第3話 初学友と初教授
「え、ちょ、痛すぎて上がらないんですが!?」
入学式当日の朝だと言うのに、右腕が全く上がらなくてジャケットに袖を通せずもがいている俺……。鏡に映る自分の姿がマヌケ過ぎて悲しいわ。まだ下半身は下着姿だし、昨日ヒーローやってた男がなんでこんな情けない姿に……。
とりあえずジャケットの右袖を下に向けることでなんとか右腕を通すと、今度はズボンを履くのに足が上がらない。染髪マンの力って結構体に負担かかってるんだな……。ダサいヒーローネームの割にちゃんとそういう副作用はあるのかよ。めんどくさいなあ。
ズボンが両足首辺りにたまった状態でベッドに座り、そのまま引き上げることでなんとかスーツを全部着た俺は、バキバキの体を引きずるように家を出た。
「しかし……。金髪でスーツだと大学デビュー丸出しだな……。なんか恥ずかしくなってきたぞ」
昨日シャンプー怪人と戦った辺りの服屋を通ると、昨日と全く違う意味のスーツを着た自分が映る。イキってるように見えるよなあ。変なやつに絡まれなきゃいいけど。
「おーっと! そこの金髪くん! 君も北関大学?」
「言ったそばから変なやつに絡まれたよ……。なんだ俺はフラグ製造機か?」
「開口一番人のこと変なやつ呼ばわりって酷くね!? 俺割と常識人よ!?」
「自分のこと常識人って言うやつは変なやつか常識って言葉を浄紙機って書くと勘違いしてるやつだよ。……まさか後者か?」
「そんなわけなくね!? いや前者でも不本意だけど! 何浄紙機って紙を綺麗にする機械!?」
「紙綺麗にしてどうするんだよ。変なやつだなやっぱり」
「言い出したのそっちじゃね!? 浄紙機の発明者の濡れ衣俺にぶん投げんのやめてくんね!?」
なんだこいつうるさいな……。人の心の声にデカい声で反論するなよ。周りの人が迷惑するだろ。
あまりにも騒ぐので一応振り向くと、そこにいたのは茶髪くるくるパーマのスーツ姿の男。同年代くらいだろうから、こいつも新入生か?
「やっとこっち見た! 顔も見ずにボケ続けんのやめてくんねまじで!?」
「お前……俺の心の声が聞こえるのか?」
「がっつり声に出てたけど!? 待ってまじで、ちゃんと話そう!?」
「分かったようるさいな。今連れて来るから待ってろよ」
「いやいやどういうこと!? 連れて来るって誰を!?」
「え、お前が言っただろ? チャンと話そうって」
「誰だよチャンって! いや仮にそう聞こえてたとしてもなんで都合良くチャンって名前の知り合いいるんだよ! いや違うよ、きちんと話そうって!」
しつこいやつだな。あんまりだらだらしてると入学式遅れるぞ? ただでさえ俺全身バキバキで早く歩けないんだから。
精一杯面倒くさそうな表情を浮かべるも、茶髪パーマくんは気にも止めずに自己紹介を始める。ガッツあるなこいつ。
「俺は明石大輔! 文学部の新入生だ! よろしくな!」
「うーわ文学部かよ! よりによって同じとは……」
「よりによってってなんだよ! てか君も文学部なんだな!」
「ああ一応な……。まあ俺は名乗る程の者ではないのでこれで……」
「去らないで去らないで! せっかくここで会ったんだから名前ぐらい聞かせてくんね!?」
「ああ……ええーっと、練馬太郎です」
「練馬区役所に出す書類の見本の名前! いやそんなわけなくね!? 本名言ってもらえる!?」
「なんでそこまでして……。まあいいや、俺は染谷柊吾。あまり変なやつとは絡みたくないから、ほどほどにしてくれたら助かる」
「今のところ君の方が変だと思うけど!?」
俺が変なんて、そんなわけないだろ。怪人と戦って体バキバキな上に、昨日の夜テレビでリクガメの産卵シーン見て大泣きしたから疲れてるだけだよ。今思えば大体そういうのってウミガメだよな。なんでリクガメだったんだろ。
「柊吾か! よろしくな! ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に入学式行こうぜ!」
「分かったよ。でもとりあえず疲れたからあの小さいグレーの建物に入って休まないか?」
「あれ交番だろ! 俺のことどうするつもり!?」
やかましいけど俺の適当なボケにもちゃんとツッコんでくれるから、とりあえず嫌なやつではなさそうだな。疲れてる時にテンション高いやつと一緒にいるのもあれだけど、まあ入学式中は流石に静かだろう。
俺は大輔で遊びながら、北関大学の入学式へと向かった。
「ふぁ〜あ、よく寝た!」
「大輔お前……。学長の話とかちゃんと聞いといた方がいいぞ?」
「え、柊吾って真面目キャラなの!? あの第一印象で!?」
あの第一印象とはなんだ失礼だな。しかし北関大学の入学式、流石はある程度名門私立だけあって堅苦しかったな。覚えてるわけない学歌とか歌わされたし。
でもなんかずっと教授っぽいおじさんが俺の方見てたんだよな。金髪だから目立ってたのかな?
