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㉓手紙



 落とし穴作戦決行日。


 その日まで俺は、穴ばかりを掘っていた訳じゃない。しっかりと根回しも済ませておいた。もちろん、不審者をとらえた後、その身柄を「影」で引き取るための根回しだ。


 当日の夜、王国学園の守衛が「影」の関係者になるよう手配している。「影」の存在は王国のトップシークレットのため、怪しまれるような派手な動きはできない。


 つまり、ジャックが落とし穴作戦を成功させない限り、不審者を捕らえることはできない。うまくいくかどうかはすべてジャックにかかっている。当の本人は、そんな裏の話など一切知らないのだが。


 俺もこっそりと、できる限りのサポートはするつもりだ。



「これで終礼を終わります。皆さん今日も一日お疲れ様でした!」


 そんな二ナ先生のあいさつで放課後を迎えた。帰り支度をしているジャックを横目に見る。今日の放課後、昨日まで開いていた作戦会議はもう無い。俺、アイナ、ジャックの3人は、ジャックが変わるために集まっていた。今日はその作戦を決行する当日だ。冷たいようだが、これ以上の手助けはかえってジャックのためにならないだろう。


 それにジャックはもう大丈夫だ。そう、俺は思っている。


 俺も帰り支度をして寮へ戻ることにしよう。




「ん?」


 寮棟に帰宅し、部屋の前に立った時、妙な違和感を感じた。周囲を見渡す。しかし、その違和感の正体は分からない。


 思い切って部屋のドアを開けた。


 部屋の中を見渡す。特にに変わったところは無い。ゆっくりと中に歩みを進める。部屋の真ん中まで入ったとき、机の上に何かが置かれていることに気づいた。


「...なんだこれは。」


 手にとって分かった。これはおそらく手紙だろう。封筒には何も書かれていない。中に何も仕込まれていないことを慎重に確認した後、ゆっくりと封を開けた。


 中には一枚の手紙が入っていた。


 普通に読むと、「元気にしているか」といった、故郷からの手紙のように見える。まあ、これは暗号だな。


 アナグラム解析。文字をバラバラに分解して組みなおすと、まったく別の文章が現れた。これは「影」からのメッセージだ。今夜の手配が完了している報告と、エルレイナの正体について突き止めるいことができた場合の今後について、そして何もわからなかった場合は調査を続行する、といった内容だ。


 ここでやっと違和感の正体が分かった。ニオイだ。「影」の関係者が通ったのであろう、じめじめしたニオイ。俺はこのニオイが好きにはなれなかった。


 王国の地下にずっと住み着いていた俺も、きっと同じニオイがするのだろう。


 ともかく、今夜に向けて準備は整った。


 捕らえられた不審者は、すぐに「影」によって尋問される。エルレイナが黒だという言質が取れたら、俺は晴れて目標達成。「影」から解放されるというわけだ。


 「最後の仕事」だから難易度の高いものになるだろうと思っていたが、ここまではかなり順調だ。ちょっとした「お節介」まで焼く余裕がある。


 さて、「最後の仕事」が終われば王国学園からも出ていくことになるな。ここで過ごす時間もあとわずかしかないと思うと、少し寂しい気持ちになる。


 普通の人生を歩んでいたら、普通に王国学園に入学して、クラスのみんな、アイナやジャック、リリなんかともっと仲良くなって、良い学園生活を送っていたのかも知れない。


 分かっている。意味のない想像だ。


 でも時折夢に見てしまう。来世ではそんな人生を歩めるといいな。まあ、地獄に落ちることが確定している俺に来世があるのかは分からないが。


 柄にもなく感傷に浸ってしまった。さあ、気持ちを切り替えて今夜に備えよう。

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