第20話 女子トークと銀子の過去
向かい合って仲良く話している美乃里と銀子。そして何故か先にいる大輔。あれこいつなんでもういるんだ? おかしくないか? 俺途中まで電動キックボードで行ったのに。
「柊吾おせーよ! 俺走り始めてから割とすぐお前抜かしたんだけど!? お前なんで電動キックボードの返却にあんな時間かかってんの!?」
「いや、ああいうのって返却する時に写真撮らなきゃいけないだろ?」
「だとしてもそんなにかかんなくね!? 徒歩の俺より遅かったのはおかしいって!」
「いやだってお前、一眼レフで撮ってるんだからそりゃスマホに移すまでに時間かかるだろ」
「なんで一眼レフで撮ってんの!? 確かになんかかがみ込んでんなーとは思ってたけど!」
「光の入り方とかで結構写りが変わるんだよ。ライティングって大事だからさ」
「ポートレート撮影じゃねーよ!? ただ返却しましたよって証拠だけ残せば良くね!?」
「どうせなら綺麗に写してやりたいだろ。ほら見ろよ、これが俺が撮ったこだわりの一枚だ」
「うん夜だからあんまライティング関係無くなってるって! スマホでサッと撮って送ってくんね!?」
「そしてそれをAIで加工して、電動キックボードにぶなしめじが群生している画像にしてもらったんだけども」
「なんでそんな意味不明のことしてんの!? 遊んでるからおせーんだろお前!」
「遊んでたわけじゃないだろ。ちゃんとこの加工した方を送りたかったからさ」
「えお前そっち送ったの!? ぶなしめじの群生!? 知らねーけど賠償請求とかされるんじゃね!?」
なんでそんなことになるんだよ。芸術的にしただけだから、賠償請求なんかされるわけないだろ。しかし電動キックボードで移動してた俺を抜かすなんて、大輔のやつ意外に足が早いな。俺が返却した電動キックボードの写真を一眼レフで撮ってスマホに移してAIに加工させてた1時間15分を差し引いても早いぞ。
いや大輔が俊足かどうかは別にいいんだよ。そんなことより美乃里と銀子だ。
「美乃里、お前今何してるか分かってるのか?」
「あ、柊吾くんおかえりー。遅かったね! 何してるって、ただの女子トークじゃん」
「そのただの女子トークをクロゾーメ軍団の幹部としてるから聞いてるんだけども!? なんでそうなってるんだ!?」
「柊吾くん、物事には全て理由があるわけじゃないんだよ。そういうものと理解しなきゃいけないことだっていっぱいあるの。世の中では、それを理不尽って言うんだよ」
「これはそうじゃないだろ! 明確に理由あるタイプの不思議だろ! 何を長々と疲れた会社員みたいなことを!」
「理由って言われてもねー? ただ銀子ちゃんがうちに入って来て、私が出たらネイルにやたら食いついて、そのままってだけだし?」
ネイルに食いついた? こいつが? 真っ黒な髪で何の飾り気も無い、悪の組織の幹部がか? 美乃里のネイルはラインストーンとかラメとか、指によっては大きめのパーツも付いてて華やかなタイプだけど、こういうのに食いつくタイプなのか? いや待てよ、食いつくって言っても話題的な意味じゃなくて餌的な意味の可能性もあるな。確か釣竿がどこかにあったから、美乃里のネイルを付けて銀子の前に垂らしてみるか。
「よし美乃里、一枚ネイル剥がして俺にくれ」
「何言い出したの今!? 剥がす!?」
「だって銀子はネイルに食いつくんだろ? 釣竿にネイル付けて目の前に垂らしてみたら、そのまま付いて来るんじゃないかって」
「うんそういう意味じゃないよ!? 馬の目の前ににんじんぶら下げて走らせるとかそういう類のこと!?」
「え、そうだけども」
「なんでそれ真顔で言えるの!? 仮にそれで銀子ちゃんが付いて来たとして、どこに連れてくつもり!?」
「え、そりゃなんか上野国立博物館とか」
「なんで!? 何の意図があって!?」
「美乃里、物事には全て理由があるわけじゃないんだ。そういうものと理解しなきゃいけないことだってたくさんある。世の中ではそれを、チェコ人って言うんだ」
「言わないけど!? 私のセリフまるまるパクった上でチェコに叩き落とすのやめて!?」
上野国立博物館は企画展示も豊富だから、意外と誰でも楽しめるんだよな。入場料も安いし、気軽にあの規模の博物館に入れるなんて恵まれてるよな。
「染髪マン、美乃里ちゃん、あたいのために争わないでおくれよ」
「争ったつもりないけど!? お前その喋り方でヒロイン面するつもりなの!?」
「あたいだって争いの子種になりたくはないさ」
「火種だろ! 何争いから何かを生み出そうとしてるんだよ! 争いは何も生まないだろ!」
「でも柊吾くん、火事場泥棒からしたら争いは財産を生むよ?」
