第27話 ヘナ怪人と捕まった柊吾
……ここはどこだろう。真っ白な世界に、俺一人。浮いているような感覚もあり、ふわふわとして心地が良い。ふわふわと言えば、竹下通りで売ってるわたあめだよな。あれすっごい色してるけど、どんな味なんだろう。まさかあれで普通のわたあめの味なわけないから、さぞ今まで食べたことの無いような味がするんだろうな。わたあめで今まで食べたこと無い味ってどんなんだろう。ズッキーニかな。また日本ズッキーニ連盟の出番か。よく出て来るなあいつら。
『うん……? お前は……』
「え、誰かいるのか? なんだよ、いるなら言ってくれよ。せっかく俺のプライベート空間かと思ったのに」
『いやここはどちらかと言えば私のプライベート空間だが……。お前、名は何というのだ?』
「人に名前を聞く時はまず自分からって、育ててくれた叔母さんに教えてもらわなかったのか?」
『何故私が両親を亡くした前提の家族構成なのだ……。まあいいだろう。私は生死を司る神だ』
「ケーシーを司るマギー?」
『生死を司る神だ! なんだその仙台でサードを守っていそうな名前は』
「お前、その数年後には東京でも守ってただろ。ちゃんと記憶しとけよ」
『神にプロ野球の知識を求めるでない。私が知るわけないだろうそんなこと!』
しかし、そのケーシーマギーが俺に何の用だ? 俺は別に助っ人外国人に用は無いし、美乃里のためにハモ買いに……あ、違うか。ファドッ藤さんをどっかの劇場に案内してたんだ。
『ここは命を落とした者が、次に生きる世界を決められる場所。私は紙媒体で命を管理しているのだが、お前の命はもう死にそうな気がするファイルに入っていなかったはずだが……』
「なんだその曖昧なファイル! お前管理してるならそこははっきりさせとけよ!」
『お前、私が名乗ったのだからとりあえず名を名乗れ。お前の命がどのファイルにあるか探してやろう』
「まあこのまま死にましたじゃ困るしな。俺まだ今日のチーズフォンデュの片付け終わってないし。美乃里がやるって言ってたけど多分やらないしあいつ。名前だな? 俺は染谷柊吾だ」
『そめたにとうごだな。さ行のもう死にそうな気がするファイルは……。うん? なんだこの半分焦げた紙は。ああ、これは城金玄司の命か』
「え、なんでその人の命半分焦げてるんだよ。何があったらそうなるんだ?」
『ああ、大したことは無い。ただ私がたまたまこの者の命で紙飛行機を作って遊んでいたら、隣で焼き芋をしていた焼き芋の神の焚き火に入ってしまっただけだ』
「めちゃくちゃ大したことあるだろ! いや行動だけ見たら大したこと無いけども! お前人の命で遊ぶなよ!」
『安心しろ。私が急いで焚き火から取り出したことにより、こやつはまだ仮死状態で済んでいる。今はボケルト王国というところでツッコミを入れ、生き返るための試練をこなしているであろう』
「なんかお前チャンス与えたみたいな言い方してるけど、要するに自分のミスをその人に擦り付けてるんだよな? 可哀想すぎるだろ!」
『まあそれは良い。お前の命を見つけたが、まだ生きてるんじゃないかなファイルの方にあったぞ。つまりお前は、まだここに来るべきではないはずだが……』
「だからなんだよその曖昧なファイルは! 微妙に引っかかるんだよ!」
しかし、この神が言ってることが本当なら、俺は今死んだってことなのか? だとしたらなんでファドッ藤さんはいないんだよ。どう考えてもあの人の方が先に死ぬだろ。もしかしてもうどこかの異世界に転生したのか? ホットドッグワールドとか。
『うーむ、あまりよく分からないが……。とにかく、お前はまだ元の世界で生をまっとうするべき人間だ。今戻してやろう。お前が元いたのは……カーボベルデか』
「違うけども!? いきなりカーボベルデに出現させられても困るわ! 空から降ってきたりしたらラピ〇タの動力源持ってるとか思われそうだわ!」
『別に空から降ってくるとは限らないが……。ああすまない、これはお前の前世の方だったな。お前は今は日本人か』
「俺前世カーボベルデ人なの!?」
その言葉を最後に、ふわふわとした感覚が遠ざかっていく。なんだったんだ今の……。普通「その言葉を最後に」とかは相手の言葉が最後だろ。なんで自分の言葉が最後なんだよ。下手したらこれ俺目覚める時に「俺前世カーボベルデ人なの!?」って言いながら起きるぞ。恥ずかしいなそれは。
「俺前世カーボベルデ人なの!?」
「うわあ! なんですかいきなり! ビックリするじゃないの!」
「あ、ファドッ藤さんじゃないですか。おはようございます」
「なんであなたは動じてないんです!? 今どういう状況か分かってます!?」
