㉖ジャックの一歩
落とし穴作戦の日から、数日が経過した。
王国学園を悩ませていた不審者問題は、一人の生徒によって解決された。作戦翌日の朝は緊急の全校集会が行われ、その場でジャックは校長によって表彰されることになった。
当初は危険な行為一人で行ったことを怒られもしたみたいだが、結果よければすべてよし、ジャックは勇敢な生徒として褒め称えられることになった。
こうしてジャックは学園内で一躍有名人になった。
そしてクラスでは...
「おいジャック、飲み物買ってこい。...あんまり調子に乗るんじゃねぞ。」
ジャックが表彰された直後、授業後の休み時間中に、ニックがいつものようにジャックにそう声をかけた。ジャックは少しの間うつむいた後、何かの意を決したかのように席から立ち上がり、ゆっくりとニックのもとへ歩みを進めた。その足は震えていたが、確実に一歩ずつ前に進んでいた。
「な、なんだよジャック。早く買って来いよ!」
「...ぃ、いやだ!」
「ああ!?お前何様のつもりだ!?たかが不審者を捕まえたくらいでいい気になるなよ。」
「うっ.....」
ニックのすごみにジャックはたじろぐ。
「表彰されて、そんなことで変われるなんて思うなよ。お前は何も変わってない弱虫のまんまなんだよ。いいから早く買ってこいカスが!」
「...違う、違うよ。僕は変わったから何かを成し遂げることができたんだ!これまでの僕は自分が嫌いで、どうしようもなくて....でも今の僕は違う!弱虫かもしれないけど、それでも僕は変わるって決めたんだ。飲み物が欲しいなら自分で買ってこいよ!」
よく言ったジャック。クラス内は静まり返り、みんなが二人の行く末を様子見している。これは小さな革命なのかもしれない。カースト下位の人間が上位の人間に下剋上を突き付けた。片や学園内の不審者を捕らえた英雄、片や親の権力にすがる暴君。
さて、民衆もといクラスメイトはどちらにつくのか。
「お、お前...誰に向かって口をきいているのか分かっているのか!俺はロイム家の三男だぞ!お父様に言いつけてもいいのか!?」
「...ダサッ」
誰かがボソッと、そう口にした。
「お父様って、子供みたい。」
「前から偉そうにして、不愉快だったんだよな。」
「結局自分じゃ何もできないんだよ。」
風向きが変わる。クラスはジャックの味方をした。ニックの顔はもう真っ赤だ。
「お、おいバンジ、ベイム!い、行くぞ!」
ニックは取り巻きの二人を引き連れて教室から出ていった。
そしてクラスメイトからの歓喜の声が上がり、皆がジャックのもとへ駆け寄って行った。彼は今、すごいだのよく言っただの様々な声をかけられている。これはもうクラスの人気者だな。
「アンタは行かなくていいの?」
気づいたらアイナが俺の席の横にいた。
「いいよ。またいつでも話せるからね。」
「ふーん?澄ましてるけど本当はさみしいんじゃないの?」
「そんなことないさ。うれしいよ。」
そう言って俺は顔に笑みを作る。
「そ。アタシもうれしいわ。ここまでうまくいくとは思っていなかったけどね。」
「それはアイナのおかげだよ。君の筋肉パワーがなければ、落とし穴も当日までに間に合わなかったしさ。」
バッシっ!!
思いっ切り頭をしばかれた。痛い。
「いててっ...ごめん冗談だよ。君はか弱き乙女だからそのこぶしはおろして!」
「ふん。分かればいいのよ。」
そんなこんなで、ジャックはニックのパシリから解放されたのだ。
そうして迎えた週末、俺は今「影」から事前に指定されていた近くの森に来ている。この場所で、捕らえたリバールを尋問した結果の報告を受ける予定だ。
「....っつ!?」
唐突に背中に大きな衝撃を受け、俺はかろうじて受け身を取りつつ、前に倒れ伏せた。何が起きたのか分からず、状況把握をするため急いで立ち上がろうとしたが、それよりも早く何かが俺の背中を踏みつけた。
「ぁがっ...っ誰だ...」
「よう、クソ落ちこぼれ。わざわざ俺様が直々にここまで来てやったんだ。クソが挨拶の一つでもしたらどうなんだ?」
「れ、レイン!?どうしてここに......ぐぁっ...!!」
俺を踏みつけていたその足で今度は蹴り上げられた。その拍子に相手の顔はしっかりと確認した。間違いない。レインだ。「影」の暗殺部隊に所属している俺の同期。
レインが結果を伝えに来たのか?
「ちっ、相変わらず弱っちいクソ野郎だなおい。クソが俺様をこんな所によこしやがって。お前のゴミみたいな成果を、わざわざ俺様が伝えに来てやったんだよ。泣いて喜べクソ野郎。」
相変わらずの上から目線。残虐な性格破綻者。人を人と思っていない最悪な奴が結果を伝えに来たようだ。
まいったな。




