㉘当日のアイナ
ゼルノが不審者を捕まえようと言い出した時、アタシは少し驚いたくらいで、他にはなんとも思わなかった。
だけどその後、不審者が絶対に現れる場所、それが生徒会室前だと聞いて、アタシの中で2つの点と点が線で繋がった。
ゼルノ、ジャックにとっては、ただの不審者でしかないんだろう。でも、アタシにとっては今この瞬間から、ただの不審者ではなくなった。
すごく悩んだ。
ジャックの状況をどうにかしたい。その話をゼルノに持ち込んだのはアタシの方だ。その手前、やっぱりやめようだなんて言い出せない。かと言って、何か他に案が浮かぶ訳でもない。
うん、やっぱり失敗するのは嫌かな。
せっかくみんなで考えた作戦。わざと失敗なんてアタシには出来ない。それにアタシは、まだ誰に肩入れするか決めたわけじゃない。お父様の代理として、見極めに来たのだ。
生徒会長、エルレイナ=リーズファルト。
彼女が信じるに値する人間なのかを。
始まりは三年前、私の父が会長を務めているグリーブ商会は、販路拡大のため東侯爵領内に進出をすることになった。その際にお父様は東侯爵家当主、シャルマン=リーズファルトに挨拶をしに行った。アタシも詳しくは知らないが、どうやら気が合ったらしく、それ以来お父様は東侯爵家を頻繁に訪れるようになった。
そしてお父様から東侯爵家長女、エルレイナ=リーズファルトについての話を聞かされた。
彼女の噂は聞いたことがあった。容姿端麗、頭脳明晰、多彩な才能、数を挙げればきりがない。そんな彼女がとある計画を立てたのだと。
その計画が実行されたとき、王国は崩壊してしまうかもしれない。それほどの危険を孕んでいた。だからアタシは、お父様に変わって彼女の真意を見極める。
彼女は王国の未来に、何を見ているのか。
しかし、落とし穴作戦決行日を迎えても、アタシはまだ、エルレイナに接触することができていなかった。そしてアタシは、一つだけ裏切り行為を行った。
作戦を漏らしたのだ。
当日の放課後になって、不審者とばれるほどのリスクを負ってでも、何かをする必要があったのであれば、それはとても重要なことなんじゃないかと考えた。
そして、彼女の部屋に一枚の手紙をこっそりと届けた。
「今夜、不審者、捕まる、生徒会室」
内容は最低限にした。これで何かが変わるのかもしれない。変わらなければその程度のことだったということ。当日なら対応は間に合わないだろうから、ジャックは作戦を成功させるだろう。
エルレイナは関係の証拠隠滅の時間を確保できる。ちょうどいい塩梅になるはずだ。
そうしてアタシは、作戦当日をやり過ごした。




