第47話「ラスト・ジグラットと、影山工務店の結成」
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> **世界の腐敗率、80%。**
> **科学者たちは匙を投げた。**
> **軍隊は敗走した。**
> **神々でさえ、手が届かなかった。**
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> **だが。**
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> **まだ、一人いる。**
> **納期を守る男が。**
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**◆ 世界政府の絶望(会議) 視点 ◆**
「報告します」
対策本部のオペレーターが、震える声で言った。
「地球全域の腐敗率、八十二パーセントを超えました」
会議室が、静まり返った。
モニターに、世界地図が映し出されていた。
赤と黒に染まっていた。
かつて緑だった場所が、ほとんどなかった。
「海の有機物が消滅。農地の土壌が死滅。コンクリートの腐食速度が、通常の千倍を超えています」
「物理的な洗浄は?」
「不可能です」
科学者のドクター・ライトが、頭を抱えた。
「どんな洗剤も、接触した瞬間に腐敗する。どんな道具も、現場に持ち込んだ瞬間に錆びる。もはや——」
そのとき。
地面が、揺れた。
モニターの一つが、真っ黒になった。
カメラが、外に向いた。
「な……なんだ、あれは」
誰かが、掠れた声で言った。
空を、突き破るものがあった。
塔だった。
汚泥でできた、巨大な塔だった。
成層圏まで届いていた。
いや、それ以上かもしれなかった。
塔の表面から、黒い液体が滝のように流れ落ちていた。
液体が地面に触れるたびに、地面が腐った。
液体が海に流れ込むたびに、海が枯れた。
「ラスト・ジグラット」
ハクの声がした。
いつのまにか、部屋の隅に立っていた。
「腐敗王ザボの本拠地。あらゆる腐敗を集約し、増幅させる終焉の塔だ」
「攻略は……」
「不可能だ」
ハクが、静かに言った。
「私の滅菌光線も、塔に触れた瞬間に腐敗した。あの塔に対して有効な手段は、今のところ——」
「ないのか」
「ない」
会議室が、完全に沈黙した。
誰も、何も言えなかった。
窓の外で、塔が空を割っていた。
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**◆ 湊の現場入り(スカウト) 視点 ◆**
唐揚げが、うまかった。
スタジアムの売店の唐揚げだ。
今日は試合がある予定だったが、中止になった。
腐敗の影響で、グラウンドが使えなくなったらしい。
残念だ。
でも唐揚げは売ってくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ……どうせ廃棄になるとこだったので」
売店のおばさんが、疲れた顔で言った。
「なんか、世界がやばいことになってるらしいですね」
「らしいですね」
「怖いですね」
「そうですね」
俺は唐揚げを食べた。
うまかった。
「影山さん!!」
声がした。
振り返った。
マルコだった。
世界政府の不動産担当のマルコだった。
息が切れていた。
顔が青白かった。
「探しました……!! なんで売店で唐揚げを……」
「試合が中止になったので、食べながら考えていました」
「考えて……!? 今それどころじゃ——」
「あの塔のことですよね」
俺は空を見た。
遠くに、ラスト・ジグラットが見えた。
成層圏を突き破って、宇宙の方まで伸びていた。
「でかいな」
「でかいどころじゃないです!! 海が枯れてるんです!! 陸地が腐ってるんです!!」
「知ってます」
「では——」
「一人じゃ無理ですよ」
俺は唐揚げを一個、口に入れた。
「あんな巨大な建築物、一人じゃ手が回らない。単純に人手が足りません」
「で、では——」
「人員と、高所作業の安全装備と、危険手当の予算を確保してくれれば考えます」
「よ、予算は!! 世界中の国家予算を全部——」
「危険手当の計算式を先に決めてください。高さに応じた割増率がないと、人が集まらないので」
マルコが、頭を抱えた。
「今それを気にしますか……」
「現場監督として当然の確認です」
俺は手帳を取り出した。
「あの塔、高さは?」
「推定……八万メートル以上」
「高所作業手当の割増率、高度一万メートルごとに二十パーセント増しでどうですか」
「わかりました!! わかりましたからお願いします!!」
マルコが、泣きそうな顔で言った。
俺は手帳にメモした。
「あと、腐敗環境での作業になるので、特殊環境手当も別途——」
「全部出します!!」
「ありがとうございます」
俺は唐揚げの最後の一個を食べた。
「では、人を集めます」
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**◆ ハクとの共闘宣言 視点 ◆**
集合場所は、ラスト・ジグラットの正面、一キロ手前の広場だった。
俺が着いたとき、すでに人がいた。
「お待ちしておりました、先輩」
白い鎧だった。
ザルディウスだった。
元魔王が、黄色いヘルメットを被っていた。
腕に、腕章をつけていた。
「影山工務店」と書いてあった。
「なんですかその腕章」
「先輩の現場に呼んでいただけると聞いて、準備しました」
「俺、工務店やってないですよ」
「名前は後でつければいいんです」
後ろに、グレイン、ヴォルガ、セイラス、ナクシアが並んでいた。
全員、黄色いヘルメット。
全員、「影山工務店」の腕章。
「なんで全員……」
「先輩に磨かれてから、掃除が楽しくなりまして」
