第28話 敵の刀と仲間の助け
ギラギラと刀身を光らせながら、ファドッ藤さんがじわじわと距離を詰めて来る。気抜ける名前してるのに物騒なもの持ってるから、どういうリアクションしたらいいか分からないんだよ。なんでこの人、こんな間抜けな名前してるんだろう。改名手続きとか勧めてあげようかな。俺もいつか改名したいし、ファドッ藤さんが先に改名してくれたら助かるというメリットもある。40歳までに、阿倍仲麻呂って名前になりたいんだよな。
「私の可愛い怪人たちを、よくもやってくれましたね……。染髪マン、最期の時ですよ」
「サイドのポキ?」
「最期の時です! どちらかと言えば、ポキはメインでしょ!?」
「そんなの人に寄るでしょ。俺なんかハンバーガーのサイドにラーメン定食とローストビーフ丼頼みますよ」
「フードコートで食べてませんか!? そんな大デブみたいな食事の話はしてないんです!」
「若い頃は大デブに憧れたこともありましたね……」
「なんでなんです!? そんなものに憧れる要素、あります!?」
「え、あるでしょ。体重の重さって色気と比例するじゃないですか」
「しませんよ!? 力士しかいない国から来ました!?」
「力士しかいない国って、リキシンブルク大公国とかですよね」
「無いでしょそんな国! ルクセンブルク大公国を太らせないでもらえます!?」
「確かにそうですよね。太っちゃったら、ルクセンブルクってよりルクセンブックブクですよね」
「もうルクセンブルクの話やめていいです!?」
なんだよ、ルクセンブルクの話題を出したのはファドッ藤さんなのに。俺が怒られるのは理不尽じゃないか?
おお、ファドッ藤さんが怒り狂って刀をこっち向けてきたぞ。あれはなかなかの業物だな。刀身のギラつき方で分かるぞ。いや刀の知識とか無いけど、宝石鑑定士の資格は持ってるから、ファドッ藤さんの刀が何カラットかは何となく分かる。
そもそも刀ってカラットで表せるのか? カラッ刀とかが正式な単位なのかな。
「もういいです、あなたがふざけた人間であることは、分かりましたから。さあ、覚悟なさい!」
「待ってくださいよファドッ藤さん。まだ俺ちゃんとその刀が何カラッ刀か鑑定してないんですから」
「何ですかカラッ刀って!? あなた、刀を鑑定できるんですか!?」
「いやまあ、宝石の基準でならできますけど。とりあえず鑑定が終わってから斬ってもらえます?」
「斬られること自体はいいんですか!? そこまでして鑑定したいのはなんで!?」
「うるさいな、いいから早く刀見せろよ!」
「もう誰か助けてください!」
なんだよ、怪人がヒーロー捕まえてる構図なのに、誰か助けてくださいって。もしそれで警察とか来たら、捕まるのはファドッ藤さんの方だぞ。
ほーら、そんなこと言ってたら劇場の扉を開けて誰か来たじゃん。警察か? CIAか? TGCか? あ、それはファッションショーか。アルファベット3文字だと全部同じに見えるんだよな。変えてくれたらいいのに。
「染髪マン! 助けに来てやったよ!」
「大丈夫か柊吾! 今助けてやるから、そこで大人しく待ってろよ!」
「ああ、なんだ銀子と大輔か。なんでお前ら、こんなところに丸腰で来るんだよ。警察とか呼んで来いよ」
「仲間が助けに来たのに酷くね!? おい柊吾、お前状況分かってんの!?」
「分かってるよ。今俺は椅子に縛り付けられていて、身動きが取れない状態で刀を突きつけられ、それを鑑定している」
「最後おかしくね!? なんでお前刀の鑑定してんの!?」
「いや、俺宝石鑑定士の資格持ってるだろ? だからだよ」
「何の因果もねーよそれ! なんでお前この絶体絶命の状況でずっとボケられんの!?」
「しょっぱい北米のほうとう?」
「言ってねーよ! 絶体絶命の状況! お前北米まで行ってほうとう食うの!? なんで!?」
なんでって言われても、俺うどん派かそば派かで言うとほうとう派だし。それ以上の理由なんて要るのか? 大輔に限らずだけど、俺の周りの人は俺に理由を求めすぎなんだよ。理由なんて、見てるお前らが決めればいいのに。
「あら……あなた、裏切り者のカラートリートメントゾーメちゃんじゃないです? のこのこ私の目の前に現れたということは、倒されに?」