「それはそうだな。とりあえず代々火事場泥棒を世襲で受け継いでる知り合いに、その価値観について詳しく聞いてみよう」
「お前らちょっと黙ってくんね!? 話がずっと寄り道してんだって! なんで四人中三人がボケてるんだよ!」
「大輔だってボケてるだろ。お前この間本屋でクロスワードの本二冊買ってたし」
「俺若年性アルツハイマーじゃねーから! 『どうせ後で忘れてまた買うから最初から二冊買っとこ』じゃねーよ! そんな効率良いアルツハイマーいなくね!?」
「そういう意図で二冊買うわけないだろ。使う用と保存用だ」
「じゃあただのファンじゃね!? 聞いたことねーよクロスワードのオタク! あんなもんやってなんぼなんだから保存してちゃダメじゃね!?」
ちょっとうるさいなこいつら。どうやったって話が進まないじゃないか。俺がちゃんとこいつらを元の話に戻してやらないと、このまま時間だけが経っていくぞ。嫌だよ俺若年性アルツハイマーの話しながら息絶えるの。
「みんな、一回落ち着いて話を戻そう」
「どの口が言ってるの!? 大体こういうの全部柊吾くんのせいだよ!?」
「本題に戻ると、火事場泥棒が戦場で財産を得ることについてどんな価値観を持ってるかについてだけども」
「もっと戻って!? 銀子ちゃんがここにいる理由でしょ!?」
「美乃里ちゃんさ、火事場泥棒の話始めたの君だからね!? 君にそれ言う資格無くね!?」
「あたいがここにいる理由……。それは、話すと長くなるんだけどねえ……」
「なんで普通に話し始められんの!? え、付いて行けてねーの俺だけ!?」
「うるさいぞ大輔。話が進まないから黙ってくれ。ぶっ飛ばすぞ」
「理不尽!!」
「ほら美乃里、こういうのを理不尽って言うんだ」
「その話もいーからもう! 寄り道を丁寧に辿らないの! 柊吾くんも黙って!?」
それでようやく銀子が色々話してくれたわけだが。要するに、銀子と凱は複雑な家庭に生まれて、父親は逮捕、母親は自害と両親を失い、路頭に迷っていたところでクロゾーメ軍団に出会って二人で入ったということらしい。苦労しすぎて白髪が生えていた二人に、クロゾーメ軍団は白髪染めを強要してきたんだそうだ。相変わらずやることがしょぼい軍団だな俺の敵は。
で、生活を支援する代わりにクロゾーメ軍団の怪人として働き、二人で幹部まで上り詰めたものの、銀子は大学に入る歳になって髪を染め出したりネイルをしたりする同い年の女の子を見て、内心は羨ましかったらしい。
そんなタイミングで染髪マンである俺を倒すよう軍団から指令を受け、凱と一緒に計画を練ったと。大輔・美乃里ダブル人質大作戦〜ぬめりけが乾くまで〜のことだな。
ただ銀子自身はクロゾーメ軍団に対して愛着はあまり無くて、生活を支援してくれたことはありがたいけど、若い頃から白髪染めをしすぎて頭皮が荒れていたり、髪がパサつきやすくなってることに、強烈なコンプレックスを抱いていたんだと。確かに10代でそれは可哀想ではあるな。
「それで、もうクロゾーメ軍団を抜けたいって直訴しに行ったのさ。もうアルバイトで生活費は稼げる年齢だし、あたいもずっとこんなことはしたくなかったしね。でもダメだって。育てた恩を忘れたのかって。もちろん恩はあるさ。でもさ、こうやって無理やり人を襲って髪を黒くしていくことが、本当に正しいこととはどうしても思えなくてねえ……。裏切ることにしたのさ」
「ごめん聞いてなかった。はんぺんがなんて?」
「このタイミングではんぺんの話なんかしないってんだよ! 静かにしてたと思ったのになんだいこいつは!?」
「ごめんね銀子ちゃん、こういう人だから……」
「それよりさ、銀子ちゃんはあの兄貴が倒されちゃったけど、それで良かったのか? なんか聞いてる限り唯一の肉親みてーな感じだったけど」
「兄貴は……。手遅れだったのさ。クロゾーメ軍団にもう洗脳に近い形で思想を植え付けられてた。痛い目を見ても気づかないぐらいだったから、むしろそれから解放してあげたかったのさ」
「お前それではんぺんがどうしたんだよ。気になってるんだよこっちは」
「誰かこいつを黙らせてくれないかねえ!? 一人だけずっとはんぺんについて話してるのはどうにかならないのかい!?」
「もう柊吾くんは放っておこーよ。それよりさ銀子ちゃん、今はとりあえずクロゾーメ軍団を裏切ってここにいるってことだよね? だいじょーぶなの?」
美乃里がそう聞くと、銀子の表情は曇る。そりゃ大丈夫じゃないよな。あんなに連呼してたはんぺんだって、今まではクロゾーメ軍団からの支援で食べられてたわけだから。仕方ない、はんぺん買ってきてやるか。コンビニのおでんって5月はまだ無いかな?
