第6話 柊吾の過去と大輔の提案
「……で、なんで大輔は俺の家にいるんですかね?」
「いーじゃん! 柊吾一人暮らしだろ? せっかくだから泊まらせろよ!」
「嫌だよお前寝言で電車のアナウンスするし」
「してなくね!? てか柊吾俺の寝言とか知らねーだろ!」
「前の駅で線路立ち入りがあり、安全確認のため一時停車していますっていつも言ってるんだろどうせ」
「しかも遅延のアナウンスなの!? そんな『どうせ』ある!?」
牛丼屋で大盛り牛丼を食べてそのまま家に帰って来たら、何故か大輔のやつが付いて来ている。なんだこいつ図々しいな。ちゃっかり上がり込んで俺のソファに座ってるし。染髪マンに変身してソファごと捨てて来てやろうかな。普通なら不法投棄だけど、大輔ごと捨てたら責任はあいつに行くだろうし、俺には関係無いな。よし、そうするか。
「てか柊吾、お前隣の県から来てんの?」
「人類はみな母なる地球から来てるだろ。何言ってるんだ」
「何言ってんだはお前じゃね!? 俺そんな哲学的な話した!?」
「そういや文学部って哲学の専攻もあったよな。あ、大輔は哲学専攻に行くために普段からそんなこと考えてるのか」
「違うって! 俺情報専攻行く予定だから! さっきのアプリの話聞いてた!?」
「普段から哲学的なことばかり考えるなんて、まるで歩くソクラテスだな」
「それただのソクラテスじゃね!?」
ソクラテス……じゃなかった大輔は、ソファから体を乗り出してツッコんでくる。よくこいつずっとこんなテンションでいられるよな。俺ならずっとそのテンションなら反動で2日は寝込むわ。
ソファに座り直した大輔は、改めて俺の方を見て不思議そうな顔をする。
「でもさ、わざわざ北関大学に来なくてもお前の県に名門私大いっぱいあるくね? 北関大学も名門ではあるけどさ。なんでこっちまで来たんだ?」
「北極星の方向に歩いてたら辿り着いたんだよ」
「砂漠の旅人みたいな入り方してんの!? 多分北極星よりちゃんとした道標いっぱいあると思うけど!?」
「でもお前、北極星しか頼れない時だってあるだろ」
「あんま無くね今の時代!? どんなタイミングよ!?」
「まず世界が荒廃するだろ?」
「させねーでもらえる!? 怖いわお前よくヒーローやってんなそんなサイコパスで!」
サイコパスとは失礼な。俺はただ世界の荒廃の可能性を信じてるだけなのに。
ヒーローだってやりたくてやってるわけでもないしなあ。最初のシャンプーゾーメもさっきのコンディショナーゾーメも、放っておくと人が死ぬ可能性があったから仕方なく対処しただけだし。
「それにしても柊吾、聞く限り成り行きというか無理やりヒーローにさせられた感あるのに、その割にはちゃんと戦うよな。なんか責任感が強いっつーかさ。そんなにヒーローにモチベ無さそうなのに、なんでちゃんと戦うんだ?」
「まあ一人暮らししたかったからとか自立した生活がしたかったからとか色々あるな」
「それ1個前の質問じゃね!? ヒーロー関係ねーじゃん!」
「いやだって、まだちゃんと答えてなかったから」
「どこ真面目なの!? いやそこは別にいーよもう! ヒーローの方が気になるわ!」
まあ別に放っておいてもいいっちゃいいんだけど、ちょっとやっぱり怪人が人を襲うところみると逃げ出せないよな。助けられる人は助けないと。
「柊吾のその責任感って何から来てんの? まじそこだけ気になるわ。お前そんなキャラじゃねーじゃん」
「別に大した理由は無いよ。ただ子どもの頃に親友がその親のDVで死んじゃったから、助けられる人は助けたいだけだよ」
「大したことあるわ! 何そのめちゃくちゃ暗い過去!? ……なんかわりー。俺突っ込んじゃいけないとこ突っ込んだわ」
「え? 大輔お前まさかコンセントに針金突っ込んだの? よく無事だったな」
「いやそういう意味じゃなくね!? 真面目なトーンかと思ったのに! お前その親友の話も嘘とかじゃねーだろーな!?」
嘘じゃない。俺は小学3年生の頃に親友を亡くしている。父子家庭なのに父親から酷いDVを受けていて、毎日俺にだけ涙を見せてたあいつの顔は、今でも忘れない。
しかもあのとんでもない父親は、自分の息子を家に閉じ込め、自分の家に火をつけての殺害。その親友が俺の家に泊まりに来る予定だったから、あまりにも遅くて様子を見に行ったらそれだ。
何が起こってるのか分からなくて、でも玄関ドアまで出てきた親友の煤だらけの顔を見て、助けようと走り出した途端、あの父親に蹴り飛ばされた。その後恐怖で動けなくなって、俺は親友の命が消えていくのをただ見てることしかできなかったんだよな。
でもこんな話をまだ出会って2日の大輔にはできないしな。親友を亡くしていること自体嘘だと思ってくれるなら、今はそれでいい。
「全く……。ずっと柊吾と一緒にいるのに全然お前のことが分かんねーよ!」
「やめてその同棲してる彼女みたいな言い方!? まだ俺大輔と知り合って2日目だけども!?」
