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第31話「清掃の大会だと思ったら、データが壊れた」

---


**◆ 大会実況・観客 視点 ◆**


「さあ開幕です! 全国ギルド・クリーンアップ大会!!」


実況のマイクが熱を帯びた。


「今年の参加者は全国から選りすぐりの百二十名! Sランクからベテランのアランクまで、浄化スピードと完全性を競う年に一度の祭典です!!」


観客席が沸いた。


大型モニターに、各選手のデータが映し出される。


『蒼天のカイン:浄化率予測98.2% 予想討伐数:三百体』


『紅炎のリズ:浄化スピード歴代二位 昨年優勝』


『鉄壁のドミトリ:防御系浄化の第一人者 年俸二十億』


観客たちが、それぞれの推し選手の名前を呼んだ。


「カインさーん!!」


「リズ様——!!」


「ドミトリ選手、今年こそ優勝を!!」


スター選手たちが、磨き上げた装備を纏って入場してくる。


カメラが、各選手に向く。


「昨年の覇者、紅炎のリズ選手! コメントをお願いします!」


赤髪の女性が、カメラを見た。


「今年のデータ分析では、私の浄化率は過去最高を更新する予測が出ています。優勝は当然ですね」


「強気のコメントです!」


「カイン選手は!?」


銀髪の青年が、腕を組んだ。


「僕のスキルは今季さらに強化されました。予測討伐数も上方修正されています。データは正直です」


「これは熱い戦いになりそうです!!」


そのとき。


カメラが、別の選手を捉えた。


作業着の男だった。


肩に、小さな竜が乗っていた。


「あ、あの方は……蒼穹の剣からの代表、えーと……影山湊選手です」


実況の声のトーンが、微妙に変わった。


「過去データは……えーと、測定不能と記載されています。女神の水晶を拭いて破壊した選手ですね」


観客席が、少しざわめいた。


「あの人が……影山湊?」


「ガスマスクしてる」


「なんか小さい竜が肩に乗ってる」


「弱そうに見えるけど……」


「死霊の廃都を三時間で片付けたって聞いたぞ」


「嘘だろ」


「でも……ここ最近の厄災消滅、全部あの人らしいぞ」


ざわめきが、大きくなっていった。


---


**◆ 影山湊 視点 ◆**


広い会場だな、と思った。


「今日は合同清掃案件なんですか?」


俺は神代さんに聞いていた。


「全国から業者が集まってますよね」


「……そういうことにしておこう」


神代さんが、遠い目をした。


「他社のやり方を見るのも勉強になりますね」


「ああ」


「清掃の手法って会社によって違いますから。効率的なやり方は積極的に取り入れたいです」


「……そうだな」


神代さんはそれ以上何も言わなかった。


俺は肩のキュウちゃんを撫でた。


「キュウちゃんも今日は頑張るぞ」


「きゅう」


嬉しそうに鳴いた。


競技エリアへの案内が始まった。


移動しながら、周囲を見た。


スター選手、とやらの人たちが、豪華な装備を纏っていた。


インタビューを受けながら、データとか浄化率とか言っていた。


(なんか、うちの会社より分析がしっかりしてるな)


(清掃業者もデータ管理の時代か)


俺は少し感心した。


競技エリアが見えてきた。


「うわ」


声が出た。


広大な沼地だった。


一面が泥と腐臭の沼で、上空には瘴気が漂っている。


各所に呪いの結界が張られていて、沼の中から時折、でかい何かがうごめいていた。


「これが今回の案件か」


俺はメモを取り出した。


「広いな。でも端からやれば問題ない」


キュウちゃんが俺の頬を前足でぺちぺちした。


「どうしたキュウちゃん」


「きゅう、きゅう」


「早く始めたいか。そうだな、時間は有限だ」


俺はモップを構えた。


「よし、端から片付けよう」


---


**◆ ライバル・周囲の視点 ◆**


「スタートです!!」


号砲が鳴った。


選手たちが一斉に動いた。


「爆炎浄化——!!」


リズが炎の魔法を展開した。


一帯の瘴気が燃え上がる。


「データ通り、完璧なスタートです!!」


「氷結封印——!!」


カインが結界を張った。


沼の魔物が凍りついていく。


観客が歓声を上げた。


「いいスタートです!」


「今年も熱い戦いになりそう!!」


実況が興奮する。


各選手のリアルタイムデータがモニターに映し出された。


リズ:浄化率12.3% 経過時間:0:30


カイン:浄化率9.8% 経過時間:0:30


「さあ、トップは今のところリズ選手!」


そのとき、別の数字が出た。


影山湊:浄化率——


数字が、出なかった。


「え?」


実況が困惑した。


「データが……?」


オペレーターが画面を叩いた。


「え、エラーです! 影山選手のセンサーがおかしくて……」


「測定不能、また出ました!!」


観客席が静まった。


モニターに映し出されていた影山湊の映像が、別の意味で会場を凍りつかせた。


沼地の端に立った作業着の男が。


モップを一振りした。


沼の三分の一が、消えた。


「……え?」


リズが、思わず声が出た。


もう一振り。


沼の三分の二が、消えた。


「ちょっと待って」


カインが立ち止まった。


「今、何が……」


最後の一振り。


沼の全域が、消えた。


石畳の地面が現れた。


ぴかぴかだった。


男の肩の子竜が「きゅう」と鳴いて、隅っこに水を吹きかけた。


男がそれをモップで拭いた。


完璧に、きれいになった。


「……」


「……」


「……」


実況が、マイクを持ったまま固まっていた。


モニターに、経過時間が映し出されていた。


0:02:14


二分十四秒。


全域浄化。


「えーと」


実況がマイクに向かった。


「ただいまの影山湊選手の浄化率ですが……」


オペレーターが叫んだ。


「測定システムが落ちました!! データが全部吹き飛びました!!」


会場が、静まり返った。


ただ一人の男が。


「キュウちゃん、もうちょっとあそこの角を」


「きゅう」


「そうそう、上手い」


と子竜とやりとりしながら、仕上げのワックスがけをしていた。


「……」


リズが、自分の手を見た。


十分かけて浄化した範囲と。


影山が二分で片付けた範囲の差が、目に見えてわかった。


「私の……データが……」


「全部、無意味だった……」


カインが、呟いた。


「あの人と同じ大会に出ていたのか……」


観客席から、誰かが声を上げた。


「あれ……大会じゃなくて、個人清掃案件なんじゃないか……?」


しん、とした。


「あの人にとって……これ、大会じゃなくて……普通の仕事だよな……?」


誰も否定できなかった。


モニターには、ピカピカになった元沼地が映し出されていた。


影山が満足げにモップを肩に担いで言った。


「他社の皆さん、頑張ってますね。でもこのエリアはもう終わったんで、俺は次の現場行きます」


「次……?」


実況が絞り出した。


「まだ残ってるんですか?」


「はい」


影山が、メモを見た。


「今日の案件、全部で六か所あるんで」


会場が、また静まり返った。


データ管理システムは、まだ復旧していなかった。

感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)


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