「ああ、多分今ボケルト王国ってところでツッコミを入れ……あ、これ俺じゃないわ。さっきの城金玄司とかいう人だわ」
「ずっと何を言っているんです!? え、まだ気づきませんか!? 見てくださいよ今の状況!」
今の状況……? 何か変なところがあるか? えーっと、俺が今いるのは何かステージみたいなところ。観客席に真っ黒な全身タイツを着た人がたくさん座ってて、俺はロープで椅子に縛り付けられている。てことは、多分マジックショーで助手に選ばれたんだな。なんだ、ファドッ藤さんってマジシャンだったのか。だから劇場を探してたんだな。
あの黒い全身タイツの人たちはああいうファッションなんだろう。今の時代にわざわざマジックショーに足を運ぶ人ってちょっと変わってそうだし、全身タイツがトレンドのファッションでもおかしくはない。
「理解しました。さ、早くマジックを始めてください」
「どう理解したんです!? マジック!?」
「あ、もしかしてあれですか? ファドッ藤さんってマギー一派の人ですか? 耳とか大きくする」
「違いますが!? マジシャンとして扱うのやめてくれます!?」
「しかし名前長いですね、マギー・ファンキー・サンドウィッチ・加藤って。そのうちピカソとかに並べるんじゃないですか?」
「並ばなくていいです! あとずっと言ってますけど、私は郡司です!」
「たかしはけんじです?」
「言ってないです! たかしかけんじかはっきりしてください!」
いや別にたかしでもけんじでもないだろ。あいつは大輔だよ。なんでこの人大輔の話してるんだろう。
しかしファドッ藤さん、マギー一派だったのか。なんか今日はやたらマギーって人に会うな。そのうち葉山って人とかも会うんじゃないだろうか。あ、それはペギーか。
「流石は染髪マン、聞いていた以上の余裕ですね……」
「あれ、ファドッ藤さんなんで俺のヒーローネーム兼ラジオネーム知ってるんですか」
「ラジオネームにもしているんですか!? 多分やめた方がいいですよ!? 身バレとか怖くないんですか!」
「別にラジオって顔出ないから良くないですか? 俺が本当にヒーローやってるって分かるようなメールも送ってないですし」
「そうですか……? じゃあ、どんなメールを送っているんです?」
「そりゃまあ、腕の血管を見てると『ああ、ここに血が通ってるんだな』って生きてる実感が湧いて、唐突に坂ダッシュとかしたくなる、って感じのあるある的な内容ですけども」
「誰も共感できませんよそれ!? あるあるだと思ってるんですか!?」
「え、違います? 腕じゃなくて手の甲の血管の方が共感できるのか?」
「血管の部位の問題ではなくて! ……まあもういいです。面倒なので正体を明かしましょう。チェンジ!」
チェンジ……? 確かそれは、ゴンディーや藤本兄妹が怪人の姿になる時や、出て来たキャバ嬢が好みじゃなかった時に言うセリフ……。なんでファドッ藤さんが? あ、もしかして俺が男キャバ嬢だからか? 他の男キャバ嬢をご所望か。
と思ったら、ファドッ藤さんの体を真っ黒な葉っぱみたいなものが覆っていく。なんだあれ、黒い葉っぱ……黒葉か。なんか文房具とか作ってる会社みたいだな。
黒い葉っぱが突然弾け、ファドッ藤さんが姿を現す。出て来たファドッ藤さんは、ドロっと溶けたような仮面に顔を覆われ、同じく何かが溶けたような装甲を身に纏っている。
怪人……? なんで? ファドッ藤さんはただ、サンドウィッチを食べながらデ〇エルマス〇ーズをする人じゃ……。あれ違うか。ポ〇モンカードだっけ。どっちでもいいや。
「私はクロゾーメ軍団幹部、ヘナゾーメ! 染髪マン、今まで私が手塩にかけて育てた怪人たちを、よくも葬ってくれましたね! 私が直々に手を下してあげましょう!」
「……ああ! ファドッ藤さんってクロゾーメ軍団の幹部なんですか! だから俺のラジオネーム知ってたんだ!」
「せめてヒーローネームとして言ってください! なんでラジオネームの方なんですか! しかしあなた、私がスカウトした濡れタオルゾーメちゃんまで葬ってしまって……。この恨み、晴らさせていただきます!」
「え、あの一反木綿スカウトしたのファドッ藤さんなんですか!?」
衝撃の事実が判明すると同時に、ファドッ藤さんがこちらに向かって杖を構える。ファドッ藤さんが杖の柄を持って引き抜くと、そこから出てきたのは光に反射する刀身だった。
え、銃刀法違反じゃん。やっぱさっき警察呼んどくべきだったか。
ちらっと出てきた城金玄司くんの物語が気になる方、ぜひ私のマイページから『ボケルト異世界狂想曲〜手違いで死んだ俺は生き返るためにツッコミを入れる〜』という作品をどうぞ!




