第六夜 地下道
地下深く、終点が見えないほど長い距離の階段が続いている。途中で折れ曲がることもなくまっすぐに。階段の道幅は六十尺ほどもあるだろうか、かなり広い階段である。一定間隔に左右対になってトンネルのような階段道を照らす蛍光灯がジジジと鳴る音。側溝を静かに流れ落ちていく地下水の音。足を踏み出すたびに反響する自分の足音。薄気味悪い場所だと思った。
でもあたしは下っていく。足は地底を目指して淡々と前に進んで行く。あたしは何処に向かっているのだろう? 訳も分からないまま進んで行く。立ち止まる必要を感じなかったからだ。きっと何かちゃんとした目的があって、今はただ忘れているだけなのだろう。歩いているうちに思い出すだろう、と。
タン、タン、タンと踏まれた階段が短く鳴く。遠くでガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、と列車の走る音が聞こえた気がした。この道の先には列車が走っているのだろうか。
列車があるということは、あたしはそれに乗るために歩いていたのかもしれない。忘れていた目的はそれだろうか? よく見れば階段には何人かの通行人がいるではないか。薄暗いトンネルの中では顔はよくわからなかったが老若男女様々な人間が居ることに気が付いた。なるほど、ではやはりこの先には列車があり、あたしを含めこの人間たちはそれに乗るために階段を下っているのだろうと合点した。
しかし不思議なものである。階段を下りる人間は居るが、列車から降りて上がってくる人間はとんと居らぬ。降りる人間が居ない列車というのは何とも不可思議である。
ふとあたしは気が付いた。階段を下っているのではなく、登っているのだ。




