第8話 トリートメントと怪人アプリ
おい、遂にボトルでもパウチでもなくチューブになったぞ。この前ふざけてそのうち試供品の怪人が出るんじゃないかって言ってたけど、本当に試供品じゃないのか? いやでも物によっては大きいチューブの商品もあるのか。歯磨き粉みたいな。もうあいつ歯磨き粉ゾーメでいいや。知らないけども。
「とりあえず変身! 染髪マン!」
俺は青い染髪マンに変身し、歯磨き粉ゾーメ(仮)の前に飛び出す。
「おい歯磨き粉ゾーメ! そこまでだ!」
「アタクシのことザマスか!? アタクシは歯磨き粉ゾーメじゃないザマスが!?」
「じゃあ何がき粉ゾーメなんだよ」
「がき粉って何ザマスか!? いや粉じゃないザマス!」
「じゃあ何だよ。マウスウォッシュか?」
「なんで口関連のものばかりなんザマス!? アタクシはトリートメントゾーメザマス!」
トリートメント……? この間のコンディショナーとどう違うんだ? ……あ、あれか。歯にとってのトリートメントみたいなことか。だとしたらなんだ? 歯を綺麗に強く保つものみたいなことだよな。フッ素か。
「お前の悪事はこの俺が止めてやるぞフッ素ゾーメ!」
「どうやってフッ素になったんザマス!? アタクシちゃんとトリートメントって言ったザマスよね!?」
「うるせえ! 食らいやがれ! 熱湯掌底ッ!!」
俺はコンディショナーゾーメを倒したのと同じ技を、えーっとなんだっけ、フロスゾーメじゃなくて……。ああそうそう、うがい薬ゾーメに向けて放つ。
俺の手の平から射出された熱湯は、水圧カッターのように口臭スプレーゾーメの体を切り裂いた。
「ぎゃああああああ!!! アタクシの出番これで終わりザマスかあああああ!? まだ何もしてないザマスよおおおお!?」
「断末魔が長い、くどい、役に立たない。今までの怪人たちは散り際に何かしら豆知識を教えてくれたぞ」
「そんなこと言われても困るザマスううううう!!」
結局役に立つ断末魔を上げないまま、デンタルリンスゾーメは大爆発。勢いを保ったままの熱湯に、中身のホワイトニング歯磨き粉が流されていく。あっけなかったな今回のやつ。豆知識も無いし、何の味もしないだろこいつ。
「おーい柊吾ー! 早かったな! ってうわっ! なんか飛び散ってるぞ!?」
「ん? ……ああ、さっきの練り歯磨きか」
「あの怪人練り歯磨き!? まじ!? なんか今までのやつと違くね!?」
「一応怪人から出たものだから、触らないようにしろよ大輔。触ったらお前の学生証の写真に『肉』って書くぞ」
「小学生の教科書みたいなことやめてくんね!? おでこに肉書くとかいつの時代の落書きだよ!?」
「誰がおでこに書くって言ったんだよ。書くのは明石と大輔の間だよ」
「勝手に俺の名前明石肉大輔にしねーでもらえる!? 何明石肉って!? 神戸牛の下位互換!?」
相変わらずテンションの高いやつだなこいつは。まあでも今度本当に肉って書いてみるか。明石と大輔の間にスペースあるし。デッドスペースは活用していかないとな。
「てか柊吾、お前の髪にも結構付いてるぞ?」
「え? 幸運の女神が?」
「そんなわけなくね!? ポジティブだなお前! ちげーよ! さっきの怪人から出たやつだよ!」
うげ、本当だ。触ったらなんかドロっとした重いものが付いてるぞ。液体と固体の間みたいな。なんだこれ。あの怪人なんて名前だっけ? それが分かればこれが何か分かるんだけどな。オーラルケア関連だったことは覚えてる。
「おい……柊吾! やばいぞお前! 髪色が!」
「ああ、幸運の女神の色変わった? 金色から虹色とか?」
「俺神色って言ってなくね!? なんで金色から虹色に変わるんだよ! ソシャゲの確定演出かよ!」
「もし大輔がガチャで出たらレアリティはミディアムレアだよな」
「それ焼き加減の話じゃね!? いやちげーって! お前の髪色が落ちてるんだよ!」
え、まじ? それは結構困るな。色落ちしたら金髪に戻っちゃうかもしれないし。またコンディショナーゾーメみたいなのが現れたら、金髪じゃ対処できないぞ。
まあでも今はいいか。一旦倒したし怪人。何ゾーメだっけな。えーっと……入れ歯洗浄剤ゾーメとかだっけか。あれ倒したばっかりだからすぐには怪人も出ないだろ。
「よし大輔、授業に戻るぞ」
「なんで!? お前なんでそのベッタベタの髪で授業戻れんの!? いや学校のジムにシャワーあるから、流してから行こーぜ? 利用登録だけしたら無料で使えるからさ」
