第25話 銀子の話と軍団の秘密
翌日、俺は銀子を呼び出していた。ボディソープゾーメを倒した後、一緒に大学に向かいながら銀子の連絡先を聞いておいたんだ。
でも銀子のやつ、メッセージアプリのアイコンが普通に自分の後ろ姿だったのは意外だったな。あれだけ日頃からはんぺんについての愛を語ってるし、なんならはんぺんの素晴らしさについての書籍を自費出版してるのに、はんぺんをアイコンにしないのか。はんぺんも裏切られた気分だろうな。あんなに愛されてると思ってたのに。
愛されてると言えば、一時期はずっと動物園の主役として愛されてたレッサーパンダ、あれ今全然騒がれないよな。もうパンダがいないのに、主役には返り咲けないのか。世知辛いな。
そもそもレッサーパンダって、元はパンダって名前だったんだよな。後からジャイアントパンダが出てきたせいで、差別化としてレッサーパンダになったとかそんなんだったよな確か。ずっと可哀想なやつだなあ。
しかし銀子のやつ遅いな。暇だからAIに銀子になりきってもらって、適当に銀子に質問していくか。
「染髪マン、すまないねえ。遅くなっちまったよ。授業が長引いてねえ」
「おお銀子、ああいや別にいいぞ。とりあえず銀子に話したいことは話した」
「今来たところなのにかい!? あたいは何も聞いてないんだけどねえ!?」
「ああ、お前本人には言ってないよまだ。お前になりきったAIに話したんだよ。ログ見せるからそれで把握してくれ」
「何させてるんだいあんたは!? AIをあたいになりきらせたのかい!?」
「え、そうだけど。銀子そっくりだぞ? ほら」
『五円玉の穴に茹でたパスタを通すと、カバンとかに付けられるったい!』
「どこがあたいなんだい!? 茹でたパスタを五円玉の穴に通してもキーホルダーにはならないんじゃないかねえ!? あと謎の博多弁は何だい!?」
「あれ、銀子ってこんなんじゃなかったっけか。ほらAI銀子、他にもなんか喋れよ」
『使用上限に達しました。アップグレードしますか?』
「使いすぎてるじゃないか! どんだけAIのあたいに喋らせたんだいあんたは!?」
「そんなに話させてないんだけどな。もしかしてあれかな、源氏物語まるまる音読させたからかな」
「あんたあたいを模したAIに何させてるんだい!? 源氏物語全部音読させたってのかい!?」
あれはなかなか骨が折れたな。本当に長かったし。流石に長すぎたから、銀子が来る前に諦めたけどな。あとなんかちょっと内容変わってたっぽいんだよな。そこは所詮AIだ。光源氏がニュージーランドにワーホリに行くとこぐらいで一回やめたけど、原作にそんなのあったっけか。
「それで、わざわざあたいを呼び出して何の用だい?」
「ああ、そうだったな。ちょっと外では話しにくいから店に入ろう。ちゃんと予約してあるんだよ」
「へえ、あんた意外とそういう気は使えるんだねえ。どんな店を予約したんだい?」
「脱出ゲーム専門店なんだけどさ」
「すぐキャンセルしてくれるかい!? あんたそんなところでゆっくり話せるわけないだろう!?」
「え、なんで? 脱出ゲーム無視してたらある程度の時間話せるだろ」
「なら他の店だっていいじゃないか! なんでわざわざそんなところで話そうとするんだい!?」
「クーポンがあったんだよ。前にレンタルブルドーザーを利用したことがある人限定でさ」
「あんたブルドーザーをレンタルしたことがあるのかい!? ……いやちょっと待ちな、兄貴と一緒に初めてあんたの家に行った時、アパートの横にデッカいブルドーザーが停まってたの、あれあんたかい!?」
「ああ、そういやあの時か。お前らが白髪染めぶちまけていくから、ブルドーザーの掃除大変だったんだぞ?」
「知らないってんだよ! まさかあれがあんたが借りたブルドーザーだと思わなかったんだよ!」