「はっ。そんなわけがないだろう? へナゾーメ、あんたへの恨みは忘れたことがないからねえ、倒されるのはあんたの方だよ!」
「え、ファドッ藤さん銀子に何したんですか。まさか、銀子のはんぺんつまみ食いしました?」
「あんたはなんでずっとあたいの好物がはんぺんだと思ってるんだい! 今割と大事なシーンなんだから、邪魔するんじゃないよ!」
「ワニの妻子が寺院?」
「言ってないってんだよそんなこと! 割と大事なシーン! なんだいその敬虔なワニの家族は!」
「ちょ、まじ柊吾一回黙って助けられてくんね!? 話が進まねーんだよ!」
何なんだよこの間から。まるで俺がいると話が進まないみたいな言い方して。あんまりこんなイジメられ方するなら、ちょっとちゃんと相談しようかな。イジメの相談を受け付けてるところってどこなんだろう。そういうセンターとかありそうだよな。
パッと思いつく何とかセンターって言ったら、ファッションセンター。じゃあし〇むらだな。俺の地元、アベ〇ルしか無かったからあんまり行ったこと無かったんだけど、しま〇らってイジメ相談するところだったのか。知らなかった。楽器買うところだと思ってたわ。
お、そんなこと言ってる間に銀子が変身してファドッ藤さんと戦ってるぞ。ファドッ藤さん、70歳なのに元気だなあ。
まあでも流石に、高速移動が基本の銀子にそのままついて行くことはしてなくて、銀子の攻撃を刀で躱してる感じだ。すごい反射神経だな。
たまにゲーセンのモグラ叩きで異次元のスコアがランキングに表示されてる時あるけど、あれファドッ藤さんがやってたのかな。尊敬するな。俺、プロモグラ叩き選手を目指してた時期があったからさ。8歳の時に2日ぐらい。
「おい柊吾、お前何ぼーっとしてんだよ! 縄解いてやったから、早く立ってくんね!?」
「あれ、大輔じゃないか。こんなところで何してるんだよ。けん玉か?」
「そんなことしに来たわけなくね!? いやお前、早く立てって! 変身して銀子ちゃんに加勢してくれって!」
「そんなこと言われても……。俺の櫛、没収されてどこかに隠されてるし」
「お前そういうことは早く言ってくんね!? ほら、探すぞ!」
「大丈夫だよ。あの櫛Bluetooth対応だから、スマホの『探す』機能で見つけられる」
「なんで!? 何が理由で櫛がBluetooth対応してんの!?」
スマホの『探す』アプリを開くと、櫛はこの劇場の中にあるみたいだな。ファドッ藤さん、詰めが甘いなあ。これならすぐ見つかるじゃないか。
大輔を連れて、ステージ裏の楽屋に向かう。楽屋のテーブルには俺の櫛と、市場で着ようと思っていたタキシードが置いてある。良かった、タキシードも無事だ。せっかくこの間、中古のタキシードを1万6000円で買ったんだから、どこかに着て行きたかったしな。ハモ買いに市場行く時に着るのが正解かは知らないけど、どこで着るかなんて人の自由だしな。この間大学にフェンシングフル装備で行った時も、「これが俺のファッションだから」って気を強く持ってやり切ったしな。
「お、あったあった。あれ、でもなんかドロドロのものがかかってるな。なんだこれ? マヨネーズか?」
「マヨネーズなわけなくね!? お前なんであのお婆さんが櫛にマヨネーズかけんだよ!」
「え、マヨラーだからだけど。あの人、サンドウィッチ伯爵の子孫だぞ?」
「そーなの!? いやそーだとしても櫛にはかけねーだろ! 食えねーし!」
「大輔、いいからお前水貸せよ。これ流すから」
「俺の水使うの!? お前水ぐらい持ち歩けよ!」
「いや持ち歩いてはいるけども。俺の水、コラーゲンウォーターなんだよ」
「なんで!? 水分補給だけを目的にしたら良くね!? 肌の潤いとか気にしてんのお前!?」
騒ぐ大輔から水を奪い取り、櫛にかかったヘナを洗い流した俺は、櫛を掴んで銀子とファドッ藤さんが戦うステージに向かい、踵を返す。
しかし大輔のやつ、もっと美容に気を使った方がいいぞ。コラーゲンウォーターを常飲するのなんて、美容男子の基本なんだから。
「美容男子」って、中国なら美容の先生みたいな意味になるのかな。




