㉕リバール=ライセント
バキッ、バキバキッ!!ズザァァァドンッ!
夜。生徒会室の方から派手な音が聞こえ、俺は作戦通り不審者が落とし穴に落ちたことを確認した。
今夜の作戦はすべてジャックに一任していた。ジャックだけで成し遂げられるように備えは万全だ。とはいえ、何か不測の事態が起こるかもしれない。そのために、俺はジャックには内緒で後をつけてきた。
今夜のジャックはとても落ち着いていた。素人としては気配をうまく隠すことができている。
不審者が落とし穴に落ちるまでは、待っているだけだ。重要なのは落とし穴に落ちてから。ジャックが不審者が落ちていることを確認した後に、守衛を呼びに行かなければならない。
穴の深さは約2メートル。這い出るのは容易では無いと思うがどうだろうか。本音を言えばもう少し深さを稼ぎたかった。だが決行日まで時間が無く、今の深さまでしか掘ることができなかったのだ。
ともあれ、不審者は落とし穴に落ちた。今、ジャックは穴に落ちた不審者を確認するため、ゆっくりと生徒会室入口の方まで近づいて行っている。
生徒会室に忘れ物を取りに来た、生徒会役員の可能性もあるから、確認しておくことは大事だ。
俺はジャックにバレないように、もう少し生徒会室の方に近づく。
ジャックは穴の中の確認を終えたようだ。そしてそのまま小走りに、守衛の居る正門前まで向かって行った。走れば片道5分といったところか。
さて。俺はさらに生徒会室へと近づく。不意に2メートルも下に落とされると、常人であれば足を挫いて動けないはずだ。だが奴は、不審者と称されているリバール=ライセントは只者じゃない。裏の組織に所属するプロだ。
少し離れた位置から穴を見つめる。
ザッ、ザザッ...
その音は、穴の中からなっている。ジャンプをしているのだろう。すると、中から手が出てきて、穴の縁を掴んだ。やはり這い出てくるか。
どうしようか。とりあえず俺は素早く穴まで近づいた。そして穴の縁を掴む手を足で踏み付けた。
「ぐぁっっ.....!?」
急に足を踏まれて驚いたのだろう。今まで出さなかった声を少しだけ漏らした。それでも直ぐに口を噤むとは大したものだ。
あと8分ほどでジャックは守衛を連れて帰ってくるだろう。それまでこれを続け、ギリギリでまた隠れたらいい。そして念の為、顔を見られないように穴の中も覗かない。
懲りずにジャンプして、這い出ようとするリバールの手を踏み付けながら、そんなことを考えていた。
「...だっ、誰だっ!」
ついにリバールが焦りながら、そんなことを聞いてきた。だが答えてやる義理はない。
そして3度目の手を踏み付けた時に、奴は派手な音を立てて、穴の中へと落ちた。そしてそこから物音ひとつ立てなくなった。
なんだ?打ちどころでも悪かったのだろうか。
ジャックが守衛を連れて戻るまであと5分。
リバールは穴の中で何をしているんだ?本当に打ちどころが悪かっただなんて考えにくい。諦めたのか?
あと4分。奴の様子が気になる。
よし、中を覗いて確認しよう。別に見られたところで、何かに支障が出る訳でもない。
穴の縁ギリギリに立ち、慎重に中を除く。
.......つっ!?
紙一重で体を後ろに反らし、奴の投げたナイフを躱した。やばかった。続けざまにも1本やつはナイフを投げたが、当てずっぽうだったのだろう。ナイフはあさっての方向へと飛んで行った。
やはり侮れないな。だがもう時間だ。遠くでランタンの明かりが揺れているのが見える。もういいだろう。俺はその場から離れ、再び近くの物陰に身を隠した。
「...あそこです。あの生徒会室の入口に不審者がいます!」
ジャックの声が聞こえてきた。あとは「影」の関係者にすり変わっている守衛が上手くやってくれるだろう。
俺はその場を後にし、寮へと帰宅した。