「まあまあ、言い訳は後で聞くから。とりあえず脱出ゲーム専門店行こう」
「行くのかい!? あんた、ちょっと考え直したらどうだい!? そんなところで話なんかできやしないじゃないか!」
そんなことないだろ。脱出ゲーム専門店なんて、考えることに特化した空間なんだから、話をするのには最適だろ。脱出なんて最悪、天井にイナズマパンチでも打てばどうにかなるしな。脱出ゲームとかどうでもいいもん。
「では、40分以内に脱出できないと、脱出失敗となります。無事脱出できるよう、頑張ってくださいね!」
「よし銀子、早速なんだが本題に」
「なんであんたはそんなに普通に始めるんだい!? この店員も無視されてびっくりしてるじゃないか!」
「あ、僕は全然無視されて大丈夫ですよ! 子どもの頃からみんなに無視されがちなんです! じゃ、脱出成功目指して頑張ってくださいね! 失礼します!」
「あんたいじめられっ子だったのかい!? そんなのに慣れちゃダメじゃないのさ、ちゃんとカウンセリングとか行くんだよ!」
「クロゾーメ軍団のボス、そいつについて知りたいんだ。元幹部であるお前にしか聞けないことなんだ」
「あんたも一回黙れるかい!? なんでこの状況でクロゾーメ軍団のボスについて話さないといけないのさ!」
「ポルチーニ看板のブス?」
「クロゾーメ軍団のボスだよ! なんだいその変な看板のブスは!?」
何をずっと騒いでるんだ銀子は。俺は真面目にクロゾーメ軍団について聞こうとしてるのに。当の銀子がこんな調子じゃ、まともに話も聞けやしない。
「なあ銀子、これは遊びじゃないんだ。俺たちがクロゾーメ軍団を倒すには、お前の情報が必要不可欠なんだよ。略してひよふつだよ」
「なんで略したんだいそんな変な略し方で!? いや、それは分かってるのさ! 脱出ゲームで言われるから困ってるだけじゃないか!」
「いいから話してくれよ。もう場所にツッコむくだりは終わっただろ。あんまり引っ張るなよ」
「お笑いのダメ出しやめてくれるかい!?」
とりあえず銀子は脱出ゲームについてどうこう言うのはやめてくれたけど、本題に辿り着くまでに時間がかかりすぎなんだよ。いいんだよ脱出ゲーム中に話すこと自体はさ。ゆっくり話したい時にみんなよく来るし。
「はあ……。もういいよ、話してやるけどさ。実はあたいも、ボスについてはそんなに詳しくは知らないんだよ」
「え、そうなのか? それは困ったな。切り替えて脱出ゲームやるか?」
「話してやるってんだから黙って聞いてな! 何も知らないわけじゃないんだよ!」
「あ、そうなの? じゃあさっさと話せよまどろっこしい」
「こいつは……。兄貴とはまた違った諦めが必要だねえ」
そうして銀子はようやくクロゾーメ軍団のボスについて話してくれた。
まずボスの名前は、『漆黒の王』。……大丈夫か、厨二病初心者みたいだけど。
この漆黒の王には、銀子や凱みたいな若い幹部は会ったことすら無いらしい。じゃあなんで幹部にしたんだよ。誰判断なんだよ。社長承認無しでの昇格は人事が幅効かせすぎだろ。
で、その形だけの社長こと漆黒の王は、風呂が長すぎる先輩……じゃなかった、「黒を司る存在」と言われている。めちゃくちゃ黒に厳しいんだってさ。日本人は黒髪って言われてるけど、厳密にはめちゃくちゃ濃い茶色だから、それも許せない。だから白髪染めで真っ黒に、という思考らしい。なんだそいつ、モラハラ気質だな。DVとかしてるんじゃないのか? あ、だから世界征服しようとしてるのか。世界相手にDVしてるのか。なかなか強気だな。
「漆黒の王が世界征服を始めたのは、もう30年も前になるらしいんだけどねえ、その時は金髪の戦士が止めて、漆黒の王が封印されたって聞いたのさ」
