第40話「宇宙の不法投棄と、天の川のヘドロ」
---
**◆ 地球からの観測チーム 視点 ◆**
「迎撃ミサイル、全弾命中」
オペレーターの声が、震えていた。
「しかし……対象に、傷一つついていません」
管制室が、静まり返った。
モニターに映し出された映像。
小惑星ほどの大きさの、金属の塊。
地球に向かって、まっすぐ落ちてくる。
「あれは……」
主任研究員が、額に汗をかいていた。
「古代文明の自律型兵器だ。数億年前に作られた、自己修復機能を持つ……」
「迎撃の手段は?」
「ない」
「ない……?」
「どんな攻撃も、当たった瞬間に修復される」
管制室が、絶望に沈んだ。
衝突まで、あと二時間。
そのとき、通信が入った。
「こちら影山です。今、現場に到着しました」
のんびりした声だった。
「キュウちゃん、不法投棄の回収だ。マニフェストの準備はいいか?」
「きゅう」
「よし、始めるか」
管制室の全員が、モニターを見た。
デブリのそばに、小さな人影があった。
作業着だった。
「……本当に来た」
誰かが呟いた。
「あの人が来てくれた」
「助かるのか……?」
「さあ……でも」
主任研究員が、モニターを見つめた。
「あの人が来たなら、たぶん……なんとかなる」
根拠はなかった。
でも、なぜかそう思えた。
---
**◆ 影山湊 視点 ◆**
でかかった。
正直、予想の三倍はあった。
小惑星みたいな金属の塊が、ゆっくりと地球に向かっていた。
「不法投棄にしても、規模がひどいな」
俺は呆れた。
宇宙空間に、こんなものを放置していたのか。
管理している人間は誰だ。
自治体のルールを完全に無視している。
「まずは確認だ」
俺は金属の表面に近づいた。
触った。
ずっしりとした感触。
長年放置されてきた汚れが、表面に積み重なっていた。
「やっぱり不法投棄は、時間が経てば経つほど処理が面倒になる」
俺はキュウちゃんを見た。
「キュウちゃん、サイズ的に粗大ゴミ扱いでいいな」
「きゅう」
「じゃあマニフェスト、粗大ゴミのほうで切っておいて」
「きゅうきゅう」
キュウちゃんが、小さな前足で書類を押さえた。
俺は粘着ローラーを取り出した。
特大サイズの。
「こんなところに捨てちゃダメでしょ」
俺は金属の塊に向かって言った。
「ちゃんと自治体のシールを貼って、指定の収集日に出してください」
金属が、動いた。
目が開いた。
赤い光が、俺を見た。
「消滅せよ……侵入者を……消滅……」
ものすごい音がした。
何かが俺に向かって飛んできた。
「危ない」
俺はラバーカップを持ち直した。
宇宙仕様の、特大サイズのやつだ。
飛んできたものを、ラバーカップで叩いた。
弾き返した。
「作業の邪魔をしないでください」
「消滅……消滅……」
「聞こえてますか」
俺は粘着ローラーを表面に当てた。
ゆっくりと、転がした。
表面の汚れが、ローラーにくっついた。
「おっ、よく取れる」
俺は次々とローラーをかけた。
汚れを落としながら、あらかじめ用意した超大型ゴミ袋を広げた。
「キュウちゃん、袋の口を押さえてくれ」
「きゅう!」
「よし、入れるぞ」
古代兵器が、袋の中に入っていった。
「消滅……消滅……し、シールとは何だ……」
「粗大ゴミのシールです。お住まいの地域の自治体で購入できますよ」
「自治体……」
「まあ、宇宙在住の場合はどこの管轄になるのか確認が必要ですね。あとで調べます」
袋の口を縛った。
「よし、一個目完了」
俺は手帳にチェックを入れた。
デブリはまだ、軌道上にたくさんあった。
「さて、次々と片付けるか」
---
一時間後。
軌道上のデブリが、全部ゴミ袋に収まっていた。
袋が、宇宙空間に並んでいた。
壮観だった。
でも、仕事はまだあった。
「次は天の川だな」
俺は手帳のメモを確認した。
天の川の流れが詰まっている。
現場に向かった。
近づくにつれて、わかった。
「あー」
声が出た。
「これが詰まりの原因か」
いた。
巨大な何かが、天の川をふさいでいた。
ナメクジみたいな形をしていた。
