二学期入院中期
手術も無事に終わって数日後、横山がお見舞いにまた現れた。
「思ったよりこのゲームやばい」
いかにも泣いた後ばっちりな赤い目の俺を見て、横山はドンビキをしながらも、ベッドの側にある来客用の椅子に座り、何のゲームが?という訝しみながらも、俺が手にしている石田からの借り物のPLPゲーム機の方に目を向ける。
「うわ、お前結局女向けゲームやってるのかよ!」
「テンプレシリーズよりはマシかなと思って……」
俺はそういいながらも枕元に置いてあるティッシュを数枚引き抜いてから、鼻をかみベッドの側に置いてあるゴミ箱に投げ捨てた。
「で?このゲームの何がやばい?」
「今は何も聞かずにやってくれ、そして終わったら感想聞かせろ」
「お前それじゃやる気にならねーぞ」
「いいから男なら黙ってプレイしろ!」
「意味わかんねー!!」
ソフトのまた貸しは退院して学校に行った時に石田に謝るから、お前もこのゲーム機持ってただろ!と言いながら俺は有無言わさずにそのソフトケースに仕舞い横山の鞄に押し込んだ。
横山はブチブチと何か呟きながらも、俺がゲームソフトを押し込んだ鞄から、大量のコピー用紙とプリントを俺に差し出す。
「こ、これお前の為にと思って用意したんだ……良かったら受け取って……ってなんでそんな冷めた目で俺を見るんだよ」
「そういった寒いギャグは西村さんにでもしてろよ」
心底嫌そうな顔をしながら俺は横山から、その大量の紙の束を受け取りながら中身を確認する。
「うわ……きったない字だな、俺でもまだましな字書くぞ」
「頭いいやつは字が汚いのが定番なんだよ」
「これお前の字かよ!そして俺と変わらない位の成績で頭いいとか言うな!」
ノートをコピーしたやつに、多分俺が休んでる間に配られた授業のやつから、学校からの案内とかのお知らせのプリントに目を通しながら、不必要なのを抜きながらゴミ箱に捨てていく。
学校行けるようになるまでに、この授業中に配られたプリントとノートだけで授業追いつけるのかと思うと少し心配になってくるけれど、こればっかりは入院中だから仕方ないし、担任の先生も補習等でフォローするとは言っていたので、それに期待をするしかないけれど一応入院中でもわかる範囲だけでもやっておくかと考えながら、プリントとノートの内容を授業毎に分けていく。
「そういえばさ、石田だけど」
ふいに横山の口から出た石田の名前に俺は顔を上げて横山を見ると、なんというかどういえばいいのかといった困ったような顔をしながら、目をあちこちに彷徨わせてて、こいつ大丈夫か?と少し友達ながら心配になってしまいそうな動きをしてて、思わず何があったんだとこっちの方が身構えそうになる。
「なんというか、3年生の先輩に目をつけられたみたいでさ……やたら呼び出されてる」
「はあ?」
目をつけられて呼び出されるって、女の先輩に?え?まさか体育館裏に呼び出されるとかそういった意味で?
でも俺達の学校の体育館裏って自転車置き場だぞ?呼び出されても丸見えだぞ。
「その、ちょっと前にさ、具合の悪い3年生の先輩を見かけたらしくてさ、心配で声を掛けたら気持ち悪くて動けないと言われたから、見た目の体格とかで……」
「まさかやったのか!」
「そうやったんだよ!」
俺は思わずその図を想像してしまって、俺はされたくないって意味で身震いをしてしまう。
石田が俺達と休み時間遊ぶときは大体がトランプの時が多い、参加メンバーが少なくてちょっともう少し人数欲しいよなーって時とかに声を掛けたりする要員がその石田だ。
そしてある時そのトランプの罰ゲームの時に、二番ビリのやつが一番ビリのやつに恥ずかしい事をするという罰ゲームをやった。
その時の二番ビリは石田で一番ビリは横山だった。
石田はなんでもない顔をしながら……横山を抱き上げたのだ。
通称お姫様抱っこってやつを!
あの時の俺達の驚きと、抱き上げられた横山の悲鳴と、その悲鳴を聞いたクラスのざわめきは、今でもある意味伝説として語り継がれている、主に罰ゲームのいい例として。
身長155cmない女子生徒が身長170cm越えてる横山を、まさかのお姫様抱っこ誰がそんな事をすると思うか、そしてされると思うか……。石田はけろっとした顔で
「うーん、親の仕事の手伝いで重いのは持ち慣れてるから、こつさえ掴めば持ち上げれるよ?