「金髪の戦士? そんなんいるのか。あんまり金髪の戦士とか聞いたこと無いけどな」
「あんたが正にそうじゃないのかい!? 言っちゃえばこいつはあんたの先代の染髪マンだってんだよ!?」
「限界の節約案?」
「先代の染髪マン! どんな耳してるんだいあんたは!?」
「あ、見るか? 結構俺耳たぶが薄いんだけどさ」
「どうでもいいんだよそんなこと! 聞きな!」
なんだよ、美乃里にしても銀子にしても、俺に黙れとか聞けとか乱暴だな。別に俺が話を邪魔してるわけじゃないのに。
「漆黒の王が復活するには、人間の悲鳴が必要なのさ。人間の悲鳴から出るエネルギーが、漆黒の王に溜まってくんだよ。それが溜まったら漆黒の王は復活する。あたいたちはそのエネルギーを、叫ティクルって呼んでる」
「そんなキューティクルみたいに! 無理くり髪の毛に絡めなくて良かったんじゃ!?」
「ちなみに漆黒の王を封印した先代の染髪マンは、金髪以外の色だった記録が無いんだよ。染髪技術が不十分で、金髪以外できなかったのかもしれないねえ。だから漆黒の王を倒すところまでは行けずに、封印に留まったのかもしれないねえ」
「ごめん、あんま聞いてなかった。餅巾着がなんて?」
「言ってないんだよそんなこと! あんたはなんでそんなに話を聞かないんだい!?」
「セリフが長いと聞いてられないんだよ。ていうかお前、はんぺんから浮気してやるなよ。おでん内二股は流石に角が立つぞ」
「なんだいおでん内二股って!?」
とりあえずクロゾーメ軍団について銀子から聞いた俺は、怒涛の勢いで全ての謎を解き、残り5分のところで脱出を成功させ、銀子と記念写真を撮ってから家路に着いた。
しかし先代の染髪マンか……。もしまだそんな人がいるなら、会ってみたいけどな。30年前に俺と同じ20歳前後なら、今は50歳前後。……おじさんだな。パパ活だと思われるかな。
「おい、帰ったぞ。早く飯にしろ」
「亭主関白の帰り方しないで!? おかえり柊吾くん! どこ行ってたの?」
家に入ると、エプロン姿の美乃里がこちらに駆け寄って来る。こいつ料理ほとんどできないのに、何してたんだ? またハモ捌いてたのかな。あれ結構な頻度でやるのやめて欲しいんだけども。
「ああ、銀子にクロゾーメ軍団について色々聞いて来たんだよ」
「あ、そうなんだ! ファミレスとか行った感じ?」
「いや、脱出ゲームだけど」
「脱出ゲーム!? なんで!? そんな話すのに適してない場所に!?」
「いやちゃんとじっくり話せたよ。脱出ゲーム自体もクリアしたし。ほら」
「なんでクリアできてるの!? 脱出ゲームしながら話したってこと!?」
美乃里は俺と銀子が笑顔で写った「脱出成功」の記念写真を、まじまじと見る。あ、銀子は笑顔じゃないな。なんでこんな複雑そうな顔してるんだこいつ。もっと楽しそうに生きろよ。
「銀子ちゃんと写真撮ったんだ、ふーん」
「あ、銀子と撮りたかったのか? 今度グリーティングとかしてもらうか?」
「しなくていいよ! 銀子ちゃんをキャラクター扱いしないの!」
「そうなのか。じゃあなんでそんなに機嫌が悪いんだ?」
「別にー? 私も柊吾くんと脱出ゲーム行きたかったなーって!」
「そうなのか? お前あんなやっとの思いで地下室への隠し通路見つけたと思ったら骸骨が横たわってたのとか体験したいのか?」
「別に内容は関係無いの! 私も柊吾くんと遊びたかったの! 銀子ちゃんだけズルい!」
「頭蓋?」
「言ってないよ! ズルい! 私が銀子ちゃんのことを頭蓋骨だと認識してるわけないでしょ! もういい! ハモ捌く!」
やっぱりハモ捌いてるんじゃないか。また今夜もハモか……。流石に飽きてきたな。麻薬たまごを付け合せに出すか。
ていうかそろそろ麻薬たまごも無くなってきたし、近々スーパーに買い出しに行かないとな。