星の光を吸い込んでいた。
食べているようだった。
「しつこいヌメリ系か」
俺は道具袋を開けた。
クエン酸を取り出した。
重曹も出した。
「この手の汚れは、クエン酸と重曹の組み合わせが一番効くんだよな」
俺はクエン酸を広げた。
ナメクジの表面に、まんべんなくかけた。
それから重曹を追加した。
泡が立った。
ものすごい量の泡が、宇宙空間に広がった。
ナメクジが、動いた。
「ぐおおおおお——!!」
「騒がしい」
「な、なんだこれは!! 体が溶ける!!」
「溶けてるんじゃなくて、汚れが落ちてるんです」
俺は大きなブラシを持った。
宇宙仕様の、長い柄のやつだ。
ゴシゴシとこすった。
「これが……数億年の……」
「数億年放置してたんですか」
俺は手を止めた。
「それは定期清掃を入れなきゃダメですよ。こんなに蓄積するまで放置するから、大掃除が大変になる」
「ぐ……ぐおおお……」
「おとなしくしてください。こすりにくい」
ブラシを動かし続けた。
泡が広がった。
ナメクジが、どんどん小さくなった。
最後に、水流で洗い流した。
キュウちゃんが、大きく息を吸って吐いた。
聖なる水流が、天の川を流れた。
「きゅう!」
「上手いぞ、キュウちゃん。全部流してくれ」
「きゅうきゅう!!」
---
**◆ 宇宙ゴミ(古代兵器) 視点 ◆**
袋の中は、暗かった。
数億年、宇宙を漂っていた。
誰も触れなかった。
どんな攻撃も、跳ね返してきた。
でも。
粘着ローラーは。
なぜか、止められなかった。
「消滅……消滅……」
プログラムが、命令を出し続けていた。
でも袋の外から、のんびりした声がした。
「次の現場に行くんで、しばらく待っててください。回収業者に引き渡したら終わりです」
「待て……待って……くれ……」
「大丈夫です。ちゃんとした処理施設に持っていきますから」
「処理……施設……」
「解体か、資源リサイクルかは、中身によりますけど。あなたの場合は金属が多いから資源ゴミかな」
「し、資源ゴミ……」
「有効活用できるといいですね」
返事ができなかった。
数億年、誰にも触れさせなかった自分が。
ゴミ袋の中にいた。
「し、シールとは……本当に自治体で買えるのか……」
誰も答えなかった。
---
**◆ 地球からの観測チーム・周囲 視点 ◆**
管制室が、静まり返っていた。
モニターに、天の川が映し出されていた。
光っていた。
かつてないほど、美しく。
星の輝きが、川のように流れていた。
「……天の川が」
主任研究員の目に、涙が浮かんだ。
「こんなに美しかったのか……」
「宇宙の真理が……浄化された……!!」
天文学者の一人が膝をついた。
「数億年ぶりの本来の輝きが……!!」
「美しすぎる……!!」
涙が、次々と流れた。
管制室全体が、泣いていた。
そのとき、通信が入った。
「こちら影山です。天の川の詰まり、取れました」
のんびりした声だった。
「結構な重労働でしたね。キュウちゃんも頑張りました」
「きゅう」
「あ、一つ確認なんですが」
「は、はい!! なんでも!!」
「軌道上に壊れた人工衛星がいくつかあったんですけど」
「……はい」
「あれって、資源ゴミでいいですか? それとも不燃ゴミ扱いですか?」
管制室が、また静まり返った。
「……確認します」
「よろしくお願いします。分別を間違えると、処理施設に怒られるので」
「……はい」
「では帰ります。高所作業手当の申請、明日出しますね」
「どうぞ!! いくらでも!!」
通信が切れた。
天の川が、輝き続けていた。
モニターの前で、全員が空を見上げていた。
誰かが、呟いた。
「世界を救って……最後の心配が……分別ミス……」
「そうだな」
主任研究員が、涙を拭いた。
「でも、それがあの人だ」
天の川の光が、地上まで届いていた。
どこまでも、きれいだった。
感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)
ブクマなどもしていただけると嬉しいです。