ザルディウスが、真顔で言った。
「ありがとうございます先輩、生まれて初めて清潔というものを知りました」
「そうですか……」
次に、別の方向から声がした。
「影山湊」
見上げた。
アテナが降りてきた。
天界の知恵の神が、作業用グローブをはめていた。
後ろに、アレスが工具箱を持っていた。
「換気扇の掃除を教えてもらって以来」
アテナが言った。
「天界の空気が変わった。清潔とはこれほど気持ちのいいものかと」
「ですので」
アレスが、黄色いヘルメットを被った。
「戦いには慣れているが、清掃にも慣れてみようと思ってな」
「神々まで……」
蓮たちも来た。
桐生と成瀬も来た。
神代さんと、しずくも来た。
しずくはカメラを持っていた。
「配信しますね」
「やめてください」
「もう始まってます、同接五百万です」
「やめてください」
広場に、どんどん人が集まってきた。
全員、黄色いヘルメット。
全員、腕章。
数えたら、五十人を超えていた。
「……多いな」
俺は人数を確認した。
「あとは」
声がした。
白いスーツだった。
ハクが、広場の端に立っていた。
腕章はなかった。
ヘルメットもなかった。
「私は、あなたの組織には入らない」
「入ってくれとは言っていません」
「ただ」
ハクが、塔を見た。
「お前のやり方が正しいかどうか、あの塔の頂上で証明してもらう」
「証明できるかどうかは、やってみないとわかりません」
「それが」
ハクが、俺を見た。
透明な目に、何かが混じっていた。
「お前の答えか」
「現場に入らないと、何が必要かわからないので」
ハクが、少し沈黙した。
「……共闘する」
「ありがとうございます」
俺は手帳を開いた。
「では役割分担を決めます。ハクさんは上層部の事前除菌担当でお願いしてもいいですか。俺たちが登っていく前に、滅菌光線で汚れを浮かせてもらえると助かります」
「……それは」
「効率的でしょ」
ハクが、また沈黙した。
「……わかった」
全員が、塔を見た。
成層圏を突き破る、汚泥の塔。
黒い液体が、滝のように流れ落ちていた。
でかかった。
今まで見た現場の中で、一番でかかった。
「よし」
俺は手帳を閉じた。
「高所作業手当と危険手当、人数分出ることは確認しました」
「「「おお!!」」」
「ハクさんにも出ますか?」
「……私は組織に属していない」
「では日当で。レシートを後で——」
「いらない」
「そうですか」
俺はヘルメットを被った。
黄色いヘルメット。
「影山工務店」の腕章をつけた。
誰かが用意してくれていた。
全員が、塔を見上げた。
「大掃除の開始だ」
俺は言った。
それだけだった。
それだけで十分だった。
全員が動いた。
しずくの配信のコメントが、爆発していた。
窓の外の空は、まだ紫だった。
でも。
少しだけ、明るく見えた気がした。
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**◆ 現場報告書 ◆**
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影山工務店 現場報告書
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【案件名】
ラスト・ジグラット 特殊清掃および原状回復作業
【現場責任者】
影山湊(現場監督)
キュウちゃん(補助)
【作業員数】
五十三名(天界枠:二名、元魔王軍枠:五名、
弟子枠:三名、外部協力:一名)
【現場概要】
高さ推定八万メートル以上の汚泥構造物。
表面全域に腐敗物質が付着。
内部に腐敗王ザボが確認されている模様。
過去最大規模の案件。
【使用予定道具】
・業務用高圧洗浄機(宇宙仕様改良版)
・強アルカリ洗剤(特注品)
・ミスリルモップ(一〇本)
・ラバーカップ(特大)
・マスキングテープ(念のため)
・コーキング材(念のため)
【懸念事項】
・高所作業のため、安全帯の着用を全員に徹底
・腐敗環境での道具の耐久性が未確認
・キュウちゃんの酸素ボンベの残量確認要
・ハクさんのレシート管理が不明(要確認)
【費用概算】
消耗品費 :後日精算
高所作業手当:高度に応じて割増
危険手当 :別途申請予定
出張費 :現場が近いため不要
【一言】
とにかく現場を見てから判断します。
汚れは必ず落ちます。
以上。
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影山湊 (印)
キュウちゃん(肉球)
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*次話へつづく*
影山湊の現場報告書
【今日の汚れ度:測定不能(スカウター壊れました)】
今回の現場「ラスト・ジグラット」ですが、見積もりの段階で目眩がしました。成層圏まで汚泥の塊っていうのは、もはや清掃というか「惑星の外科手術」に近いですね。
【職人の一言】
「高いところの掃除は、汚れを落とすことより『下に落とさないこと』と『自分が落ちないこと』が最優先です。安全帯、ヨシ!」
【近況報告】
最近、副業のトレカで「呪いのレアカード」を洗浄して出品したのですが、速攻で落札されました。Noteの記事も「プロが教える、ヤニ汚れの落とし方」がバズってて驚いています。本業の漫画の方は、スタジアムの芝生の描き込みすぎで腱鞘炎になりそうです……。
【次回予告】
次の現場は「塔の1階:ヘドロの広間」。
「まずは足元を固めないと、滑って仕事になりませんから」
次回、第48話「一階フロアのヌメリと、魔界スライムの断末魔」でお会いしましょう。
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