それか金髪にしてる俺に何かを思ったかだな。あのおじさんは不自然なぐらい黒髪だったから、多分白髪染めとかしてるんだろう。大人になってから後悔するぞ、とか言いたいのかもな。
「柊吾ー、どうせならこれから昼飯でも行こうぜ! 大学周辺の店開拓したくね?」
「でも充電スタンドってこの辺にあったっけなあ?」
「待って俺のこと電気自動車に見えてんの!?」
こいつちょっと面白いな。意外と仲良くなれるかもしれない。ちょっとやかましいけど、デカい大学だから友達は早めに作らないとだしな。
騒ぐ大輔と歩いていると、前からさっきの白髪染めおじさんがツカツカと歩いて来る。なんかえらく急いでるな。やっぱ教授とかで忙しいのかな?
呑気なことを考えていると、白髪染めおじさんは俺の目の前へ来て俺の腕を引いた。
「染谷柊吾。私の研究室へ来てもらおう」
「嘘だろ!? 待ってくださいよ、そういうのって可愛い女子大生を連れてくもんじゃないんですか!?」
「誰が性的な目的で君なんか連れて行くんだね! そういうことじゃない。君に話があるんだ!」
「話!? 入学したての俺に話!? うわ最悪だ、一目惚れか」
「違うが!? ちょ、君いいから来なさい!」
「大輔、代わる?」
「代わるわけなくね!? 柊吾さ、金髪だから目付けられたとかそんなんだろどうせ? 明日昼飯奢ってやるから元気出せよ!」
「奢ってくれるにしてもハイオクはちょっと……」
「ガソリン車に見えてんの俺!? なんでさっきから俺のこと車に見えてんの!? あとなんでボケる余裕あんの!?」
そんなことを言う間にも、大輔との距離はどんどん離されていく。なんだこのおじさん、やたら力強いぞ? しかし別に研究室に行くのはいいけど、話ってなんだ……。
研究室が集まる棟に着くと、おじさんはある部屋の前で止まる。『権藤博』って書いてあるな。この人権藤っていうのか。やっぱ教授なんだな。
権藤教授は俺の腕を引いたまま研究室に入ると、本棚にある一冊の本を押し込む。すると本棚が真っ二つに開き、中に隠し部屋が出て来る。
え、今日日研究室ってそんな感じなの? 隠し部屋とか普通にある感じ?
権藤教授は力を緩めることなく、俺をその隠し部屋まで連れて行く。壁の棚には一面に白髪染めと書かれたボトルが並び、更に反対の壁にはいくつも櫛がかかっている。何この人、白髪染めにどんだけ命かけてんの?
すると権藤教授は俺から手を離し、くるりと俺の方を向く。
「さて、ここなら話ができる。染髪マンとね」
「うーわもう名前知られてんじゃん! 俺有名人?」
「軽いだろう!? もっと名を知られていることに驚きたまえ!」
「いやまあ、有名ならそれはそれで……」
「なんでポジティブなんだね君は!? はあ……。こんな人間に我がクロゾーメ軍団の怪人はやられたと言うのか……」
……ん? ちょっと待て。我がクロゾーメ軍団……?
「もう面倒だから明かすが、私はクロゾーメ軍団幹部、ヘアマニキュアゾーメだ。単刀直入に言う。これ以上余計な真似はしないでくれるかね?」
「余計な真似って言うと……カーテンレールのモノマネとかですか?」
「何故そう思ったんだ君は!? あとどうやるんだそれは!? いやそうでなくて、我がクロゾーメ軍団の邪魔をするなということだ」
「邪魔するなって言われても……。俺まだクロゾーメ軍団が何かも知らないんですが」
「何……? 金森蘭から何も聞いていないのかね?」
こいつ、金森さん知ってるんだ。じゃあ結構ちゃんとやばいやつなのかな? てか大学に幹部とかいるなら金森さんも教えてくれたらいいのに。
「はあ……。仕方ない、教えてやろう。クロゾーメ軍団は、世界中の人間の髪を黒髪に、をビジョンに活動する悪の秘密結社だ」
「何そのSDGsパクったみたいなビジョン!」
「パクっ……。まあいい。我々クロゾーメ軍団は、髪に黒以外の色を入れることを最も嫌う組織。世界中を黒髪にすることで、世界征服を目論んでいるのだよ」
「どうやって……? 今全然黒髪と世界征服が繋がらなかったけど……?」
「それはおいおい分かるだろう。とにかく、出過ぎた真似をするな。それが私からの忠告だ。それを守れば、私は君に危害は加えないと約束しよう」
「あ、じゃあ一応この契約書にサインを」
「なんだねその無駄な用意の良さは!?」
一応権藤教授は契約書にサインをくれた。これ以上クロゾーメ軍団に何もしなければ、俺を襲わないらしい。どういう意味の襲うなんだろうな。
でも昨日戦ったシャンプー怪人、かなりやばい怪人だったよな……。他に俺みたいなヒーローがいるのか知らないけど、人が死ぬ可能性がある怪人を野放しにはできないよなあ。
まあとりあえず、目立たないように戦うことを心がけるか。周りに俺がヒーローやってるのがバレてもややこしいし、目立たず怪人を倒せれば権藤教授も気づかないかもしれない。正体を隠して戦っていくしかないか。
……なんかいよいよテレビで観てたヒーローみたいになってきたな。怪人も目立つところに出なきゃいいけど……。




