㉛地獄のペア
数日前。クラス内の状況は一変した。
そう、ジャックの件だ。
面目丸潰れとなったニックは、取り巻きを除き、クラスメイトから腫れもの扱いされている。ニック側はもともと友好的な感じではなかったこともあり、クラス内での立場がない状態だ。
誰もニックと接したがらない。そんな状況で今日という日。
えー、ニックとペアを組むことになりました。
「ニック君、よろしくね。」
とりあえず俺は、気さくな感じで声をかけてみる。
「...フンッ。」
終わった...。
これからどうしよう。俺にはニックと上手くやっていく自信がない。だからと言ってニックと同じ態度をとるわけにもいかない。俺は一応、好青年を装っているからな。
「はい、皆さんペアは作れましたね!今組んでもらったペアで、しばらくの間この授業を受けてもらいます。そしてペアで何をしてもらうかといいますと、お互いに才能を見せあって、アドバイスをし合ってもらいます!」
なるほど。コミュニケーションに難のある、俺とニックのペアにとっては超難題だな。
「同じタイプの才能同士なので、相手のことをよく観察して、お互いを高めましょう!この授業中は、実技棟内ならどの場所にいても構いません。また、疑問や質問等何かあれば遠慮なく私達教師陣に声をかけてくださいね。それでは皆さん、開始してください!」
さて、始まりました、地獄の時間が。仕方がない、頑張りますか。
そんなことを思いながら、ニックの方を振り返った。
「え...!?」
そこにニックはもういなかった。
「ニックくんなら、あっちの方に歩いて行ったよ?」
呆然と立ち尽くしていると、天使から話しかけられた。いや天使ではない、医務室の方を指さしているリリだ。
「医務室の方か...。ありがとうリリ。ちょっと行ってくる。」
「ゼルノくん大変だねぇ~。ニックなんかとペア組まされて。」
そんなことを言ってきたのは、リリとペアを組んでいる、エミリー=ベルガーだ。辺境の小さな土地を治める、ベルガー家の次女。彼女は風を起こす才能を持っている。
「エミリーさん。僕は大変だとは思っていないよ。貴族じゃない分、そんなに気を使わなくてもいいからね。」
「そっかそっかぁ。まあ、頑張ってねぇ~。あと、エミリーって呼んでくれていいからねぇ。」
なんだかフワフワしている子だな。本音を言うとここでのんびり話して居たいが、自分のキャラを守るために、ニックを追いかけなければいけない。
「ありがとうエミリー。とりあえず僕はニックのこと、追いかけてくるよ。」
すごく嫌だけど。
「なんだかよくわからないけど、あたしも応援してるよっ!ゼルノくん頑張って!」
リリは相変わらず天然だな。きっと、ジャックとニックのこともよくわかっていないのだろう。
「うん。ありがとう。じゃあまた。」
さてと。ニックを追いかけますか。医務室のを見ると、小さくなったニックの後ろ姿が目に映った。小走りでニックのもとへと駆け寄る。
「ちょっと待ってニックくん。どこへ行くんだい?」
駆け寄る足音が聞こえていたのだろう。ニックは面倒くさそうにこっちを一瞥した。
「なんだよ。」
いや、なんだよじゃないよ。むしろ、こっちがなんだよだよ。
「僕たちペアを組んでるんだから、一緒にいないと授業を進められないじゃないか。僕は場所どこでもいいからさ、ついていくよ。」
「あ?お前ひとりでやってろよ。俺は体調が悪いから医務室に行くんだよ。分かったらついてくんな。」
本当になんなんだよ...。
まあいいか別に。この授業自体をちゃんと進めたいわけではないし。ニックのやる気がないなら仕方がない。ニックを呼び戻そうとしている態度は示せたしな。
戻って二ナ先生に報告し、この授業は適当にやり過ごそう。