「うるさいぞ大輔。俺は一刻も早く授業に戻りたいんだ」
「まじでなんで柊吾って大学にはそんな真面目なんだよ!? あと柊吾、行ってももう出席取り終わってるからお前欠席扱いだぞ?」
「……嘘だろ。俺は……何のためにここまで生きて……」
「そんな絶望する!? いや大丈夫だって! まだ仮登録期間だし、欠席になっても問題ねーよ! 本登録してから行けばいーんだから!」
「大輔、俺はもう終わりだ。遺書を書くからお前は白ヤギさんとして責任を持って完食してくれ」
「俺白ヤギさんじゃねーよ! 遺書なら食われたらダメじゃね!? いや柊吾、そんなことよりさ!」
「ああそうだな。夜中にウインナーを焼いて米に乗せて食べる丼ほど美味いものは無いよな」
「そんな話してなくね!? お前食の好み雑だな!? いやちげーよ! 前言ってたアプリあんだろ?」
「ああ、歩数に応じて広告を見たらポイントがもらえるアプリな」
「俺いつそんな話したっけ!? そんなセコいポイ活アプリ俺作らねーから! 怪人のアプリだよ!」
「タイ人のサプリ?」
「怪人のアプリ!! なんだよタイ人のサプリって!?」
「異国でトムヤムクンが恋しくなった時に味だけ楽しめるタブレットだよ」
「じゃあサプリじゃなくね!? いやお前、ちゃんと聞けって!」
「仕方ないな。ちょっと待っててくれ。今連れて来る」
「もうチャンさんはいーから! それ一回やったろ! お前まじ聞けって!」
うるさいなこいつ。何をそんなに聞いて欲しいんだよ。必死になってるけども。必死と言えば、学生課から必死で逃げなきゃいけない運命だよなこいつ。教授ぶっ飛ばしてるし。密着映像とか撮ってドキュメンタリー映画として公開しようかな。
「ほら見てみろよ! これが俺が開発した、怪人が現れると通知をくれるアプリだ!」
「タイ人が現れるとパクチーをくれるアプリ?」
「ちげーって! なんだその親切押し付けタイ人!? このアプリ入れてたら、怪人が出た時教えてくれんの! だから俺は今回被害が出る前に怪人見つけられたんだよ!」
へえ、それは素直に凄いな。え、まだその話してから1日も経ってないよな? もう出来たの? 凄くないこいつ? 凄いと言えばアメリカの飯の太り方って凄いよな。高校の時に2週間アメリカ留学行ってた友達が、帰って来たらフォルム変わってたもんな。まじ帰って来て最初に会った時は大黒天かと思ったもん。
「この間のコンディショナーおばさんいるじゃん? あのおばさん、人の姿から怪人の姿に変わってたろ? あの時に大気に汚染物質みたいなのが急に一瞬増えるんだよ。地図アプリと天気アプリを掛け合わせて、その大気の変動をキャッチできるようにしたんだ!」
「ごめん聞いてなかった。栗きんとんがなんて?」
「柊吾頼むからそろそろ真面目に聞いてくんね!? 俺そろそろ泣くよ!?」
「まあでも、そのアプリ作ったのは素直に凄いし助かるよ。ありがとう大輔」
「お、おう……。どうしたんだよ急に……。照れるじゃん」
「それで、なんてアプリなんだ? 俺も入れたいから教えてくれよ。あ、このパクチーギバーってやつか」
「それタイ人が現れたらパクチーをくれるアプリじゃね!? ちげーよ! この『怪人キャッチ』ってやつ!」
「なんかめちゃくちゃ居酒屋に勧誘してくる怪人みたいだな」
大輔に言われたアプリをインストールし、早速開く。見た目は本当に普通の地図アプリだな。
「それで、通知設定をオフにしたらいいんだな」
「いいわけなくね!? 怪人出たら通知来るって言ってんじゃん! 通知切ったら何の意味も持たねーよこのアプリ!」
「そう言われてもなあ。俺あんまり通知が来るの好きじゃないんだよな」
「知らねーって! それぐらい我慢しよーぜ!? 怪人が出たら戦えるのお前だけだよ!?」
「大丈夫だよ警察とか呼べば」
「ヒーローがそれ言っちゃダメじゃね!?」
まあ通知オフは流石に冗談として、このアプリ結構助かるぞ。怪人がどこに出たかまでキャッチしてくれるから、被害が出る前に駆け付けられるかもしれない。次通知が来たらすぐ行ってみよう。
大輔の技術力に内心感謝していると、ぽんぽんと肩を叩かれる。振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべる美乃里の姿があった。
……え、こいつ授業飛んでない?




