第七夜 川霧
山の間を濃い霧が流れてくる。川の流れもそれにつられるように流れている。ひどく冷たい空気の流れを頬に感じた。草鞋を履いた足の裏には大小さまざまな石が転がっていて、体重をかけるとギュ、ギュという感触が返ってきた。
明るい。空は濃い霧で覆われていて一面真っ白になっているが昼間の明るさを感じた。
ギュ、ギュ、という感触を感じながら川を上っていく。しかし、川が蛇行していて途中で砂利道がなくなってしまっていた。これより先に進むには向こう岸に渡らなければならない。
立ち止まって、冷たそうな黒い川を見つめていると、ふと以前来たことがある場所のように思えた。はて、何時のことだっただろうか?
足を踏み出すと見た目とは裏腹にぬるい水の感触がした。あたしは着物の裾を両手で引き上げてジャブジャブと黒い流れを蹴散らしながら向こう岸へと渡った。
急に霧が濃くなった気がした。振り返ると先ほどまでいた対岸は見えなくなっていた。一抹の寂しさを憶えながらもあたしは上流へと向かって足を進めていった。昔からそうだ、とひとり思う。振り返ると道はない。時間は戻らないのだ。
ギュ、ギュ。あたしは歩いていく。たまに大きな石に腰かけて休んではまた歩いていく。緩やかな川端の傾斜は何処までも続いていく。夜は何時まで経っても来なかった。
歩いていく途中、霧の流れに運ばれてしゃれこうべどもが後ろへと流れていく姿が見えた。白い霧はしゃれこうべの色だった。風に吹かれる凧のようにユラユラと揺らめきながら流れていく。無個性な無数のしゃれこうべどもを蹴散らしながら、あたしは川を上っていく。
はて? とあたしは立ち止まった。あたしは何故上っていくのだろう?
果てしなく川を上っているうちにあたしは随分疲れてしまった。座る手ごろな石も何時からか見つからなくなった。霧はますます濃くなって足元も見えなくなった。だんだん色々なものがなくなっていく。
ギュ、ギュ。あたしは草履の裏から感じるその感覚だけを感じながら歩き続けた。




