第4話 昼飯とコンディショナーおばさん
「ふぁ〜あ、よく寝た」
「大輔お前……。寝起きキャラは無理があるんじゃないか?」
「いや別にキャラ作ってるわけじゃなくね!? 普通にオリエンテーション眠かっただけだよ!?」
まあ確かに眠かったけども……。まるまる午前中全部が新入生向けのオリエンテーションだったからな。
学籍番号の見方とか授業登録の仕方とか、だらだら説明されたけどマイクの音量が小さ過ぎて聞きとるの難しいんだよ。俺は眠気に耐えて真面目にオリエンテーションを聞いてたけど、大輔のやつは撃沈してたみたいだ。
「それより柊吾、飯行こうぜ飯! 昨日あの教授に呼び出されて何言われたのか聞かせろよ!」
「いやでも血流止まって細胞死ぬのはちょっと……」
「壊死じゃねーよ飯! 誰が壊死行こうぜって言うんだよ! サイコパス過ぎるって!?」
「大輔はどの細胞が死んでるんだっけ?」
「どの授業取ってるんだっけ? みたいなノリで怖い質問やめてくんね!?」
「俺は葉緑体が死んでるんだけどさ」
「待って柊吾って親どっちか植物!?」
また大輔で遊びながら歩いていると、見慣れたハンバーガーチェーン店が目に入る。どこにでもあるな。大学の目の前にあったら混みそうなもんだけど、今日は空いてるな。新入生はみんな学食行ってるのかな?
確かまだ2年生以上は授業始まってないから学校にいる人も少ないだろうし、結構ラッキーなんじゃないか?
「お、柊吾! 今日はバーガーにしようぜ!」
「いいけど大輔お前、あそこには生きてる馬は売ってないぞ?」
「俺馬車じゃねーから! 馬をエンジンとするなよ! 昨日の電気自動車から乗り物のグレード下がり過ぎじゃね!?」
「ちょっとアナタたち! 何その髪色は!?」
「一応あの店なら牛は売ってるだろうけど……。生きてる牛じゃないぞ?」
「俺牛車でもねーって! 貴族乗せてゆっくり進まねーから!」
「アナタたち! 聞いてるの!?」
「それより大輔、あっちならお前が好きそうなメス自転車がいっぱい……」
「メス自転車って何!? 俺自転車と交わりたくねーんだけど!?」
「嘘でしょここまで無視されることある!? ワタシ一応悪役として出てるんだけど!?」
ん……? そういやさっきから俺と大輔の会話に変なやつが混じってるな。いや混じりきれてないけども。
振り向くと、黒髪ロングにメガネをかけた中年の女性が俺たちを睨みつけていた。
「えーっと……。スカウトなら間に合ってますけど」
「どうポジティブに解釈したらそうなったの!? いやワタシ悪役ってはっきり言ったわよね!?」
「あ、大輔の方か。良かったな大輔。若手ハイエンドに特化したスカウトが来たぞ」
「いや絶対違うくね!? あのおばさん転職エージェントなの!?」
「アナタたち……。あまり舐めてると痛い目を見るわよ!」
おばさんがカッと目を見開くと、急におばさんのフォルムが変わっていく。角が丸い四角みたいな……。あれでもなんか左上にちょっと丸い出っ張りが付いてるな。なんかパウチみたいな……。
「ワタシはクロゾーメ軍団のコンディショナーゾーメ! 調子に乗った人間たち、覚悟しなさい!」
「いやなんで詰め替え用なんだよ! この間のシャンプーはちゃんとボトルだっただろ!」
「詰め替え用をそのまま使うとプラスチックの量が減らせてエコなのよ!」
「どういう理由なんだよ!? 怪人が地球環境に配慮するなよ!」
ツッコミモードになった俺を見て、大輔は驚愕の表情を浮かべる。あ、そうか。大輔は俺がツッコミもするのを知らないのか。それならびっくりしても仕方ないな。
「柊吾、お前……。この間のシャンプーって……? お前まさか、普段からこんなのと遭遇してるのか……?」
「……あっ。そっちか」
「そっちってなんだよ!? 他にどっちがあった!?」
「いや、俺がツッコミもできることに驚いてるのかと」
「そんなわけなくね!? この状況でボケツッコミの話しねーよ!」
「うーわそっかそっちかあ。やばい、じゃあ俺が染髪マンなことバレるじゃん!」
「センパツマン? なんだよそれ!」
「ほらバレるじゃん! 大輔が余計なこと聞くから!」
「お前から始めた話だったくね!?」
うーん……。ここまでバレてたらもう大輔はいいか。後で口止めだけしておいて、とりあえず今はこの詰め替え用コンディショナーおばさんをさっさと倒してしまおう。なんだ詰め替え用コンディショナーおばさんって。気抜ける響きだな。
「詳しいことはまた後で話すから、とりあえず大輔は離れててくれ。軽油は足りてるか?」
「なんで軽油になったの!? 俺ディーゼルエンジン積んでなくね!?」
騒ぐ大輔をとりあえず端の方へ逃がし、俺はポケットから櫛を取り出す。一回髪を梳かすと、前回と同じように腰にベルトが現れる。俺は櫛を高く掲げ、叫んだ。
