも。


少しだけ、明るく見えた気がした。


---


**◆ 現場報告書 ◆**


```

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

影山工務店 現場報告書

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【案件名】

 ラスト・ジグラット 特殊清掃および原状回復作業


【現場責任者】

 影山湊(現場監督)

 キュウちゃん(補助)


【作業員数】

 五十三名(天界枠:二名、元魔王軍枠:五名、

      弟子枠:三名、外部協力:一名)


【現場概要】

 高さ推定八万メートル以上の汚泥構造物。

 表面全域に腐敗物質が付着。

 内部に腐敗王ザボが確認されている模様。

 過去最大規模の案件。


【使用予定道具】

 ・業務用高圧洗浄機(宇宙仕様改良版)

 ・強アルカリ洗剤(特注品)

 ・ミスリルモップ(一〇本)

 ・ラバーカップ(特大)

 ・マスキングテープ(念のため)

 ・コーキング材(念のため)


【懸念事項】

 ・高所作業のため、安全帯の着用を全員に徹底

 ・腐敗環境での道具の耐久性が未確認

 ・キュウちゃんの酸素ボンベの残量確認要

 ・ハクさんのレシート管理が不明(要確認)


【費用概算】

 消耗品費 :後日精算

 高所作業手当:高度に応じて割増

 危険手当 :別途申請予定

 出張費  :現場が近いため不要


【一言】

 とにかく現場を見てから判断します。

 汚れは必ず落ちます。

 以上。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           影山湊 (印)

           キュウちゃん(肉球)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

```


*次話へつづく*

影山湊の現場報告書あとがき


【今日の汚れ度:測定不能(スカウター壊れました)】

今回の現場「ラスト・ジグラット」ですが、見積もりの段階で目眩がしました。成層圏まで汚泥の塊っていうのは、もはや清掃というか「惑星の外科手術」に近いですね。


【職人の一言】

「高いところの掃除は、汚れを落とすことより『下に落とさないこと』と『自分が落ちないこと』が最優先です。安全帯、ヨシ!」


【近況報告】

最近、副業のトレカで「呪いのレアカード」を洗浄して出品したのですが、速攻で落札されました。Noteの記事も「プロが教える、ヤニ汚れの落とし方」がバズってて驚いています。本業の漫画の方は、スタジアムの芝生の描き込みすぎで腱鞘炎になりそうです……。


【次回予告】

次の現場は「塔の1階:ヘドロの広間」。

「まずは足元を固めないと、滑って仕事になりませんから」


次回、第48話「一階フロアのヌメリと、魔界スライムの断末魔」でお会いしましょう。

皆さんの【★★★★★】評価が、現場の安全祈願になります。ポチッとよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