それよりもさ横山……『羽のように軽いね』ってお決まりの台詞を言いながら、西村さんの所まで運べば罰ゲーム完了でいい?」
「アホか!この時点ですでに十分罰受けた!早く下ろせ!!」
「えー?面白くないなー、まあ横山って見かけ通り筋肉ないんだね」
という男的には心理ダメージをあたえるような事をさらりと口にしながら横山は降ろされた。
横山は身長が172cm位の体重50kg前後で確かに筋肉はない。むしろガリガリな部類だ。まあそれはさておき、石田はそのお姫様抱っこをしたのか先輩に……。
「それで保健室まで急いで運んだんだそうだが、そっからそれを見た先輩とかから話題にされたみたいで、やたらとクラスに見に来たり呼び出したりとかが増えて……」
「え?でもさ、ただ保健室に運んだだけでそんなに呼び出されるほど話題にされるのか?」
横山の話を聞きながら、俺はふと感じた疑問を口にする。
まあお姫様抱っこをして保健室に運ぶの図は確かに吃驚するかもしれないけれど、見学に来たり呼び出されるほどかと言うとそうでもないと感じるわけで。
「そりゃ男側からしたら衝撃だと思うぞ?」
「……え?保健室に運ばれたのって男の先輩?!」
「あ…………主語抜けてた、テヘヘペロ」
「主語抜かすなそして、テヘヘペロじゃねー!!」
咄嗟にベッドに立てかけてある松葉杖を手に取り、横山を思いっきり殴ろうと振り下ろすのを、うわっまじあぶねぇー!って叫びながらも横山は真剣白羽取りのようにして受け止めた。
くっそこいつ、大人しく頭位殴られろよ、と悪態つきながらももう一度松葉杖を振り下ろしたいけれど、横山もそれを勘付いてるからか杖をしっかり掴んで、中々離さずに2人で言い合いをしながら押し問答が始まった。
その一連の動作が廊下にまで響いてたみたいで看護師さんに、うるさいと仲良くお叱りを受けた。
「最初は男子をお姫様抱っこした1年女子って意味で見に来る先輩方の方が多かったんだけど、石田はさ1学期はともかく2学期からは髪の毛もある程度伸びて、見た目は可愛くなってきたし、夏休み一緒に遊んでそこそこ肉付きはいいのは知ってたし、3年の先輩からしたら、背も低くてソコソコ肉付きも良くて、はずれではない顔でフリーってので目を付けたみたいで……」
思わず横山の続きの言葉を聞きながら頭を抱えたくなってきた。
肉付きとかはどうでもいいけれど、確かに何か判る気がする、俺も其処まで背が高いほうではないしあの時まで背の高さと気にもした事さえなかったけれど……あの祭りの日、石田が俺のシャツを掴んで俺を見上げたあの時、その何時もと違う女の子らしい仕草にドキッともしたけれど、きっとトドメは石田が俺を見上げた時だ。
その時石田が俺を見上げて見ている事に気が付いて、その身長差に初めて意識した。
「そんな訳で石田はいま絶賛モテ期です」
頭を抱えながらも、石田を意識した事を思い出して赤くなった顔を横山に見られずに済んで、少し安心をしながらも指の隙間から見える、よし、俺はすべて言い終わったって顔をする横山の頭を無駄に殴りたくなった。
「そういえば、どっから肉付きがいいって話題が出たんだ?
俺達でさえ、夏休みに一緒に泳がなかったら気が付かなかった事なのに」
男女混合でプールの授業は基本あまりしない、片方がプールの間は選択授業といった感じで、大体が分かれて行われているから、俺も授業中に女子の水着姿を見たことがあるとかはない。
そいれに制服姿だと石田は意外と着やせしてて……って思い出しそうになるのを慌てて無視する。
「そりゃお姫様抱っこされた先輩が話したのかも、意外と胸が脇腹辺りに当たって……っておい堀川俺のスマホどうするんだよ!」
横山が最後まで言い終わらないうちに俺は横山から無理やりスマホを奪い取りながら操作をする。
よしロックは掛かってない、えーとチャットアプリチャットアプリと指でさっさとスワイプしながらお目当てのアプリを探していく。
「そりゃもちろん、西村さんに『石田の胸が脇腹に当たって』っていう感想を送るんだよ」
「お前!それマジ辞めて!!!」
お前マジ辞めろ!という横山の叫び声を無視しながら、横山に奪い取られないようにガードしながらアプリを見つけて、西村さんの名前を探す。
あったあったと思いながら、それをタップして次は文章を打とうとした所で頭にガツンと衝撃が来た。
スマホの奪い合いをしながら騒いでたからか、それとも2回目の騒ぎだからなのか、母さんが般若の顔で俺と横山に下ろしたと思われる拳骨の構えで俺達を見下ろしていた。