㉗予想外の状況
幼少期より「影」に所属する俺には、5人の同期がいる。その中で俺は落ちこぼれだった。厳しい訓練の中で、しっかりと成果を残す同期を尻目に何もできない日々。そんな俺は同期にも見限られ、いつしかゴミのように扱われていた。思い出したくもない。
そんな同期の中でも特に俺を迫害していたのがレイン。弱いものいじめが大好きなサド野郎。一番会いたくない奴が俺に、落とし穴作戦の結果を伝えに来た。
「ゴミはゴミなりに頑張っているみたいじゃねえかクソ野郎。最後の仕事なんだろ?ようやく同期の汚点がい消えると思うとすっきりするぜ。」
「レインこそ、かなりの数の暗殺をこなしてるらしいね。」
「はっ、お国のためにやってることさ。国に仇なすクソ野郎をぶち殺せる最高の仕事だぜ。お前のこそこそしたしょぼい仕事と違ってなぁ。」
攻撃しながらじゃないと話せないのかこいつは。早く結果を聞いてここを立ち去りたい。
「それで、結果を聞いてもいいかな?」
「おうおうそうだったな。リバールだが、護送中に何者かに襲われて死んじまったみてぇだ。上の連中は相当ご立腹だぜ。」
「...え?嘘だろ?...本当に死んだのか?」
こっちは「影」。その道のプロだ。護送の失敗なんてそうそう考えられない。
「奪い去られる前に殺すしかなかったらしいぜ。こっちの人員も3人いたが2人死んで1人重傷。こりゃ相手は相当の手練れだぜ。」
「....!?」
「影」の人員にまで被害が出ているのか。予想外すぎて言葉が出ない。
「お前の最後の仕事、かなりデカい案件かもしれねぇぞ。上の連中も考えを改めてる。ゴミのお前には重い仕事になるかもなぁ!」
とにかく俺は、一度考えを整理したい。一つ言えることは、俺の「最後の仕事」はまだ終わっていないということだ。一筋縄ではいかないと思っていたが、想像以上に話がこじれてきた。
「それじゃ俺は行くぜクソ野郎。とっとと最後の仕事を終わらせて消えてくれ。」
そう言い残してレインはこの場から立ち去った。
エルレイナ=リーズファルト。東侯爵の娘。彼女が黒なのだとしたら、その後ろに広がる闇はいったい何なんだ。その正体を暴き、王国に仇をなそうとしているのならば、それを食い止める。それが「影」の役割。そして俺は情報集める。
また、明日から地道に調査を続けていこう。
とりあえず俺は、王国学園の学園寮に帰宅した。休日は学園敷地外への出入りが自由になる。そのため実家に帰省する生徒も少なくない。だからだろう、平日だと生徒をちらほらと見かける寮のロビーにも、今は誰もいない。
少し疲れた俺は、部屋にはないロビーのふかふかのソファーに腰を掛けてみた。悪くないな。こんな椅子が自室にも欲しい。
さて、これから「最後の仕事」をどう進めていこうか。
「あっ!ゼルノ君!!」
不意に明るい声で名前を呼ばれて、俺は声のする方に振り返った。
「ジャックじゃないか。どうしたんだい?」
「いや、と、特に用があるってわけでもないんだけど、さ。僕も座っても、いいかな?」
断る理由もないため、俺は正面のソファーに座るように促した。それにしても、ジャックは変わったな。声色も違うし、前よりはっきりと話せるようになっている。
「その、ゼルノ君、改めてお礼が言いたくて...」
「ジャック。その話はもういいんだよ。僕は何もしてないさ。この前のクラスでもはっきりと自分で自分の意思を発言してたじゃないか。」
「それは...そうかもしれないけど、それでもやっぱり伝えたいと思ったことは伝えるよ!ありがとう!」
「はは。本当に変わったねジャック。じゃあ、これで最後にしてくれよ?どういたしまして。」
「うん!そ、それでさ...僕、僕と....」
ジャックが緊張した面持ちてこちらを見ている。なんだ、何を言おうとしているんだろうか。
「僕と、友達になってください!!」
そういうことか。ジャックのこの緊張具合。まるで人生で初めて言ったみたいだな。落とし穴作戦以来、俺たちは話すことはなかった。そもそもあれは友人関係ではなかったしな。これから話すことがなくても、それでもいいと俺は思っていた。だがジャックは俺と友達になりたいと言う。
うれしいじゃないか。たとえ、お面を被った自分だったとしても。
「もちろんだよ。僕らは友達さ。」
「よっ、よかったぁ!断られたらどうしようかと思ってたんだよ。人生初めての友達だ!」
ジャックは目に見えてほっとしている。そしてとてもうれしそうだ。日に日に感情を表に出せるようになってきたな。見ているこっちもうれしくなってくる。
そして俺にとっても人生で初めての友達だ。
先は短いかもしれないが、精一杯大切にさせてもらおう。