「その2日間一緒にいただろ! それ以上何がいんだよ!?」
「いるわ! なんだお前2日間で全部分かりたいって! 恋愛リアリティショーか!」
「3日目の午後には告白だっつーのに、なんでお前はのんびりしてんだよ!」
「じゃあ恋愛リアリティショーだわ! なんで俺大輔に告白されなきゃいけないの!?」
こいつ多分もう悪ノリだな。途中から恋愛リアリティショーの流れになってきてるのはもうふざけてるわ。この流れでふざけられるとか、こいつのメンタルはバケモノかよ。
まあ、もしかしたら親友を亡くしたっていう俺の過去が事実な可能性も考えて、暗くならないようにわざとふざけてくれてるかもしれないしな。大輔が自分からボケるのって多分初めてだし、俺に気を使ってのことかもしれない。
実際俺が親友を亡くしたのは事実だし、正直この明るさとうるささに助かってる部分もあるから、それは感謝だ。
「まーとりあえず、柊吾がヒーローである理由はなんとなく分かった! そこで俺が柊吾のヒーロー活動を手伝う話に戻るけど……」
「まだそれ言ってるのか。さっき散々話しただろそれは」
「いや何も話せてなくね!? 俺がこの話しようとする度に柊吾が『牛丼のトッピングは豚肉以外認めない』とか意味不明の主張始めるから!」
「え、だって実際そうだろ」
「そんなわけねーだろ! 牛丼にトッピングで豚肉乗せたら牛豚丼になんだろ!」
「何だギュウ・トンドンって。どこの隋人だよ」
「中国人で良くね!? なんで遣隋使の時代の人なの!? あと別に中国人でもねーし!」
「じゃあ何人だよ。まさか京都人じゃないだろうし」
「え何柊吾お前京都人に恨みでもあんの!?」
こんな感じではぐらかしてはいるが、内心は大輔に対して半信半疑な部分があるんだよな。だって俺ならこんな命の危険があるヒーロー活動に自分から首突っ込みたくないし。
単に好奇心で手伝うとか言って毎回付いてくるなら、俺は大輔を守り切れるか分からないし、そもそも大輔を守りながら戦うこと自体が不利になるし、大輔に邪魔なんだよてめえこの野郎とか言っちゃうかもしれないし、大輔のあだ名を参加賞とかにしちゃうかもしれない。ほら、福引とかで参加賞タワシじゃん? 大輔の髪型って茶髪パーマでタワシみたいだからさ。
「もーいい加減話させてくれよ! 俺は本気で手伝いたいって言ってんだぞ!」
「なんでそんなに俺を手伝いたいんだよ? 大輔に何のデビットも無いだろ?」
「うんデビットはねーよ!? それを言うならメリットじゃねーの!? メリットな、これがあるんだよまた!」
「メリットがある……? どんなメリットだよ。俺別に時給とか出さないよ?」
「バイトとして雇ってくれって言ってなくね!? ちげーよ柊吾、俺IT社長を目指してるって言ってたろ?」
「ああ言ってたな。あとITは伊勢神宮にあるトイレの略だとも」
「言ってねーよ! なんで俺伊勢神宮のトイレを商材に社長になろうとしてんの!? バカすぎじゃね!?」
うんまあ、実際大輔はバカっぽいからな。さっきのコンディショナーゾーメ程じゃないけど。あれはバカだったからなあ。
「話を戻すけど、俺は大学で情報学を専攻するつもりでさ。高校の頃からやってるアプリ開発をもっとレベルアップさせてーんだよ! 怪人が出たら通知するアプリが直接ビジネスになることはねーけど、何かに役立つスキルにはなりそうじゃん? 位置情報系のアプリがベースになるだろうからさ、もっと日常的に使えるような機能とかにマイナーチェンジしてさ!」
「ごめん聞いてなかった。桜でんぶがなんて?」
「言ってなくねそんなこと!? 俺すげー喋ったけど全部聞いてねーのお前!?」
「いやだって大輔のセリフ長すぎるし。誰が読むんだよそんな長いセリフ。目が滑るわ」
「読むとか目が滑るとか何の話!?」
でもなるほど、要するにこいつは自分のスキルアップに繋げるために、実践の場でアプリ開発をしていきたいってことなんだな。まあそれなら納得できなくはないけど……。
「とりあえず柊吾、これから怪人と戦う時は俺も連れてってくれよ! 巻き込まれねーようにできるだけ遠くから見てるからさ!」
「分かったよ仕方ないな。リードと首輪は何色がいいんだ?」
「俺犬にされんの!? そんな感じで連れてってくれとは言ってねーんだけど!?」
大輔の熱意に押されてとりあえず協力させることになったけど、実際こいつコンディショナーゾーメに殺されかけてるからなあ。本当に大丈夫なのかな。やばそうだったら一回だけ付いて来させて、あとはもう付いて来ないように言い聞かせないとな。めっ! って。
ま、そうそうすぐ怪人も出て来ないだろ。昨日の今日だし、怪人だって暇じゃないだろうしな。今日仮で履修登録した授業も、明日から始まるのもあるし。今のところ俺大学でクロゾーメ軍団関係しかしてないし、ちゃんと大学生していかないとな。怪人に邪魔ばっかりされてたまるか。




