表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/56

第35話「500年の呪いと、ピカールの底力」

---


**◆ 王国の重鎮・鑑定士 視点 ◆**


「もはや、これまでか……」


王国宝物庫の前で、宮廷魔法師長のオルドが呟いた。


分厚い扉の向こうから、黒い霧が漏れ出していた。


500年前。


悪しき呪術師が死に際に放った呪い。


宝物庫に収められた伝説の武具すべてを、呪いの具へと変えた。


以来、扉を開けた者は次々と倒れた。


最後に挑んだ鑑定士は、扉を三センチ開けただけで昏倒した。


「王国の至宝が……永遠に失われるとは」


重鎮たちが、沈痛な面持ちで頭を垂れた。


そのとき。


廊下の奥から、足音が聞こえた。


「師匠! こっちです!!」


アーサーだった。


走っていた。


その後ろに。


作業着の男が、モップを担いでいた。


肩に小さな竜が乗っていた。


「あの……この廊下、歩くだけでカビの匂いがしますね」


男が、鼻をひくひくさせながら言った。


「建物全体の換気、ちゃんとできていますか?」


重鎮たちが、顔を見合わせた。


「こ、この方が……清掃の……?」


アーサーが直立した。


「最強の清掃員、影山湊師匠です!!」


「し、師匠……」


「師匠と呼ぶな、恥ずかしい」


影山が、アーサーの頭をはたいた。


重鎮たちが、また顔を見合わせた。


「……本当に、この方で大丈夫なのか」


「大丈夫です」


アーサーが、迷いなく言った。


「聖剣より強いラバーカップを使いこなす方です」


「意味がわからん」


---


**◆ 影山湊 視点 ◆**


宝物庫の扉の前に立った。


扉の隙間から、何かが漏れ出していた。


黒いもやのようなものだ。


においをかいだ。


「うわっ」


思わず顔をしかめた。


「カビ臭い!!」


「呪いの瘴気……」とアート君が震えた声で言った。


「カビだよ、これ」


「え?」


「換気が最悪だ。密閉空間に500年でしょ? カビが繁殖し放題じゃないですか」


俺は重鎮たちを振り返った。


「この部屋、窓はありますか」


「500年間、一度も開けて……」


「それが原因の半分です」


俺はガスマスクを三重にした。


キュウちゃんにも小さなマスクをつけた。


「アート君、向こうの壁に窓を作れ。物理的に」


「物理的に……壁を?」


「換気のためだ。聖剣でぶち抜いてくれ」


「えっ、いいんですか」


「ダメか?」


「……いいと思います」


アート君が聖剣を抜いた。


「ホーリーブレイク!!」


壁に、大穴が空いた。


新鮮な空気が、どっと流れ込んだ。


黒いもやが、勢いよく外に流れ出した。


「きゅう!!」


キュウちゃんが追い風を吹いた。


「よし、換気完了」


俺は扉を開けた。


宝物庫に踏み込んだ。


「……ひどい」


また絶句した。


広い部屋だった。


棚に、大量の武具が積み上げられていた。


剣、槍、盾、鎧。


どれも素材は一流だとわかった。


でも。


全部、さびだらけだった。


手垢も凄かった。


黒ずんだ汚れが、層になって積み重なっていた。


「500年、一度もメンテナンスされてないのか」


俺は声が低くなった。


「せっかくの高級品が」


一本の剣を手に取った。


刃の部分が、完全にさびで覆われていた。


本来どんな輝きを持っていたのか、想像もできない。


「台無しだ」


俺の中で、何かに火がついた。


「こんな状態で500年放置するとか、管理が杜撰すぎる」


カバンを開けた。


金属研磨剤を取り出した。


マイクロファイバークロスも出した。


「磨くぞ」


---


剣を布の上に置いた。


研磨剤を少量つけた。


ゆっくりと、円を描くように磨いた。


「うぐぐぐ……」


何か声がした。


剣から出ていた。


「いやぁぁ……やめろぉ……」


「うるさいな」


俺は磨き続けた。


「貴様ぁぁ……この呪いの魔剣に手を触れた者は……」


「金属が擦れる音、うるさい。もう少し静かにしてください」


「何も聞こえないのか……この恐怖が……」


「恐怖より研磨の方が大事です」


