㉒決行前夜
穴を掘る。
それ自体は別に難しいことではない。だがしかし、誰にもバレずに、人の往来がある場所に掘るとなると、その難易度は跳ね上がる。
王国学園では、主要な大通りのみ石畳で整備されており、それ以外の道は基本的に地面がむき出しになっている。不審者が出没する場所はもちろん石畳ではなく地面がむき出しだ。
罠を仕掛ける場所は生徒会室の入口前。仕掛ける落とし穴の深さは2メートル。落とし穴作戦が決定した日の夜は、捕えることを見送った為、期間は次に不審者が出没すると考えられる3日後の夜まで。
夜と朝の境界。午前3時から4時まで、その間の1時間で穴を掘り、落とし穴を仕掛ける。俺たちは寮長であるレイモンドに見つからないように、毎夜ビクビクしながら寮を抜け出した。
ジャックは才能を使って、落とし穴を掘る前の地面の表面を完璧に模写して見せた。その下に穴があるなんて誰も気づかないだろう。
今は誰かが踏んでも穴に落ちないように硬い蓋をしているが、当日の夜は踏んだら直ぐに壊れる蓋に変える。
前日の夜中、ようやく深さ2メートル程まで落とし穴を掘り終えた。
「ふう。何とか掘り終わったわね。すごく疲れたわ。」
「ありがとう。アイナのおかげで何とか間に合ったよ。」
おそらく、アイナの身体能力向上の才能が無ければ間に合わなかっただろう。作戦会議中は様子がおかしかったが、今ではいつものアイナに戻っている。
「この深さなら、落ちればハシゴかロープでもない限り登っては来れないわね。後は明日の夜に、ジャックの蓋をセットして準備完了ってとこ?」
「うん....蓋はもう出来てるから、明日の夜に上手くすり替えるだけだね...。上手くいくかな...?」
ジャックが不安そうにしているが、落とし穴に関しては何も心配する必要はないだろう。
「大丈夫だって。きっと上手くいくさ。あとは当日、任せたよジャック。」
「やっぱり僕、自信ないよ...。でも、変わるって決めたから...頑張る....!」
不審者を捕まえるための落とし穴作戦。表向きの目的は、ジャックが自信の無い自分を変えるためだ。だからこそ、俺とアイナはお膳立てまでしかしない。ここから先はジャックが1人で実行する。
この作戦が成功したら、ジャック1人の手柄になるだろう。それも狙いのひとつだ。そうする事で、周りからの評価も変わり、ジャックを馬鹿にする奴も減るはずだ。
そして、俺が関与している事も隠すことが出来る。これが、実は本当の狙いでもある。
不審者の正体であるリバール=ライセントが、夜な夜な生徒会室に忍び込んでいる。それもかなりの高頻度でだ。生徒会長であるエルレイナと関わりを持ってることは間違いないだろう。
そしてリバールは王国転覆を画策している組織の構成員である疑いがかけられている。現時点でもエルレイナはかなり黒い。
しかし、そう簡単に証拠が見つかるとも思えない。リバールを捕らえて尋問し、何も確証を得られなかった場合、俺はまだ王国学園に残って調査を続ける必要がある。
つまり、保険というやつだ。
明日の夜はジャック1人にすべてを任せることになる。まあ、念のため俺はこっそりジャックの後をつけて見守りに行くつもりだが。
「よし、明日に備えて今日は休もう。」
「そうね。ジャック、後はあなたに託したわ。いい結果が聞けるのを期待しているから。」
「うん...!二人ともほんとにありがとう!結果がどうなったとしても、僕は絶対に変わるから。もう、今までの僕とは、違うんだ...!」
うん。成功してもらわないと困るんだけど。まあ、そんなことは言えるはずもないから、激励でもしておこう。
「そうだね。ジャックは確実に変わってきているよ。ここからは、きっと一人でも進んで行ける。だから明日は、そんなに気負わずにやればいいさ。」
そう、気負わずにやればいい。何か問題が起きそうなら、俺がこっそりとバックアップするから。何としても、俺が成功させる。
さあ、明日が楽しみだな。