「大丈夫……じゃないとは思うねえ。軍団はあたいが裏切ったことに気づいたら、必ずあたいを始末しに来る。カラートリートメントゾーメへのチェンジもできなくなるだろうし、逃げ続けることになるだろうねえ……」
「え、じゃーさ、銀子ちゃんもヒーローになっちゃえば?」
「あ、それいいな。俺も一人でクロゾーメ軍団相手するの疲れてたし。二人いるとかなりの戦力強化になるんじゃないか? 1+1は2になるとは限らないって言うし。1.15とかの可能性もある」
「そういう時は大きくなる方を言って!? なんで微増の例選んだの!?」
「微増って言葉としてあんまり良くないよな。もっと大きく増やせばいいのに」
「うん今私そう言ったよ!? 記憶メモリ爆発してるの!?」
「まだしてないぞ。膨張してるだけだ」
「早く取り替えてね!?」
美乃里の言うように、銀子がヒーローとして戦うのはメリットが大きい話だ。銀子の話ではクロゾーメ軍団は銀子を始末しに追って来る。銀子は怪人の力を使えなくされるだろうから、戦う術が無く逃げるだけになる。
そこでヒーローの力を持っていれば戦うこともできるし、俺と共闘することもできるから、俺の負担も減る。
そして何より、戦う力を得ることで堂々とはんぺんを買いに行ける。これは銀子にとって何よりのメリットだろう。
「よし、そうと決まったら早速美容室に連れて行くか」
「え? 柊吾お前、今から美容室って空いてなくね?」
「大丈夫だよ多分。こういうこと話してたら、金森さんは俺たちに接触してくる」
『その通りよ染谷くん。話は聞かせてもらったわ』
「ほらな? ちなみにこれは脳内に直接語りかけてるわけじゃなくて、そう見せかけてただ大声を出してるだけだ」
「無理あるんじゃね!? え、今のただ叫んでるだけ!?」
『みんなは染谷くんのお友達みたいね。一応話は全部聞いたけど、改めて私の美容室で聞かせてちょうだい』
「別にいいけど地獄耳すぎじゃね!? 全部聞いてたのこの人!? いねーのに!?」
「もうそういうことなんだよ金森さんは。理解しようとするな。世の中ではこういうのを理不尽って言うんだ」
「このタイミングで正しく理不尽の意味説明すんのやめてくんね!?」
とりあえず俺と美乃里と銀子は電動キックボードを借りて、大輔はたまたまそこに落ちてた缶ぽっくりで『HERO's HAIR』へ向かった。
大輔を除く三人が先に美容室に到着し、金森さんは早速銀子の髪を見る。そこで金森さんが言った言葉は、信じられないものだった。
「朝に火にかけてたチーズフォンデュ、そのまま出て来ちゃったわ……」
「待って柊吾くん、この人も朝チーズフォンデュ派の人なの!? こんな近所に二人もいる!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ美乃里、ちゃんと『髪見てくださいよ!』ってツッコまないと」
「確かにそうだけど朝チーズフォンデュが気になるんだもん! 私あれ毎日されるの流石に嫌だからね!?」
「それで……あたいの髪はどうなんだい? 染められるのかい?」
凄いな銀子は。朝チーズフォンデュの話題を強引に横に置いたぞ。金森さんも銀子の豪胆なメンタルに驚いてか、少し顔を強張らせている。
「ダメね。少なくともブリーチはできないわ」
え、そうなの? まあいいや。あと思いついたんだけど、チーズフォンデュにはんぺんってどうだろう。美味しかったら金森さんにも提案しないと。