「変身! 染髪マン!」
櫛をベルトに差し込むと、俺の体は金色に光り出す。大きなハケのようなエフェクトが俺の体を塗って、再び染髪マンの姿へ変身した。
「と、柊吾……!?」
「おばさん、覚悟しろよ! あんたのせいでせっかくハンバーガーの口だったのに、バインミーの口になったんだからな!」
「そこまで大差無いわよねそれ!? パンで具を挟んでる共通項に変化ないわよ!?」
「うるせえ! パンで挟むぞ!」
「やめていただける!? このふざけた金髪男、私のことを舐めてるわね!」
うんまあ、舐めてるのは舐めてるよな。だって俺が戦う怪人、今のところシャンプーボトルとコンディショナー詰め替え用パウチなんだもんな。そのうち試供品の化粧水とか出て来るんじゃないだろうか。ヒーロー番組とかにいる戦闘員とかがそれに当たるのかな。
「舐めていられるのも今のうちよ! ワタシの能力を見せてあげるわ! とりあえずそこのタワシ頭に餌食になってもらうわよ!」
「おい! 俺の友達のタワシ頭に何するつもりだ!」
「良いから見てなさい! タワシ頭がどうなるか!」
「やめろ! タワシ頭に手を出すな!」
「ちょっとマジでタワシ頭呼びやめてくんね!?」
泣きそうな顔の大輔に向かって、詰め替え用コンディショナーおばさんはコンディショナーらしきものを発射する。
コンディショナーがかかった大輔は、きょとんとした顔で立っている。なんだ、やっぱ何も起こらないんじゃ……。
待てよ。大輔の肌がどんどん黒ずんでいってるな。なんだあいつ、メラニン色素培養装置か?
いや、黒ずむと同時に大輔の体が急速に膨らんでいってるぞ。なんだこれは……?
「ふふふ……気づいたようね……。ワタシのコンディショナーは、強烈な毛穴詰まりを発生させ、最終的に人を破裂させる! コンディショナーは髪をコーティングするために油分が多く含まれていて、直接肌に付けると毛穴詰まりの原因になるのよ!」
「やけに丁寧な説明! 別にヒーロー相手にそこまで説明しなくって良かっただろ!」
「だって、コンディショナーの怪人で人を破裂させる部分だけ聞いても何も分からないじゃない! 今まで理解されなかったんだもの!」
「なんだその反抗期にグレた中学生みたいな言い分!」
「ちょ、いいから早く助けてくんね!?」
確かに黒くなりながら膨らんでいく大輔を見るのはちょっと楽しいけども、流石にそのまま破裂させるわけにはいかない。さっさとこのコンディショナーおばさんやっつけて助けるか。
俺は前回シャンプーゾーメを倒したのと同じように、大きく跳び上がって空中で一回転し、拳をコンディショナーゾーメのいる方向に向ける。
「食らえ、イナズマパンチッ!」
俺の拳から電撃が放たれ、コンディショナーゾーメの方へ向かって行く。これの威力は前回で実証済みだ。さっさと爆発して散ってもらおう。
電撃を見たコンディショナーゾーメは、ふっと笑ってから迫り来る電撃に向かってコンディショナーを発射した。何やってんだこいつ? コンディショナーで電撃が防げるわけ……消えた!? え、電撃消えたんですけども!? なんで!?
「ふふふ……困惑しているようね。コンディショナーには静電気を抑制する効果がある。ワタシの強化コンディショナーは、あらゆる電撃をも無効化するのよ!」
「なんてことだ……! 今日トイレットペーパー特売日だったのかよ! もう間に合わないじゃないか!」
「何を聞いてたのアナタは!? 戦いに集中していただける!?」
たまたま地面に落ちていたチラシが目に入って、ついトイレットペーパーを気にしてしまった。後で一応見に行くか。
しかし電撃が効かない相手か……。てことは金髪じゃ対抗できないってことだよな。また金森さんに違う色に染めてもらって、あいつに対抗できる色にしないといけないってことか。
そうなったら仕方ないな。とりあえず待ってもらおう。
「おいコンディショナーゾーメ! 2時間だけ待っててくれ!」
「2時間!? 『だけ』が付く範囲を大きく超えていると思うけれど!? アナタよく敵にそんなこと頼めるわね!?」
「いいから待ってろ! パンで挟むぞ!」
「やめていただける!? なんでさっきからハンバーガーにしたがるのかしら!?」
「ハンバーガーって言ってないだろ! 俺が言ってるのはローガモだよ!」
「何かしらローガモって!? 聞いたことが無いけれど!?」
「知らないなら調べろ! 2時間やるから俺が戻るまでに調べておけよ!」
「あら、2時間も貰えるの? 助かるわ。えーっと、スマホはどこへやったかしら……」
コンディショナーゾーメがバカで助かったな。これで金森さんに髪を染めてもらう時間を稼げるぞ! よし、行くか!
俺は再び『HERO's HAIR』に向かって、全速力で走り出した。




