第五夜 硝子細工
ごうごうと窯から出た火が蛇となって苦しげに床でのたうち消えた。年老いた硝子職人が窯から橙色に染まった楕円形に延ばされた硝子をクルクルと回しながら引き出した。あたしはそれを近くで眺めている。
「これも駄目だ。見込みがねえ」
硝子職人は今しがた取り出した硝子を水桶に突っ込みながらそう言った。パンッと硝子が割れる音がした。視界の端で橙色は青く染まって水の底に沈んでいった。
「何が駄目なんですか、職人さん?」あたしがそう聞いても硝子職人はムスッとした表情で次の硝子を窯に入れているところでまるで相手にしてくれなかった。
あたしは仕方なく腕をまくって水の底に沈んだ青く染まったガラスを取り出した。すると驚いたことに先ほどまで楕円形だった硝子が綺麗に二つに割れて小さな硝子の杯になっているのであった。水の色を吸い込んだような透き通った青色の杯だ。表面にはいつの間にか不可思議な模様が刻まれていて光を反射して綺麗に輝いていた。
「こんなに綺麗な硝子細工になっているじゃありませんか。一体何が不満なんです?」訊くと硝子職人は手を休めて言った。
「儂は橙色の硝子細工をつくりたいんだ。窯にくべたままの色でいりゃあいいのにちょっと空気や水に触れただけで直ぐに忌々しい青色に変わっちまう。お嬢ちゃん、何かいい方法はあるかいな?」
「きっと硝子は色を吸っているんですよ。水や空の色を吸うから青くなる。だったら橙色の水を使えばいいんじゃないですか?」
「おお、それはいい考えだ。でも橙色の水なんてどこにある?」
「血を水で薄めればいいと思いますよ」あたしは喉が渇き始めた。
「成る程。じゃあ早速橙色の水を作ってこよう」
言って職人は部屋を出ていった。すぐに帰ってきた彼の手の中には薄赤色に染まった水の桶があった。
「さっそくやってみよう」
職人は窯に硝子を入れた。その隙にあたしは桶に柄杓を突っ込んで水を掬い上げて一飲みした。そして、そのあまりの不味さに咽てしまった。
「職人さん、この血は何ですか? ちっとも新鮮じゃない」
「ああ、今朝絞めた鶏の血が余っていたから使ったんだ。色は問題ねえ」
あたしは閉口して青い杯が生まれた桶から水を飲んだ。