俺は研磨剤を足した。


「ぎぃぃぃ……ぎぃぃぃ……」


「だから静かに」


布の向きを変えた。


丁寧に、一センチずつ磨いていく。


錆が落ちた。


黒ずみが消えた。


下から、銀色の輝きが現れた。


「あ、いい素材だ」


手が動いた。


「これはミスリル混合か。丁寧に磨けばかなり光るぞ」


俺は本腰を入れた。


キュウちゃんが隣で小さな布を持って、別の剣を磨き始めた。


「きゅう、きゅう」


「そうそう、力を入れすぎるな。優しく円を描くんだ」


「きゅう」


二人で、黙々と磨いた。


怨念の叫びが続いていたが、だんだん小さくなっていった。


「……きもちいい……」


最初の剣から、別の声がした。


「500年ぶりに……磨かれた……」


「そりゃあ気持ちいいだろ。垢が落ちたんだから」


「お、おのれ……感謝なんてしてないからな……」


「別にしてくれなくていい。ピカピカになればそれでいい」


俺は仕上げのクロスに持ち替えた。


鏡面仕上げだ。


自分の顔が映るくらい磨く。


「よし、一本目完成」


---


**◆ 周囲の視点 ◆**


三時間後。


宝物庫の扉が、開いた。


影山が出てきた。


「終わりました」


重鎮たちが、中を見た。


「……」


「……」


「……」


宝物庫が、輝いていた。


棚に並んだ武具が、すべて鏡のように光を反射していた。


黒ずみも、錆も、汚れも、何もなかった。


空気が、きれいだった。


壁の穴から、外の風が気持ちよく吹き込んでいた。


「呪いが……」


鑑定士が、震える声で言った。


「消えている……」


「換気が良くなったからじゃないですか」


影山が首をかしげた。


「カビが原因の呪いは多いですよ、きっと」


「そういう話では……」


影山が、一本の剣を持ってきた。


元・呪いの魔剣だった。


今は、神々しい銀色の輝きを放っていた。


「これ、一番いい素材でしたよ。中古ショップに持っていったら結構いい値段つくと思います」


影山が、国王に手渡した。


国王が、呆然と剣を受け取った。


「500年の呪いが……」


伝説の鑑定士ガルドが、剣を見た。


「完全に消滅している……」


「呪いに封じられた怨念が……すべて……」


「研磨剤で……」


「研磨剤と」


影山が付け加えた。


「マイクロファイバークロスです。仕上げが大事なので」


ガルドの目が、白くなった。


「500年の呪いが……ただの研磨剤で……」


そのまま、後ろに倒れた。


「あっ」


周囲が慌てた。


「気絶しちゃった。大丈夫ですか」


影山が屈み込んだ。


「キュウちゃん、水持ってきて」


「きゅう」


アーサーは、宝物庫を見ていた。


輝く武具が、整然と並んでいた。


「さすが……師匠……」


「だから師匠と呼ぶな」


影山の声がした。


「呼ばせてください」


アーサーは、その場に膝をついた。


「私は今日、本物を見ました」


「大げさな」


「聖剣でも敵わなかった呪いが、研磨剤で消えた」


「それは呪いが弱かったんじゃないか」


「弱くない!!」


アーサーが叫んだ。


「500年間、誰も近づけなかった呪いです!!」


「そうか」


影山が研磨クロスを畳みながら答えた。


「じゃあ、定期的にメンテナンスしてなかっただけだな」


「……は?」


「500年ぶりに磨いたから、汚れが溜まりすぎていた。毎年磨いていれば、こんなことにはならなかったんだ」


「で、でも呪いが……」


「汚れが原因なら、掃除が解決策だ。難しい話じゃない」


影山が立ち上がった。


「次の現場行きますね。請求書は後で」


アーサーは、その背中を見た。


床には、使い終わったマイクロファイバークロスが、きれいに畳んで置いてあった。


「師匠……」


アーサーは、また呟いた。


今度は、影山が聞こえなかったようだった。


宝物庫が、きれいに輝き続けていた。

感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)


ブクマなどもしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